03 Not abnormal
- 1 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:37
- 03 Not abnormal
- 2 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:38
- 「よっちゃん、何見てんの?」
美貴が、コーヒーを片手に話しかけてきたのは、私が丁度窓の外に積もる雪を見ているときだった。
東京で雪が積もるなんて、年に一度あるかどうかってくらいだ。
対策なんて誰もしていない。
積もったら仕方ないって諦めが街から聞こえてくるほどに。
今日の収録も、この雪のせいで大幅に開始が遅れていた。
「ん、いや、元気だなと思って」
私が指差す先には、れいなと亀ちゃん、さゆといった美貴以外の六期の3人。
それに、小春だった。
「珍しいよね、東京でここまで雪が降るなんて」
言葉とは裏腹に、落ち着いた言い方だった。
仕方ない。美貴にしてみれば、雪をみることなんて、珍しいことでもなんでもない。
寧ろ、雪が降らない東京の方が異常と言ったくらいだろう。
美貴は、私の横に並んでコーヒーをすすった。
雪がまだ舞い落ちる中、4人はキャッキャといいながら走り回り、足を取られては転び、起こそうとして一緒に転んで。
雪まみれになりながら、犬のようにじゃれあっていた。
少し踏めば、地面が透けて見えそうなほどにしか積もっていない雪なのに。
雪というのは非日常な世界だから、あそこまで楽しめるんだと、ちょっとうらやましくも思えた。
- 3 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:39
- 「いいねぇ、若くて」
「よっちゃん、それおっさん臭いよ」
「そっかなー」
いつも通りの冷たい視線を浴びせられるのかと、私は横顔を覗き込んだけど、期待はずれの表情。
目を少し細め、どこか懐かしむような視線だった。
口元に浮かぶちょっとした笑みが、なぜか格好よくて。
私は見るのを止めた。
「でも、雪で楽しめるって良いよね」
「あ、ミキティは……」
「うん、見慣れてるからね」
「でもさ、六期にとっては、珍しいことだけどさ。小春まで喜んでるよ」
私が指差した先には、同じようにはしゃいでいる小春。
小春は新潟出身。雪なんて当たり前のこと。美貴の状況は全く一緒なはずだ。
同じ新潟出身の麻琴や北海道出身の紺野は雪が降っていようと外に出ず、部屋の中で、黙々とお弁当を口に運んでいた。
彼女たちには雪よりも食欲が勝るみたいだ。
そう言えば、ガキさんはどこにいるんだろうと、部屋の中を探してみると、片隅で高橋に絡まれていた。
高橋も福井だから、雪は降るんだろうな。うん、絡まれているガキさんはご愁傷様だけど。
- 4 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:40
- 「いいね、ああやって楽しめるのは。私には雪が当たり前すぎて楽しめない」
「いや、だから、小春は……」
言いかけてやめた。
私を見る美貴の目が違った。
先ほどともまた違う。真剣な……澄んだ綺麗な目。
「当たり前のことを喜べる小春ちゃんは、うらやましい」
「美貴……」
何を言えばいいかわからなかった。
どこか、嫌な予感がした。
これ、似ているんだ。
あの時と。
「珍しいこともね、ずっと続くとそれが当たり前になるんだよ。
そう、当たり前になっちゃったら、それはちっとも珍しくないんだよ」
美貴の言葉にごくりと私は唾を飲み込んだ。
言いたいことを一緒に飲み込んでしまうかのように。
そして、次の言葉を待つかのように。
「当たり前のことを楽しめる小春ちゃんは、すごい。私にはそれはもうできない」
そう、美貴のこの表情は似てるんだ……
梨華ちゃんが……私に……言ったときのそれに……
- 5 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:40
-
「私……モーニング娘。卒業しようと思うんだ」
視界が揺れた。一度。
自分が立っているように思えない。
宙に浮いているような。
あぁ、貧血を起こす前に似てる。
視界がどんどん狭まって、一点に収束する。
そこにあるのは、美貴の瞳。
私をしっかりと捕らえて離さない美貴の瞳。
「どうして?」
自分でも冷静なほどに声が出た。
どうやって出したかすらわからない。
その言葉と一緒に、自分の頭から冷静さが飛んでいくように。
ぐちゃぐちゃの頭からその言葉だけがはっきりと飛び出した。
「卒業するってことが、当たり前になってる。自分の中で、経験しすぎてるんだ。
珍しいはずなのに、当たり前になっちゃってるんだ」
美貴の言葉を頭にとどめておくのが精一杯。
言葉を理解する前に、次の言葉が流れ込んで。
流れ出るのを必死に抑えるだけで、すぐに処理することはできなかった。
- 6 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:41
-
「モーニング娘。は、変化が必要だって言うけど。変化してばっかりじゃ、結局変化が無いのと同じだよね」
誰に言うともなく美貴は呟き、コーヒーを一気に飲み干した。
「まだ、誰にも言わないでね」
「うん」
ようやく出せた二つの文字。
自分が出すべき言葉はきっとそれじゃないのに。
だけど、何も考えられなかった。
ただ、窓越しに4人がじゃれあう声が聞こえていて。
雪は、ずっと空から降り続いていたんだ。
- 7 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:41
- おしまい
- 8 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:43
- 雪
- 9 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:43
- 景
- 10 名前:03 Not abnormal 投稿日:2006/01/03(火) 00:43
- 色
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