8 ま〜だだよ

1 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:05
8 ま〜だだよ
2 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:06
晴れたお昼前のこと。
階段とスロープの仕切り塀に腰をかけて、希美が待ち人を探していた。
待ち合わせの時間まではまだしばらくあったが
気合を入れていたら早く到着してしまったのだった。
駅の改札は結構人が多い。休日のことなのでカラフルな服装が入り混じる中
秋を先取りした茶色のカットソーと同系色のロングスカート。
そんな格好の希美は
ちょっと浮いてるのでは、という不安と
みんなより先の服を選んだ、という軽い優越感の中にいた。

再びきょろきょろと待ち人を探す。
ロングスカートと下ろした髪のおかげか
自然と振る舞いが淑やかになった。
そうして、自分の大人しく大人っぽい仕草を自覚して
希美の胸はちょこっとだけ高鳴るのだった。
3 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:06
今日はハンバーガーもクレープもアイスも食べないでおこうと思う。
ランチは評判のパスタに誘って、おやつタイムにもカフェで紅茶に。

久しぶりのデートだ。
このところ、2人で会う機会がめっきり少なくなっている。
大勢でいるときに見かけることはあって
希美としては意識してしまうのだが
向こうがどう思っているかを直接聞く機会を逃していた。

今回ひょんなことで2人して会うことになり
これは自分の変身ぶりを示す絶好のチャンスだと思った希美は
こうしてシックな格好に身をつつみ
お気に入りのはずのリボンもはずして待ち合わせをしている。

希美の大人になりたいという欲求には
少なからず彼女の影響があったのだ。
4 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:07
希美は携帯を取り出して時間を見た。
すると待ち合わせの時間になっていた。

「愛ちゃん遅いなぁ……」

彼女は遊びの取り決めに関して抜けたところもあるから
ちょっとは遅れてくることもあるだろうと思った。
その辺を探してみようと思い、希美は塀からそっと飛び降りた。
トンと小さな音で着地できたことに希美は満足した。

軽く歩き回ってみるが愛は見つからない。
ここには来ていないのだ。

1……2……3……4……

希美は意味もなく数えはじめていた。
20まで数えて来なかったら電話をしてみよう。

5……6……7……8……
5 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:07
希美は数えながらも周囲にきょろきょろと目を走らせていた。
人は楽しそうに明るい駅前を思い思いに歩いていく。
希美はその中に止まったまま、数が進んでいくのを苦く感じてしまう。

17……18……19……

「……にじゅう」

結局20までいっても愛は到着しなかった。
イライラする。

希美は電話をしようと携帯を開いた。
ディスプレイに表示された時間をみると
決めていた時間より10分オーバーだ。

ふと、情けない感じがした。
愛は何をしているのだろうと思って
きっと彼女のことだからどうでもいいようないい訳をしてくるに違いない。
それならそれを子どもみたく責めることなどするまい、と思う。
10分程度で必死になっている自分を振り返ってみて、
そうしてそんな自分と愛とを比べてみて、
愛の方が落ち着いていると、自分はまだまだ子どもだと思うと、
電話をしようという意志が急に萎えていった。
6 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:07
自分はいつから愛のことでこんなに一生懸命なのだろうか。
希美はなんとなく考えてみた。
周囲から子ども子ども言われ、
そのコンプレックスを逆手に取る形で自分を把握していた希美にとって
頑張り屋で、それでいて振る舞いのカッコいい愛の存在は大きかった。
自分にないものを愛は持っている。
そう感じると、しかし希美は中々声をかけることができなかった。
元来の人見知りに、憧れのドキドキが重なって
どうしても話しかけられなかったのだ。

自分と愛とは住む世界が違うとさえ感じた。

しかし、彼女が同期の友達と仲良く話しているのを見ているうちに
愛のしゃべり方だとか発想だとか、どうにも
変った人、という印象が強くなっていった。
ひょっとしたら自分でも仲良くなれるかもしれない。
そう思うようになって実際話してみた。

愛との時間は楽しかった。
一緒に笑った。一緒に食べ過ぎた。一緒に落ち込んだ。

今希美は、もっと愛と一緒になりたいと望んでいる。
7 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:07
日差しはいよいよ強くなってきた。もうお昼になろうという時間だった。
希美は電話とずっとにらめっこしながら
ボタンを押してしまいたい気持ちをぐっと飲み込んで待った。

こうして大好きな人と待ち合わせをしている時間だって貴重なものだ。
来るか来ないかでやきもきしながら
自分は相手のことが本当に好きなのだと確認できる。
孤独に身を浸しながら思いを馳せる絶好の機会だ。
希美はどうにかポジティブに待ち続けてみる。

「よーし、それじゃもう一回」

希美は再び塀に飛び乗ると、数えはじめた。

1……2……3……4……
8 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
数は虚しく進んでいく。
せっかく頑張って服も髪も決めてきたのに、
こうして延々待ち続けている。
お腹もへってきて、見捨てられたような不安もあって
やり場のない思いが溜まってきた。

11……12……13……14……

一体なんなんだ!
愛のためにどうして自分がこんな目に遭わなければならないのだ!

希美の中に、愛なんてどうでもいいという気持ちが大きくなっていく。

17……18……19……

「にじゅう!!!」

怒りの混じった「20」は微かに震えた声だった。
9 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
「なんで来ないんだよ!」

希美は塀からドン!と飛び降りた。
なぜこうなるのだろう。
自分にとっては一生懸命のデートでも
愛にとっては、いつもと変わらぬ遊びのつもりなのだろうか。
そう思うと、バカバカしく思えてきた。

「確かにこの時間に東口って……」

約束の言葉を思い出しながら

「?」

希美はあれ?と思った。

待ち合わせは東口。

「私がいるのは?」

<西口>。案内にそうあった。

「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

場所を間違えていた。希美は青ざめた顔で時間を見る。
20分オーバーだ。希美は大股で東口へと走り出した。
10 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
走りながら泣きたい気持ちになった。
自分はこれだけ待たされて随分と頭にきたのだから
愛だって向こうで怒っているに違いない。
ひょっとしたらもう帰ってたりして。

「愛ちゃん……待って!!」

風に向かってそう叫んでさらに大きく走っていく。
髪はバサバサと乱れていた。
シックなはずのシャツはいつの間にか汗が滲んでいる。
ロングスカートだってこんな走り方じゃ意味がない。

せっかくのデートなのに……

本気で泣けてきた。

しかしスカートがどうとか言っていられない。
一刻も早く愛のもとにたどりつかなくては
愛のために決めてきたファッションなど
なんの意味もない。
11 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:08
息を切らしながら、ああ結局これが私なんだよなと思う。
どんなに気取ってみたって最後には
雑で幼稚な自分が出てきてしまうのだ。
これでは愛に追いつくはずがない。
大人っぽくカッコいい愛みたくなりたい、など笑わせる。
自分が愛よりも大人だったことなんて、一度だってないではないか。
待ち合わせの場所を間違えて20分も……。
愛が呆れて帰ってしまったとしてもそれは自然なことだ。
そうして見捨てられるのが幼い自分にふさわしいのかもしれない。

そんな諦めの気持ちの中
―いや実際は、今日のデートを諦められるわけなんてない―
足だけは懸命に本当の待ち合わせ場所に急いでいた。
12 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:09
東口についてみる。
忙しく目を走らせて愛の姿を探す。
すると
改札の前の目立つ場所で愛が
きょろきょろとあたりを心配そうに見回していた。

「……いた」

希美はぽそっと力の抜けた声でつぶやいた。
実際、全身が安堵に脱力しきっていた。

希美は
愛も自分と同じように
普段以上に手の入ったおめかしをしてきているのがわかって
その感激に、今まで走っていた疲れなどふっとんでしまった。
13 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:09
愛だって、今日の待ち合わせを大切に思っていてくれたのだ。
決して軽い気持ちなんかではなかったのだ。
希美の中にはさっきまでイライラしていたことがウソみたいに
すがすがしい気持ちと切ない気持ちが一緒になって広がっていた。

まだこちらに気づいていない愛に向かって声をかけようと
希美は大きく息を吸い込んだ。

 愛ちゃんありがとーーー

しかし、その思いは声にならず
ただ「わー」という叫び声となって愛の耳元に届いたのだった。


14 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:09

―fin―
15 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:09
やっと来た♪
16 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:10
到着した?
17 名前:8 ま〜だだよ 投稿日:2005/08/16(火) 22:10
はいっ!!

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