36 like the snow
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:15
- 36 like the snow
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:17
-
手を伸ばせばつかめそうな
それでいて手に取れば消えてしまいそうな
そんな白いまぼろし。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:18
- 「お〜ごっちんごきげんやなあ。」
あっちゃんに、にこにこされながら指摘された。
ふと気付けば歌を口ずさんでいたらしい。
「んー。ごきげん・・・でもないかな〜。」
「まあ、よく考えたら、歌詞が歌詞やしなあ。」
「そーだね〜。なんか知らないうちに口ずさんでるんだよね。これ。」
「なんや。ごっちん。恋でもしてるんやないの〜?」
あっちゃんは興味しんしんという風に聞いてくる。
恋は多分違うと思うよ。
「それはないなぁ〜。」
身を乗り出してきたあっちゃんをかわして楽屋の外に出た。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:18
- 楽屋の外を歩いていると、また歌がこぼれてくる。
「さよなら友達にはなりたくないの
恋人じゃないと意味ないのよ」
別に友達になりたくないわけでもないし、
恋人じゃないと意味がないわけでもない。
ふと歌詞と正反対なそんなことを思う。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:19
-
頭に浮かぶのは
白いまぼろし。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:19
- 夏のハロコンだった。
打ち上げで、はしゃいだあたしは早々とつぶれた。
振られたばかりだった。
裕ちゃんや圭織がめずらしく甘えるあたしに飲ませまくったせいもある。
次の日関西での仕事だったから、近くにとってあったホテルに運ばれた。
打ち上げを抜け出して運んでくれた圭ちゃんは、
「明日も仕事なんだから、おとなしくしてるのよ。」
そう言い残して、戻っていった。
エアコンの音が響く。
外の暑さが嘘の様に涼しい。汗がひいていく。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:20
- 一人になると、人恋しくなった。
つい振られた相手のことを考えてしまう。
「もう終わりにしよう。」
その一言で終わった。
何が悪かったのか分からなかった。
遊びだったのかもしれない。
そういうことは良くあった。
どうやったら、相手が本気になるのかなんて全然分からない。
自分に価値がないように思われてなおさら気分が悪くなり、
体を小さく丸めて吐き気に耐える。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:21
- どれくらい経ったのだろう。
部屋のドアをノックする音に気付いた。
重い体を引きずってドアを開ける。
紺野が立っていた。
「後藤さん、確認してから開けないと危ないですよ。」
真面目な顔で言いながら、紺野は脇を抜けて中に入った。
体が重いのにそんな余裕なんかあるわけない。
「何しにきたの?」
尋ねた声は少し尖っていたかもしれない。
紺野の背中に問いかけた。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:22
- 「後藤さんが心配で。」
紺野は振り返り、真面目に冷静にそう答えた。
少し頬が赤かった。
「娘。は打ち上げ別でしょ。どうして分かったの?」
「石川さんの忘れた携帯を届けに行ったところで
吉澤さんに後藤さんのことを聞きました。」
何でそれを聞いてここに来るのか分からなかった。
放っておいてほしいのに。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:23
- ベッドのそばまで歩いて行き、紺野の顔を見ずに言う。
「なに。なんて聞いたの?後藤が荒れて荒れて飲みつぶれたって?」
「そんなこと。聞いてません。ただ、飲みすぎたと聞いて。」
「・・・。」
「心配で・・・。」
「へー。心配で・・・ねぇ。」
「・・・。」
「心配な紺野は、あたしに何をしてくれるのかなぁ。」
「何って。」
「後藤はいま寂しくて仕方ないんだよね〜。紺野が慰めてくれるの?」
紺野の顔が赤くなった。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:23
- 本当はどうして来たのか分かっていた。
紺野はあたしに好意を持っている。心配もしている。
だけど苛ついていたあたしには、それは相手を攻撃する材料にしかならなかった。
立っていた紺野の腕をつかんでそばに引き寄せた。
戸惑う瞳と視線がぶつかる。
冷たく見下ろしながら言った。
「ねえ。今なら落としやすいとでも思った?」
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:25
- そう言われた紺野は奥歯を噛み締めて下を向いた。
泣いちゃうかな。
そう思ったけど、声はかけられなかった。
ああ。これは八つ当たりだ。だけど止まらない。
だから怒ればいいと。
そうして帰ってしまえばいいと。
そう思った。のに。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:26
- しばらく俯いていた紺野は、つかまれた腕を外した。
そして黙って歩いて明かりを消すと。
あたしをベッドに押し倒した。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:27
- ベッドに倒れたあたしの目を紺野が探ってくる。
たぶん、それは確認のようなもの。
あたしが嫌がっていないかどうか。
真面目な紺野の確認。
その検査に合格したのか、
ゆっくりと紺野はあたしの服を脱がし始めた。
少しぎこちなく、でもしっかりと意思を込めて。
慰めてほしいって言ったの本気にしたのかな。
そんなことを思ったけど言わなかった。
かわりにあたしも紺野の服を脱がした。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:30
- 暖めて欲しかったのにあたしを優しくなぞる紺野の指は冷たかった。
外は夏で、部屋の外には捨てるほどの暖かさがあるのに、
あたしの欲しいものは手に入らない。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:31
- 冷たい指、冷たいキス。
紺野の真っ白い体から降ってくる。
でもそれも幻想だったのかもしれない。
暖めてくれないはずの紺野の指が、キスが。
あたしをどんどん熱くしていったから。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:31
- この子こんなに上手かったんだ・・・。
どこで覚えたのか気になるほど、紺野は的確にあたしが熱くなるところを攻めていた。
そしてからだが熱くなればなるほど、紺野の指の感触は際立ち、
あたしを狂わせてゆく。
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:32
-
紺野は一度も笑わなかった。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:33
-
ふと気がつくと、あたしは一人でベッドに横になっていた。
普通に朝だった。
携帯が振動している。
なっちからだ。寝たまま携帯の通話ボタンを押した。
「ごっちーん。起きてる?」
「んー。今起きたところ。」
「今日一緒の仕事だから、新幹線待ち合わせて一緒にいくべ。」
「わかった。」
待ち合わせ時刻を決めて電話を切った。
伸びをして、身体を起こしてあたりを見回す。
とたんに痛みが頭に来た。
「っつぅ」
どうやら二日酔いらしい。
二日酔いの頭を押さえながら周りを見回したが、紺野はいなかった。
夢。だったのだろうか。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:34
- シャワーでも浴びようとベッドを出て気付く。
裸だった。
立ち上がった時の体のだるさも夢ではないことを現している。
バスルームに行き、鏡に映してみたがそれらしい跡はない。
熱いシャワーを頭からかけながらぼんやり考える。
あの冷たい指が、唇が、赤い跡を残すなんてあり得ない。
そんな考えが浮かんできた。
「ふふ」
微笑が漏れた。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:34
-
次に会ったとき、意外にも紺野はまったく今までどおりだった。
「後藤さーん、このお菓子食べません〜?」
こっちの方が戸惑った。
だが、立ち直って
「ん。食べる食べる。」
そう言うと、紺野はにこっとお菓子を差し出した。
食べるのを見ているから、
「美味しいよ?」
と言うと、目を輝かせてそのお菓子の説明を始めた。
「あさ美ちゃーん。」
ガキさんが呼んでいる。
「また今度美味しいのもってきますね。」
そう言うと説明をやめて、ガキさんのところに飛んで行った。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:35
- その後の対応も似たようなもの。
「後藤さーん」と懐き、からかうとふくれ。
まったく今までどおりとしか思えなかった。
だからあたしも今までどおりに接した。
そして、あまりに今までと同じに接し過ぎて、
あの夜本当はどうだったのか分からなくなった。
そんな夜はなかったと紺野に言われれば、きっとあたしは納得してしまう。
それくらい二人の仲は変わらなかった。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:36
- ただ。ひとつだけ。
あの夜の後で変わったことがある。
いつの間にか脳裏に一つの幻想が浮かんでくることが多くなった。
あたしの体に降ってくる冷たい指とキスの幻想。
白いまぼろし。
見えないそれは幾重にも。
あたしのからだに降り積もっていく。
清らかな徴を残して。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:37
- あの時あたしは紺野の好意を利用した。
得たのはあたしを救ってくれる白い幻想。
失ったのはちょっとした現実。
誰かがあたしを愛してくれるかもしれないという現実。
二人の仲が変わらないなら、それは。
いや、紺野の好意を利用したあたしには。
そっちこそありえない幻想とでも言うべきなのかも知れない。
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:37
-
だからあたしは。
冷たい唇を。冷たく白い指を。
静かに白いまぼろしを降り積もらせる。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:38
-
ありえない現実を。
見てしまわぬように。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:39
- 指
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:39
- 唇
- 29 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 23:39
- 雪
- 30 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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