21 糸の冬

1 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 13:21
21 糸の冬
2 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 18:57
「吉澤さーん」
あどけない声を出して久住が吉澤を呼びます。久住は、リーダー大
好きっこなのです。
「何、小春」
最近はリーダーとしての貫禄もついてきた吉澤さん、まるで姉のよ
うに久住に接します。
「これ、何ですか?」
一枚の紙を差し出す久住。そこに書かれた文字を目にして、一瞬目
を丸くします。
3 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:01
「糸…冬?」
まるで何かの暗号のような二つの漢字。でもそこはリーダーの吉澤
さん、すぐにこの謎を解いてしまいます。
「どういう意味だか、わかりますか……?」
久住は不安そうに吉澤の顔を覗き込みます。ここは女吉澤ここにあ
りということを示さなければ、となぜか吉澤はやる気まんまんなよ
うです。
「小春。二つの漢字をくっつけてみなよ」
「あっ」
花も恥らう14歳。久住は驚きの声をあげます。
4 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:04
「そういうことだったんですね」
目を輝かせ自分のことを見つめる久住に、吉澤姐さん得意顔です。
そして久住はますますリーダー大好きっこになるのです。もちろ
ん、藤本さんの目を気にすることも忘れないちゃっかりした14
歳です。
「あ、でも」
この年頃の子の表情は、くるくるくるくる猫の目のよう。
何かが気になったのか、すぐに曇ってしまいます。
5 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:10
「どうしたの、小春」
後輩の困った顔にはとことん弱いお人よしな吉澤リーダー、すぐに
久住の異変に気づいてやさしく声をかけます。
「どうして、糸に冬でそういう意味になるんですか?」
はて。これは困った。実は吉澤、娘。の中でもそう頭のいいほうで
はありません。だいたい、亀井とどっこいどっこいです。それを、
大雑把な態度と適当な判断でうまくごまかしているのでした。
でもそこはさすがに三代目リーダー、稲妻のようなひらめきによっ
て危機を回避します。
えっ、四代目の間違いじゃないかって?
…彼女の存在は忘れましょう。彼女は娘。における黒歴史、小さい
リーダーなんていなかったんです。大人の事情なんです。
6 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:17
さて。
我らが頼れるリーダー、吉澤の導き出した答えはというと。
「糸ってのはさ。植物からつくられるでしょ?つまり植物の冬は
植物が枯れること。つまり終わり、って意味なんだよ」
久住はまるでアメリカ大陸を発見したかのような驚きぶりです。そ
して内心吉澤も自分がこんな気の利いた答えを用意できたことに驚
いています。あとで辻加護にも教えてやろう、そんな感じです。

「じゃあ、モーニング娘。も糸の冬なんですね」

そんな久住の無邪気な一言が、吉澤の笑顔を凍らせます。
そして、
「久住、ちょっとおいで」
とだけ言うと、久住のもみじのような小さな手を引き楽屋を出よう
とします。
久住は飴玉でももらえるのかと勘違いして、るんるん気分です。
でももらえるのは飴玉ではなく雨あられの拳骨で、この後久住は
リーダー大好きっこではなくなることなど、幼い彼女は知るべく
もなかったのでした。


                             
7 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:17
糸冬
8 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:18
糸冬
9 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 19:19
糸冬
10 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 21:32




11 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 21:38
ゆーきや ごん、ごん。
あられや、ごん、ごん。

吉澤の拳骨の音が楽屋にまで響き渡ります。
そんな暴力の支配する時代とは関わりがないかのように、高橋と紺
野が窓の外を眺めています。
「あ、愛ちゃん雨降ってきたよ」
「いんや、雪やろ?」
「うん、でも何かみぞれっぽいね」
紺野の言うとおりに、空から降ってきた雪は水分をたっぷり含んで
いて、まるで糸を引くかのように降ってきます。
まるで、糸の冬です。
そう言えば、「小春」日和は春ではなく晩秋の晴天を指します。
久住が入って来た後に糸の冬が訪れるというのも、また道理なのか
もしれません。


                     今度こそ、おしまい
12 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 21:40
13 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 21:40
14 名前:21 糸の冬 投稿日:2006/01/06(金) 21:42

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