11 君だけが知らせてくれること

1 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:04

11 君だけが知らせてくれること
2 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:04
「矢口」
「なに?」

あたしの左手と矢口の右手。
ただぬくもりのかけらを探すようにして繋いだだけのてのひら。
コンクリートのような色をした空からは天気予報通りの雪。
傘を握る指先が、アスファルトに落ちる雪のように溶けていきそうな感覚。

「なんか、久しぶりだね。こういうの」
言葉の数だけ白く濁り、濁った数だけ体温が下降する気がした。

「――うん」
あたしの右肩に雪が腰を下ろしては消え、未だ白くは染まらない街に足音だけ残して歩く。

「矢口は変わらないね。いつ会ってもあたしの知ってる矢口がいる」
「なーに言ってんのさー。圭ちゃんだって、ずっと、矢口の知ってる圭ちゃんだよ」
首を竦めて寒がりながら、それでも、真昼に見る太陽のように微笑む。
3 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:04
もがいたり。

打ちひしがれたり。

転げ回ったり。

地団駄を踏んだり。

立ち竦んだり。


そんな時のあたしをきっと誰よりも知っているのが矢口で。


泣いたり。

黙り込んだり。

手を離したり。

後悔したり。

しゃがみ込んだり。


そんな時の矢口をきっと誰よりも知っているのはあたしだと思ってる。
4 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:05
「雪、積もり始めたね」
あたしの言葉に矢口は首だけ振り返り、何かを確かめるような素振り。

「足跡、消えちゃうね」
「なに言ってるのよ、最初から足跡なんてついてなかったわよ」

あたしの言葉を横顔だけで受け、後ろを振り返ったまま、続ける。
「足跡は消えちゃうけど、いつだって、未来は創れるんだよね。
 いくつでも、何度でも、創れるんだよね。それは、自分の思うがままに」

前方を捉え直した矢口の視線の先を辿ってみる。
最初に視界に飛び込んできたのは信号の青。
青は進め。進んだ先は未来。未来は消えない。

「どうして傘、持ってこなかったの?」
「圭ちゃんがいるから」

手を握る力がほんの少しだけ強くなった気がした。
それで思い出した。
あたしの左手は確かに熱を持ち、矢口の右手も確かに熱を持ち、あたしの右手もまた、熱を持っていることを。

街の全てが白く塗り潰されたとしても、あたしは、矢口は、その中に消えてしまうことなく、未来へと行ける。
二人の体温が雪の温度に劣らない限り。
5 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:05
おしまい
6 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:05
7 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:05
8 名前:11 君だけが知らせてくれること 投稿日:2006/01/05(木) 00:05

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