06 Present from lover

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:34
06 Present from lover
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:35
――お目覚めですか、道重さん

なんだか聞き覚えのある声。懐かしい。
ここはどこだろう。よくわからない。頭がぼんやりして…、靄の中にいるみたい。
気だるい。もう少し、眠っていたい…。

――気分はいかがですか?

あまり、よくないの。なんだかぼんやりして…

――そうでしょうね。しかし、もう起きなければいけません。そしてあなたの罪を償う時間です

罪?私がなにかしたのかしら…

――覚えていませんか?

ええ…、なんだか記憶が曖昧で…まだ夢の中にいるような感じなの。

――しかしもうその時間は終わりました。あなたは人を殺したのです。

人を殺した…?私が?どうして…。
ああ、思い出せない。いつ?どこで?何も…

――認めたくない気持ちは分かります。しかし貴女は確かに人を殺したのです。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:35
ああ、私は、いったい誰を殺したの?


――その前に順序を追っていきましょう。貴女自身が思い出すことが肝要です。あなたは、道重さゆみ。

私は道重さゆみ。そう、今年で16歳になった、普通の高校生だったと思うのだけれど…

――普通の…確かにそうです。客観的にみて貴女はごく平凡な高校生だった。しかしね、普通とは何でしょう。『普通の人』そんな人が果たして存在するでしょうか?

あなたの言うことは、どうも屁理屈なのね。私は普通の高校生だったの。
そう、そうだわ、高校生になる前に山口から東京にやって来たんだった。だから転校生ね。

――そんなことは問題ではありませんよ

そうかしら…?
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:36
――貴女は比較的裕福な家庭に生まれました。そして二人の姉と兄の下に末っ子としてのびのびと育ちました。

うん。

――おとぎ話やラブロマンスが大好きで、そして何より自分自身が好きでしたね。

えっと…うん、その通りです。

――成長するにしたがい美しくなってゆく自分に心を奪われていった。そしてやがて物語のヒロインに自分を重ねるようになりました。そうですね?

はっきり言われると、なんだかドキドキするの。でも、その通りです。
私は自分が一番可愛いと思ってるもの。

――それだけならばまだ可愛らしいものだけどね。あなたはそんな自分の世界に水を差す者もなかったし、それにその美しさは誰もが認めていたから、現実とその世界との区別がつかなくなっていったんです。

ちょっとまって。そんなことない。私は人前でそんな考えを(冗談以外では)披露したことはないし、混同なんてしないの。
それにそんなことを本気で言い出したのならば、誰も相手にしないじゃない?

――あなたは利口でした。狡猾と言い換えてもいい。自分の世界を現実の世界の上に築くための、必要で最低の条件を満たすようにしたのです。これは意識的にではなかったかもしれませんが。

どういうこと?

――つまり自分自身と、ある範囲の周りの人間とを俳優にして、リアルにステージを組み立てようとしたのです。勿論貴女が主役の悲劇です。

そんなことを…。ああ、でもどうだろう。思い出せないの…。頭の中にはいつもそんな空想が浮かんでいたのだけれど…。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:37

――ところで、貴女は高校生になってから恋をしました。

……

――相手は亀井絵里という名の女性ですね?こんな場で黙りこくっても仕方の無いことですよ。

ええ、したわ。私は彼女のことを愛していました。

――本当に?

本当だもの!そうよ、私にとって、それまでのことが全部嘘だったみたいに、恋したもの。初恋だった…。あなたは笑うのでしょ?

――いえ、笑いなどしませんよ。貴女は同性に恋をした。それは禁じられた恋だ。貴女は燃え上った。こんな甘美で、貴女の持つヒロイズムに合致した世界はない。

まるで私の絵里への想いを作り物みたいに言うのはよして。

――貴女は届きそうもない想いを悶々と抱え見事に悲劇のヒロインを演じきった。そのときあなたは増し増しに美しくなっていった。
――そして意想外に…彼女は貴女を受け入れた。彼女にも貴女と同質の、なにか歪曲したモノがあったと見える。

絵里を悪く言うのはやめて。

――へへ…悪くなんて。ただ彼女と想いが通じたことによって貴女の悲劇は、思いがけぬハッピーエンドをもって幕を下ろしました。

ああ、そうだ。今でもあのときの光景が鮮明に眼前に浮かぶ。絵里の優しい笑顔が、私の涙でだんだんに歪んでいった。
絵里は…確かに変な子だった。いつも笑っていたし何を考えているのか分からないことがあった。
とても優しかったけど、ときどき凄く残酷な目をすることがあった。

――幕を下ろした。そう、舞台ならばそこで閉幕だけど、ここは現実です。それからも二人は一緒にいた。お互い妙に波長が合って、うまくいっていた。不思議なくらい二人の間には壁が無かった。

それは絵里が私を包んでくれたから…

――そしてあなたは彼女を受け入れた。彼女に全てを預けて。

6 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:38


――ところが、思いがけないうねりが訪れますね。あなた達の後輩の久住小春ちゃんが入ってきたことです。

…そうだわ。そうだったわね。今の今まで、彼女のことを忘れてた。

――小春は人懐っこくてあなた達二人をよく慕いましたね。まだ中等の一年生だった。その表情はあどけなくて、仔犬のようでした。

…何故だろう。嫌な気持ちがする。
確かに小春ちゃんは、可愛い後輩だった。部活動でいろいろなことを教えた。それで仲良くなったのよね。

――そう、最初は可愛い後輩でした。しかしあなたは次第に小春を別の目で見るようになりました。

…ああ、そうだ。小春は…だってすごく可愛かったから…

――大分、思い出しましたか?そうです、貴女は亀井絵里にべったりと付く小春にいつしか敵意を持ち始めました。

だって…だって、「私と絵里はつきあってるの」なんて言えるわけがないもの。小春は、何も知らずに、無邪気に…

――小春はいろんなモノをもっていましたね。あなたにない若さも(貴女も充分若いですが)それから純粋さ、その穢けない笑顔は貴女にはとても真似できなかったのでしょう

そう…彼女は、輝いてた。
私と絵里の舞台に乗り込んできて、勝手に主役の坐に。それも見事な演技で、喝采を浴びて。
私のステージを台無しにしたの。絵里が私の前で小春ちゃんの話をするようになって、彼女のことで笑うの。
だから…。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:38
――あなたの小春への思いは黒い塊となって深々と積もりました。あらゆる面においてあなたは小春に対し劣等感を覚えるようになりました。そして嫉妬しました。

小春はステージの上に咲いた一輪の花だった。それはそれは綺麗な…

――あくまでも主役はあなたと、そして絵里。今スポットライトを浴びている小春には、その美しさに見合う美しい演出が必要。あなたはそう考えました。

ああ、そう。私は、小春のことを大切に思っていた…

――あなたは、絵里を愛していたように、小春のことも愛していた。だから
――小春を殺したのですね。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:39
そんな、私は殺してなんて…

――寒い夜でしたね。猛烈な寒波。東京でも雪が積もりました。あんな情熱的で、おあつらえ向きな夜は無かった。

そう、私は小春を呼び出した。小春に、私の心の裡を少しでも知ってもらいたかった。
彼女はいつもの通りの笑顔で、寒さに頬を染めてやって来た。くりくりとした瞳を輝かせて、何かを期待するみたいに私の顔を覗き込んだの。

――そう、小春は何を期待していたのか。その日は亀井絵里の誕生日でしたね。あなたの目にはその小春の瞳がひどく憎らしく映ったのでしょう。
――そしてあなたは、彼女を殺害した。

してない!

――純白の雪の上に透き通る小春の肌と真っ赤な血の花弁。それがあなたの用意した小春への演出。

違う!

――小春自身に用意された悲劇と、そしてあなたの為に満たされた悲劇。あなたの舞台は完成し、あなたは眠りに落ちた。

私は…確かにあなたのいうその場面を幾度となく想像した。小春が私と絵里の間の、舞台の中央を血の花となって彩る姿。
でも私にはそんなことは出来ない。出来るはずがないの。

ましてや絵里…あなたの誕生日のその日に…

――あらら、気付いてたんだ、さゆ。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:40
ね、絵里。私は小春を殺してはいないわ。そうでしょう?それにまだ目覚めてもいない。私はまだ夢の中にいるのね?

――すごいね。もうそんなにはっきりと分かってるんだ。さすがさゆだね。そうだよ、まだここはさゆの夢の中。

確かに私の頭の中には、今絵里が言ったことがあったの。
絵里の誕生日を、小春の血の花を見ながら二人で祝う…。
でも、それは私の妄想。そうでしょう?絵里、どうして私に意地悪するの?

――あっは、妄想ね。ね、さゆそんなに言うならさ、起きてみなよ。小春の死体があるのか無いのか。私は知ってるよ。外は雪が積もってる。凄く綺麗だよ。

でも…

――起きるのが怖い?そうだろうね。自分が殺人犯である現実よりも夢の中にいたいよね?

絵里…絵里、変だよ?いつもの絵里じゃないみたい…そんな意地悪なこと、絵里は言わないはずだよ?
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:41
――ね、さゆ。私はさゆのこと大好きだよ?信じてなかったみたいだけどね。

だって私は…絵里が、私と同じ気持ちでいたなんて信じられなくて…

――私のほうがきっと好きだったんだよ。だからこんなことになったんだね。小春に浮気してたのはさゆの方でしょ?
――どうすればさゆに心から好いて貰えるか考えたよ。自分がヒロインになることにしか興味がなくて、私なんていくらでも代えの利く相手役くらいにしか思ってないさゆを。

そんなこと…

――あるの。だから、私が演出してあげたんだよ。さゆの好みに合うように。小春には悪いけどね。

絵里が…?そんな、まさか…。

――まさかでもなんでも。早く目を覚ましなよ。それともずっとここにいるの?
――ホラ。今日は楽しいクリスマスイブ。ホワイトクリスマスだよ。
――楽しいことが沢山あるよ。さゆと私が、やっと本当に心を通わせられる記念日。



私は、まだ信じられない。絵里が口から出任せを言って、私をからかって楽しんでいるのかも…
私が小春ちゃんを殺すなんて。私は小春ちゃんのことを可愛い後輩以上には思っていない。
目を覚ましたらきっと二人が笑って私の顔を見下ろしているんだって信じたい。
そう、そうに違いない。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:42

それじゃあ、目を覚ますよ
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:42
Present from lover
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:44
The enjoyment after it awakes
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:46
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:46
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 06:46

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