56 知ってた

1 名前:56 知ってた 投稿日:2005/02/14(月) 23:11
56 知ってた
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:11
小さい頃に私にはお姉ちゃんがいた。
ずっと慕ってた。
隣に住んでて、いつも私を守ってくれた。
いつでも私が泣いていると飛んできてくれて
優しく頭を撫でてくれた。
「いつでも、困った時は呼んで。助けにいくから」
そう言ってくれた。
その言葉は私にとって、何よりも心を落ち着かせてくれた。
助けて、とそう心の中で思ったとき
後藤さんはいつでも来てくれた。
それは魔法の言葉だ。

助けてって思えば来てくれるので、調子に乗った私を
後藤さんは、「そんなつまんないことで呼ばないでよ」って
笑いながら叱って、でもいつも優しく撫でてくれた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:12

後藤さんが死んだ。
交通事故だとかなんか、あっけなく。
私は何がなんだかわからなくて
ただ悲しくて、身体が燃えてしまうみたいに苦しくて
ひたすら後藤さんのこと呼んだ。
後藤さんは耳元でまた「さゆが困ったら、いつでも助けに行くよ」って
囁いて、死んだ。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:12

中学に上がって、私は何故だか学校でイジメられるようになった。
理由はよくわからない。きっと私が可愛すぎるからなんだって思うことにした。
ときどきはヒドイことをされたっこともあった。
でも後藤さんを呼ばなかった。
そんな詰まんないことで呼んじゃいけないから。
別に困ってないから。

靴を隠されたり、お弁当を捨てられてたりっていう
ガキっぽいイジメ。
何があっても、後藤さんを呼ばなかった。
本当に来て欲しいとき、きっと来てくれるんだから。
詰まんないことで呼んじゃ、後藤さんに迷惑だから。
私は強くなった。
後藤さんに守ってもらっていた頃よりずっと。
一人で生きていける。

高校生になって、イジメられなくなった。
それ見たことか、一過性のモノじゃない。私は笑った。

5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:13


私は恋をした。
今までの人生がひっくり返るような、大恋愛。
クラスの男の子の、亀井くん。
私は彼のこと、ずっとずっと想ってた。
夜も昼も。
苦しくて、眠れないこともあった。
恋なんて、って思ってた自分が信じられないくらい
私は恋に溺れてた。
後藤さんに助けてもらおうって、ちょっとだけ思って
やっぱりやめた。
何となく、その魔法は一度きりしか使えないような気がしてた。
この恋、自分で遂げないと後藤さんに笑われちゃうって、そう思った。

3学期になって、やっと決心をつけた。
想いを告げるって。
バレンタインデーは寒い寒い日だった。

私は気合手作りのチョコを持って、亀井くんを呼び出した。

「ごめん、僕受け取れないよ」

それだけだったと思う。

全部、ぜんぶ崩れた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:13

帰り際の私は滑稽だった。
手にラッピングされたチョコレート抱えて
ふらふらと歩いて。
寒さが身を切るようで
私の目からは自然涙が溢れてきた。

そういえば、後藤さんが死んでいらい、こんな風に泣いたことは無かったと思った。
後藤さんが死んでから、こんな悲しかったことは無かったと思った。

寒くて消えてしまいそうだった。


私は小さな声で魔法の言葉を呟いた。
後藤さん助けて、と呟いた。


何の変容も無い、寒々とした冬空ばかりが広がっていた。
私は悲しくて、虚しくて、涙も止まってとぼとぼと家路についた。


7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:14
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8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:14
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9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:14
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