37 白い嘘
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:45
- 37 白い嘘
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:47
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私は駅前の大きな時計台の下のベンチに座っている。
時計は夜の10時。更に言うと日付はクリスマスイヴ。
今日はもしかすると愛し合う二人にとっては
1年で一番大切な日かも知れない。
私の隣には男の人。少しワルだけど根は良い人。
煙草を吸う仕草がセクシーだ。
その男の人は女の人に声をかけられると立ち上がって去って行った。
どうやらヒロシとシズって名前らしい。
私はまたひとりぼっちになってしまった。
よっすぃからの連絡はまだ無い。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:48
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実は私はこう見えても芸能人。
いつもはバレると大変なので帽子を目深にかぶっている。
でも今日はそんな必要は無さそうだ。
慌てて出てきたから忘れただけだけど。
まあ今日はクリスマス。誰も私になんか見向きもしないだろう。
誰だってクリスマスは自分たちの事で精一杯なのだ。
暇なので空を見た。星は見えない。
天気予報では今日の夜から明日にかけて雪が降るらしい。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:49
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「あっ石川梨華ちゃん。サインください!」
しまったバレた。私は反射的に顔を伏せた。・・・・・。あれ?
「な〜んだよっすぃじゃん。脅かさないでよ」
よっすぃは悪戯っ子みたいに笑った。
「駄目だよ梨華ちゃん。ちゃんと帽子かぶってないと。
ってゆうかその派手な服なに?」
この服はパーティ用に買ったけどいまだに着る機会が無くて
お蔵入りしていたお気に入りの服だ。
ピンクにも色々な色合いがあるけど
こんな感じのピンク色はちょっと見当たらない。
私の自慢の逸品だ。
対するよっすぃは機能美を追求したというか
オシャレとかそういう感じじゃない素っ気無い服だ。
とにかくファッションにあんまり興味の無いよっすぃが
気付いてくれるなんて嬉しい。
「この服いいでしょ。ピンク好きだし。似合ってるでしょ?」
「あ、うん・・・・・。梨華ちゃんがいいならいいんじゃないの。
お陰で探す手間省けたし。いこっか」
うん。行こう。と言ってよっすぃの腕に抱きついた。
よっすぃは露骨に嫌な顔をした。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:50
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今日、わざわざこんなに人が多いところに来たのには訳がある。
実はクリスマスツリーを見に来たのだ。
もちろんただのクリスマスツリーじゃない。
そのツリーをクリスマスに見たら願いが叶うのだ。
このツリーにはそういう伝説があるのだ。
駅前も人だらけだったけどそのツリーまでの道はもっと凄かった。
まるで満員電車のようなその人波を見て
コンサートでのむさ苦しい観客を思い出してしまい
少しだけ嫌な気分になった。
「ねえねえ。よっすぃ寒くない?」
「うん。寒い。風邪ひきそう」
「私と手を繋いだらあったかいかもよ」
「ごめん。それってもっと寒いからいい。周り見てよ」
周りは目を覆いたくなるほど熱々なアベックばかりだった。
女同士で来てるのなんて私たちくらいだ。
「大丈夫だって。よっすぃの方がカッコイイし」
「誉めてるのそれ?あー、やっぱりまいちゃんと遊ぶべきだったかなあ」
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:50
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まいちゃん。セクシー8の里田まいちゃんの事だ。
私はこの名前を聞くと反射的に不愉快な気分になっちゃうの。
「じゃあ私の誘いなんか断ったら良かったのに・・・・」
「だってさあ。今年はまいちゃん誘ってくれなかったし。
アヤカも連絡つかないし。なんかヒマになっちゃって」
「ふーん。じゃあ今日は運命と思って私と遊ぼうよ」
よっすぃは仕方無さそうに溜息を吐いた。
煙草の煙のように真っ白な息だった。
さっきよりかなり冷え込んで来ている気がする。
今日は本当に雪が降るかも知れない。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:52
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「よっすぃ助けて。待ってよぉ」
私の情けない声が聞こえるたびによっすぃは立ち止まる。
「ねえ梨華ちゃん何、遊んでるの?」
よっすぃは歩くのが速い。というか私が遅い。
私は何度も何度も人波に揉まれて離れてしまう。
「違うって遊んでないから。離れないように手を繋いでよ」
「やだ。恥かしいし」
「じゃあまた大きい声で助けを呼ぶよ」
よっすぃはしばらく考えて手を差し出した。
その恥かしそうな顔が可笑しくて思わず笑ってしまった。
視線の先の空が明るい。
喋っているうちにクリスマスツリーに近づいて来ているらしい。
私の願い。よっすぃと・・・・・。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:52
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「ねえ聞いてる?」
「え?何?・・・・・ごめん。ぼーっとしてた」
「もう。梨華ちゃんと最初出会った時は絶対無理と思った。って話。
なんか暗いし。キモいし。合わないなあって」
「え?じゃあ今は?」
「絶対無理だったけど・・・・・我慢したら有り。くらい」
「なにそれ。よっすぃはね・・・・・んーと」
よっすぃが真剣な表情でじっと私を見つめてる。
というか明らかに睨んでいる。
唇に指を当てて考えているのが気に食わないらしい。
自分でもキモいと思ったので止めて考えた。
「よっすぃはね。昔はカッコ良かったけど・・・・。
今はもっとカッコ良いかな?なーんてね」
「・・・・・・。あ。ツリーもうすぐみたい」
無視された。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:53
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周りがガヤガヤと騒ぎ始めている。
まるで夜が明けるみたいに明るくなってきた。
目の前に想像より大きなクリスマスツリーが現れた。
「・・・・・きれい」
2階建ての家くらいの大きさのあるそれは
眩しいくらい黄金の実をならせていた。
耳を澄ませると何処からか鐘の音がする。
どうやらクリスマスツリーの後ろのスピーカーからみたいだ。
「ねえ、なんか凄くない?」
「うん。悪くないじゃん」
よっすぃも満足そうだ。
よっすいの瞳に写った光がキラキラと輝いていた。
私はツリーに正対すると手を合わせて目を閉じた。
クリスマスの神様。よっすぃと・・・・・。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:55
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「ねえ、こんな事今更言うのなんだけどさあ。おかしくない?」
「え?何が?」
「このツリー見たら願いが叶うって言うけどさあ。
このツリーのイベントって今年が初めてじゃなかった?」
私は言葉を失った。
確かにそうかも知れない。
「・・・・・いいじゃん。夢があるしさあ」
「そうかなあ。詐欺じゃん。しかもエコじゃないしさ」
確かにこれだけ明るくしたら電気代も馬鹿にならないだろう。
エコモニのあまり白くない方としては無視できない問題だ。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:55
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私はきょろきょろと辺りを見回した。
芸能記者にでも見られたら恰好の餌食だ。
「か、帰ろうよっすぃ。早く」
「え?どうしたの梨華ちゃん急に」
私はよっすぃの手を取って慌てて踵を返した。
「おーい待ってよ。怒ってるの?」
よっすぃが慌てて追いかけてくる。
私はそれには答えないで早足に歩いた。
「おいっ待てつってんだろ!」
よっすぃに腕を捕まれたが振り払った。
早くここを離れないとマズイのだ。
私は人をかきわけて走り出した。
「あ。」
が少し走った所で誰かの足で躓いてコケた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:56
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「ああ。なるほど」
私が走り出した理由を聞いてよっすぃは力なく呟いた。
梨華ちゃんだし仕方ないか。って感じだ。
「で、足は大丈夫?歩ける?」
「なんか痛い。ひねっちゃったみたい」
右の足首が熱い。試しに体重をかけてみたけど歩けそうになかった。
「困ったなあ。どうしよう」
「じゃあさ。よっすぃ抱っこしてよ」
「ごめん無理だから」
「じゃあオンブしてよ」
よっすぃはしばらく考えてオンブしてくれた。
よっすぃの背中のぬくもりを感じながら私はにやりと笑った。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:56
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行き道の半分以下の時間で時計台の下まで戻ってこれた。
よっすぃは私をベンチに下ろすと大きく息をした。
「ごめん重かった」
「うん。重かった」
よっすぃはぶっきらぼうに言ってベンチに座った。
怒っているんだ。
わがままで鬱陶しい私を怒っているんだ。
こんな所で泣いちゃ駄目だって分かってるのに
涙が零れてきて仕方なかった。
「ごめんね。今日はなんか迷惑ばっかりかけてる」
申し訳なくてよっすぃと顔が合わせられない。
「うん。ホント迷惑。服装はキモいし。人ごみではぐれるし。
ツリーはちゃんと見ないし。頭はフケだらけだし」
「え?フケ?ちゃんと頭は洗ったの・・・・あ」
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:59
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顔をあげると粉雪が踊っていた。
「フケじゃないじゃん。雪だよこれ」
「あれ?梨華ちゃん不潔だからてっきり」
そう言ってよっすぃは大笑いした。
「もうよっすぃの馬鹿。メリークリスマス」
私はよっすぃの頬にそっと口付けた。
そしてギュっと抱きしめた。
「よせって。キモいから。それじゃ帰るね」
「え?もう帰るの?ちょっと・・・・あっ」
私を引き剥がすとよっすぃは立ち上がって
逃げるように駅のほうへ走り出した。
「もう待ってよー」
慌ててよっすぃの後姿を追いかけた。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:59
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- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:59
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- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:59
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