04 ぐるぐるまわれ観覧車

1 名前:04 ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/03(火) 01:20
04 ぐるぐるまわれ観覧車
2 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/03(火) 01:41
「……あのさぁ、色々と文句があるのは分かるんだけどさ。お願いだから何も言わないのやめて。何か言いたいことあったら表情じゃなくて言葉で言って」
 溜息を吐いて、美貴ちゃんが懇願するように言った。この人、普段強気で考えナシにもの言うけど、弱気なときはとことん弱気だ。詰めが甘いというか舐められやすいっていうか。
 それがちょっとみっともなかったもんだから、何か言ってやろうと息を吸い込んで、はて何を言ったものかと困ってしまう。言いたいことなんか特に何もない。ただただ不機嫌なだけで、自分でももてあましていたのだった。
「やっぱ今日連れてきた人、合わなかった? 好みじゃなかった?」
 合う合わない以前に顔もよく見てない。目線の位置違い過ぎて、並んで歩いてたら見上げるのもうっとおしい。顎の形だけしか覚えてなかった。ちょっと繊細で髭でもないと物足りないような女の子みたいな顎をしていた。
「ごめんねぇ、愛ちゃんの好みってイマイチわかんなかったからさ、アチラにお任せしちゃったんだけどさぁ。こうタカラヅカの男役みたいな王子様っぽいイケメン路線とか頼んで」
 アチラというのは、隣のゴンドラに乗っている美貴ちゃんの彼氏、らしき人のことだ。らしきっていうか彼氏なんだろうけど。多分。背が高くて痩せてて髪の毛がスッキリしていて女の子の扱いが巧そうなチャラッとしたコだった。売り出し中の新人俳優で、それなりに沢山の、聞いたこともないような映画に出ているコだった。
 恋人仕様の2人乗りゴンドラの観覧車に、Wデートのはずなのに、どういうワケか美貴ちゃんとあたしは二人っきりで乗っていた。ていうかあたしが乗って、当然相手のコ(顎の形しか覚えてない)が乗ってくるものと思っていたら、転がり込むようにして美貴ちゃんが乗ってきたんだった。
 日本最大最長距離の25分間を、なぜか二人っきりで過ごすことになってしまったあたしたちの沈黙を破ったのは、美貴ちゃんの早口な要望と言い訳だった。
3 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/03(火) 02:07
「それにさぁいい男がいたら紹介して、って前から愛ちゃんも言ってたじゃん?」
「言ったけど! 確かに言ったけど……」
 そんなの社交辞令じゃん。本気に取らないでよ。そりゃあ美貴ちゃんからあたしだけ遊園地誘われるのもちょっと変かなとは思ったけど、ちょっとだけで、あああたしらもそろそろ打ち解けてきたのかなっていうか仲良くなったっぽいとか思ってちょっと嬉しかったし。遊園地に行こうなんて、いい男紹介して、なんて言葉よりもっと頻繁に言ってたじゃないか。それこそ合言葉みたいに。
「ね。言ったよね。だからさ、そんな不機嫌な顔して黙り込まないでよ。相手の人に悪いじゃん?」
 美貴ちゃんは両手であたしのほっぺを挟み込むようにして撫でた。あたしはあまり他人から触られるのが好きじゃないので、両手を美貴ちゃんの手の内側からブロックするように入れて、両側に払った。
「でも! だいたい美貴ちゃんさぁ、今日連れてくるなんて全然言ってなかったよね? それってちょおヒドくない? 知ってたらさぁあたしだって…」
「言ったら愛ちゃん、来てくれなかったでしょ?」
「……や……それはわからん……けど」
「絶対来なかったね。愛ちゃん基本的に人見知りで面倒くさがりだから、知らない人と会うのは面倒だとか言って避けるよね」
 微妙に違うけど否定できない…。あたしは律儀に微妙に違う部分の訂正を試みる。
「知ってる人より知らない人のほうがマシだけど、そういうのも人見知りって言うの?」
「それは人見知りじゃなくて対人恐怖症かな…、まぁどっちでもいいけど」
 微妙な訂正をどうでもいいとばかりに軽く一蹴される。
「あたしのほうこそ疑問なんだけどさぁ、美貴ちゃんどうしてそう、他人に男紹介するのに必死なわけ? なんかノルマでもあんの?」
「……そ、れは、こちらにも、色々と事情が」
「どんな?」
「それは言えないけど、さ……」
4 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/03(火) 02:35
 気まずい沈黙がゴンドラのなかを漂った。
 そこに、タイミング良く、びょうっ、と大きな風の音がして、ゴンドラが大きく揺れた。
「わ」
「きゃっ」
 かすかに悲鳴をあげて窓を見る。眼下には冴え冴えとした街の灯。窓には白い六角形の結晶。
「雪」
「ホントだ。道理で寒いと思った」
 美貴ちゃんはポケットに手を突っ込んでごそごそと探るとニッと笑って何かを掴んで手を取り出した。
「手出して」
「?」
 言われるままに両手を前に突き出すと、ぽとりとオレンジ色の暖かい袋が落とされた。
「カイロー」
 美貴ちゃんはイタズラっ子のような表情でにやーっと笑った。
「うっわ。準備いいー」
「沢山あるから遠慮せずどうぞどうぞ。もっと欲しかったら言って」
 なぜか腰が低いセールスマンのようだ。あたしは慌てて首を横に振って貰ったカイロをシャカシャカと振った。
「や、1つで充分です。アリガトウゴザイマス」
「しっかし風強いねぇ今日。ゴンドラ止まるんじゃないの?」
 美貴ちゃんは満足げに頷いて背もたれにゆったり背中を預けて、窓の外を見た。六角形の結晶はさっきび5倍ぐらいに増えていて、美しい幾何学的模様を描いていた。
「笑えないッスその冗談…」
 そうあたしが言った途端、もう一度強い風が吹いて、ガタンという音とともにゴンドラが止まった。
5 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/04(水) 00:30
「げ」
「ちょっ、マジ?」
「止まった?」
「止まったね」
 二人して窓の外を見ると、風景が左右に揺れていて動いてるのか止まってるのかよくわからない。ゴンドラが揺れている。またびゅうびゅうと風がゴンドラに吹き付けて、大きく揺れた。
「ぃいやあーっ!!!」
 さっき平静にゴンドラが止まるんじゃないのなんて言い放った人とは同一人物とは思えない可愛いらしい裏声を上げて、美貴ちゃんはあたしの腕をぐいとつかんだ。あたしは、美貴ちゃんの座席に引きずられるようにしてぶつかって、そんでまたゴンドラが大きく揺れる。ちょっと痛いんですけれども…。重心が寄ってしまったせいか、ゴンドラの揺れはなかなか止まらずに、美貴ちゃんは俯いてぎゅうぎゅうとあたしの腕を握り締めた。抱き枕か何かと間違えてるよな。
「声すっげでっか」
「っさい……うわわわわ、やぁん、もぉっ!」
(うわあ痛い痛い痛いってば!)
 かわいらしい声とは裏腹に、美貴ちゃんは意外と力持ちだ。いや、あたしが非力なだけか。抗議の声を上げようとして、あたしの腕を持つ美貴ちゃんの指が震えているのに気付いて、やめる。もしここにガキさんや麻琴がいたら美貴ちゃんをうまく宥めたり気をそらしたりすることが出来るんだろうけれども、あたしときたらどうしたらいいのか分かんない。仕方ないから、何もしないことにした。
「そんな怖いことかなぁ」
「揺れんのはダメ。飛行機でも船でも車でもダメ」
「落ちるわけじゃないんだしさぁ…」
「わかんないよ。落ちるかもよ。だってこんな揺れてんだしさ。あーやだやだ考えちゃった。落ちたらどうしよう。落ちる前に分かんのかなコレ。あたし前にお兄ちゃんの車乗ったときさぁ、お兄ちゃん免許取り立てのときで、なんか助手席に彼女とか乗せててさ、いきがって道央道とかとばしちゃってさぁ」
「田圃にでも落ちた?」
「うん……四輪全部上向いた。あれからもう絶対シートベルト無しで車乗んのイヤ」
「落ちないって。これちゃんと止まってるじゃん。落ちようがないよ」
「けど……」
「あー、落ちるならアレ! あっちが先に落ちるから絶対」
 びしっと、窓ごしに下のゴンドラを指差したら、美貴ちゃん顔をひきつらせて黙り込んだ。あ、さては今の今まで彼氏の存在忘れてたな…。
6 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/04(水) 01:47
「そういやさぁ、美貴ちゃんたちってどこで知り合ったの? どういうつながり?」
 結局あたしらは狭いゴンドラの床にマフラーを敷いて、座席と座席の間に腰を下ろした。向かい合って座っていたって膝が触れちゃうぐらいの狭い隙間なんだけど、二人で座ったらそれだけでぎゅうぎゅうで、これが意外と暖かかった。それに外が見えないのが大きい。外が見えなくなった途端、美貴ちゃんが落ち着いた。あたしと違ってやることが増えすぎるとパニクるタイプには見えないのに不思議なもんだ。
「ん?」
「カレと」
「あー…、何だっけかなぁ……たしか友達の友達の…、なんだろう、えっと紹介…だったかも」
「友達ってハローのコ?」
「よく覚えてないけど絶対違う。なんで?」
「別に…」
 亜弥ちゃん繋がりなのかなって思っただけなんだけど。
「ってかあいつらイイ男がいたら紹介してくれると思う? 何回か合コンしてもらったことあるけど聞いたことない若手お笑い中心だよ? 勘弁してよ」
「ハァソウデスカ…」
 そもそもアイツラって誰ですか。お笑いっていうからにはあーちゃん&のんちゃんのWの二人ですか。そもそもあの二人にセッティングして貰うってどうなのよ…。いやそんなわけないか。後藤さんとか吉澤さんとかあのへんだろうなぁきっと。まさか亜弥ちゃんはないだろうな。いやありえないとは言い切れないか。ハローで一番TV番組に出てるし、お笑いと絡む機会も多いし。しかしそれにしてもお笑い…。しかも若手…。うーん…。紹介しそうな人が思いつかない…。
「うちらさぁ結構こう、色んな人と知り合う機会ってめちゃ多いわけじゃん?」
「えっ」
「歌番組とかバラエティとか大人数でゾロゾロと出る番組ばっかだしさ。マネさんも目が届かないってか、誰と喋ってたって目くじら立てられることってまずないじゃん。メルアド交換とか一瞬でできるし」
「……」
「……」
「……」
「えっ、ええ? あれ? 愛ちゃんしない? そういうこと? 今度一緒に食事いこーね、とか。や、別に男の子相手じゃなくて女の子同士だってあるじゃん、そういうのさあ?」
「や、ごめん。なんか…、単なる挨拶かと思って適当にあしらってマシタ…。や、だってほらああいうのって結構みんなウソツキじゃん。口約束だけってか」
「あー…、道理で変な噂とかあると思ったんだよなぁ」
「噂って?」
「愛ちゃんとつんくさんがデキてるとか結婚秒読みとか」
「なあっ?!」
「愛ちゃんが付き合い悪いからさあ」
「あたしのせいっすかー?!」
「そう言う噂を言ってる人もいるって話」
「誰が」
「誰だっけ。忘れちゃった」
「……」
7 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 02:24
 昔、エスパーになりたかった。テレパシスト。あたしにとって他人の心はいつだって唐突でわけがわからなかった。人の気持ちを思いやれってよく世間では言われているけれども、先生も親もよく口にするけれども、思いやるもなにもそんな漠然としたこと、どうやってすればいいんだろう? もっと分かりやすく眉毛がぴくついたら怒ってるとか、口をへの字に曲げたら爆発寸前とか、そういうことを教えてくれるんだったらともかく。で、子供のときから結構マジでテレパシストになりたかった。そして、そういう能力もないはずなのに他人の心を察することができる友人たちを心底うらやみ、彼女たちが実はエスパーなのではないかと疑い、自分もそうなれることを願った。もちろん、昔の話だ。今はもう半分ぐらい諦めてる(半分ぐらいはまだ、やっぱり諦めてはいない)
 なのに。
 気まずそうに視線を外して俯いた美貴ちゃんを見て、あたしはエスパーのように見抜いていた。ものすごくストレートに他人の心がわかってしまった。ここまで分かりやすいのなんて初めてで、まるで自分がものすごく人の気持ちに敏感な人間になってしまったみたいで、いま気が付いたことよりも、むしろそちらのほうに驚いた。
 そういう噂をしているのは誰でもない。美貴ちゃんだ。
「それはありえん絶対」
 動揺が声に出てしまうのは仕方ない。あたしは人間が出来ていない。
「そぅお?」
 あたしの言葉をまるで信じてないふうに美貴ちゃんは言った。
「だっておじさんじゃん?」
「おじさん範囲外?」
「範囲って……や、だって、ありえないっしょ?」
「わっかんないよ? つんくさんから何か言われなかった?」
「何かって」
「二人でご飯食べに行こうとか宝塚見に行こうとか」
「はぁ? や、言われたけど。食べに行ったけど。見に行ったけど」
「部屋をキープしてるからおいでとか。曲作ってあげるからとか」
 冗談めかしているけど、いやに絡む。そんなこと言われたことはないけど、そのまま素直に言うのが癪だったので、わざといやなふうに笑ってみせた。そして言った。
「何そのベタな台詞。美貴ちゃんも言われたとか?」
 言ってから顔が強張った。言葉ちょっと間違った。美貴ちゃんも、ってなんだ。まるであたしが言われてるみたいじゃないか。悪いことをしたわけじゃないのに意味もなく緊張した。
 美貴ちゃんはチラッとあたしを見て薄く笑った。
「あたしは言われたことないよ」
 あたし「は」? じゃあいったい、誰がそんな台詞を言われたとでも言うんだろう。ハロメンのなかには、中澤さんとか安倍さんとか飯田さんとかつまり卒メンとか、つんくさんが誰を口説くのか戦々恐々としている人もいるけど、理解できない感覚だ。もっと理解できないのは、まるでつんくさんを巡って痴話喧嘩しているようにも見えるこの状況だ。なんでこうなったんだっけと考えて、そもそも美貴ちゃんがふってきた話だったことを思い出す。無理やりゴンドラに乗り込んでくるし、もしかして二人っきりでこの話をしたかったとか? まさか。
8 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 20:37
 つんくさんが気に入ったメンバーに曲を作ってくれるって噂は、あたしがモーニング娘。に入る前からあった。友達が頼んでもいないのに親切にネットで見たとか言って色んな噂を教えてくれた。半分ぐらいは嘘で、残りの半分ぐらいは本当かどうか微妙な感じで、だけどオーディションのときに飯田さんが身体でプロデューサーを落とそうとしたことがあるのはどうやら事実のようだった。結局それが成功したのか失敗したのかは分からないが飯田さんはモーニング娘。になれたし、ソロで歌も歌っている。嘘みたいなホントの話。もっと無責任な噂によれば、後藤さんだって亜弥ちゃんだって安倍さんだって石川さんでさえ、身体を使ってつんくさんを落としたからこそセンターに立てたり、ソロになれたりしたんだそうだ。勿論そんなのはただの根も葉もない噂だってことは、娘。になれた今なら知っている。噂にそぐうなら、あたしや田中ちゃんもつんくさんとデキてなきゃおかしいだろう。現実はそんな単純に一人の個人の意思や我が侭が通るようには出来てはいない。溜息が出た。
「あたしもないけどね」
「あるんじゃん」
「しつっこい。ないもんはないもん」
「あるっつったじゃん? ご飯食べたり宝塚見に行ったり」
 そっちかよ。
「そんなん、みんな一緒やったもん。スタッフさんとかメイクさんとか」
「……は」
「あたし美貴ちゃんにも声掛けたよね? 覚えてない?」
「全然。ヅカに興味ないし」
 気が抜けたように言う美貴ちゃんにカチンとくる。ヅカにもあたしにも興味ないし。そう言ってるも同然だった。そんなことは知っているし。
 そして今日、どうして自分がこうもずっと不機嫌だっのか、その理由がようやく分かって、馬鹿馬鹿しくなった。
 なんだあたし。美貴ちゃんがあたしに興味がないから不機嫌だったのか。適当な男の子をあてがわれて、それも多分カレシの友達かなんかで、カレシに対する点数稼ぎか何かのためだけにあたしを紹介して。そんなふうに不二家のペコちゃん並みの扱いしかされないことも分からないでノコノコしっぽを振ってやってきた自分のおめでたさが恥ずかしくて、腹立たしかったんだ。まるで吉澤さんの横で、邪険にされているのに嬉しそうに期待に目をかがやかせている麻琴のように。
9 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 22:35
(…吉澤さんといるときの麻琴はみっともない)
 あたしも今日、そんなふうだったんだろうか? いや全然そんなふうじゃなかった。一人で不機嫌になって無口になって何を話しかけられても生返事でまったく麻琴っぽくはなかった。でも、それはそれで最悪だった。美貴ちゃんでなくったって、文句があるなら言葉で言え、ぐらいのことは言いたくなるほどの可愛くなさだった。これならまだ麻琴みたいだったほうが遥かにマシだったかもしれない。あるイミ究極の選択だけど。
「あたしさぁ、ダメなのね、なんか」
 しばらく沈黙したあとで、唐突に美貴ちゃんが言った。膝の上にだらって両手を乗せて、その上に突っ伏している。あたしを見ているわけでもないその言葉はどこか独白めいていた。
「美貴ちゃんもしかしてソロに戻りたいとか今更なこと思ってたりする?」
 先ほどのつんくネタへのしつこさから自然に想起されたことを、何も考えずそのまま口に乗せた。乗せてから、あれこれもしかして突っ込みすぎたこと言っちゃったかなと思った。いつもそうだ。気が付いたときには取り返しのつかないことを、あたしはいつも言ってしまう。
「そりゃ今更すぎ」
 美貴ちゃんはあははと乾いた声をあげた。一瞬ほっとして、でも、ほんとうにスルーされたんだろうかと考える。ああ、あたしは本当に他人の気持ちが分からない。
「あー、つんくさんのことはさぁ、ホラ、あたしそういうのが無かったからソロじゃなくなったのかなぁって最近ちょっと考えちゃうことがあってさ…。だってホラ、コムロテツヤとかあの人自分がプロデュースする人にすぐ手出すじゃん? あっちのほうが普通なのかなって思ったら、逆にみんなはどうなのかなってちょっと思っててさぁ」
「それはちょっと考えすぎでしょ?」
「かな」
「実際美貴ちゃん手出されてないんでしょ」
「んー」
 出されたのかよ。
「それはまぁともかくねぇ、何がダメってあたしってさすごい…」
「すごい…?」
10 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 22:51
「もんのすごい甘えっ子なのね」
「……」
 ものすごい秘密を打ち明けるかのように一息に美貴ちゃんは言った。
 ……そんなことものすごい勢いで知ってますけれども……。あたしだけじゃなくてみんな知ってることなんですが。まさかと思うけどバレてないと思っていたんでしょうかこの人。
 美貴ちゃんは突っ伏したまま足をじたばたさせた。
「ハァ…で?」
「で、って」
「美貴ちゃんが甘えっ子だから、何?」
「何って」
「あるんでしょ、続き。甘えっ子だから、どう続くの? 何に続くの?」
「愛ちゃん怖いって…」
 目的の見えない会話は苦手だ。どこに落ち着くのか分からない会話とか。なんでここでいきなり美貴ちゃんが実は甘えっ子だったなんて告白するのか脈絡が見えない。
 美貴ちゃんは顔を上げて溜息を吐いた。
「あたしさぁ、末っ子なのね。で、結構田舎の子でさぁ、兄貴とか姉貴とかの友達グループに混ぜてもらって一緒に遊ぶのとか当たり前で男女かかわらず大人数でけっこうワイワイやるのが当たり前だったのね。中坊のときとか」
「うん、そんで?」
「その一方であたしすごい出無精なのよ。なんかインドア派ってか、外出るのもめんどいってか」
「インドアなん?」
「インドアなの。んで、まぁ、カレシとか出来るとさぁ…、ねぇ?」
 ねぇ、と言われても、あたしに想像力を期待するのは間違ってます。あたしは適当に頷いて先を促した。
「なんかもう外に出ないのよね。ずーっと二人っきりで。こう……」
 大人な話を期待するのも間違ってます。あたしは無言でぶんぶん頷きながら先を促した。
「でもなんかこう閉塞感っていうのかな、息が詰まるっていうか。それでさぁ……」
 美貴ちゃんはチラッと視線を下に落とした。下にあるのは美貴ちゃんのカレシの乗ったゴンドラ。
「で、別れたいと?」
「どうしてそんなんのよ?!」
 違うのか…。
11 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 23:09
「で、男の子グループと女の子グループで集団を作ってグループ交際すれば、そんな閉塞感から解放されて円満解決って、そういうこと?」
「まぁ、そうです…」
 頭の悪いあたしが事態を飲み込むのにたっぷり10分はかかった。
「で、美貴ちゃんはボーイフレンド斡旋業に手を染めた、と」
「そんな人をポン引きか何かみたいに」
「一緒じゃん」
「一緒かな」
「一緒だよ」
「そうかー……一緒かー……」
 美貴ちゃんがまた、ぐったりしたように突っ伏したので、あたしはポンポンと肩を叩いた。そこに電子音が流れた。恋のダンスサイト。メールだ。あたしは携帯電話を出した。麻琴だった。

『外見た? すごい雪積もってる』

 顔を伸ばしてゴンドラから窓の外を見た。イルミネーションの輝きの間を猛吹雪が覆っていた。
「すっごい。美貴ちゃん。見て見て。雪やよ。積もってるよ」
「えー…」
 美貴ちゃんはしぶしぶ外を見て、ポカーンとした。雪の白い色に黄色や赤や青の光が反射して、物語のように幻想的だった。
「うっわ。すっげえ」
 美貴ちゃんは携帯を取り出すと夢中になってカメラに撮り始めた。そっちに使うのかよ。
 あたしは美貴ちゃんの肩を叩いて、下のゴンドラを指差した。
「電話してみたら?」
「あ…」
 思いつかなかった、というように美貴ちゃんは虚を突かれたような顔をして、それから思いつかなかった自分のことを恥じるようにてへへと笑った。
12 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 23:21
 それから30分ぐらいしてゆっくり動き出したゴンドラが地面に戻ってきた。地面はすっかり雪に覆われていて、歩くたびにサクサクと軽い音がしたので、嬉しくなってスキップしながら雪を踏んで歩いた。遊園地は雪のために閉演時間を繰り上げるという放送が流れていて、あたしたち4人はぶーぶー文句を言った。それから笑った。

「元気だね」
 顎の形が美しい彼が、スキップしたあたしを見て苦笑いしながら言った。離れて見ると、全体が見えた。肩までのウエーヴがかかった長髪にキレ長の目をした長い鼻の男の子だった。スーツの着こなしもキマッている。彼は美貴ちゃんのリクエスト通りの「王子様」そのものだったので、あたしは返事をする代わりにベンチの上の雪を掬って固めて投げつけた。
「雪ん子だもーん」
 スーツを台無しにされて怒るのかと思いきや、彼は地面から(!)雪を掬って投げ返した。雪玉は顔に命中して衿口から背中に落ちた。うわあ。
「お返し」
 と舌を出されたので、あたしはムキになってそれから雪玉を連続投下した。途中参戦した美貴ちゃんとそのカレシは、凍った地面に足を取られて自爆した。久しぶりによく走って、よく笑った。

 最後に顎の形が綺麗な彼にメルアドを教えてと言われたので丁重に断って、それからこう言った。
「また今度誘ってよ。連絡は美貴ちゃんに入れてくれる?」
 今年の冬は、雪が多そうだ。
13 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 23:22
14 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 23:22
15 名前:04ぐるぐるまわれ観覧車 投稿日:2006/01/07(土) 23:22

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