山頂へ
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:51
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山頂へ
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:52
- 山頂へ向かう坂道はなだらかに続いている。
女の子でも簡単に登れる程度の山。ハイキングに最適。
そう聞いていたが山歩きに慣れない私には充分厳しい道のりだった。
「ねえ、ちょっと休もうよ」
私はよっすぃーの袖を強く引いた。よっすぃーは振り返りもせずに言った。
「だーめ。もうちょっとだから頑張って」
もはや半ば引きづられて居るような状態だ。情けない。
自分にこんなに体力が無いとは思わなかった。
ジーパンに長袖シャツ、それに運動靴。
いつも通りのよっすぃーの服装だ。
普段それを見て「もっとかわいい服着たらいいのに」なんて言っていたけど
どうもそれが山登りには最適な服装のようだ。
ピンクのフリフリのワンピースなんか着てきた私はアホなのだ。
後悔先に立たず。山頂に到着する頃には私はへとへとになっていた。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:52
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「見て梨華ちゃん綺麗な景色。最高じゃん」
穏やかな日差しに照らされて街は輝いていた。
ううん。それよりもよっすぃーの横顔が眩しかった。
それを見ただけでこの山に登った甲斐があった気がする。
私は草原にへたり込みながらよっすぃーを見つめていた。
「やっほおおおー!!」
突然よっしぃーが叫んだ。
「やっほおおおー」と声が返ってきた。やまびこだ。
「ふう。最高。梨華ちゃんもやってみたら。楽しいよ」
私も真似をして叫んでみた。
「やっほおおおー!・・・・・・あれ?なんで?」
返事が無い。
もしかすると山の神様も私の声は真似しにくいのかも知れない。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:53
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「声が小さいんだよ。声量無さ過ぎ。
やまびこに無視されるなんて梨華ちゃんおもしろ過ぎ」
よっすぃーが横で大受けしている。
なんか悔しいので私は1番大声で言いたい言葉を叫んだ。
「よっすぃー大好き!よっすぃー大好き!」
声の続く限り何度も何度も叫んだ。
「ちょっとやめてよ。すんげー恥かしい」
「やまびこが返ってくるまでするもん。よっすぃー大好き!」
耳をすませる。
返事しないと一生叫ばれるとでも思ったのか仕方なくよっすぃーは口を開いた。
「梨華ちゃん大好き・・・・・」
「え?きこえなーい。なんて?ほらもう一度」
よっすぃーの口元に耳を寄せる。
「好きつってんだろ。あーもう。梨華ちゃんのばーか」
よっすぃーの顔が真っ赤になっていた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:53
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この山に登ったのには理由がある。
ようでそれほど理由がある訳でもない。
最近、私が色々と悩んでいるのを見てよっすぃーが心配して
気晴らしに遊びに行こう。と誘ってくれたからなんとなくここを選んだのだ。
よっすいーと二人きりになりたかった。
二人以外に誰も居ない世界に二人の力で行きたかった。
山頂には確かに私達以外ほとんど誰も居ない。
平日から観光名所、由緒も何も無い山に登る暇人は居ないのだ。
唯一の名物、山頂の5メートルの大岩はただの岩だった。
感動も何も無い。なんでこんな所にこんなものがと思うだけだ。
大岩の上に誰かが登り座っていた。同じ年くらいの女の子だった。
もの凄く暇そうだった。
「梨華ちゃんどうする?登る?」
「せっかく来たんだから石に登ろうよ」
私が登ろうと言うとよっすぃーは明らかに嫌な顔をした。
私に断って欲しかったのだ。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:54
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「で、でも梨華ちゃんスカートだし」
「よっすぃーになら見られてもいいよ」
よっすぃーが高所嫌いなのは知っている。
遊園地でも絶叫マシーンには乗ろうとしない。
「ほらほら。何?もしかして恐い?」
「違うって梨華ちゃん。なんて言うか危ないしさあ」
「大丈夫だよ。あの子も上に登ってるし」
困っているよっすぃーがかわいいから、ついつい意地悪してしまう。
よっすぃーの困り顔を見ながらお腹が痛くなるほど笑ってしまった。
結局、大岩に登るのは止めた。
私も別に本気で登りたかった訳じゃないし。
よっすぃーの事だから石の上の女の子に声をかけて
仲良くなっちゃうかも知れない。そんな事は絶対許せない。
だってよっすいーは私の物なんだから。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:54
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しばらく散歩していたらお腹が空いてきたので木陰でお弁当を広げた。
標高が高いから下界よりも涼しい。寒いくらいだった。
「ほらあんな所から落ちたら怪我しちゃうかも知れないしさあ。
下手して死んだりしたら嫌じゃん」
よっすぃーはまだ一生懸命に言っていた。
確かに転落死なんて嫌だ。痛そうだし。
「ねえ、よっすぃーは死ぬ時はどう死にたい?」
よっすぃーはしばらく考えて言った。
「綺麗なままで死にたいかなあ。知ってる首吊り自殺なんて悲惨なんだって」
「何が悲惨なの?」
「死んだら体中の力が抜けて中から全部出ちゃうらしいよ」
「何が・・・・・よっすぃーのバカ」
排泄物に塗れて死ぬのを想像した。最低の死に方だった。
「凍死が1番とか言うけどどうかなあ?梨華ちゃんはどう死にたいの?」
「私はね・・・・・よっすぃーと死にたい」
「・・・・・バーカ。変な冗談はやめて」
本気だったのに。
私はよっすぃーとなら死んでもいい。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:54
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下山する時は少し慣れたせいか、下りだからか、登りよりも楽だった。
「お腹空いたね」
「じゃあ山のふもとにあった居酒屋さんでも行こうか」
「パスタがあったらシェフのきこり風とかかなあ?」
「無いんじゃない?そんなオシャレそうなメニューは」
なんて食べ物の話をしながら歩いた。
どうして食べ物の話は終わりがないんだろう?
「いやぁああああ!鳥だあ」
私の肩をかすめてもの凄いスピードで鳥が飛んでいった。
「大丈夫?」
「うん。あ・・・・・フンを落とされてる・・・・・・」
私の肩に黒と白の絵の具と混ぜたような物体がこびりついていた。
「梨華ちゃんえんがちょだー」
私はますます鳥が嫌いになった。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:55
- 途中でショートカットの女の子とすれ違った。
これから山に登るなんてどういうつもりだろう?もう日が暮れるのに。
山小屋風の居酒屋には仕事帰りの肉体労働者っぽい人がいっぱいだった。
ガヤガヤと大声で楽しそうに騒いでいた。
狭い店内を縫うようにして進んで行く。
女の子が入店するのは珍しいらしくてジロジロと見られた。
少し前に二十歳になったよっすぃーはビールを頼んだ。
私もビールを注文した。
店員は男女ふたり。どうやら夫婦で経営しているようだ。
「お客さん。もしかして亜弥の友達?」
亜弥?名前を聞いてキョトンとしている私達を見てそうではないと
ビールと枝豆を運んできたおじさんは理解したようだ。
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:55
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「勘違いか。すまんね。最近、娘に友達が出来たみたいでね。
でもまあ、もうそんなに遊べないだろうけど」
「どうしてなんですか?」
よっすぃーがおじさんに訊ねた。
「ああ、結婚するんだよ。君たちと同じ年くらいかな?
娘はあまり乗り気じゃないみたいだけど悪い話じゃないしね」
おじさんは煙草を取り出して火をつけた。
まるで自分に言い聞かせてるみたいに聞こえた。
男親は娘を嫁にやるのは微妙な心境のようだ。
私は何も言葉が浮かばないで「おめでとうございます」と
言ってビールを一気に飲んだ。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:55
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勘定を済ませて外に出るともう真っ暗だった。
私はふらふらとよっすぃーに寄りかかった。
「飲みすぎだよ」
よっすぃーの言う通りだ。
亜弥って子の気持ちを考えるとなんだか飲まずにはいられなかった。
「じゃあもう帰ろうか。早くしないとバス無くなっちゃうし」
私の手を引っ張ろうとするよっすぃーの手を逆に引いた。
「ねえ、もう一度山に登ろうよ」
よっすぃーは何か言いたそうだったけど
私が本気で言っていると気付いてしばらく考えて言った。
「わかった。登ろう」
月明かりだけに照らされた真っ暗な山道は恐かった。
茂みで物音がする度によっすぃーの腕にしがみついた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:56
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山頂に着くと月が大きく見えた。
大岩の上にはふたつの影があった。きっと昼間から居た子と亜弥って子だ。
私達は邪魔しないように、邪魔されないようにお弁当を食べた森の中へ向かった。
レジャーシートを広げて座り、亜弥の結婚祝いにと
居酒屋で貰った日本酒を飲んだ。美味しくはなかった。
「亜弥って子かわいそうだね。・・・・好きでもない人と結婚なんて」
よっすぃーは少し怒ってるみたいだった。
「そうだね。でもその人を好きになれるかも知れないし、
・・・・だから私はその子が羨ましいよ」
「え?」
私の言葉によっすぃーは驚いたみたいだ。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:56
- 「私はよっすぃーが好き。きっともう他の誰も好きになれない。
でもよっすぃーとは結婚出来ないし・・・・・」
よっすぃーは黙って私の肩を抱いた。
よっすぃーの身体が温かくて私は思わず涙がこぼれてしまった。
「きっといつか私も結婚するよ。でもきっとその人を好きになれない。
多分よっすぃーも誰かと結婚するでしょ?」
「う、うん。まあ・・・・多分」
「私は嫌。よっすぃーが誰かの物になるなんて。
だってよっすぃーは私のよっすぃーなんだから」
「梨華ちゃん・・・・酔った勢いで変な事言わないで」
「ごめん・・・・・」
自分でも変な事を言っているのはわかっていた。
でも私は誰よりもよっすぃーが好きだった。
こうしていつまでも永遠にふたりでこんな風に過ごしたい。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:57
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「いい?他の誰の物にもならないから。私は梨華ちゃんの物。
梨華ちゃんは永遠に私の物だから」
「・・・・ありがとう」
「ばーか。泣かないで」
私達は抱き合った。これまで何度も抱き合ったがもっと強く。
私はよっすぃーに薬を渡した。
よっすぃーは迷わず日本酒で喉に流し込んだ。
私も薬を飲んだ。ふたりで並んで地面に寝転がった。
「朝起きたら天国かな?恐い?」
「よっすぃーと一緒だから恐くないよ」
「登ってる時、恐がってたくせに」
「じゃあ訂正。恐くてもよっすぃーが居れば恐くない」
よっすぃーの手を強く握った。よっすぃーも握り返してくれた。
綺麗なままでよっすぃーと死ねる。よっすぃーだけを愛して死ねる。
目を閉じた。
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:57
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私はよっすぃーの手を離した。まだ辛うじて動ける。
起き上がって少し離れたところでしゃがみ込んだ。
綺麗に死にたい。
私は最後にうんこをした。いっぱい出た。
おわり
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:57
- U
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:57
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- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 23:58
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