10 ディストーションマリアストライクスバック
- 1 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:21
- 10
ディストーション
マリア
ストライクス
バック
- 2 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:22
- スタッフの人が運転する車から降りると、雨を避けるために急いで駅舎の中に入った。
池袋の街から少し離れたこの駅は、したたかに酔ったサラリーマンたちが占拠していた。
ゆらゆら揺れながら立ち尽くしている間を抜けて、改札を通って2階のホームに上がる。
底冷えする夜、雨はいつしか雪へと変わっていた。
足元の先では2本のレールが鋭く光って、覆いかぶさってくる小さな牡丹雪を払いのける。
雪のかけらたちは力なく、敷き詰められた石の上に倒れこむ。そうして解けて、色を失う。
あるいは、レールの錆に体を染められ、汚れをにじませながら、天から降りてくる仲間を待つ。
やがて下り電車がやってきた。車内の人はまばらで、みなどこか茫然と宙を見つめていた。
もしくは、がっくりと肩を落とすようにして、眠っていた。アナウンスの声とレールのリズムだけが生きている。
ドアの脇にある手すりに寄りかかる。そうして、窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。
疲れた化粧も、薄汚れた蛍光灯を反射した夜景をバックに映る今のレベルなら許せる。
でも部屋に帰ってシャワーを浴びて、寝る前に肌のケアをするとき。それがいちばん、嫌になる。
「どうしょうもないのかな」
つぶやいたら、かすれた声が目の前のガラスを白く濁らせて、そして消えた。
- 3 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:23
- 〓 〓 〓
控え室で文庫本を読んでいると、店長代理が私を呼んだ。妙な問い合わせがあるという。
「女の子なんだけど、どうしてもっていうんだけど‥‥いい?」
かまいませんよ、と私は答えた。
それから3時間ほどして、その間にふた仕事済ませて、ついにその相手の番になった。
いつもどおり外に出て待ち合わせ場所に向かう。コーラの赤い自販機の脇、というルール。
そしてそこに立っているのはサエナイ感じの男の人ではなくって、地味めの茶色いコートを着た女の子だった。
「ど、どうも」上ずった声で彼女は挨拶をした。柔らかそうなほっぺたが真っ赤だ。
「あの、あの‥‥よろしくお願いします‥‥」
「こちらこそ」
笑みをつくって言葉を返すが、それきり。彼女はどうしたらいいのかわからないでいる。
これもサービスのうちだから、遠慮なくその手をとると、ぐっとこちらに引き寄せる。
「あ」なんてまた上ずった声をあげる彼女の腕を、自分の腕に通す。横から胸を押し付ける。
「いきましょ」
歩き出すと、つられて彼女も足を前へと進める。そうして目的地に向かう。
彼女はずっと緊張しっぱなしで、一言も会話を交わさなかった。
- 4 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:23
- 入り口でボタンを押して、キーを手にとって、エレベーターに乗って、部屋に着いた。
ドアを閉めたところで、「はじめまして、『ラブ』です」と挨拶をする。彼女は黙って礼を返した。
私のホントの名前は『愛』で、それを単純に英語にしただけだから、察しのいい人にはすぐバレる。
でも気にはならない。だって、こういうのって自分のホントの名前と少しでもつながりがないと、
カラダだけ残して私がどっかに消えちゃう感じがするから。それってズルいと思うから。
「ねえ、あなたの名前、なんていうの?」
湯船にお湯を入れながら、尋ねる。少しの間をおいて、彼女はやっぱり上ずった声で答えた。
「え‥? あ、アサミです‥‥」「そう」「えっと、失礼ですけどラブさん」「なぁに」
「あの、女の人って‥‥」「これが初めてだよ」「え‥そうなんですか‥?」
余裕のある経験者のように見えたのだろうか。ただ私は、頼まれたからそうする、それだけのことだ。
「そういうあなた、アサミさんは?」「え‥‥その‥‥はじめてです」「じゃ、初めてどうしだね」
彼女の目の前に立つと、ゆっくりと首を傾けた。そのまま近づいて、唇と唇が触れる。
舌を伸ばして、彼女の唇の裏側を一周した。最初びくっと震えたけど、彼女はおとなしく目を閉じていた。
一枚一枚、身に着けているものを剥いでいく。下着姿になったところで、今度は彼女に私の服を脱がせる。
そしてもう一度私の番になって、ブラを取った。白くて豊かな胸が露わになった。
手のひらを優しく両側から押し付けて、波立たせる。小さなピンクの乳首も、ふるふると震えた。
彼女の手を引いて、私のブラを取らせる。「触ってみて」淡い栗色の私の乳首の上に、彼女の指を残す。
わずかな戸惑いの後、指はゆっくりと円を描いて、そうして中心へとたどり着いた。親指が遠慮がちに動く。
その間に、彼女のショーツを引き下ろした。指先に神経を集中させる彼女は、少しも抵抗を見せなかった。
「いいよ」そう言うと、彼女は手を止め、私を完全に裸にした。脱いだものは、その場に捨ておく。
軽く彼女の体を抱きしめて、頬にキスして、それから手をつないで一緒に湯船に入った。
- 5 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:24
- 「寒かったでしょ」彼女の体はまだ冷たさを残している。いつでも熱い男の人の体とは対照的だ。
後ろから私に抱きしめられるような体勢で、彼女はお湯に浸かっている。くぐもった返事が聞こえてくる。
「どうしよっか。もうお風呂はいい? それとも、もうちょっとここであったまる?」
「‥ここが、いい、です」
うなじに舌を這わせると、彼女は身を硬くした。かまわずそのまま耳たぶまでいって、唇で噛む。
胸をしっかりと背中に押し付けながら、彼女の白い胸へと手を伸ばす。手のひらは乱暴に、指先は繊細に。
陰毛で彼女のお尻をくすぐりながら、喉元に吸い付く。鼻から漏れる息が、熱を帯びてきている。
「アサミちゃん、こっち向いて」
彼女は言われるままに体を半回転させると、私の膝の上に乗った。目が潤んでいる。
「きもちいーい?」「はい‥‥」ゆったりと、あそこを私のへそに押し付けて、彼女は答える。
ごほうびに、私は心をこめたキスをあげる。そして、手をつないでシャワーを浴びて、バスルームを出た。
バスタオルで彼女の体を拭いてあげる。そしたら「お返しです‥‥」と、彼女も私を拭いてくれた。
「それじゃ、はじめよっか」
ベッドに彼女を横たえると、その上に覆いかぶさった。男の人の場合にはある程度手順があるけど、
女の子の場合はどうすればいいのかイマイチ感じがつかめない。
それでも指の動かし方や舐め方を工夫すればだいたい大丈夫かな、と思い、キスから入る。
たっぷりと唾を流しこんで、それを絡めとるように舌で動き回る。
相手の歯並びを確かめるように、ひとつひとつなぞりながら、ぶつかる舌を追いかける。
そうしながらも、手は彼女の胸の上を滑る。それに合わせてこすりつけてくる乳首は、硬くなっていた。
彼女の膝を立てると、ふとももにあそこを押し付ける。また、自分のふとももでも彼女を刺激する。
じゅっ、じゅっ。濡れた肌に挟まれた陰毛たちが、いやらしく音を立てはじめる。
キスの合間に、鼻にかかった声が漏れる。
- 6 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:25
- 「一緒に舐めたいな‥‥」
上にいる私が体の上下を入れ替えて、そのまま彼女の脚のあいだに顔をうずめる。
伸ばした舌の先に、苦味ともなんとも形容しがたい独特の味を感じる。体の奥からあふれてきたモノ。
汗の酸っぱい匂いがわずかに混じって、「汚い」という言葉が一瞬、頭をかすめる。
でもその「汚い」のを分け合う先に快感がある。ねえアサミちゃん、一緒になってよごれちゃおっか。
呼びかけに答えるように、私の粘膜に柔らかいものが触れた。
それはおずおずと、そしてだんだん力強く、私の奥へと進んでいく。
唇を先端部に吸い付かせたまま、私は彼女の中に指を入れた。「ひっ」と向こうで声がした。
あたたかい壁が私の指を挟みこんでいる。動かすと、どんどんぬるぬるがあふれてくる。
悲鳴を押し殺して、彼女は耐えている。それでも「んっ、んっ」と喉が鳴っている。ごまかせない。
動きを早めると、クチャクチャと音がした。水っぽい音は大きくなっていき、やがて彼女は力なく崩れた。
「イっちゃったね」
そう言って彼女の顔を見る。涙をいっぱいに溜めた虚ろな目で、半開きの唇で、「はい‥‥」と答えた。
「かわいい」
脱力している彼女の隣に、私も横たわる。手を握ってささやくように話しかける。
「きもちよかった?」「はい、とても‥‥」
彼女はその大きな瞳で、まっすぐに私を見つめた。
自分で言うのもヘンだけど、彼女の瞳に映った私は、ちょっと輝いて見えた気がした。
それからもう一回キスして指入れてイかせて、時間になった。
池袋駅とお店の中間ぐらいのところで、彼女とは別れた。
この日はもうひとりのお客さん(もちろん男の人)を相手して、それでアパートに帰った。
- 7 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:25
- 〓 〓 〓
お休みの日になって、私は麻琴と会う約束をした。
麻琴は私以上に特殊な仕事をしている。オナベバーの店員だ。
といってもガチガチに男性ホルモンを注射してるような人ではない。
一緒に暮らしている先輩がそこで働いていて、裏方の手伝いをしている。
「センパイ、酔っ払うと甘えてくんの。それで『ひとみ』って本名で呼ぶと、やっぱ怒んの」
前に聞いた話は強烈におかしくて、私はふたりの奇妙な関係を、ひそかに娯楽として楽しんでる。
賑やかな場所は苦手だけど、静かな場所と同じように過ごせばいい。麻琴に連れられるまま店に入る。
麻琴は密着してないと声が聞こえないくらいうるさいところを好む。肩を寄せ合ってお酒を飲む。
そのうちすぐに、いつもみたいにちょっとだらしない感じの笑い顔になって、麻琴がからんでくる。
「愛ちゃんど〜なの、最近」「どうって?」「相変わらずしぼってんの?」「しぼってるよ。しぼりまくり」
「あたしにもチンポがあったらな〜、愛ちゃんにしぼってもらうのに」「でもひとみさんとは別れないとね」
「あ、そっか」「ひとみさん、手術はまだ?」「まだだね〜」「じゃ、するときは女の子どうし?」
「まあ基本、あたしがやられる側だから。あんま意識したことないよ」「そうなんだ」
この前の光景が蘇る。麻琴と違って、私とアサミちゃんのケースは、完全に女の子どうしだ。
「私この前、女の子相手に仕事したの」
お酒のせいか、ぽろっと口から転がり出た。麻琴はただ私を見つめている。
でも次の瞬間に、目見開いて、口を大きく広げて、それから一拍遅れて「えー!」と絶叫した。
いくら店内が騒がしいっていっても、これだけ大きな声なら誰でも気がつく。
客たちの視線を一身に浴びている麻琴の頭をたたくと、ようやくふたたび動き出した。
- 8 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:26
- 「マジでぇー!?」「マジで」「どんなだった?」「男の人とだいたいおんなじ」「えー、そう?」
「だっていつも自分がされてるみたいに指動かせばいいんだもん。意外と簡単だったよ」
私はお酒に強くない。体じゅうが熱くなってて、顔が充血してきているのが鏡を見なくてもわかる。
ヘンなこと言っちゃった、という後悔はどこか遠くで私のことを見つめていて、開放感が隣に座っていた。
好奇心でニコニコしている麻琴と開放感とに挟まれて、私はあったかい布団にくるまれてる気がした。
〓 〓 〓
それから3ヶ月のあいだ、アサミちゃんは1週おきに遊びに来た。
やっぱり、思ってたほど女の子どうしってのは、あんまり気になるようなことじゃなかった。
ひとつにはアサミちゃんが十分「かわいい」部類に入る子だったからだと思う。
そして何より、たった60分の逢瀬に、アサミちゃんがありったけの情熱を込めてくれたことが大きい。
キスしたり指を動かしたり腰を振ったりする彼女の懸命さを感じると、素直にそれに受け止められる。
彼女が求めてくるから、私はそれにこたえてあげる。
ホテルを出ると、私とアサミちゃんは手をつないで池袋駅へと歩き出す。
そうしてほんのちょっとだけデートをして、改札を抜ける彼女に手を振って別れる。
道行く人たちは誰も私たちの関係に気がついていないだろう。
そんなことを考えながら鼻歌を歌って、私は店に戻る。男の人を相手に、「しぼって」あげる。
全身を舐め回されて、舐め回して、口に含んで、あそこを押し付けて腰を動かす。
体力勝負の仕事に、日付が変わる頃にはヘトヘトになる。
スタッフの人の車に乗せられて終電間際の電車に飛び乗ると、窓ガラス越しに疲れが浮き上がる。
〓 〓 〓
- 9 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:26
- 新垣里沙ちゃんと知り合ったのは半年ほど前だ。
出勤するために駅のホームで電車を待っていたら、里沙ちゃんが勢いよく階段を駆け上がってきた。
「うわうわうわ、あれっ!?」なんて大声で叫んで、目の前で急ブレーキをかけた。
きっと逆方向の電車と表示を見間違えて、乗り遅れちゃうと思ったんだろう。
彼女は眉毛をハの字にして、ゆっくりと去ってゆく向かいのホームの電車を見つめている。
「落としましたよ」
彼女のポケットからすべり落ちた定期券を拾って手渡すと、ハの字は満面の笑みになって、
ぴょこぴょことその場で何度も礼をした。その仕草がすごくかわいくて、思わず言ってしまった。
「リサちゃんってかわいいね」「え? なんでわたしの名前知ってるんですか?」
「ごめんね、定期に書いてあるの、見ちゃった」「あ、ホントだ。『ニイガキ リサ 17才』書いてある」
「17歳かあ‥‥いいなあ」「えー? おねーさんだって十分かわいいじゃないすか」
遅番の私が出勤する時間に登校する、というのも珍しい子だなあ、と思って、それで覚えた。
向こうも私のことを「きれいなおねえさん」として見てくれているようで、たまに駅で会うと話をする。
でも里沙ちゃんは私の仕事のことを知らない。
そして私が「妬み」をもって彼女を見つめていることを知らない。
彼女の短いスカートから伸びる、成長しきっていない肌を見るたび、私は発作的に怒りを覚える。
誰も悪くないのに、許せなくなる。彼女はいい子なのに、とても憎くてたまらなくなる。
そういう感情を殺して、私は他人と向き合っている。
〓 〓 〓
クリスマスセールも歳末セールも過ぎて、年が新しくなっても、アサミちゃんは私を指名しつづけた。
脱がしっこして洗いっこして触りっこして舐めっこしていじりっこしてイかせっこする。
私にとって彼女は「すばらしいお客さま」で、彼女にとって私は「オキニの子」。
それは美しい環を描いていた。崩れることも壊されることもない、無限の循環に思えた。
私とアサミちゃんはまるで地球と月のようで、お互いを見つめあってぐるぐる回っているうちに、
時間が流れていく。私たちがホテルで一緒に過ごすことで、時間が更新される。
そうして世界は回っていた。
あの日までは。
- 10 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:27
- 疲れていたせいで、気がつかなかった。
帰ってきてエントランスに入ったところで、背中に声がかかる。
「あの‥」
空耳としか思えなかった。聞きなれた声を、こんなところで聞くなんて。
振り向くと、彼女が立っていた。
帽子の下でこちらをうかがっている目は、震える唇は、アサミちゃんだった。
突然のことに言葉を失っていると、彼女はさらに一歩こちらに踏み出した。
「ごめんなさい‥私‥」「どうしても会いたくて」「いやだったんです、今の関係」
「もっと近づきたくって、それで」「いけないと思ったんですけど、がまんできなくって」
「あなたがシャワーを浴びてる間に、こっそり、バッグを見たら、定期があって」
「あなたの本当の名前と、最寄り駅がわかって、それで」
「これ、私の学生証です」「あなただけじゃ、不公平だから‥」
「もう『ラブ』さんなんて呼びたくないんです。愛さんって、呼ばせて‥」
「私、あなたの力になりたい‥」
「待ってよ!」
叫んでいた。そして、今度は私がまくし立てる番だった。
「これってルール違反だよ! あなたはお客さんで、それ以上でも以下でもないの!
私たちの関係は、ホテルの部屋の中だけの関係なの! 恋人なのはその間だけなの!
だいいち私のプライベートを知ってどうするつもり? 優越感にでもひたるの?
つきまとうの? あくまで遊びは遊びなんだから! なにマジになってんの? もう、迷惑!
あなたが私のためにできることなんて、私を指名することだけなの! ほかに何もないの!
ねえ、帰ってよ! もう二度と私の前に現れないで! 帰って!」
アサミ――あさ美は大きな目をさらに見開いて、茫然と私を見つめている。
「ウソ‥・・ウソでしょ、愛さ‥」「これが現実なの! お願いだから帰って! 帰ってよ!」
エントランスには、まるで膝を擦りむいたときのような、ジンジンした痛みが残った。
やがてその痺れが消える頃になって、私に背を向けて、あさ美は言った。
「わかりました‥‥もう、会いません‥」
駆け出して、そのまま、夜の闇の中へと消えた。
〓 〓 〓
- 11 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:28
- インターホンが鳴った。画面の向こうではとろけるような笑みを浮かべて麻琴が立っている。
「ごめんね、無理言って」「いいよ〜へーきへーき」
昨日の夜のことを引きずっていて、独りで出勤したくなかった。だから麻琴に来てもらった。
一緒に池袋まで行ってもらって、仕事が終わったらオールで飲むって約束をした。
きっと帰りたくなくなるし、独りでいるのも嫌だったから。麻琴はいつも私のワガママを聞いてくれる。
いつもよりもずっと早い時間に部屋を出た。駅に着くと偶然、学校帰りの里沙ちゃんと会った。
「こんにちは」
見慣れない、そして私の外見からは予想もつかないような人と一緒だったからか、
里沙ちゃんは心なしか強張った表情で、挨拶をしてきた。そしてそそくさと通り過ぎて行った。
「愛ちゃん、今のは?」「知り合いだよ。落し物を拾ってあげたんだ」「ふぅん」
電車の中で、私たちは席に座って、ぼんやり広告を眺めていた。
雑誌の中吊り広告がいちばん目立っていて、次に嗜好品の新製品の広告が多い。
そして休日や仕事の後にどんな時間を過ごすか、って内容の広告もあった。
「不思議」「なにが?」
「私ね、電車の中じゃいつも立ってて、外眺めてるの」「うん」
「でも外眺めても、暗くなってるから、見えるのって疲れた自分の顔だけなの」「うん」
「だけど電車の内側、こんなふうに広告見てると、社会のこととか世間のこととかよくわかる」「うん?」
「外見てるよりも内側向いてるほうが物事がはっきり見えることもあるんだね」「ふぅん」
麻琴はぜったい私の言いたいことをわかってない。でもニコニコしてきちんと聞いてくれる。そこが好き。
そうこうしているうちに池袋に着いた。麻琴はそのまま新宿に向かうので、ここでお別れ。
「じゃ、またね」「なんかあったらすぐに言ってよ」「うん、だいじょうぶ。ありがと」「それじゃね」
ぷるぷると手を振る麻琴を乗せた電車は、どんどんスピードを上げて去っていく。
見えなくなって、回れ右して、改札へ向かう。
〓 〓 〓
- 12 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:28
- けっきょくあれから「あさ美」に出会うことはなかった。
また家まで、あるいは職場まで押しかけてくるかも、と思ったけど、それはよけいな心配だったようだ。
相変わらず、私に会いに来てくれる男の人たちを口や手でしぼってあげる毎日が続いていた。
お休みの日になって、買い物にでも行こうかと電車を待っていたら、里沙ちゃんとばったり会った。
「久しぶりー」なんてありきたりな会話をしているうちに電車が来たから一緒に乗った。
「今日学校は?」「え、あんま行かないんで」「制服着てるじゃん」「制服だとチヤホヤされるんすよ」
「チヤホヤねえ‥それじゃ私もなんちゃって女子高生になっちゃおうかな」「いけるっすよ、ぜったい」
「ねえ、こうしてじっくり話すのって、初めてかもね」「あーそっすね、そういえば」
「なんかイメージとちがうな、里沙ちゃんってマジメそうできちんとしてる感じなのに」
「そんなことないっすよ、勉強だいっキライだし」「私もそうだったよ、大っ嫌いだったな」
「でも親は大学に行けってゆーし。行けるレベルじゃないからムリだし」「そうなの?」
「勉強なんてどうせゼンゼン役に立たないのに、なんでやんなきゃいけないのか誰も教えてくんないし」
「じゃ、私と一緒に大学行ってみる?」「はい?」
私は里沙ちゃんに「紺野あさ美」が通っている大学の名前を告げた。
自分でもなんでかわからなかったけど、とにかくそうした。
その大学は私でも知ってるくらい有名なんだけど、どこにあるかは知らなかった。
ふたりで本屋さんで調べたり、電車を乗り継いだりしてようやくたどり着いたのはよかったんだけど、
お腹が減って入ったカフェテリアは、ランチタイムって雰囲気じゃすっかりなくなってしまっていた。
大学っていう場所に来たのは、生まれて初めてだった。
建物がとにかくいっぱいあって、緑がやたらと多くて、私と同じくらいの歳の人ばっかりがたくさんいた。
私たちは正門の近くにあったベンチに腰掛けて、大学生たちが行き来するのをただ眺めていた。
- 13 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:29
- 「こないだの人、誰だったんすか?」「こないだ?」「ほら、前に‥ちょっと性別わかりづらい感じの」
「ああ、麻琴のことね」「まこと?」「女の子だよ。オナベの人と付き合ってるけど」「はぁ‥?」
私の話に里沙ちゃんは首をひねる。まあ、それがふつーの反応だよなあと思うけど。
里沙ちゃんは少し迷ったあと、おそるおそる尋ねてきた。
「あのー」「なに?」「愛さんって、お仕事、何されてるんですか?」「風俗嬢」「え?」
「だから、風俗嬢」「え、それって、ええと‥」「おちんちんなめたり、あそこなめられたり」
目を丸くして、里沙ちゃんは口走る。
「平気なんですか、知らない人とそういうことするのって」「慣れちゃえばね」
「慣れって‥」「付き合っているうちにダラダラとだらしないエッチをするよりはいいよ」
「そんなもんすかねえ‥‥はぁ‥」
納得いかないようで、里沙ちゃんはまた首をひねっている。
「私、嫌われたくないんだと思う」「へ?」
「誰にも嫌われたくないから、こういう仕事で喜んでもらっているのかもしれない」
「でもぉ、嫌われないこととそういうことをするのって、ゼンゼン別のことじゃないっすか?」
「あのね、サービスの値段って、お店のどの女の子がしても同じなの。
だから指名をもらえるってことは、それだけ私が特別ってことだから、
嫌われていないってことの証明になるんじゃないかなって」
「‥どうも極端な気がするんすけどねー」「うん、わかってる。でもそうなんだ」
それからなんとなくどっちも口を開きづらい感じになっちゃって、
黙ったままふたり、座って夕暮れになるのを待っていた。
すると突然、着信音が鳴った。麻琴からだった。
「えっとね、今大学にいるんだけど‥迎えに来てくれるの? 悪いね」
通話を切ると、里沙ちゃんに告げた。
「麻琴が来てくれるって。もう一回会ってみる?」「え? ‥ええ、まあ、せっかくですから」
「オッケー、じゃ決まり。大学見学の次は、悪いおねえさんたちと社会勉強しよっか」
〓 〓 〓
- 14 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:30
- それからもやっぱり、可もなく不可もない今までどおりの日々だった。
駅で会っても里沙ちゃんは私を避けることはしなかった。むしろ、ちょっとずつ親しくなっている。
世の中にはいろんな考え方がいっぱいあるってことを彼女は知っていて、
だから私が少し「ズレている」人間だとしても、それはそれとしてきちんと受け止めてくれる、
そういう心の広さを彼女は持っていた。
麻琴も麻琴で相変わらずだった。
オナベバーやプライベートでそんなに暇のある生活をしているわけじゃないくせに、
ことあるごとに私のことを気にかけてくれた。まめに連絡を入れてくれた。
前に里沙ちゃんに「私、嫌われたくないんだと思う」って言ったけど、それってなんだろって考える。
自分の発言に「なんだろ」ってのもヘンな話だけど、でもホントにそう思うんだ。
お客さんとは「本番行為」以外ならほとんどなんでもありのことをしている今の毎日。
そういうカタチでも私を必要としてくれる人は確かに存在していて、それを励みにしている。
そして麻琴や里沙ちゃんは、そういう仕事をしている私をちゃんと受け入れてくれる。
あるいは、紺野あさ美のように、家に押しかけてくるくらい熱を上げちゃった人もいる。
「カタチはどうあれ、私はみんなから必要とされる人間なんです」そう声を大にして
叫ぶことができるだけの権利を、私は持っていると思うんだ。
でも、そう考えた次の瞬間に、私は怖くなる。
このまま歳をとっていって、肌に張りがなくなって、里沙ちゃんみたいな若い子に居場所を奪われて。
そうしたら、私はどこに行けばいいのだろう。どうやって必要とされればいいのだろう。
どんなに嫌われないように努力していても、歳をとったことを理由にされたら、言い返せない。
だからって、カラダ以外でどうやって稼いでいけばいいのか、私は知らない。
頭も悪いし、資格だって持ってるわけじゃないし。
ほかの女の子たちに嫌われたくないから、頼れる彼氏なんかもつくってないし。
- 15 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:30
- スタッフの人が運転する車から降りると、雨を避けるために急いで駅舎の中に入った。
池袋の街から少し離れたこの駅は、したたかに酔ったサラリーマンたちが占拠していた。
ゆらゆら揺れながら立ち尽くしている間を抜けて、改札を通って2階のホームに上がる。
底冷えする夜、雨はいつしか雪へと変わっていた。
足元の先では2本のレールが鋭く光って、覆いかぶさってくる小さな牡丹雪を払いのける。
雪のかけらたちは力なく、敷き詰められた石の上に倒れこむ。そうして解けて、色を失う。
あるいは、レールの錆に体を染められ、汚れをにじませながら、天から降りてくる仲間を待つ。
やがて下り電車がやってきた。車内の人はまばらで、みなどこか茫然と宙を見つめていた。
もしくは、がっくりと肩を落とすようにして、眠っていた。アナウンスの声とレールのリズムだけが生きている。
ドアの脇にある手すりに寄りかかる。そうして、窓ガラスに映る自分の顔を見つめる。
疲れた化粧も、薄汚れた蛍光灯を反射した夜景をバックに映る今のレベルなら許せる。
でも部屋に帰ってシャワーを浴びて、寝る前に肌のケアをするとき。それがいちばん、嫌になる。
「どうしょうもないのかな」
つぶやいたら、かすれた声が目の前のガラスを白く濁らせて、そして消えた。
- 16 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:31
- 〓 〓 〓
ある晴れた日、私は大学のキャンパスに再び立っていた。
今度は一人だった。昨日から生理で、店にはお休みをもらっていた。
前と同じベンチに腰掛ける。いつも控え室で読んでいる文庫本をたっぷり持ってきた。
今日一日、ここで本を読みながら彼女を待ってみよう。
あまり本に熱中しすぎると、もしかしたら気づかずに見逃してしまうかもしれない。
ページを一枚めくるごとに周囲を観察するルールを決めて、読みはじめる。
淡い日差しと、温度は高くないものの穏やかな風が、優しく私のことを包んでいる。
20ページも読み進まないうちに、本を読んでいるのがちょっともったいなく思えてきた。
こういうときはおとなしく、カードを挟んでいったん休憩。ベンチの脇に、本を置いてしまう。
ゆっくりを形を変えていく雲が浮かんでいる青い空を眺めて、ぼんやりと考えごとをする。
昼間の世界は太陽がまぶしい。ネオンの妖しい光も効力をなくしてしまう。
大学みたいなまっとうな空間も、なんかくすぐったくって居づらい。
でも学生のみなさんは私のことをごくふつうの風景として受け止めているみたいだ。
まあ、何がマトモで何が異常かなんて、一皮むけばわかんない世の中だし。
お昼になってお腹がすいたので、学生食堂に行ってみた。
けど、中はあまりに人がいっぱいで、どういう順番に並んでるのかわからない列ができていた。
駅でいっつも自動改札機につかまってしまうくらい要領のよくない私だから、
列に並んだら大混乱を引き起こして迷惑をかけてしまうに違いない。
とりあえずあきらめて、校内をちょっと散歩してからもう一度トライすることに決めた。
生協の前にある自動販売機でペットボトルの紅茶を買うと、
なるべく緑の多そうな方向へ、あてもなく歩いてみることにする。
- 17 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:32
- この大学は大きくって、紺野あさ美が在籍している法学部のほかにもいろんな学部がある。
学部ごとに建物がいろいろあるけど、みんな似たような感じなので、すぐに迷ってしまう。
渋谷だったらお店ごとに特徴があるからわかるけど、大学の中は看板がないから、
ウィンドウショッピングみたいな楽しみ方ができない。つまんないなーって思っちゃう。
もし私が大学に入ったとしても、これならすぐに飽きちゃいそうな気がする。
こんなところで勉強を4年もがんばるなんて、ありえないって、ぜったい。
そうして自転車置き場を通りすぎたとき、見覚えのある顔が私の視界に入った。
メガネをかけているけど、その顔は確かに、紺野あさ美だった。
彼女はベージュ色のレンガでできた中世ヨーロッパ風な建物から出ると、
コソコソと身を隠すように私がいま来た方向へと早足で歩き出した。
こっちには気づいていないようだ。急いであとを追いかける。
彼女は少しの迷いもなく、まるで訓練された迷路の中のネズミのように、
まっすぐに食堂へと向かっていた。もうちょっと動きやすい靴を履いてくればよかったと思った。
食堂はすでにピークの時間を過ぎていて、だいぶ余裕ができていた。
彼女はサンドイッチとお菓子とお茶を手に取ると、レジで支払いをして、奥に消えた。
私も同じようにテキトーにお昼ご飯を見つくろい、レジに持っていった。
そして支払いを済ませると、食堂に並ぶテーブルの中から彼女の姿を探す。
カップルどうし、あるいは友人どうし、何人かのグループがところどころでかたまっている。
そしてその間にできた隙間を、独りの学生たちが埋めている。
彼女もその中で、独り、席について食事をしながら参考書か何かを読んでいた。
私は彼女の向かいの席まで行くと、「ここ、よろしいですか?」と声をかける。
顔を上げた彼女は、唇を丸めて、大きな黒い目で私のことを見た。
でもその口から出てきた言葉は、温度のない「何のつもりですか?」だった。
それはそうだ。私も彼女のプライベートに、無神経に踏みこんでいるのだ。
今度は私がルール違反をしているのだ。
- 18 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:32
- 「ひとつだけ、聞きたいことがあるの」
私が言うと、彼女は怪訝そうにメガネをとった。「なんですか?」
「どうして私を選んだの?」
〓 〓 〓
それから。
私の生活は少しも変わっていない。今も風俗嬢。毎日しぼりまくり。
麻琴も変わっていない。今もオナベのカノジョ。今もオナベバーの店員。
里沙ちゃんは高校卒業後、専門学校に行くことにしたみたいだ。
そしてあさ美は来年も大学生だ。民法を専攻にするつもりらしい。
つまるところ、私たちは何も変わっていないのだ。
そりゃあ少しは時間の流れのせいで細かく変化した部分はある。
でも全体として見れば、笑えてくるくらいに何も変わっていないのだ。
毎晩けっこうヘトヘトになって家に帰るし、つらいときもある。
でも、私はもうしばらくこの仕事をがんばってみたいと思う。
とりあえず、私を贔屓にしてくれるお客さんと仲間が元気でいる今を楽しんでおく。
そう、決めたのだ。
辞めることはいつだってできる。
歳をとることが商品の価値を下げていく世界だから、いずれ辞めることにはなる。
辞めた後でバタバタとみっともないことにならないためにも、
私と接していてくれる人たちに迷惑をかけないためにも、
今、自分のいる状況を最大限に楽しんでいこう。そう考えている。
天から同じように舞い降りた雪の粒たちは、積もったり積もれなかったり、
白いままでいたり汚れちゃったり。雪は降りる場所を自分じゃ決められない。
仮に私が紺野あさ美の言ったように「汚れた雪」だったとしても、
だからって別にどうってことはない。色がついたことを喜ぶって考え方もあると思う。
人それぞれ。気の持ちよう。自分のことを最後まで責任取っていく覚悟があるもん、
どんなことだってきっといい経験に変えていける。
- 19 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:33
- 〓 〓 〓
「どうして私を選んだの?」
学生食堂のテーブルを挟んで、私とあさ美は見つめあう。
あさ美はその大きな目で私を見つめると、ふと視線を逸らせた。
そして重たそうに口を開いて、言った。
「私にはあなたしかいないと、そうあのときは信じていたんです」
きっかけは本当に些細なことだった。
この食堂でお昼どきにたまたま近くに座っていた男子学生グループの一人が、
『ラブ』という私の名前と店の名前を口にしたのだそうだ。
興味本位でインターネットで検索をかけた結果、私の写真に出会った。
そうして、私という存在が彼女の中に生まれた。
彼女はほぼ毎日、私の出勤表を眺めた。
そうして知らない男に触れる私のことを想像して、時を過ごした。
さらにいろんなサイトで私の情報を集めていった。
PRのムービーを見つけて動いている私の映像を見たとき、彼女は決心を固めた。
「本当はあなたを救いたかったんです」
彼女は私にこの仕事を辞めてほしかった、ほかの仕事をしてほしかったのだそうだ。
風俗で働いている私のことを救いたい、そういう正義感から、コンタクトした。
でも実際に会ってみて、彼女は私のことが好きなんだと気づいてしまった。
好きだったから、自分もほかの客に負けないように、触れあった。
そうして接触を重ねていけば、いつか私のことを手に入れられる、
手に入れることができれば、きっと救い出すことができる、そう思ってしまった。
でも、遊びの世界の女の子をつかまえられるなんて、幻想。
自分の力で人ひとりを救えるなんて、幻想。
焦ったあさ美は行動に出たが、当然のようにそれは失敗に終わった。
- 20 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:33
- 「あなたが雪のように思えました。白くて、きれいで、静かで、やわらかで‥
でも触れれば触れるほど、解けて姿を変えてしまう。そして手には冷たさだけが残った」
あさ美の言葉に、私は思わず口走っていた。
「気がついたんだ。あなたの求めていた雪が汚れてたってことに」
彼女は少し間をおいて、それから小さくうなずいた。
「子どものころ、汚れた雪は嫌いでした。雪だるまをつくったら土の汚れが混じっちゃって、
必死になって真っ白になるまで磨きつづけたことがあります」
「寒いところの生まれなんだ?」「北海道です」「私は福井。雪国どうしだね」
「そうですね」そのまま、彼女は押し黙ってしまった。
決定的なことを口にしてしまったと思っているのだろうか。
「私は別にそういうこと、気にしたことないから。私は私。
っていうかね、ひどいことを言ったのはお互いさまだから。」
そして、用意しておいたカードを、挿しておいた本のあいだから取り出す。
「これあげる」
いつもお店で使っている名刺のカード。でもそこには『ラブ』と印刷されてはいなくって、
私の字で『愛chan』とでっかく書いてある。裏にはメアドもきちんと書いてある。
これくらいしか思いつかなかった。
「気が向いたらお店の方に来てよ。生理じゃない日なら遊んであげられるから」
「あの、私‥」「ちなみに今日は生理だからお休みね」「そうじゃなくって、その‥」
「私に触れることで自分が汚れる、って考えてるの?」
彼女は私の言葉を否定も肯定もしない。でもその態度で答えは明らかだ。
「それでもいいよ。もし汚れたくなったら、私のところに来て。
たくさん汚して、キモチよくしてあげるから。めいっぱいサービスしてあげる」
できるだけの笑顔をつくって、私は席を立った。
「愛さん!」呼ぶ声がしたけど、私は振り向かなかった。
「書いてあるでしょ、『愛chan』って。そう呼ばないとダメだから」
- 21 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:34
- 私は紺野あさ美と別れて、食堂を出た。
相変わらず日差しは淡くて、穏やかな風と一緒に優しく私のことを包みこむ。
麻琴に電話をかけてみる。話がまとまって、また迎えに来てくれることになった。
通話を切って門のところでぼんやり空を眺めていたら、
麻琴も新潟出身で雪国の生まれだってことを思い出した。
それから、里沙ちゃんのふるさと、どこなのか今度聞いてみようって思った。
- 22 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:34
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- 23 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:35
- ※18歳未満お断り。
- 24 名前:10 ディストーションマリアストライクスバック 投稿日:2006/01/04(水) 21:35
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