28 しらゆき

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:45
28 しらゆき
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:46
いつだって聴いていた。

両手をウォークマンに添えて、ひどく真剣な目で。

新曲を覚えているのかと思っていたら、飯田圭織がこっそり教えてくれた。

――ちょっと最近忙しいからさ。あのこ、わりとすぐキャパいっぱいになっちゃうの。
  そうなると、ああやって、現実逃避すんの。ま、ピーク過ぎれば普通に戻る。

――へえ。アイドルも長いと大変ですね。

グループに入ったばかりで何もかもわりとどうでも良かった美貴は、人ごとみたいに
気のない相づちを打った。

――んで、何聴いてるんですか?

――ジュディマリ。

元JUDY AND MARYのYUKIは、安倍なつみの神さまだった。
生き方、ファッション、安倍なつみという存在のさまざまな場面に、その影響は色濃かった。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:48
* * *
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:48
――ねえ、見てみた?

――何を。

――宝塚。ビデオ、今美貴ちゃん持ってるンやろ。

――ああ。あーあーあー。

美貴は、自動販売機の取り出し口に引っかかっているジュースを乱暴に引っ張り出しながら、
言いわけを考える。が、すぐに面倒くさくなって、

――見ない。返すよ。

――ええ。シゲさんも見てないし。貸したなかでマトモに見てくれたん、れいなだけだ。
  なんでみんな見ないの。あんな素敵なのに。

美貴は肩をすくめた。

――なんで愛ちゃんそんなにすすめてくんの。自分だけで楽しんでりゃいいじゃん。
  真琴とかガキさん嫌いじゃないみたいだしさ、興味ないこに無理くりみしたって、
  いいことないよ?

苦労して取りだした缶の紅茶を差しだすと、愛はにっこり笑った。

――だって、見た方がいいに決まってる。

美貴はべろんと舌をだして首を振って見せた。愛は気を悪くした風もなく、げたげたと笑う。
ラジオ局の廊下はいつも薄暗い。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:49
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6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:50
――自分のそとに神さま持つのってどう思う?

そう聞くと、亜弥は怪訝そうな顔をした。

――勧誘?

手を伸ばして、長く伸ばした電気のスイッチを、一回、二回、と引っぱる。
部屋が、だいだいに、ついで薄闇に落ちる。布団から伸びだした体をおさめて、亜弥は
もぞもぞと心地よい体勢を探っている。

美貴は天井を見たまま、

――ノー。宗教とはちがうけど……あるいみ宗教かな。たとえば愛ちゃんの神さまは宝塚。
  安倍さんの神さまはジュディマリのユキさん。つんくさんのビートルズ。

――ああ。そゆことね。

――矢口さんの神さまはぁ、アゴの彼。

亜弥は、美貴の皮肉な口ぶりに、きししと笑った。

――亜弥ちゃんの神さまは? 足と顔の長い彼?

――怒るよ。

――うそうそ。でも、恋愛は対象外かな。影響されてあたりまえだし。
  そういうさ、自分の外に、絶対的に正しいモノサシみたいなもんあったら、あるいみ
  人生ラクかなって。どう?

――あたしはいらない。彼にだって、そんな風に何もかも支配されたくないもん。
  たん、欲しいの?

――そういう風に聞こえる?

――うん。

――そっか。

美貴は黙った。亜弥が軽く体を起こして、顔をのぞきこんでくる。こんな変な話の途中で
寝ないでよと。闇に慣れはじめた美貴の目に、その頬は白い。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:56
「ミキの目標は、目標とされる人になることです」

美貴の口をでた言葉に、亜弥はなにそれと顔をしかめた。

――美貴のポリシー。

――いってたね。そうゆうこと。

――いってたよ。子どもだったのかな。

――今そうゆうこというってことはぁ、欲しいってことだ。やっぱり。

――なにが?

――神さま。

布団のなかで、あたたかい体がふれる。亜弥は美貴の体をまたぐようにして、おおい
かぶさった。そっと美貴の頬を両手で挟む。落ちかかる髪が、美貴の頬に首筋にふれる。
暗がりのなかで、その頬は明かりの下より白く見えた。

茶色のビー玉みたいな瞳が、美貴の目をのぞきこんだ。

――あたしがなってあげようか?

――なにに?

――みきたんの神さまに。信じて祈って愛して捧げて――なんかそうゆう、絶対の存在。
  仲間よりも恋人よりも家族よりも、そういうの全部飛び越えた、空に輝く太陽みた
  いな、一番高い、たんの目印。たんの神さま。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:57

重くたれこめた雲間からは、絵に描いたような直線的な朝日が、地上に向かってさしている。
信仰心なんてカケラもない美貴が、ふと「神々しい」などという言葉を思いついた。
真っ白な雪。眩しい冬空。

カーテンにつづいて窓も開けた。すさまじい冷気。お約束のように吐く息の白さが濃い。

ふと、暖かい部屋をふりかえってみる。
ベッドで寝返りを打つ亜弥の首筋も白い。外の雪と比べてどちらが白いだろうか。
どちらが「こうごうしい」だろうか。

首筋に降りかかる冷たい空気。ぶるっと犬のように身を震わせて、美貴は窓に向きなおった。
さっきと変わらない景色、もう「神々しさ」は感じない。美貴は窓を閉めた。
亜弥の首筋に降りたての雪を降りかける思いつきにほくそ笑みながら、部屋の外へでる。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:57
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:57
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 15:57

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