49 変身
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:51
- 49 変身
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:51
- 新垣にとってアイドルになるのは子供の頃からの夢だったから、
アイドルはどんな生活をするのだろうかと前々から想像はしていたが、
想像と実行は大違いだった。
忙しい。レッスンや撮影で膨大な時間を取られる。
それは想像していたからいい。
それ以上に無駄な時間が多い気がする。
移動。待ち時間。また移動。
こんな事をしている間があればと焦りに捕らわれてる時に、
同期の様子を見てみたら、
ダンスの振り付けが書かれたメモ帳を覗いていて愕然とし、
あわてて鞄からあんちょこを取り出して広げたり。
置いて行かれそうになって走れば、その場で止まれと待たされる。
時間の経過が早い。時間の流れが遅い。時間が足りない。とにかく届かない。
先を考えればおかしくなってしまいそうで、
しっかりしなくてはと今のことを考えるので精一杯だった。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:52
- その日も待ち時間が発生した。
先輩メンバーの撮影が終わるまで、新メンバーの五期はロケバスでの
待機を命じられ、台本の流れを確認しおえた新垣は
何もしない時間に耐えきれずに
カーテンの裾をめくってこっそりと外の様子を覗いた。
バスは小さな公園の近くに止められていた見えた。
オレンジ色の小さな人影二つ。
ベンチの上に立ったポニーテールの女の子が、
おもちゃ屋で売っている魔法のバトンの類を振るうと、
砂場にいたおかっぱ髪の方は、両手を頭に当てて耳のつもりだろう、
ウサギ跳びで小動物の真似をした。
「愛ちゃん、ほらほら」
隣の席で何をするでもなく目を閉じていた高橋は、
ウォークマンのイヤホンを外して、新垣の指す窓向こうを見た。
特徴あるチェック模様の服装は見間違えようがない。
「やっぱ小さい子のカリスマアイドルだよね」
「昔のミニモニ。の格好じゃない」
答える高橋からはひやりとするような不穏なテンションを感じたが、
会話をとぎる気まずさの方が勝った。
「……たぶん加護さんと、辻さんの真似かな」
「私の格好するような子いないだろうな」
嫌な答え方をされて窮してしまう。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:54
- 「そんなことないでしょ」
「知ってる癖に」
高橋は目つきと声でトゲを刺した。
絶大な人気を誇った旧ミニモニ。のこと。
高橋が加入して結成された新ミニモニ。は子供からブーイングを喰らってること。
もちろん知っていたが、それは今ここに持ち出す話だろうか。
高橋には相手のことを考えない話し方をするところがあった。
だけれど、なんでそんな口をきかれなければいけないのか、新垣にはわからなかった。
自分が入ってるユニットに夢中になっている子を見たら喜ぶんじゃないかな、
元気付くんじゃないかな、と思いついて声をかけただけだったのに。
「里沙ちゃんはタンポポだから。里沙ちゃんがミニモニ。だったら良かったのに。
みんなそう思ってるよ」
「そんなの思ってないって」
「みんな思ってる」
次第に声が荒くなる。意地悪く頑固な気性に苛立ちが募る。
「みんなって誰だよ」
「みんなはみんなだよ!私だって思ってるし!里沙ちゃんだって思ってるでしょ!」
騒動に気が付いたマネージャーに高橋から分け離されながら
新垣は熱された目で高橋を睨み付けた。
握りしめた拳は最後まで振り上げることもできなかった。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:56
-
一部始終は新リーダーになり立ての飯田に報告されて、
新垣と高橋は別々に呼び出されて諭された。
「新垣が見たのはミニモニ。の真似する子だったけど、
ミニモニ。だけじゃなくて、うちらはみんな小さい子の憧れなんだよ。
だからみんな仲良く一緒に頑張って、
かっこいいなーって思われるアイドルにならないと」
諭されてる最中に、高橋に刺されたトゲが蘇ってきた。
知ってる癖に。
新垣達は”うちら”には入っていない。
新垣里沙になーれ、と呪文を唱える子供はきっといない。
コンサート会場で自己紹介の返答に投げられたブーイングが蘇る。
モーニング娘。は新メンバーを除いて到達している。
余分だ。入らない。届かない。
高橋と同じ事を思っているのに、高橋のように叫ぶ事はできなかった。
「泣くな!大丈夫!大丈夫だから!」
飯田が新垣の両頬を押さえた。いい匂いがする。
顔の上で長い指が動いて涙をぬぐった。
「みんなね、不安だよね。高橋もね。紺野も小川も不安だよね。
でも大丈夫だよ。モーニングにはね、魔法みたいな力があるの。
魔法って、できないって事もできちゃうことにしちゃうものでしょ。
絶対できないってことも、絶対できるようになるの。
新垣ももうモーニングのメンバーなんだから、魔法はかかってるよ。
新垣はみんなと仲良くなれるし、歌も踊りももっともっと上手くなるし、
誰よりも人気者になれる!」
高橋が飯田から何を言われたのかは知らない。
それからしばらく、新垣は高橋と口をきくことはなく、
タンポポの曲をかけて眠るようになった。
目が覚めたら綺麗になれるかな。
目が覚めたら……。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:57
- 「愛ちゃん、あそこさ」
「あ?」
高橋は帽子のツバを少しめくって新垣が指した先を見ると、
「あー」と訳知り顔で笑った。
高橋を地元に招いて歩く商店街。
安売り雑貨屋風の店先に、ミニモニ。のニセモノの衣装が吊られていた。
胸元に描かれたキャラクターのデザインは明らかに狂っているし、
ガムテープで張られた色紙の値札には「ミニモニ250円」。
うらぶれるにしても、ここまで突き抜けるとおかしくなってくる。
「んか、懐かしいな」
高橋は帽子のツバを戻しながら目深にかぶり直した。
そんな様子を見て、ふと思い出したことを言ってみる。
「昔さ、ミニモニ。の衣装の子どもみて喧嘩したよね」
「んだっけ?」
「んだよ。ロケバスでさ」
「あー、したした。ガキさんがミニモニ。入れないってんで、
なんかあたしにイチャモンつけてきた」
「はぁー?」
「違ったっけ」
「ぜんっぜん違う」
「んかなー」
新垣はため息をつく。この人はいつもこうだ。
あれから月日が流れて、人気は出たような気もするし、失った気もする。
一生懸命に学んで働いてきた努力が身に付いた実感はあるけれど、
奇跡的な物を得た気はしない。
時代の流れに逆らうでもなく、流れを作るでもなく、
流れ流れて当たり前に変わっただけのようである。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:57
- 「知ってる?あの喧嘩した後さ、飯田さんに魔法かけてもらったんだけど、
あんまし効いてない気がするんだよね」
「ナニそれ。ガキさんそんなん信じん?」
話の始球式にと軽く投げた言葉を、高橋は全力一振りでホームランにした。
「いや、だからその後の話があって」
「おまじないとか、そういうまだるっこしいの、
人の喧嘩の始末に持ち込むってずっこくない?」
「だから、おまじないじゃないし、本題は別なんだって」
「しかも飯田さんだし」
「しかもって、それもどうかと」
「魔法ねぇ」
人の話を聞かない高橋は、顔中をぐしゃっとさせて嬉しそうに笑う。
すっかり見慣れた、アイドル美学からはみ出した身も蓋もない笑顔。
「ガキさん、ガキっぽい。ガキだからガキさん」
とびきりに面白いことを言ったかのように、一人でニタニタしながら繰り返した。
「……どっちがガキだよー」
新垣のぼやきを「んふふふ」と鼻で笑い飛ばして、高橋はすっかりご満悦だ。
飯田いわく「普通だったら出来ないことを可能にするのが魔法」。
ならば、高橋こそが魔法使いかもしれない。
いつも喧嘩別れしてそうなやり取りをしていて、
腹立ちを起こしてはため息や苦笑で消火してしまう自分は、
この同期の魔法にかけられてるんじゃないか。
「魔法使えたら、愛ちゃんになってみたいよ。なんか、人生観変わりそうだし」
「ならあたしもガキさんになってみたい。一日でいいけど」
「期間限定ですか」
「そりゃ一生なったら困る」
「はいそうですね」
「あー、今のいい方なんかムカツクー」
「お互い様だっつーの」
高橋は置いておいて、この世の中に新垣里沙になりたい子はいるだろうか。
いるんじゃないかな、と思いたい。
いなければいないで、作るまでだ。
新垣はこっそり拳を握ってガッツポーズを作って、魔法をかけた。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:58
- ( ・e・)ノ ☆
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:58
- ( ・e・)ノ ☆ ☆
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 23:58
- ( ・e・)ノ ☆ ☆ ☆
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