33 新潟純情行進曲
- 1 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 22:58
- 33 新潟純情行進曲
- 2 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:07
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これは、モーニング娘。に加入しなかった久住小春のおはなし
- 3 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:08
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〜 2010年 冬 〜
「小春、おきろ」
…………んー……ねむいよお。
「雪がやべえ。起きて雪かきしろ」
……。
……雪かき?
「昨日の夜、したじゃんか……」
小春が寝ぼけ声でそういうと、小春の父ちゃんが、
「またすげー降ってきたんだよ。さっさと起きろ!」
と布団を引っぺがした。
「うあ、寒いよ寒いよ起きたくないよお〜」
まくられた布団の上、小春はごろごろしたが、
早く起きたほうが寒くないと気付いて、観念した。
- 4 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:09
- パジャマを雑に脱ぎ捨てて、セーターやらズボンやら着込めるだけ着込む。
靴下も3枚はいて、毛糸の帽子をかぶった。
今年の冬は、後に『イチゼロ大豪雪』と呼ばれる大雪のシーズン。
このときの小春にはわかるはずもないが、
100年に一度といわれる大豪雪が、日本海沿岸を中心に襲ってきていた。
スキー用の手袋をはめて小春が外に出ると、
外は一面の銀世界、なんて、綺麗なもんじゃなかった。
容赦なく降り続く白いやつらが、どんどんと小春の家の先に積もっていってる。
久住家の家屋はけっこう年季が入っているので、屋根も心配だ。
どんどん屋根から雪を下ろさないと、ぺしゃんといってしまうかもしれない。
- 5 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:11
- 小春は吹雪く視界を睨みつけながら、玄関脇に立てかけてあるスコッパを手に取った。
吹き付ける雪。昨日どけたはずの玄関先にはしっかりと踏み応えのある雪がつもっている。
「ちっくしょー」
と小春は呟いた。
(昨日の雪かきの意味がねーじゃねーか)
ほんとは意味なくはないのだが、小春は眠さと寒さで頭にピリリときていた。
昨日の分の雪どけとかなきゃ、今日えらいことになっていたのだから、
意味はおおありだ。
雪でかすむ視界の奥、小春の父ちゃんが、でっかい雪かき道具で雪をどけている。
小春の母さんも、そのまた奥で雪をかいているみたいだ。
こういうときは一家総動員するしかないのだが、
小春のねーちゃんは、彼氏とスキー旅行に行っているので家にいない。
小春はねーちゃんを呪った。
- 6 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:12
- 懐のIpodでガンズアンドローゼスを両耳に流し込みながら、
小春は半分やけになりつつ雪をどかす。
「キィエエエエエアッフォ〜〜〜〜イ!」
と大声で叫んでみても、誰にも届かない。
降り続く雪が、音の伝わりを遮断するのだ。
小春はその現象のこまかな説明を、高校物理の時間に聞いていたが、
半分眠っている脳ではそれを思い出せなかった。
高校二年生、久住小春の冬休み。
来年の冬は大学受験でいっぱいいっぱいだから、
遊べるのは今年の冬休みしかないのだ。
いろいろと予定を立てていたのに、この雪では遊びにもいけない。
小春は、雪国に生まれたことを心底くやしがった。
悔しさまかせに、がっしがっし雪をどけていると、
いつのまにか小春の父ちゃんが横に来ていた。
「うし、小春。あがるか」
「はいよ」
- 7 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:14
- ストーブのしっかり焚かれた台所。
そこの椅子にどっかり座って、小春は冷えた足先を暖める。
ストーブの前に立つ父ちゃんを脚でどけようとするが邪魔された。
掛け時計を見る。午前7時。
小春は昨日の深夜に映画を見ていて、寝付いたのが2時だったから、
4時間ぐらいしか寝れてない。
大きくあくびをした。
「小春、ちょっと寝とけ」
「いわれなくても寝るけどね」
「昼からは屋根の雪な」
「やっぱり?やんの?」
「このままだと潰れちゃうかもしれんしね」
「……わかったよお、……おやすみ」
「おやすみー」
ピシッと整えられ電気毛布でしっかり温まった布団へ、もう一回もぐりこむ。
朝起きたときはひっぺがされて、ごちゃごちゃになってたはずだ。
たぶん母さんが直してくれたんだなーありがとう、とか考えながら、
小春は再び眠りに落ちていった。
- 8 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:15
- 昼。
快晴とはいえないが、雪もなし。天気は曇り。
小春は、父ちゃんが屋根から下ろした雪を、家の脇の田んぼへがっしがし捨てる。
そこへ背の高い男が通りかかる。
小春はそっちを見た。
……あれ?
「高崎?」
小春は呼びかける。
こっちへ顔を向けたのは、間違いなく小春の中学の同級生、高崎だった。
「おう」
髪は伸びていたけど、顔はそんなに変わってなかった。
少しごつくなったかもしれない。
「帰ってきてんだ、ひさしぶりだね」
高崎は、関東の高校へ行っていて、新潟にはもう住んでない。
サッカーするために、フナとか箸とかいう高校へ進学したらしい、と町のうわさで聞いていた。
「久しぶり」
「どう、久しぶりの新潟は」
「雪多すぎ」
「でしょ! もうほんといやになるってー」
「だな」
- 9 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:15
- 小春が高崎と話している間にも、小春の父ちゃんはどんどんと雪を屋根から下ろしていく。
屋根の下に雪の山ができそうだった。
小春がそっちに気を取られていると、高崎が、そんじゃな、と帰っていこうとした。
「あ、高崎!」
「ん?」
「ちょっと手伝ってよ」
「マジかよ」
「久しぶりに新潟のために雪かきしてよお」
駄々をこねる小春に、高崎は笑った。
「お前のためじゃん」
「あー、あんたも自分ちやらないといけないっけ」
「俺んとこアパートだからやんなくていいけどさ」
「いいなあ。よし、じゃうち手伝って」
「はいはい」
高崎は苦笑いして、小春から渡された雪かき道具を持った。
高崎は、小春の何倍も働いて、雪の山をさっさかどけていった。
こいつけっこうかっこいいじゃん? と小春は思った。
- 10 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:16
- 高崎がよくやってくれたおかげで、雪の山はあっさり片付いて、
久住家の屋根の雪もほとんど下ろせてしまった。
高崎と小春は、久住家の壁に並んでもたれかかって、やすむ。
屋根のひさしの向こう、雲がかった空に太陽は見えない。
雪が少しちらついてきた。
久しぶりに会った同級生どうし、話に花が咲く。
「どう、都会は」
「すげーやついっぱいいるぞ」
「やっぱそっか」
「お前も、都会じゃかすむかもな」
「なんだそれ」
「都会の女の子は可愛いぜー」
「へーそうですかー」
- 11 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:17
- 高崎は、じゃそろそろ行くわ、と、使っていた雪かき道具を小春に返した。
「お前、大学いくのか」
「うん」
「どこ狙ってんだ」
「上智か慶応かなあ。まだわかんない」
「やっぱ頭いいな」
「まだ入れてないんですけど」
高崎は、雪の壁に手を突っ込んで、握り取った雪を丸めて、
遠くの電信柱めがけて投げつけた。すぱーん! と、ど真ん中に当たった。
「さすが、運動神経いいねー」
高崎は、小春の言葉にちょっとはにかむと、
「ちゃんと入れるよお前は。大丈夫」
と言って、じゃあな、と帰っていった。
- 12 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:20
- 夜。
今夜は鍋だ。小春のリクエスト。
小春はうっほほーい、と鍋からよそって、バクバクたべる。
「小春、高崎君に手伝ってもらったの?」
「うん。ちゃっちゃかやってくれたよ。さすが体育会系」
「怪我はもう、大丈夫だって?」
「は? 怪我?」
「さっき高崎君のお母さんに会ってね、怪我して帰ってきてるんだって」
「……」
「大雪で関東でも積もったらしくてね。駅のホームで転んだらしいよ」
- 13 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:23
- 満腹の小春は、こたつに入って、テレビをつける。
テレビで高校サッカーのニュースをやっていた。
雪の中プレーする高校生。手には毛糸のてぶくろ。雪でボールが見づらそう。
そうだった、冬には高校サッカーがあるんじゃないか。
小春は、それを忘れていた。
決勝 市立鮒箸 対 縦縞実業
――市立鮒箸は前半に一点を取りリードするも、
後半28、35分と、縦実のエース桜島が二点を取り、
縦縞実業が、3年ぶり6度目の優勝を飾りました。
- 14 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:24
- その夜の小春は、明け方まで机にかじりついて、勉強をした。
気がついたら、背中に毛布がかかっていて、朝だった。
朝日がカーテンを明るく照らしている。久しぶりに晴れるらしい。
全部溶けてしまえ、雪。
- 15 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:24
- 1
- 16 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:24
- 2
- 17 名前:33 新潟純情行進曲 投稿日:2006/01/07(土) 23:25
- 3
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