51 ロールシャッハ

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 11:51
「ロールシャッハ 」
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 23:59


復帰後最初の仕事とも言うべきコンサートもつつがなく終了し、
シャワーで汗を流した後に楽屋に帰ってきた安倍が見たのは、
見慣れた顔だった。
「亀ちゃん、どうしたのさぁ」
安倍の楽屋を訪れていた亀井は、自分の姿を見つけられたこと
に気づくと、いつものようにだらしない笑顔を見せた。
「あ、ちょっと時間があったんで、抜け出してきたんです」
事も無げに言う亀井。どうやら仕事の合間を縫ってここまで
やってきたらしい。
「ありがとうね…あっ」
安倍は亀井の髪が短くなってることにいまさらながらに気づく。
「亀ちゃん、髪切ったんだ。すごく、似合ってるよ」
目を細め、大きく頷く安倍。亀井の髪型は、どこか安倍のそれを
模しているようにも見えた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:04
突如、亀井が立ち上がっていう。
「あっあの安倍さん」
「ん?何だい?」
しかし亀井は、
「い、いえ、何でもないんです。何でも」
と言って再び座り込んでしまった。その顔はどこか赤くなっている
ようにも見えて。
きっと何かを伝えるために、わざわざ自分のもとを尋ねたに違いない、
安倍は亀井の言動からそう判断した。
しかし、それを促すようなことは敢えてしなかった。
言いたい時がくれば、そのうち言葉は自然につむがれる。そんなこと
は、言葉というものを汚してしまった自分には言えない。けれど。
安倍は、亀井が自分から話し出すのを待つことにした。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:06
時は、亀井が何も話すこともないまま過ぎてゆき。
「あの、あたしそろそろ帰ります」
そう言ったのは、亀井だった。
「そっか。何かあったら、またおいで?」
安倍はそんな言葉をかけるのみだった。
亀井の小さくなってゆく後姿。若い、これからの背中。
安倍は大きくため息をついた。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:11
会場の裏口からこっそりと出て、息つく間もなく事務所の車に
乗り込む。ごく日常的な行為とは言え、安倍は自らの身を窮屈
に思わざるを得なかった。
そうさせているのは周りの視線か、それとも罪悪感からか。
連行されていくさまはまるで罪人だ。それならば車は護送車か。
そんな皮肉めいたことを考えながら、安倍は車の後部席に身を
沈めた。と、助手席に誰かが座っている。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:14
「亀ちゃん?」
安倍は思わず素っ頓狂な声を上げた。楽屋で別れを告げたはずの
亀井が車の助手席に座っていたからだ。
「事務所の人に無理やり載せてもらったんです」
そう言ってまた亀井は口元を緩ませた。
「あのさ亀ちゃん、なっちに言いたいこと、あるっしょ」
単刀直入に、安倍は聞いた。さすがにこの状況下ではそう聞かない
わけにはいかなかった。
しかし亀井は恥ずかしそうに俯くばかりだった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:17
「亀ちゃん。悩みとかあったらなっちが聞いてあげるから。こんな
なっちでも話聞くくらいはできるからさあ」
安倍の心には、依然として暗い影が落とされていた。もしかして
そういう背景から、亀井もなかなか心を開いてくれないのかもしれ
ない。それは安倍にとって何よりの苦しみであった。
しかしそれでも、亀井は口を開こうとはしなかった。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:20
「じゃあここで失礼します。安倍さん、お仕事がんばってください」
亀井はそういい残すと、車を降りていった。
安倍にはどうすることもできなかった。
ただ、バックミラーで置き去りにされる彼女と彼女の風景を見送る
ことしか、安倍には。
車は軽やかに走り出す。
亀井と安倍の心を、残したまま。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:23
亀井の件もありどっと疲れてしまった安倍は、マンションの玄関
ドアを開けると小走りで寝室へと向かった。要するに、倒れこみ
たい気分だったのだ。
部屋の扉を開け放ち、どぉん、と鈍い音が出るくらいにベッドに
体を預けた。スプリングのきしむ音が、リフレインのように耳に
残っていた。
ふと、誰かに見られているような気がして、後ろを振り向く。
半開きになっているクローゼットから覗く、二つの瞳。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:26
亀井だった。
「な、なして?」
そう聞くのが精一杯だった。
「安倍さんに、聞きたいことがあるんです」
そう言えば玄関のドアには鍵をかけていたはずなのに。
安倍はそのことを思い出し、身を震わせた。
「な…なに? 聞きたいことって何!?」
亀井はアヒルのような口をゆがませ、言った。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:32
「安倍さん、ロールシャッハテストって知ってますか」
「ロール…シャッハ?」
安倍は口でなぞらえてみたが、耳なじみがなさ過ぎた。
「一枚の紙に、黒と白でひとつの形を二種類の図形に描く。それ
をどちらの形に見えるかを聞く心理テストですよ」
「え…」
「あなたはこの絵が蝶に見えますか?それとも器に見えますか?
ってやつです」
亀井は薄笑いを浮かべ、そう言った。
「それなら知ってるけど…」
言いかけた安倍の言葉が、ひゅっと引いた。
亀井がポケットから取り出したのは、きらりと光るナイフだった。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:35
「安倍さんは天使ですか?それとも悪魔ですか?あたしには両方
の姿が頭にちらつくんです。もし黒と白の絵から黒を消したら、
白になりませんか?」
亀井の表情に、もはや笑みはなかった。
今まさに、安倍にその銀の刃を突き立てんばかりの勢い。
「亀ちゃんさ」
「何ですか?命乞いなら、死んだ後にでも聞きますよ?」
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:40
「蝶に見えるか、器に見えるか。どっちにしたって、全部錯覚なん
だよ。結局は、白と黒に塗られた紙に過ぎないんだよ」
「えっ?」
亀井が怯んだ隙に安倍は亀井の前に詰め寄ると、その手からナイフ
を取り上げて亀井の胸に突き立てた。切りつけたような鮮血が、安
倍の顔に一条の赤い線を作った。
「…?」
いまだに状況が理解できていない亀井。
「結局は、錯覚という名の魔法なんだよ」
次々と赤いラインを撒き散らし、亀井は安倍に抱かれる。やがて
二、三回、大きく痙攣したあとは、彼女の二つの瞳はただの硝子
玉になった。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:41
間に
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:41
合わ
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 00:42

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