17 絆

1 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:16
17 絆
2 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:18
昨日の夜に降った雪は、校庭を白く埋め尽くしていた。
太陽の光が雪に反射して、目が眩しい。
彼女を見送るのに相応しい舞台、けど。

「ねえさゆ」

わたしは言わずにはいられなかった。
3 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:22
「なあに、絵里」

さゆはいつもと変わらぬ笑顔をわたしに向ける。それが気に入らな
くて、長靴の先で雪を蹴った。冷たい塊が、四方に散る。

「今日でお別れなんだよ?」
「手紙書くよ」
「もう会えないかもしれないんだよ?」
「電話もするから」
「わたしがさゆのこと、忘れちゃうかもしれないよ?」
「春休みになったら会いにいくから」

さゆの太陽のような笑顔、大好きだった。
けど、今は…
4 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:25
「どうして?」
「?」
「どうしてさゆは、そんな平気な顔してられるの? 絵里は、絵里
はこんなに辛いのに。胸が、張り裂けそうで、押しつぶされそうで」
「転校しちゃうんだから、しょうがないよ」

しょうがないよ、の一言がわたしの胸に突き刺さる。
校庭のケヤキの木に積もった雪が落ちて、鈍い音を立てた。
5 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:30
「何で?しょうがない、の一言で済んじゃうの?絵里とさゆの関係
は。そんなの、そんなのひどいよ…」

言葉を言い終わると、目頭が急に熱を帯びてきた。次から次へと涙
が止まらない。それでも体の芯は凍えるように冷たかった。

小学校の時からずっと一緒だった、さゆ。
時に喧嘩もしたけれど、これからもずっと同じ道を歩いてゆける親
友だと思ってた。

別れが来るなんて、これっぽっちも思ってなかった。
6 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:37
でも、それはわたしが自分ひとりでそう思ってただけなのかもしれ
ない。彼女は、さゆはそうは思っていなかったのかもしれない。
さっき一緒になって別れたクラスメイトたち。さゆにとってわたし
は、彼女たちと同じような存在だったのかもしれない。
だから、さゆはあんな顔をして笑って。

涙が溢れてきた時に俯けた顔を、あげることができなかった。
泣いた顔を、さゆに見られたくない。
こんな泣いてるわたしを見て、それでも笑っているようなさゆなん
て、見たくもない。

ぽそ、ぽそ、ぽそ。
きっと涙が雪に吸い込まれる、湿った音。
いっそのこと全部吸い込まれてしまえばいいと思った。
涙も、さゆも、そしてこんな惨めなわたし自身も。

でも、そんな音をかき消すように。
ごりごりごり。
そんな音が聞こえてきた。
7 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:45
思わず顔を上げると、そこにはつま先をライン代わりに線を引いて
いるさゆの姿があった。さゆはわたしの足元まで線を引き終わると、
自分はさっきまで立っていた場所に足早に戻っていった。

「何これ、どういうつもり…」
「ねえ絵里。『きずな』ってどういう風に書く漢字だか、知ってる?」
「え…いきなりそんなこと言われても」

さゆが何を考えているかはわからなかったけれど、素直に答えるこ
とにした。

「えっと、糸へんに…半分の、半?」
「せいかーい。じゃあ、次に足元に目線を移してみて」

彼女の言うとおりに、視線を下に向ける。
雪に描かれた線が、まっすぐにさゆの元へ伸びていた。
8 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 02:50
「これはね、さゆと絵里を繋ぐ、絆なんだよ」
「きずな?」
「そう、きずな」

さゆがくるっと、背を向けた。

「きずなは、糸へんに半分の半。だから、この線はさゆと絵里の、
はんぶんこ。さゆの絆でもあるし、絵里の絆でもあるの」
「うん」
「だから」

さゆが、さっきと同じようにくるりと回転して、こちらを向く。
今まで見たことのない、本当に満面の笑顔だった。
9 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 03:00
「だから、さゆと絵里のどちらかがこの絆を切ろうとしなければ、
二人は例え離れたとしても、繋がってる。さゆは絶対に、この絆
を切ったりしない。絵里が切ったりしないって、信じてる」
「さゆ…」

わたしはさゆのつけた溝に自分のつま先を立てて、彼女の引いた線
をなぞっていった。つま先が地面にたどり着いたけれども、構わず
線を引いていった。そして彼女がしたように、自分が立っていた場
所へと引き返す。

「こんだけ深かったらさ、絶対に切れないよね!!」
「うん。そうだね」

わたしとさゆの間に引かれた、深く、太い絆。
雪が融けて、地面が平らになったとしても。
二人の絆は決して消えないような気がした。
そう、信じることができた。

太陽の光が反射して、目が眩しい。
けどそれは、涙で腫れた瞼に心地よかった。
10 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 03:02
11 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 03:02
12 名前:17 絆 投稿日:2006/01/06(金) 03:02

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