46 アホマイルド
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 22:30
-
アホマイルド
- 2 名前:48 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 22:32
- 「マヨネーズ!」
「塩!」
「マヨネーズ!」
「塩!」
「マヨネーズ!」
「塩!」
学校からの帰り道に偶然会った絵里とさっきから同じ言葉を
言い合ってばかりいた。
初めは普通に話してたんだけど「目玉焼きに何でつけるか?」という
不意に出た話題に2人の意見は全く噛み合わなかった。
「マヨネーズかけるなんて信じられない!」
「塩みたいな地味で味気ないもんかけるほうが信じられんと!」
「それは素材の味を生かしてるって言うの!」
「マヨネーズだって目玉焼きの味をおいしくさせるけん!」
「あんなのただ油ぽっいだけでしょ?!」
「その油っぽさが最高のハーモニーを引き出すたい!」
「れーなのバカ!偶然会っても一緒に帰ってあげないから!」
こっちは軽くからかってるだけなのに絵里は単純だからすぐに怒って
しまい、手加減無しで思いきり私の頬を平手で叩くと自分の家に
駆け込んで行く。
- 3 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 22:35
- 「痛ったぁ・・・・・絵里は加減って言葉を知らないなぁ。」
きっと赤くなっているはずの少し腫れている頬を優しく擦りながら、
真向かいにある家に向かってぼやいた。
絵里とは腐れ縁というか幼なじみで、10年前に真向かいに越して
きてから今に至まで友達として付き合っている。
出会った当初は大人しくて年上なのに頼りない感じがして、でも
いつも優しく笑いながら必ず私の後についてきてくれた。
それがいつの間にかすぐに年上ぶる暴力女になっちゃって、こっちは
遊びでからかってるだけなのに本気で手を上げてくる。
でも笑っているとやっぱり出会った頃のままで、最近はちょっとだけ
綺麗になってきて正直可愛いなって思う。
実を言うと絵里のことはずっと前から好きだった。
親に連れられて初めて会ったときに一目惚れしたんだと思う。
子どもの頃なら「好き」くらい簡単に言えたけど、告白するなんて
今はもう恥ずかし過ぎてできない。
それに会うといつもくだらない事でケンカしてばかり。
私はなぜか思っていることと反対の言葉ばかり絵里に言ってしまう。
「はぁ・・・・・。」
家の中に入りドアを閉めると寄り掛かって深い溜め息を吐き出した。
くだらないケンカをしては家に帰って後悔ばかりしてる。
これが毎度お馴染みのパターンだった。
- 4 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 22:38
- 「ただいま・・・・・・・おかえり。」
玄関で靴を脱ぎ捨てながら言うと、すぐに後ろ体を反転させて自分で
自分を出迎える。
両親は小さい頃から海外に出張に行くことが多かった。
だから兄弟のいない私の家はいつも静かで、何も言わずに入るのも
寂しいから帰ってくるといつもこうして中に入る。
もう小さい頃からしているクセ、というか儀式みたいなものだった。
少し薄暗くなってきたのでリビングの電気をつけるとすぐに冷蔵庫が
ある台所へと向かう。
そして一番下の段を開けて冷凍食品を取り出すと、慣れた手つきで
外装のラップを取ってからレンジでチンをする。
小さい頃は寂しかったけどさすがにこの年になると慣れてきた。
良い方に考えるのならご飯は自分の好きな物が食べられるし、掃除は
月に一回家政婦さんがきてやってくれるから問題ない。
親に注意とか小言とか言われないから学校のみんなは羨ましいと
よく言われる。
私はふと視線を向けたカレンダーに赤く丸がつけられた日を見て、
無意識のうちにため息を吐いていた。
あれは親が月一回だけ家に電話をかけてくれる日。
帰ってくるのは大体半年に一回で忙しいと1年会えないときもある。
寂しいと全く思わないわけじゃない、ただこの生活に慣れてしまった
だけで、不意に物寂しくなるときだってある。
私は上唇を軽く噛んでテーブルの上にうつ伏せになって目を閉じた。
- 5 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 22:42
- でも感傷に浸っている暇はないらしく、チンと甲高い音を立てて
レンジ様のお呼出しがかかった。
取りに行くのはちょっと面倒だけどお腹がかなり空いてたので、
食欲には勝てず私はゆっくり立ち上がると台所の方に向かう。
レンジから取り出したエビドリアは端のほうが煮立って白い湯気が
立っていた。
それを見たら一気にテンションが上がってきて、自然と出た鼻歌を
歌いながら小走りにテーブルへ運んだ。
そしてすっかり忘れていたスプーンを取りに行きすぐに戻ると、
正しい姿勢で座らずに片膝をついたままドリアを口の中に入れる。
でも音がしない家で食べるのはどうも味気なくて、私はテレビの
スイッチを入れるとニュースをパスしてアニメ番組に合わせた。
話の内容は全く分からないけど、ただつけておくだけからそれでも
良かった。
私はドリアを食べながら携帯を弄ってテレビなんて見向きもしない。
でも今まで聞こえていた甘ったるい女の人の声が突然掻き消され、
砂荒らしの音が部屋中に響き渡る。
でもリモコンなんて一切触ってないから何事かと思って顔を上げたと
同時だった、テレビの中から平然と女の人の頭が出てきたのは。
- 6 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 22:50
- 「ひゃぁ!」
自分でも情けないと思うような声を上げて私は腰が抜けたままで
後退りする。
それは何年か前に大ヒットしたホラー映画そっくりで、といっても
そこの部分だけ見てすぐにチャンネルを変えたから内容は知らない。
そいつは頭部を出すと続いて引き摺るように胴体部分が出てくる。
私は恐怖から歯が震えてカチカチと音が鳴り、腰は完全に抜けて
しまったのか力が入らなくて立ち上がれない。
来る、きっと来る♪のあの部分だけがさっきから頭の中でいやに
リピートされていた。
ヤバい、絶対死ぬ!っうかそれなら絵里にコクっとけば良かった!
とこんな危機的状況なのに人を想う自分に少し感動してしまう。
でも一度絵里の事を考えるともう止まらなくて、怒ってるところや、
拗ねたときの顔とかが次々と浮かんできて、だけどやっぱり一番
思い出すのはあの目を細めて笑う柔らかい笑顔だった。
そしたら急に恐怖心なんてどこか吹っ飛んでしまって、ここで貞子に
呪われて死ぬわけにはないという熱い思いが芽生えた。
「さ、貞子!あんたに呪われて死ぬわけにはいかんけんね!」
さっきまで腰が抜けてたのが嘘みたいに私はスッと立ち上がると、少し声を
上擦らせながらまっすぐ指差して叫んだ。
「貞子?私は超絶美少女魔法使い、ナルシスサーユ・シゲなの。」
テレビから出てきた女は不思議そうにこちらを見ながら、顎に手を
当てて小首を傾げて答える。
そいつは黒髪をボンボンで2つ結びにしていて、淡いピンク色した
ヒラヒラのドレスを着ている。
肌は色白で目は二重の結構可愛い女の子だった。
見たところ年は私より1、2才上か同じくらいだと思う。
- 7 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 22:56
- チョウゼツビショウジョ?
マホウツカイ?
ナルシスト?
「はあっ?」
私は額に眉を寄せるとかなり柄の悪い声で問い返した。
そしてテーブルの下に転がっていた携帯を拾うと指一つで素早く
119を押す。
「すいません、警察に繋いでもらえますか?・・・・・えっ?
救急車?・・・・いや、変態を引き取ってほしく・・・・。」
私が警察に取り次いでもらえるよう頼んでいたけれど、その話は
最後まで続けることができなかった。
「悪いんですけどあんまり人に知られたくないんですよねぇ。」
とどこからか呑気な声が聞こえてきたと思ったら、携帯がまるで
糸でもつけられたように手元を離れていったから。
そして私の携帯はいつの間にか現れた、もう1人の女の子の手に
しっかりと治まる。
「怪しい者じゃないですから警戒しないでくださいよぉ。」
少し茶色の肩まである髪を軽く掻き上げると、妙に人懐っこい笑みを
浮かべて少女は携帯を自分のポケット中にしまう。
その子は一番初めの子に比べてすごく普通で、白のYシャツに水色の
ベストを着て下は紺色のスカートを履いている。
それはどこかの学校で着ていそうなごく普通の制服姿だった。
- 8 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:02
- 「つまりあんた達はパラレル世界にある魔法学校中等部の生徒で、
卒業のかかった試験のためにこっちに来たってこと?」
私はウーロン茶を一口飲むと頭を掻きながら未だに納得できず、
怪訝な顔をして今まで長々と説明された事をまとめる。
「そういうことです。いやぁ〜、物分かりよくて助かりました。」
ニイガキさんは軽く手を打つと少し疲れたように笑みを浮かべる、
そして勝手に冷蔵庫から持ち出したペットボトルの紅茶を飲む。
ナルシスト何とかって子は一切口を出さず、さっきからオレンジ
ジュースを少しずつ飲んでいるだけだった。
今のところは特に会話に口を挟まずに黙ったままだった。
あれから一応名前を名乗られて、少し茶色ぽっくて髪が長い子は
ニイガキリサさん。
大まかにだけどいきなりテレビから現れた事情を説明してくれた。
そして黒髪のツインテールで少し頭がイっちゃってそうな子は
ミチシゲサユミ。
ニイガキさんが言うには2人は平行世界にある魔法学校中等部の
生徒で、卒業試験の為に私の元にやってきたらしい。
その試験というのが無作為に選ばれたどこかの世界の人に恋人を
作ってあげる、というとてもお節介で大きなお世話なものだった。
でもそんな話を聞かされてすぐに信じるはずもなく、途中で家の
電話から警察にかけようとしたら線を抜かれ、家から出ようとしたら
必死で引き止められた。
だからとりあえずは少しだけ信じてあげることにした。
っていうか魔法使いだって言うのに全然魔法で解決してないし。
そんなわけで今はテーブルを挟んで向かい合って座りながら、一度
簡単に話をまとめに入って今に至る。
- 9 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:04
- 「じゃぁ、契約の証しましょ?」
今まで黙っていたミチシゲさんが急に立ち上がると意味不明なことを
突然言い出す。
私はよく分からないので頭を掻きながらその言葉の続きを待つ。
でもなぜかニイガキさんは少し頬を赤く染めて、急に落ち着きが
なくなりだした。
「えっ?ちょ、ちょっとシゲさん!もうやるの?」
と声を上擦らせて誰がどう見ても狼狽えた様子でミチシゲさんに
詰め寄る。
「こういうのは早い方がいいですから。さっ、れいなも立って。」
「れいなって・・・・まだ会って一時間も経ってないやん。」
「ならサユって呼んでもいいよ。みんなはシゲさんって呼ぶけど。」
「いや、そういうことやなくて・・・・。」
「それじゃ話もまとまったことだし、こっちに来て。」
とさっきの言葉の意味が分からないままサユに手を引かれて、
テーブルから離れて広いリビングに移動する。
そして向かい合うように立たされると、サユは突然真面目な顔に
なって目を閉じると聞き取れないくらいの小声で何かを呟いている。
その姿を見たらやっと魔法使なんだという実感がわいて、思わず
少し緊張してきて生唾を呑み込んでしまった。
- 10 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:09
- それからゆっくりと目を開けるとまっすぐ見つめられる。
アーモンド型の黒い瞳は吸い込まれそうなくらい本当に綺麗だった。
今までバカぽっい子ども顔から一転して、清楚なお嬢様みたいなのに
どこか微かに色香が薫る顔立ちに変わる。
ちゃんと立つとサユの方が頭半分くらい高くて、軽く覗き込まれると
年上の大人の人みたいに感じた。
多分雰囲気に流されてだと思うけど、目が合った瞬間に一回だけ
大きく胸が高鳴ってしまった。
サユは覗き込んでから一度体勢を戻して今度は膝を軽く曲げる、
そして目線の高さを同じくらいにするといきなり顔を近付けてくる。
そして軽く微笑んでから額に触れるだけの優しいキスをした。
すぐに唇は離れたけれど私は口を開けたまま呆然としていて、
キスされた事実に気づくまでに少しの時間を要した。
「えっ?へっ?な、なんでいきなりキスばすると!」
私は自分でも耳たぶが熱を持つのを感じながら、動揺とか興奮すると
つい出てしまう訛った言葉で質問する。
「う〜ん・・・・・今の可愛くないからもう一回してもいい?」
けれどサユは全く人の話を聞いていなくて、腕を組んで少しの間
考え込んでから不満そうな顔をして見当違いなことを言い出す。
「はぁ?」
私は呆れた思いで胸が一杯になって初めて会ったとき同じように
顔を顰める。
でもそんなことはお構い無しで今度は頬に軽くキスされた。
「うん、こっちの方が可愛い!」
サユはどうやら勝手に満足したらしく、大きく頷きながら笑顔で
軽くガッツポーズをする。
それを見た私にはもう返す言葉が何一つ浮かばなかった。
- 11 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:12
- 「それじゃ今度はニイガキさんの番ですよ?」
サユは体を半回転させるとニイガキさんの方に向き直り、その手を
少し強引に引っ張りながら笑顔で促す。
「えっ?いや、私はいいよ!何か見てるだけでお腹一杯になったと
言いますかぁ、そんな感じなんで・・・・。」
けれどニイガキさんはあまり乗り気じゃないらしく、色々と言い訳を
言いながら両手を激しく振って体を退きながら遠慮する。
でもサユはそんなニイガキさんの背中を押して、殆ど強制的に私と
向い合せの状態にさせる。
「じゃ、ちゃんと唇でやってくださいね?」
とポンと軽く肩に叩くと軽い口調で大胆なことを平然と言った。
「うえぇ!ちょ、ちょっと口は無理だって!!ですよねぇ?」
「ま、まぁ・・・・。」
ニイガキさんは気が動転しているせいなのか、少し早口で突然話を
こっちに振ってくる、
私はいきなりすぎて困ったけれど賛成できないので同意しておいた。
まだ会って間もないのに口でのキスはさすがに出来ない。
- 12 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:18
- 「唇にキスするなんて・・・・・。」
ニイガキさんは顔を真っ赤にして視線を泳がせながら小さく呟く。
「ニイガキさん、ファイト!」
サユは応援しながらも他人事なのでその顔は楽しんでいる様子だ。
「なんかキスしないといけない展開になってますよ?」
「・・・・・そやねぇ。」
「あの、えっと・・・・・どうしましょっか?」
「いや、どうすると?」
「えっ?こっちに聞かれても困るんですけど。」
「こっだってそれは同じとー、こういうの全然分からんし。」
互いに空気に呑まれてしまったせいなのか変に意識してしまい、
目線が合ってはすぐに逸らすという行為を繰り返していた。
「うわぁぁ、ホントできないって・・・・・。」
ニイガキさんは突然顔を俯けて髪を乱暴に掻くと、語尾が聞こえない
くらい弱々しい声で言った。
「あ、あの大丈夫?」
そのかなりテンパってる様子に私は心配になって声をかける。
「ん?」
すると不意に上を向いたニイガキさんは小首を傾げながら上目遣いで
私の方を見つめる。
その瞬間さっきより大きく胸が高鳴ってしまう、きっと本人には
そういう意図はないとは思うけど。
でもそのときマジで可愛いなと本気で思ってしまった。
- 13 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:23
- ニイガキさんは少し絵里に似ているから余計に心臓が静かになって
くれない。
置き換えてるっていうのは失礼なことだと思うけど、でもそれだけ
好きなんだって改めて思う。
「やっぱり・・・・・しといた方がいいんですよね?」
ニイガキさんは自分に言い聞かせるように言うと、今にも泣きそうな
潤んだ瞳でこっちを見てくる。
それは明らかに我慢して言ってるのが見え見えで、私は何だか急に
可哀想に思えてきて短い溜め息を吐くと、体を一歩前に出して頬に
軽くだけどキスをした。
だって嫌々キスされても気分良くないと思ったから。
「へっ?」
ニイガキさんは呆然とした様子でゆっくりと頬に手を当ててから
間の抜けた声を上げる。
「キスってほっぺたでもいいんと?さっきサユがしとったから。」
私はしたあとすぐに照れくさくなって、頬を掻きながら捲し立てる
ように少し早口で言った。
「あっ、うん・・・・。」
ニイガキさんは一気に顔を真っ赤に染めて問いに小さく頷いてから
答えた。
- 14 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:26
- 「と、ところでさっきサユが言ってた契約の証って何?」
その様子は見たらこっちまで恥ずかしくなってきて、私はすぐに違う
話題に話を振って変えた。
「魔法を使うには契約が必要なの。」
サユはすぐに質問に答えてくれたけど、それは大雑把すぎてとても
答えと言えるものじゃなかった。
「簡単に言うと代償とか保証みたいなものですかねぇ。すごい高等な
魔法だと命を賭ける場合もあるから、こっちでは大切なんですよ?」
私はそんな不服そうな顔をしていたのか、いつの間にか冷静さを
取り戻したニイガキさんが見兼ねたように説明し直してくれた。
「まぁ、れいなに使う魔法ぐらいだったら必要ないけどね。」
サユは穏やかな微笑みを浮かべながら聞き流せない言葉をサラっと
口にする。
「はぁぁぁぁぁぁ!ならなんでキスしとー!!」
私はあまりに理不尽な言葉に胸ぐらを掴むくらいの勢いで詰め寄って
聞き出そうとする。
色々悩んだりドキドキさせられて別にしなくても良かった、なんて
言われたら誰だって文句の一つは言いたくなる。
「ん?したかったから。」
「まぁまぁ、して悪いってことはないですから。」
「はぁ・・・・・損したけん。」
でもサユに唖然とするくらいあっさりと言葉を返されて、怒る気力は
失せて凹んでしまいそうになる。
一応ニイガキさんが焦ってフォローしてくれたけど心の傷は深い。
- 15 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:30
- 「おっ?何だか険悪な雰囲気ってことは修羅場か?」
突然聞こえてきた茶化すような軽い感じの声は聞き慣れていて、
とりあえず凹むのを一時中断して声のした方に体を向ける。
そこにはドアを閉めたはずなのにやぐつぁんが普通に部屋の中に
立っていた。
「やぐつぁん、またピッキングして入ってきたの?」
昔からまともに入ってきたことの方が少ないので、私は今更もう
驚かずに至って普通に会話する。
「まぁな。でもあの形式の鍵穴だと一分以内に開くから替えろって、
いつも言ってるじゃん。」
どこか得意げに鼻下を軽く擦って無邪気に笑う、でもすぐに少し
呆れた顔になって元泥棒の人みたいなアドバイスをくれる。
この今すぐに警察に突き出した方が良さそうな人は矢口真里さん。
もう付き合いが長いからさん付けなんかせず、今はやぐつぁんと
愛称で呼んでいる。
小さい時から両親があまり家に居ない私の世話をよくしてくれて、
様子を見に来るときは大体ピッキングして中に入ってくる。
こんな変人だけど一人っ子の私にとってはお姉さんであり、また
親代わりでもあった。
- 16 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:32
- 「それで話は戻るけど別に修羅場じゃないよ。まぁ、ちょっと揉めては
いたけどね。」
私は変に誤解されたままでは困るので話をわざわざ戻して否定した。
「でも2人とも見かけない顔だなぁ、この辺の子じゃないよね?」
やぐつぁんは半分くらいは信じたような感じで聞き流すと、今度は
見慣れないニイガキさん達に視線を向けながら質問する。
「あぁ、この子達はパラレルワールドから来た魔法学校の子だし。」
と私は多分偽りないと思われる事実を平然と教えてしまう。
そしたらいきなりニイガキさんが駆け寄ってきて強引に手を引かれ、
部屋の端のほうへ連れて行かれる。
「ちょ、ちょっと!!普通にバラさせないでくださいよぉ!」
「大丈夫だって、魔法使いとか一般人は信じないから。」
「それでも一応正体は秘密ってことになってるんで・・・・。」
「でも魔法っていつか使うんでしょ?そしたらバレるじゃないの?」
「それは何とかして夢を見たくらいにしますから。でも基本的には
言わないようにお願いします。」
「分かった。これからは誰にも言わないし、上手く誤魔化すよ。」
少し長い話し合いの結果、意味ないと思うけど魔法学校から来た
ことは秘密にするということで合意した。
- 17 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:36
- 「ゴメン、さっきの嘘。この子達は塾の知り合いだよ。」
私は作り笑いを浮かべながらやぐつぁんの方に戻ると、ちょっとは
ありそうな関係に話を訂正する。
「お前の友達作りにオイラは口出す気はないけど、もう少し考えた
方がいいんじゃないか?特にあのヒラヒラドレス着てるほう。」
やぐつぁんは困惑した顔つきで頬を掻きながら、顔を近付けると
声を潜めて耳元で囁く。
その親切な忠告には手を上げて同意したいと思った。
「ニイガキさん、試しにこの人に魔法かけませんか?」
今まで黙っていたサユが突然軽く手を叩くと、さっきの話し合いを
根底から覆すようなことを笑顔で言い出す。
「ちょ、ちょっとシゲさん!いきなり何言い出すの?!」
ニイガキさんは予想外の発言に目を見開いて驚きながら問いかける。
私は複雑な気持ちで頭を掻きながら項垂れていて、やぐつぁんは
思いきり額に眉を寄せてサユを見つめていた。
「ダメですか?記憶なんて後でどうにもなるじゃないですかぁ。」
「それはそうだけど・・・・・はぁ、しょうがないなぁ。」
サユは腕を抱きしめて甘えた声でせがむと、さっきはかなり渋った
ニイガキさんは疲れたようなため息を吐いてから頷いた。
- 18 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:40
- それからゆっくり目を瞑ると精神集中みたいなのをいきなり始めて
しまう。
その顔つきは真剣で少しだけ空気が張り詰めたような気がする、
雰囲気だけはすごいから私もやぐつぁんも黙ってニイガキさんを
見つめていた。
そして息を静かに吐き出しながらゆっくりと目を開けると、
おもむろに右手でLの字を作って顎の辺りでそれを左右に動かす。
「ラブラブ♪」
と満面の笑みを浮かべて今までより甲高い声でニイガキさんは
確かにそう言った。
すると一瞬眩しい光が手の辺りを覆ったかと思うと、右手の中には
やじりにピンクのハートがついている矢が握られている。
それはこの世界にない魔法でとてもすごい事を見たのかもしれない。
でもそんなことは正直どうでもよかった。
- 19 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:43
- 「あぁ、ゴメンね?今本気で引いちゃった。」
やぐつぁんは少し同情するように目を細めると、本当にすまなそうな
声で言った。
「今のはちょっと・・・・・。」
と私も口元を引き攣らせながらその言葉に続けて答える。
「こ、こっちだってかなり恥ずかしいんですよ?でもしょうがない
じゃないですかぁ!これが呪文なんですから。」
するとニイガキさんは頬の辺りを赤く染めて逆ギレぽっい口調で
反論する。
「まぁ、今のは後でからかうからいいとして。魔法ってそれだけ?
そんなの大抵のマジジャンが普通にできると思うけど?」
楽しそうに笑いながら話を一旦流すと、見た目によらず頭の切れる
やくつぁんは珍しく真面目に本題に入る。
「今ので終わらないですよ、本当の魔法はこれからですから。」
ニイガキさんは一歩も引かずに余裕の笑みにも見える微笑みを
浮かべながら自信ありげな口調で答える。
そしてどこからともなくピンク色の弓を取り出すと、ゆっくりとした
足取りでやぐつぁんの方に向かって歩いていく。
- 20 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:47
- そしてニイガキさんは弓を構えて弦を思い切り引くと、その中心に
矢を持っていっていつでも打てるようにする。
でも近くで見ると弓も矢も安ぽっくて、子ども用のオモチャと
同レベルに見える。
けれどそれよりもやじりの先端が既にやぐつぁんの胸の辺りに
当っている、という状態の不自然さのほうが私は気になった。
「近っ!っうか色々とツッコミたいけど、とりあえず近いから。」
「いや、外すと面倒ですから。これなら一回で済みますし。」
「まぁそりゃそうだけど、っていうかその矢って痛くないよね?」
「痛くないと思いますよ・・・・・多分。」
「何だよ、その多分っていうのは!めちゃくちゃ怖くなるじゃん!」
「まぁまぁ、きっと大丈夫ですから。」
2人は仲が良いのか悪いのか漫才のように掛け合いしながら会話を
している。
意外と2人は結構気が合うのかもしれないなぁと、他人事なので
その光景を微笑ましく思いながら見つめていた。
「矢って普通もあんなに近くから打つもんなの?」
でもふと疑問に思うことがあって、私はなぜか隣にいるサユに
聞いてみた。
「うんん。ニイガキさんは学校で一番矢を打つのが下手だから、
あれくらい近くないと当らないだけなの。」
とサユは首を横に振ると少し不安になるような事実を教えてくれる。
「とにかく絶対死にませんから!それじゃもういきますよ。」
ニイガキさんは弓を構え直すと大きな声で宣言して、まだ文句を
言いたそうなやぐつぁんの言葉を遮るように矢を打ち放った。
- 21 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:51
- あんなに近くから打ったんだから矢は外れるはずがなく、ピンク色
したハートのやじりはやぐっあんの胸に突き刺さる。
それは何の感動もすごさもなくただアホくさいだけだった。
「うぐっ!」
でもやぐつぁんは一瞬苦しそうに顔を歪めるとその場にうずくまる。
「やぐつぁん!」
私はその様子に焦って駆けつけると体を抱きかかえて顔を覗き込む。
でも顔色は普通だし刺さっているはずの矢はどこにもない。
だから心配して損したと思いながら抱きしめてた手を離そうとした、
でもなぜかやぐつぁんに服の袖を掴まれて軽く引っ張られる。
それはまるで親から離れられず服にしがみついている、人見知りの
激しい子どもみたいだった。
「どうかしたの?」
見たことがない意外に行為に驚きながらも心配になって声をかける。
でもいきなり首筋に手が回ってきたかと思うと、少し乱暴な感じで
引き寄せられてやぐつぁんに抱きしめられてしまう。
「鈍いなぁ。もう少し・・・・・このままがいいってことだよ。」
と不機嫌そうに鼻を鳴らしてぶっきらぼうにそう言われた、でも
言葉とは裏腹にその顔は赤く染まっている。
- 22 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:54
- 「へっ?」
「あのさ・・・・・れいなこと好きだよ。」
唐突な展開に頭がついていけなくて間の抜けた返事をすると、
やぐつぁんは軽く深呼吸をしてから今まで聞いたことないような
優しい声で耳元に囁かれた。
そのストレートな言葉と妙に生温かい息が恥ずかしくて、私は口元を
押えながら首をすくめた。
「や、矢口さん?!」
と声が思いきり裏返ったけどそんなこと気にする余裕はなく、
いきなりの告白に戸惑って久しぶりにさん付けで呼んでしまった。
頭の中が唐突な展開についていけず混乱でショート寸前だった。
「そのさ、あの、何っていうか・・・・オイラじゃダメかな?」
やぐつぁんは抱きしめていた体を名残惜しそうに離すと、熱ぽっい瞳で
こっちを見上げながら訴えかけるような口調で言った。
いつも精神年齢が同じみたいな感じなのに、こういうときだと何か
年相応の艶があって私の胸はまた大きく高鳴ってしまった。
- 23 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/13(日) 23:59
- だからその問いの答えに私は本気で考え込んでしまった。
どうせこれはニイガキさんの魔法せいだろうけど、だからといって
適当に答えを言うのは失礼だと思った。
でも答えは初めから決まっている、私が好きなのは絵里だけだから。
初恋をそのまま今も私は忘れることなく思い続けている。
好きな人と聞かれれば思い浮かぶのは1人だけ。
そう、呆然とリビングの入り口で立ち尽くしているあの亀井絵里だけだ。
「えっ?うえぇぇぇ!!え、絵里?!どうして家におると!」
1人自分の気持ちに酔っていたところで急に我に返ると、部屋の前に
絵里がいてまた頭が混乱してきながら何とか言葉を吐き出す。
「お母さんの実家からリンゴを送ってきたから持ってきたんだけど、
お邪魔したみたいだね。」
絵里は一見穏やかに笑っているけれど細まった瞳は全く笑ってない。
かなり本気で怒っている空気が肌に刺さるように伝わってくる。
「こ、これは色々あったせいで別に変なことは何もなかとよ!」
私は素早くやぐつぁんから体を離すと必死で宥めようとしたけれど、
見つめ合っていたところは見られたからきっと説得力はない。
「じゃ、その子達は?」
「えっと・・・その・・・・。」
「私達はすっごく遠いところから来た親戚なの。」
絵里は軽く受け流すと今度はニイガキさん達について聞いてくる、
未だ混乱して頭が働かない私の代わりになぜかサユが普通に答える。
- 24 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/14(月) 00:02
- 「ふ〜ん、そうなんだぁ。」
絵里は笑いながら頷いているけれど絶対に信じてなさそうだった。
「絵里は誤解してるけん!やぐつぁんとは本当になんでもなか!!」
私はダメだと分かっているけれどもう一度最後に説得を試みる。
「亀井ちゃんなんかやめてオイラにしなよ?」
「だぁぁぁぁぁぁ!今はちょっと勘弁してくださいよ!!」
やぐつぁんが突然後ろから抱きついてきてこの場に最も相応しくない
言葉を言い出すので、慌てて口を塞いだけど時はかなり遅過ぎた。
「れーなのバカ!もう2度と口聞いてあげないから!」
絵里は唇を尖らせ不機嫌そうな顔して叫ぶと、持っていた袋から
リンゴを取ってこちらに向かって思いきり投げつける。
それは見事すぎるコントロールで私の額に当って2つに割れた。
絵里はリビングのドアを壊れそうなくらいの勢いで閉めて帰って
いってしまう。
「ちょ、ちょっと絵里!本当に誤解しとー・・・・。」
私は絶対腫れるはずの額を手で押さえながら、もう誰もいない
リビングの入り口を見つめて寂しげな声で呟いた。
「大丈夫、0が−6になったくらいだから。」
「それ全然フォローになってないやん!」
サユが近くに寄ってきて肩に手を置いて励ましてくれるけど、
それは余計に私を凹ませた。
- 25 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/14(月) 00:09
- 絵里は幼なじみだけあってやぐつぁんとの関係は知ってるから、
後であれはからかっただけだよとか言って謝れば何とかなると思う。
っていうか謝って何とかなると信じたい。
にしてもあの2人が来ない方が絶対に私達の関係は上手くいった、
と今は確信を持って心から思う。
「やっぱオイラにしといた方がいいんじゃない?」
やぐつぁんはまた後ろから肩に手を回して抱き寄せると、相変わらず
軽いノリで親指を立てながら呑気な口調で言った。
「何か大きく腫れてきてますねぇ・・・・。」
ニイガキさんは近づいてくると中腰になって優しく手つきで前髪を
掻き上げると、本当に心配そうな顔で額を見つめて呟く。
「じゃぁ、キズが治るおまじないしてあげるね?」
そしてサユはウィンクしてそう言うと、腫れて熱を持っている額に
触れるだけのキスをする。
「ちょ、ちょっとなんでまたキスばすると!!」
私は素早く身を引くと顔が一気に火照るのを感じながら、痛む額を
押さえてながら叫んだ。
さっきは2人なんか来なければいいと思ったけど、今は本当に少し
だけだけど前言撤回したくなってきた。
っていうかこういう浮気性というか雰囲気に流されやすいところが、
絵里に嫌われる原因を作っていることを私はまだ知らない。
END
- 26 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/14(月) 00:10
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- 27 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/14(月) 00:10
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- 28 名前:46 アホマイルド 投稿日:2005/02/14(月) 00:11
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萌えました?
- 29 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
- このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。
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