38 リアルアンリアル
- 1 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 02:49
- 38 リアルアンリアル
- 2 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 02:49
- 雨の降る日を選んで来いだなんて、随分身勝手な言い分だ。
水溜りにはまったらどうするの。私は泳げないのに。
朝。雨の音で目を覚ました私はちょっとご機嫌斜めに外へ出た。
雨雲が、空いっぱいに広がってるせいか、どこか薄暗い。
「なんでわざわざこんな日なんだろ…」
私は近くにある大きな葉っぱさんにごめんなさいを言ってから、両手で力いっぱい引きちぎった。
それを簡単な傘にした。
もう6月だけど何となくまだ肌寒い。
私はお気に入りのパーカーを羽織って、鏡で身だしなみをチェックしてから道に出た。
地面に跳ね返る雨が顔に当たりそうで、そろっと避けながら歩く。
でも遅刻しちゃうといけないから少し急ぎ足で。
段々雨足を強くする雨を見ながら、傘じゃなくてレインコートにすればよかった、と後悔した。
いっぱい草木が茂った林の中に入ると、雨はあたらなくなった。
それでも水が土にしみこんでるせいか、足元が悪い。
せっかくお気に入りの靴をはいてきたのに、泥でだいなしだ。
私は、石を脇に並べて人工的に作られた道を真っ直ぐと進んだ。でこぼことしていて歩きにくかった。
暫くすると葉っぱの隙間から大きな木が見えてきた。
と、思ったらその隙間から大きな雨粒が落ちてくる。
私は慌てて傘でカバーしたけど、跳ね返った水しぶきがどういう方向転換をしたのか、体の数箇所に当たった。
せっかくのお気に入りの服も台無しだし、私は早く暖かい部屋に入りたくなって、目的地まで駆け出すことにした。
やっぱり雨の降る日に来いとかいったあの人を、ちょっと恨んだりもした。
- 3 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 02:54
- 大きな木の根元に着いた。
いっぱい葉っぱが茂ってるせいか、そこの地面はあまり濡れていない。
私は土から盛り上がってる根っこと根っこの間にあるドアに向かって歩いた。
一応、軽くノックする。
思ったとおり返事がないから、いつもと同じように無断で開けてみる。
葉っぱで作った傘についてる水を軽く掃って、玄関にそれを置いてから、中へ入った。
「もう、呼び出しといて、なんなのー」
机に向かってなにやら書き物をしている彼女の背中に早速抗議をする。
「ん?あぁ、来てたんかぁ」
「来てたんかじゃないの。ちゃんとノックもしたし。それにほら、大好きな服がこんなにびちょびちょになっちゃった」
「あぁ分かった分かった。忙しいからちょい待ってて」
それだけ言うと、彼女はまた机に向き直った。
相変わらずの調子に私は仕方なく、勝手に引き出しを開け、タオルを取り出す。
全身鏡を見ながら身だしなみをチェックして、服を拭いたり頭を拭いたり。
その後もじーっと大好きな鏡を見続けていると、頭から声がかかった。
「ごめんごめん、待たせちゃって」
鏡にひょっこり彼女の姿が映る。
「話ってなんなの」
「んーとねぇ…」
彼女はそういって、近くのソファに腰掛ける。
「ついに実行しようかと思って、あれ」
「え?」
私の反応に、彼女は少し照れくさそうに目を泳がせる。
「あれ、って…。まさか…」
「うん、この雨雲に乗って、行こうかと思って」
そういって嬉しそうに笑う彼女を見て、私は何となく寂しくなった。
- 4 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 02:56
- ○ ○ ○
「さゆはさぁ、見てみたいと思わん?」
いつも無口に文字を書いている彼女が、珍しく話しかけてきた時だった。
「何を?」
「外の世界」
そういって遠くの方を見ながら目を輝かせた彼女のその言葉が、まさか本気だったなんて、その時の私は思わなかった。
○ ○ ○
「愛ちゃん、本当に行っちゃうの?」
着々と準備を進める愛ちゃん。
それをただ見つめる事しかできない私。
あまりにも突然の事にどういう言葉をかければいいのかも分からなくて。
ワクワクしながらリュックサックに荷物を積める愛ちゃんに、鏡も忘れちゃダメだよ、ってアドバイスすることしかできなかった。
幼馴染で、元々隣の家に住んでいた愛ちゃんからの手紙を見たのは、ちょうど一週間前で。
そこには「雨が降る日にうちへ来て。」っていう要件しか書かれてなくて。
わざわざ雨が降るまで待ったのに、まさかこんな事になるなんて思わなかった。
その日は、愛ちゃんちにある葉っぱでできた葉布団で寝た。
出発は明朝だ。愛ちゃんの予想では、あの雨雲は明日一杯も姿を見せるらしい。
私は、大きな風でもふいて、飛んでいっちゃえ、と思った。
朝、愛ちゃんに頬っぺたを叩かれて起こされた。
まだ外は薄暗くて、朝陽は昇りきってないみたいだった。
昨日より雨足はマシだけど、雨雲は相変わらず大きな空に居座って、まるで愛ちゃんの旅立ちを歓迎してるみたいだった。
小粒の雨だった。愛ちゃんはそれを一掴みしてぎゅって握った。
次第に、シャワーのように降り注いでいた雨は段々大きくなっていき、ついにはでっかいシャボン玉になった。
それは地面に足をついているのに、割れずにそのままの姿を保っている。
そして、レインコートで全身とリュックサックを覆った愛ちゃんは、すたすたとその中に入っていった。
「じゃぁ、元気でね」
準備万端といった様子で愛ちゃんは笑顔で顔を向けた。
「…うん、愛ちゃんも…」
昨日の晩からほとんど何も喋らなかった。やっと出た言葉が、自分でも不思議なくらい、それだけだった。
「泣くなよー?」
「な、泣いてなんかないもん」
はいはい、っていいながら、愛ちゃんはシャボン玉から手を出して、私の頭を撫でてくれた。
「またね」
その言葉を最後に、愛ちゃんは手を引っ込め、右の拳を空へ向けた。
大きな雲の塊に真っ直ぐ向かっていくそれを見上げながら、私は頭に手を当てる。
びしょびしょで、早くシャワーを浴びないと、って思いながら、私は何となく動けずにいた。
- 5 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:00
- ○ ○ ○
「さゆはさぁ、見てみたいと思わん?」
「何を?」
「外の世界」
「う〜ん」
「うちと一緒に見に行かん?」
「え〜、いやだよー。ぜんっぜん、興味ないもん。それより、さゆの新しい靴、見てよ――」
地面に当たる、煩い雨音で目が覚めた。どうやらまた降ってるらしい。
リボンのついたパジャマを脱ぎながら、今見た夢を回想する。
そういえばそんな事があった。あの事を思い出すのは久しぶりかもしれない。
あの時、何でもっと真剣に愛ちゃんの話に耳をかさなかったのか。
今更後悔しても無駄だと分かっていても、昨日、あんな手紙が届いたから、動揺してるのかもしれない。
あれからもう一週間経った。私の周りは、愛ちゃんがいなくなった事以外、相変わらずで。
着替え終わってから、机の上に放り出されている手紙をとる。
ほとんどの箇所が、水か何かで濡れたせいか、滲んでいて読めなかった。
ただ、「たぶん、帰れなくなっちゃった。実は…」という文から始まり、「…は来ちゃダメだよ。そこにいなよ。じゃぁ、元気で。」というので終わっているのだけは読めた。
私はそのままドアを開けた。
外に出てみてみると、あの時と同じように西のほうへ向かって、大きな雨雲が動いてるように見えた。
「来ちゃダメって言われたら行ってみたくなるの」
何となく、手に握った雨粒に向かって呟いてみた。目の前に大きなシャボン玉ができる。
私はにっこりとそれに向かって可愛い笑顔を向けてから、用意のために一旦家へ入る。
滲んでる部分が全部読みたいだけだもん、と自分に言い訳をしてから、カバンを取り出してきた。
- 6 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:01
- Ш Ш Ш
二回くらい、お日様が沈んで、昇った気がする。
目覚めた時には、もう雨雲の先端が太陽に照らされたら透け通るくらいになっていた。
やばい、このままではいずれ落ちてしまう。雲が水分を全部吐き出しちゃうと、乗っていられなくなる。
乗った時は黒かった足元の雲も、もうその姿を真っ白に変えていた。
「でも、愛ちゃんが乗っていられたのも、この辺りが限界のはずだよね…」
私は足元に感じるわたあめのような雲に手を突っ込み、拳をつくったまま右手を引き抜いた。
山のような森のような、木が沢山ある場所に降り立った。私の服を傷つける木の枝には、シャボン玉の中にいたせいか当たらなかった。
そして、地上に足がついた。右手を開放すると、シャボン玉も消えて、視界が明らかになった。
どうやらここは山のてっぺんみたいだ。目の前には見たこともないような景色が広がっている。
四角いものや、煙をふいてるような筒みたいなもの。
それがなんだか確かめるためにも、私は小道を大急ぎで下っていった。
山が終わったら、そこには家があった。さっきの四角いものとかはもっと遠くに見える。それも大きな家なんだと思った。
何となく楽しくなって、無我夢中でいろんなところを歩いた。地面から家が生えてる世界なんて、見た事なかった。
それに、ここの人たちはみんな大柄で大きく見える。私と同い年くらいの子かなと思っても、背丈は全然違っていて、大きかった。
初めは、私の事じろじろ見てくる人もいたけど、さっきの四角い大きな家が近くなるにつれて、あまり気にする人もいなくなった。
その代わり、いつの間にか周りにいっぱい人がいた。
みんな忙しそうに歩いたり喋ったりしていて。途中で、家だと思っていたものが、実はいろんなお店だったんだと気付いた。
お店に人が出たり入ったり、立ち止まったり歩いたり、座ったり、笑ったり。こんなに大勢の人やお店を見るのは初めてだった。
ここが「外の世界」なんだって実感した。
- 7 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:02
-
――どんっ。
「痛っ」
突然、地面にしりもち。同時に、肩に軽い衝撃。ぶつかったら恐いなぁと思ってたら、案の定ぶつかってしまった。
「もう、さゆに何するの」
「あ、ごめん」
外の世界の人間と初めて喋った。どうやら言葉は通じるみたい。何でだろう。
見上げると、帽子を被った女の人が、申し訳なさそうに私の顔を見ていた。その人が差し出した手を素直に受け取って、立ち上がる。
そして目が合った。大きな黒い瞳だった。その時、その人の表情が一瞬動いた気がした。何が動いたかって、そんなの良く分かんないけど。
でも私の嫌な予感は何となく的中して、その人はニヤリと笑うと再び手を差し出した。
「私は吉澤ひとみ。あなたは?」
「え…道重、さゆ、み」
「そう。道重さんか。…ふーん、そっか。こりゃ、偶然なんてないのかもね」
「え?」
何を言ってるんだろう、この人は。とかなんとか考えてる間に、私はその人に手を取られてどんどん走っていく事になった。
凄いスピード。この人の足が私より全然長いからかな。なんかちょっと悔しい。
人の波を縫っていって、いつの間にか私はこの吉澤さんっていう人の腕にぶら下がる形になっていた。
速すぎて周りが見えない。昔愛ちゃんと遊んだ時もこんなことがあった気がする。
超高速で、木のてっぺんから下に向かって落ちていくゲーム…。
その時のより数倍速い気がして、恐くなって目をつぶった。私の命綱はこの両手だけ。
外の世界の人ってみんなこうなのかな…。
- 8 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:02
- 「おーい。生きてる?」
頬っぺたをぺちぺちと叩かれて目が覚めた。愛ちゃんによくやられた動作だ。
まだ目がぐるぐると回って気持ち悪い。私はゆっくりと体を起こした。目を開けると、視界には帽子を被った吉澤さんと、その後ろに灰色の壁が見えた。
周りを見渡すと、他には何も見えなかった。
「ごめんごめん。あなた達には、普通の人間の走りでも、物凄く速く感じちゃったりするんだったっけ」
ん?あなた達?普通の人間?
「何の話か、説明してほしいの。…なんでさゆをこんなとこまで連れてきたのかとか、それと、えっと…」
「ストップ。取り合えず質問はそれだけね。いちいち突っ込まれて答えてたら、キリないから」
吉澤さんは帽子を取った。ほくろが多いけど、綺麗な人だと思った。
でもそんなのは一瞬だけで、一番綺麗なのも可愛いのも、どの世界でもナンバー1は私。
「何で道重さんをこんなところに連れてきたか?それはね、ちょっと会わせたい人がいるんだよね」
「さゆに会わせたい人?でも、初めて会ったばっかりの吉澤さんとは関係ないはずだし…」
「まぁまぁ。私もあなたと会うのは初めてだよ。リアルではね」
「リアル?」
私が訪ねると、吉澤さんはクスっと笑って帽子を被りなおした。やっぱりなんか悔しい。
- 9 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:03
- 「その探してる人って、道重さんと同じようなサイズの子でしょ?」
「サイズって、さゆは別に普通の大人サイズなの。」
「知ってるよ。でも私たちから見るとあなた達は小学生サイズにしか見えないからね」
「あなた達って、愛ちゃんを知ってるの?」
「あぁ、愛ちゃんっていうのか、あの子」
「やっぱり!愛ちゃんを、知ってるの?」
「んー、まぁ、知らないわけじゃないね。道重さんと同じサイズだって事は、知ってるよ」
その言い方とその顔になんかちょっと腹が立った。一体この人は何なんだろう。
確かに私はこの世界にいる人達より小さいけど。なんでサイズが違うかとかは、私が聞きたいし。
「じゃあ、そろそろいこっか。あんまし無駄な時間過ごしたくないしね」
「どこに行くの?」
「そこ」
そのまま歩いて行く吉澤さんについていくと、壁の隙間からさっきの四角い家が見えた。
「あのマンションの中にお友達がいると思うよ」
「マンション?あの大きなおうちの中に愛ちゃんがいるの?」
「んー、まぁ、じゃぁ行くよ」
すると、私の体が宙に浮いた。吉澤さんの顔が近くにある。
周りの景色がまた激しく移り変わって、私の体は吉澤さんの腕の中で激しく揺れた。
抱えられるのはしゃくだけど、今度は気を失わなくて済みそうだった。
- 10 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:13
- 吉澤さんに抱き抱えられながら、エレベーターっていう空間移動するものに乗って、その人の家について、その人の部屋の中に入った。
「よーぅ、みきてぃ、元気?」
「よっちゃん?!なんなの?その子。まさか…」
吉澤さんは私を下ろして、得意げに笑う。
「まだ私も完全に負けてないって事だよ」
「ふ〜ん…。ま、見つけたのは美貴が先だけどね」
そこで、ちょっと会話が中断したから、私は思い切って聞いてみた。
「あなたは誰なの?愛ちゃんを、知ってるの?」
「へぇーあなたがそうだったんだねぇー。ふーん」
「さゆの顔がかわいいからって、あまり見ないでほしいの」
その人は、意味ありげに私の顔をじろじろ見て、体全体もじろじろ見た。
いくら私が可愛いからって、なんだかちょっと恥ずかしい。
「ぷっ」
私をじっと見てるその人を見て、なぜか吉澤さんが爆笑しだした。
「笑うな、よっちゃん!くそぅ…まさか、よっちゃんまで…」
「あはは。つい笑いがこみ上げてきて、ね。で、質問には答えてあげないの?藤本美貴さん」
「分かってるよ。…えーっと、あなたの友達、美貴んちにいるよ。美貴が、保管してる」
「保管?」
「とにかく、こっちに来な」
美貴っていう人は手招きするような仕草を見せてから別の部屋に入っていった。
私もその後に続いて、吉澤さんもついてくる。
一体何がどうなってるんだろう。愛ちゃんは外の世界にこんな変なお友達を持っていたのかな。
- 11 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:13
-
「愛ちゃん!」
奥に進んでいくと、愛ちゃんがいた。別れたあの日と同じ服で、近くには愛ちゃんの荷物が置いてあって。
この変な世界で、やっと愛ちゃんを探し出すことができた。
愛ちゃんはソファに座って目をつぶっていた。頭をたれ、私が呼んでも動かない。寝ているのだろうか。
「愛ちゃん?何で愛ちゃんは起きないの?どうしたの?」
「美貴の魔法がかかってるからだよ」
え、と言いながら私は振り向いた。ニヤニヤしながらこっちを見て立っている二人。
「魔法…?やっぱり、ここは魔法の世界だったの?みんなさゆ達よりおっきぃし、変な家に住んでるし、変な物がいっぱいあるし」
「魔法の世界、とはちょっと違うね。生まれつき、美貴だけ魔法が使えたの」
「といっても、それを魔法って呼んでるのは本人だけだけどね」
吉澤さんが意地悪そうに笑いながら横から加える。
「うっさいなー。だって見てよほら。現に目の前で美貴の創ったコビトが寝てるじゃん」
コビト?コビトって私達の事かな。ツクッタってどういう事だろう。確かに、愛ちゃんはいくら呼んでも起きないけど。
「まぁ私もビックリしたけどね。みきてぃが本当にこんな子連れてくるから。そん時はこの勝負には負けたって思ったよ。でも、結局勝ったのは私だったね」
吉澤さんがそういうと、横にいる美貴っていう人が悔しそうに顔を歪めた。
- 12 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:14
- 「ちょっと、さゆにも何が起きてるのか説明してほしいの」
ドアの前で仁王立ちして喋る二人が、何となく怖くなってきた。愛ちゃんは一向に目を覚まさないし、魔法が使えるとかいうし、どこか頭がおかしいのかもしれない。
でもこんな大きな二人と戦ったところで、可愛い私が対抗できるはずもないし。それ以前に、この世界は私の知らない外の世界だった。
「コビトさんに説明する事なんて、別にないよ。さて、と。それじゃぁ、私もみきてぃみたいに、この子を眠らせてみっかなぁ〜」
吉澤さんが嬉しそうに手を掲げた。私のほうを見ている。やっぱり、頭がおかしいみたい。
「あ、ちょっと待って?この手紙を読めなくさせたのは、あなた達なの?」
「ん?何の手紙?ちょっとそれ、見せてよ」
ずっとポケットに入れていた愛ちゃんからの手紙を、私は思わず取り出して、掲げていた。吉澤さんの行動を邪魔するには、こうするのが精一杯だった。
美貴っていう人が目の前まで歩いてきている。「ちょっとそれ見せてよ」って言いながら手紙を取ろうとした。
「渡したくないの。見せるだけなの」
私は少し怖かったから、思わず手を思いっきり後ろに引いてしまった。手紙が、何かにぶつかって、ぐしゃっとなるのが分かる。
顔を横に向けると、愛ちゃんの顔に当たっていた。
その瞬間だった。凄い眩しい光が、目を包んだのは。
音が消えた。空間に存在する全ての音が消えた。
視界も消えた。いや、完全には消えていない。光という真っ白いものしか、見えなかった。
- 13 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:17
- ▽ △ ▽
藤本美貴は魔法が使えた。でもそれは本人が主張していただけの事で、誰も信じようとはしなかった。吉澤ひとみはそんな藤本をいつも馬鹿にしていた。藤本は証拠を見せるといった。人をつくってやると言った。吉澤は笑った。赤ん坊でもつくる気だろう、とまた馬鹿にした。藤本は怒った。童話にしか存在しない小人をつくってやると言った。吉澤はまた笑った。その辺の子供を連れてくる気だろうといった。藤本は怒った。じゃぁその小人も魔法を使えるようにさせると言った。吉澤はまた笑った。だがそれ以上何も言わなかった。
忘れたような頃に、藤本が小さな女の子を連れてきた。これが自分の魔法でつくった魔法を使う小人だといった。吉澤は笑った。でも目は笑っていなかった。証拠を見せると藤本は言った。藤本は魔法を使えと命令した。目の前で、その小人が石を握った。急に、近くに落ちてる石が集まってきたのか、目の前に大きな石の塊ができた。藤本は、四角にしろとか三角にしろとか、小人に命令をした。命令どおりに石は変形した。不思議だった。吉澤は悔しかった。藤本は魔法使いだったのだ。
だが吉澤も藤本に隠して魔法を練習していた。藤本が魔法を使う小人を出すといった次の日に、吉澤も同じ魔法が使えるといってしまったのだ。吉澤は小人のつくり方なんて知らなかった。だが毎日四六時中念じた。藤本の言っていた同じような小人が突然現れるよう、ずっと念じていた。だが勝負に負けた。吉澤は諦めていた。
吉澤は藤本が連れてきた小人の右手に何があるのか観察したことがあった。見かけは何もなかったが、握った時に何かエネルギーを感じた。吉澤は街でぶつかった少女の手を取った時、違和感を感じた。その子の手のひらに、あの小人と同じ熱いエネルギーを感じた――。
△ ▽ △
- 14 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:21
- 「さゆ、起きて。起きろぉ〜〜〜」
頬っぺたをペチペチ叩かれて、目が覚めた。愛ちゃんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。起き上がってみると、愛ちゃんちの葉布団の中にいた。
「え…あれ、愛ちゃん、無事だったの?さゆたち、戻ってこれたの??」
私は一生懸命頭の中を整理する。でもいくら整理しようとしても、どうやってここまで戻ってきたのかとか、記憶がない。
確か外の世界へ行って、変な二人組みと会って眩しくなって…あれ?おかしい、やっぱり何も思い出せない。
「やっぱりさゆが来てくれると思ってたわぁ」
眉間に皺を寄せる私とは打って変わって、愛ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
「一体、どうなってるの?」
私が聞いても、愛ちゃんは笑ったままで、そして何を思いついたのか、外へ行こうって言った。
- 15 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:21
- 私は言われるがままに外へ出た。雨はもう止んでいて、お日様の光が草木に燦燦と降り注いでいた。
愛ちゃんと私は日差しに当たりながら、一緒に歩いた。
「とりあえず、助けてくれて、ありがとう、さゆ」
白い歯を見せながら、愛ちゃんは笑った。私は相変わらず首をかしげることしかできない。
「やっぱり、来ちゃダメって書いたのが正解だったんやねぇ」
「あの手紙のこと?」
「うん。さゆは、来ちゃダメって言われたら、行きたくなるでしょ?一緒に行こうって言っても、来てくれなかったもんね」
「…まぁ、そうだけど、さゆはあの手紙が滲んでなくて普通のだったら、別に行こうとは思わなかったの」
私が言うと、愛ちゃんはとてもおかしそうに大声を上げて笑った。
「わざと読めなくさせたわけじゃなかったんやけどね〜。まぁさゆなら、あの手紙を私に返してくれると思ってたわぁ」
どういう事なの?といくら聞いても、愛ちゃんは含み笑いをしたまま何も話してくれない。
- 16 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:24
- 暫くしたら、大きな湖についた。愛ちゃんがそこに座り込んだから、私も隣に座る。水は透き通っていて、綺麗だった。
「さゆは、世界を創ってみたいって思ったことある?」
愛ちゃんが、右手を握る仕草をした。
「ほら、私達って、右手を握っていろんなもの創れるけど、世界も創れるんかなぁ〜って。
この世界じゃなくて全然オリジナルの世界。雨雲に乗って飛んでいけるくらい近くに、創ってみたい、とか思ったことある?」
「何の話なの」
「それで、そこにも沢山の人が生活していて、私達とは違った感じで、もっと大きい体してたりして、
石みたいに硬いもので地上に家を建てたり、凄い勢いで走る物をつくったり、何もしないで明かりがついたり火をつけたり。
でも私達のような右手を持ってるわけじゃなくて、なんていうか、全くこことは違う世界」
「それって、この間の…?」
愛ちゃんはこくっと頷いた。
「でもその中でも私達みたいな力を持ってると考え出す人がいたりしてさぁ。
私は別に、そんな設定してなかったのに、勝手に自分は"そういう"力が使えるって勘違いしちゃったりして」
「愛ちゃん、もしかして、外の世界、って…」
愛ちゃんは嬉しそうに笑って左手を湖の中に入れた。水の妖精が踊りだしたかと思うと、それは波になり、やがてはこの前までいた『外の世界』を映し出した。
吉澤さんと美貴っていう人が、あの部屋にいて、何かを喋ってた。二人で物凄い言い合いをしてるようだった。
これは、左手から愛ちゃんの世界が映し出されてる…?
- 17 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:30
- 「これが、さっきまでいた外の世界。私がこの右手で創った世界。私達がここを抜け出すまで時間を止めて移動してきたから、ビックリして騒いでる」
愛ちゃんはおかしそうに笑った。
「さゆが行った時、愛ちゃんは何で寝てたの?」
「うん、それ。実は、魔法を使えるとかいったフジモトミキっていう子に会いたくなって、この世界に行ってみたんよ。
こっそり影から見るつもりやったんやけどね、不覚にも見つかっちゃって。
もしかして、あなたが魔法を使える小人?やっぱり美貴の魔法は本物だったんだね!とか言われちゃって、
そこで一瞬、頭の中でその設定をイメージしちゃって」
愛ちゃんは大きく息を吸い込んだ。
「喜ぶフジモトミキに、眠れって言われて、眠っちゃった。
まさか、一瞬のうちに私の頭の中で、フジモトミキが魔法使いに設定されてたなんて思わなかったんやよ」
愛ちゃんの説明は、分かったような分からなかったような。でも取り合えず私は、頷いておいた。
「本当に間抜けやわぁ。さゆを巻き込むつもりはなかったんやけど、薄れる意識の中で取り合えず手紙だけ創って送っといたんよ。
滲んだ部分が多かったんはそのせいやよ」
まぁそのおかげでさゆが来てくれたから良かったけど〜、って愛ちゃんはまた笑った。
「どうやってフジモトミキの魔法が解けるのか、私もよく分からなかったけど、まさか手紙とさゆの手を顔面に受けて目を覚ますとは思わんかったわぁ。
普通に殴られたから目が覚めたんかもねぇ」
また愛ちゃんがけたけたと笑った。その笑い声を聞いてると、私もなんだかおかしくなった。
湖に映る、その藤本美貴は、愛ちゃんが寝ていたソファを何度も指差したり、乗っかったりして、必死で何かを探していた。横で吉澤さんが怪訝そうにそれを見ていた。
- 18 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:31
- そして愛ちゃんは湖から手を引き抜いた。映像が消え、一瞬波がたち、そしてまたいつもの透き通った水の集まりに戻った。
「本当の魔法なんて、本当の世界にしかないのにね」
「そうだね」
「さゆもさぁ、他の外の世界、見てみたくない?」
愛ちゃんが悪戯そうにこっちを見た。お日様に照らされて顔がてかてか輝いていた。
私は愛ちゃんが創った世界を思い出しながら、右の手のひらを見た。
「あんな世界、可愛くなかったの。さゆはもっと、可愛い世界をつくってみる」
分かった、また見せて、っていう愛ちゃんに、今度は二人で行こうね、って言ってから、また笑った。
私は右手を、ぎゅっと握り締めた。
- 19 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:31
- E N D
- 20 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:32
- real?
- 21 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:33
- or
- 22 名前:38 リアルアンリアル 投稿日:2005/02/11(金) 03:33
- unreal?
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