4 重人格
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:02
- 4 重人格
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:03
- 青い空、白い雲、輝く太陽、熱い砂浜。小川麻琴は歯を食いしばり体をぐっと縮めきった後「海だぁ!」と叫び、弾け飛んだ。
さらば青春の光
夏の午後、新垣里沙は学校で補習を受けた帰り道。家に帰ったらアイス食べようとか考えてたら携帯が鳴って、液晶に映るは見慣れた名前。
「もしもし麻琴っちゃん?」
「あのねぇ、今から海行くから」
「えぇーいいな。私も行きたかったな」
「ガキさんも行くんだよ」
「へっ?」と言ったのとほぼ同時だった。青いスポーツカーが真横に止まったかと思うと、運転席から高橋愛が顔を出す。
「ガキさんおっす。あっし免許取っちゃった。大人やろ?」
何がなんだかさっぱりわからないまま。紺野あさ美に手を引かれ、後部座席に座らされ、セーラー服のまま家に寄らずに。気がつけば、眼前にエメラルドグリーンの海が広がる真っ白な、この4人以外誰も居ないビーチに立っていた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:03
- 「海だぁ!」
麻琴はさっそく着ていたアロハシャツを脱ぎ捨てながら海へ向かって、裸足で、なんか変な雄叫びをあげながら走っていく。
「男前だね麻琴っちゃん」
あさ美が驚き顔で言った。風にはためく白いスカートを抑えなきゃいけない両手は頭の上の麦わら帽子をつかんでいる。
「当たり前やよあさ美ちゃん」
もたもたと手際悪くレジャーマットを広げながら愛は笑った。
やがて「さぁ、準備できた」と愛は立ち上がり、思い切り良くジーンズを脱ぎ始める。
「ちょっ! えぇ? 愛ちゃんってば!」と里沙。愛は気にも止めず続いてノースリーブも脱ぎだすと、面積の小さな黒いビキニ姿になった。
「どうこれ? 買ったばかりの最新なんやけど」
里沙とあさ美は顔を見合わせる。
「どうって言われても」
「ねぇ」
「愛ちゃんっていっつも水着みたいな衣装着せられてるし」
ふくれっつらで麻琴を追いかけて走ってく愛。里沙はレジャーマットの上に腰掛け、膝を抱えながら「あさ美ちゃんは泳がないの?」と訊いた。
「あ、うん」
あさ美は座らずに立ったまま。
「どうしようかな」
「あたしなら良いよ。せっかくだもん、行っといでよ」
「でもぉ」ときょろきょろ回りを見るだけで、そこから動かないあさ美。ぴんと来た。
「もしかして着て来てないの?」
こくりとあさ美。でも何で着て来なかったんだろと里沙。
「今日水着買ったのね、私」
「うん」
「で、帰り道に麻琴ちゃんに電話でそれを言ったら」
「もしかしてそのまま連れてこられたとか?」
こくり。
「それから30分もしないうちにふたりが迎えに来た」
行動力は立派だけど、無計画にも程がある!
「じゃあほら、私がバスタオルカーテンしてあげるから」
波の音と、3人の声だけが響いていた。セーラー服姿にあさ美の麦わら帽子をかぶった里沙は、眩しそうに太陽に手をかざした。水色のタンクトップ+ブルーのスカートで麻琴は沖へ泳いでく。あの水着はおなかぽっこりが目立たないから正解だね。白のワンピースのあさ美はひざまで入ってきゃあきゃあ騒ぐ。白って濡れたら透けちゃんだよなぁ。まぁうちらだけだから良いんだけどね。 っつか値段のタグついたままだし。黒のビキニの愛は砂浜を掘った穴にせっせと水を流してる。ほんっと中身はいつまで経っても子供なんだから。ふふっ。
休みの日にまで見慣れた顔。でもそれも悪くないね、と里沙は微笑みを浮かべる。去年の夏はどうしてたっけ。シャワーがぶっ壊れてクーラーの効いた部屋でずっとごろごろしてたんだっけ。バイクの免許が欲しいなと思ってそしたらバイクも欲しいなとか考えてうだうだしてたんだっけ。まだ免許取れない歳だったのにね。あははは。
「ガキさん何にやにやしてんだよぉ」
「おわぁ!」
急に声をかけられて驚く。振り向くと海水をしたたらせて麻琴が立っていた。
「バカンスに来たんだからバカみたいに騒がないと」
その言葉に里沙はげんなり顔をする。そう言われても水着の上にアロハシャツだけ着て、靴も履かずに海来るバカにはなれません。
「水着があれば泳ぐんだけどね」
「いいじゃん、下着で。うちらしか居ないんだし」
「じゃあ麻琴っちゃんの水着貸してよ。私の下着貸すから」
「嫌だよ、下着でなんて恥ずかしい」
「おまえぇ!」
麻琴が笑いながら海へと戻って行く。愛とあさ美が水をかけあってじゃれている。夏。海。熱。そして里沙は―――――とりゃあ!
ドボン!
「やべー。この子セーラー服で海飛び込んで来たよ」
「さすが里沙ちゃん。苗字の半分が『ガキ』なだけあるね」
「がぁき。ガキや、ガキがおる」
「うっさい! どうせガキなら迷惑なガキで良いって言うだろ」
「誰が言うんだよ」
里沙が水を蹴り飛ばす。やられた愛がやり返す。麻琴はあさ美に水をかけて、愛は麻琴を転ばせて、あさ美が里沙を道連れに海の中に潜っていく。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:04
- 全身びしょ濡れで、肩で息して、それでも笑いが止まらない4人。斜め上にあった太陽もいつの間にか真横に落ちて来てた。
「じゃあ最後は夕陽をバックに記念撮影といきましょ」
岩場の上にカメラを置いて、ぶきっちょそうに麻琴がいじくる。里沙は思う。計画立てて海に来ててもさ、その通りになんて進まないんだろうな。バカばっかりのバカンスだから。
「はよしねまぁ」
「うっさいな。もうちょっと待てって」
「おのぼりさんっぽくサングラスとか頭に乗っけてみる?」
「水着の肩紐とかほどいてみたりして」
「値段のタグ写るようにしなって」
「おもいっきり不細工なバカづらしちゃおうよ」
「やべーこの写真誰にも見せれねー」
「ほら田舎者らしく両手でピースサインとか作って」
「はい、チ――――カシャッ!―――ズって早ぇよ!」
おわり
「制服からすっごく潮の香りするんですけど」
「アロハシャツ以外、替えの服も下着も持って来なかった」
「うわ。レンタカー砂まみれやよ。追加請求されるかな?」
「麦わら帽子預けてたらすごく日焼けしちゃったよ」
で、後悔と反省がお土産。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:04
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- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:04
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- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 12:04
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- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 07:22
- 浜辺で踊り続ける愛ちゃんを見ていた。月の光の浴びる彼女の影を、ずっと、ずっと見ていた。
さらば青春の光2
しんと静まった夜、急に聞こえたクラクション。ドアの向こうのそれは止まることなく鳴り続けてて、私は「誰だよ」とか呟きながらドアを小さく開けた。どこのおバカさんか見てやろうと思った私の視線の先、見慣れた笑顔がひとつだけ。高橋愛ちゃんが立っていた。なぜか黒のビキニで。
「ガキさんおっす。海行こうよ。水着で」
「これから!?っつかここから!?」
時計を振り返る。もう夜10時だっていうのに。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 07:23
- ふたりだけの海を目指して、愛ちゃんの青いスポーツカーががらがらの道路をびゅんびゅん飛ばす。街灯も看板もあっという間に流れて消えて、動かないのは真上の月と星だけ。ためらう心を乱して海に踏み出したけど、こんな遅くから行くってことが不思議過ぎて、もしかして夢なんじゃないか、なんて思ってしまう。ほら、あの月はセラミック製で、あの星達はプラスティック製なの。
「がぁき」
それを愛ちゃんに話したら、愛ちゃんはくすくすっと笑ったあとそう囁いた。私は口を尖らせる。
「水着姿で海に向かうあっし達はリアリティで溢れとるがし」
私達は水着だった。愛ちゃんが黒のビキニで、私はピンクのタンキニ。水着だけだった。こないだの麻琴っちゃんのように水着以外何も持ってない。あ、いや。あのときの麻琴っちゃんはシャツぐらいは着てたっけね。後悔、きっとしちゃうかもしれない。でもなんか、こんなばかげたことにつきあってあげたくなってた。
やっと着いた海は思ってたよりも風が冷たくて、水も足首までつかるのがせいいっぱいの寒さ。
「つめてぇ」
それでも私は足の下の、砂が流される間隔を数えてみたりする。
「ほら見てやぁ」
愛ちゃんが指差すのは夜の空と夜の海との交点、だと思う。けれどそこには何もなかった。ただ黒があった。
「なんかさ、怖いね」
こくん、と頷く。果てしない闇の向こうから波だけが打ち寄せる。
「このまま泳ぎに行ったら帰って来れなさそう」
「そうやなぁ」
ふと。愛ちゃんが前に一歩、進んだ。もう一歩。もう一歩。私もあわてて後に続いて、愛ちゃんの腕を取りひきとめる。愛ちゃんが私を見つめた。私も愛ちゃんをじっと見てた。波だけが動く中、寒さも忘れて腰まで海につかってた。先に動き出したのは、私。この沈黙を破るために「男と女なら、ここでキスするのかもね」なんて照れながら言う。
「恋にペナルティはないんやよ。哲学者でも、科学者でも」
愛ちゃんはそう言うと一瞬で、一瞬だけ私の唇に唇を寄せた。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 07:23
- 時計がないから時間がさっぱり解らない。でももし持ってたとしてもきっと砂浜に埋めてしまってただろう。それくらい今のこの時間は大切だった気がした。私達は距離をぐんと縮めて、ふたりだけの何かを作り上げられたに違いない。だから待ってよう。彼女から口を開くのをさ。月の光に浮かぶ踊る彼女の影を見つめながら、そんなこと考えてた。
おわり
「なぁガキさん、明日の仕事何やったっけ?」
「朝9時から雑誌の取材と撮影。もうこのまま行くしかないね」
「じゃあ朝まで踊っちゃうか!」
振り上げた指に星が止まる。その指に唇を寄せる仕種。私はため息をついた。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 07:23
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- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 07:23
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- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 07:23
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- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:40
- 「このまま遠くへ行こうか?」
習慣のようになってしまった真夜中の海水浴からの帰り道、愛ちゃんが運転しながら呟いた。私は「え、何それ?」なんて聞き返す。愛ちゃんは笑ってた。
さらば青春の光3
濡れた髪をなびかせながら、私達を乗せた青いスポーツカーが何もない道を走っていた。私達は黙ったままで、音と言えばエンジンの動く音がシートを通じて伝わってくるだけ。
……あれ?
たしか来た時は何もないなりに何かはあった気がする。
「ねぇこんなところ通ったっけ?」
愛ちゃんは前を見たまま「回り道しとる」と言った。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:42
-
おどけて言ってたけど私は、あれこそが愛ちゃんの本心だと思っていた。目の前に嵐が立ちこめる今の場所から逃げ出してしまいたいんじゃないだろうか?
私はモーニング娘。が大好きで、これからもずっとモーニング娘。として、夢を与える人として生きていけたらいいなと思ってるけど、愛ちゃんはそうではなかったのだろうか?
「愛ちゃん、さっきの」
「さっきの?」
「遠くへ行こうか、って言ってたじゃん」
「あぁ。気にしてたんか。ごめんな、何でもないんやよ」
憧れだった、理想の先にあった、モーニング娘。に加入すれば希望だけがひしめきあってる完璧な世界があるって思ってた。でも違った。そんなのは妄想でつらいこともたくさんあった。
どっちかって言うとひしめきあってるのはS・O・Sが多かった。良いことも悪いことあって、それがわかっててなお、遠くに行くことを愛ちゃんが選ぶなら、私は。私は―――。
「行くならさ、つきあうから」
真実へ続く道なんて解らない。衝動的な行動はどっちかって言うと後悔を多く生むんだろう。道を反れることはふがいないなんてことじゃない。そっちのほうが難しいこともある。
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:42
- 愛ちゃんの横顔と、髪に飾られた赤い華。まっすぐの道をそれて回り道することで、こんなきれいさに出会えることもある。愛すべきは未来より「今」と、ドライヴしてるこの瞬間。乗せてもらうのも悪くないけど、いつかは私がバイク、愛ちゃんが車で出かけてみたいよね。
「がぁき。どこにもいかねぇよ」
愛ちゃんがクラッチをがちゃりと変える。私は窓の外を見る。横からはなをすするような音が聞こえた。スポーツカーは青い炎になって、見知らぬ風景の広がる見知らぬ道を走り続けてる。見知らぬ次の場所へ向かって。
おわり
「あれ。もしかして、道に迷ったかも知らん」
「ほらもー! 知らない道で帰ろうとすっから」
「うっさいやよ。ほれ、地図みてナビゲートするがし」
「次はスポーツカーよりもカーナビのついた国産車借りてよね!」
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:42
-
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:43
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- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:43
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- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:55
- 地平線を目指すように青いスポーツカーが走り続ける。
「なぁどこ行こうか」
ハンドルを切りながら高橋愛が訊く。
さらば青春の光4
「見たことのないもの」
紺野あさ美が顎に指を添えて呟く。
「見てみたいなぁ」
「あぁ。良いね」
小川麻琴が腕を組んで頷く。
「例えば」
助手席の新垣里沙が振り返り考える。
「くじらのダンス」
「北国のオーロラ」
「ありんこの涙」
「どこ行ったら見れんの、それ」
高橋愛がくすくすと笑う。
おわり
「でもこうして走ってたらさ」
新垣里沙も笑う。小川麻琴も、紺野あさ美も笑い出す。
「いつかきっと見れるよね」
いつか、きっと。
この4人で見れるよね。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:56
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- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:56
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- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 08:56
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- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 09:27
- BGM
#1 BANG! BANG! VACANCES - smap
#2 BE TOGETHER - Ami Suzuki
#3 SAMURAI DRIVE - hitomi
#4 Suzuyo Group CM SONG - Suzuyo Group
#1-4 Aoi Sports Car no Otoko - aoiro 7
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 09:27
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- 26 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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