37 『Do You Believe In Magic?』
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:19
- 37 『Do You Believe In Magic?』
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:20
- 「だからさ、いつでもそうだよ?自分をもっと信じて。亀井なら絶対、出来るんだよ」
あたしは亀井の目を覗き込んで、じっと見つめた。
普段から大きいとよく言われるあたしの目は今、どれくらい見開いているだろうか。
普段とは違うあたしの姿を亀井は、ちゃんと感じてくれているだろうか。
あたしから目を逸らさずに彼女はゆっくりと瞬きをして小さく笑うと、うなずいた。
きっと、大丈夫だろう。
そこで笑ってみせてあたしは亀井の肩を抱いた。
「がんばろーぜ、がんばるからさ」
耳元に囁いて、肩を叩く。
「はい」
いつもの亀井のへらへらした返事だけれどもう、大丈夫。
あたしは、じゃあまた明日ね、と手をあげて、部屋を出た。
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:21
- カツ、カツ。
静かな廊下で、あたしのブーツの踵が鳴る。
ほう、と大きく溜息をつく。
歩きながら思わず、額に手をやってしまう。
それでも興奮は収まらない。
そう簡単に抜けられるようなものではないのだ。
疲れた。
本当に疲れた。
最近どうも仕事のやり方がいい加減になっている亀井に対しての不満が、メンバーの間から聞かれるようになっていた。
その場であたし達が注意しない訳ではないし、いつでも必死になることをあたし達が見せてない訳でもない。
それでも、そういう時期ってのはやって来るコには来るんだろう。
あたしは自分がそれを経たから、知っている。
いわゆる「年長組」っていうのは、ついに3人になってしまった今。
あたし達が若かった頃には当然だったことも、5期や6期のコ達にはそうではないらしい。
仲良くやるのが一番で、お互いを高め合い、より良くあり続ける為には場合によっては議論になるくらいの覚悟が必要なことも、知らない。
「本当に必死になる」姿やその結果を、いつも目の前で見ているのにね。
矢口さんも梨華ちゃんも、当然今までと同じようにやっている。
自分自身が全力投球なのはもちろん、後輩の指導だって。
それでもどうにもならないこともある。
結局は本人次第だから。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:21
- あたしは半年に一度くらいこうして誰かに何かを本当に伝える為に、渾身の力を込める。
器用な人ならそれを、軽々とやってしまうのかもしれない。
でもあたしは自分の身を削らないとそれが出来ない。
けれど必ず伝わる何かは、相手を変えることが出来る。
あたしはそれを自分の中だけで「魔法」と読んでいた。
矢口さんでも梨華ちゃんでもなく、あたしがそれをやる意味が絶対に、あると思う。
普段はあんなキャラで居続けている、このあたしが。
その結果は必ず出るものなのだけれど。
亀井ののらりくらりとした反応は他の誰よりも長すぎて、それをまず動かすのにひどくパワーを使った。
彼女の中にあるはずの「気」を動かすには、身振り手振り、話し方、言葉、あたしの中のすべてを出し切って、「魔法」を使う。
本当に疲れた。
昨日はあまり寝ていなかったし、今日はリハが相当ハードだった。
それでも今日しか、なかったから。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:22
- ポケットで携帯が震える。
画面を見ると、カオリさんだった。
何も考えずに通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『あ、よっすぃー、今平気?』
このタイミングで懐かしいヒトの声を遠くに聴くだけであたしは、本当にほっとしていた。
あたしが甘えられる、数少ない相手。
「カオリさん」
さっきまでの集中力と緊張感がものすごい勢いで緩んでいくのを感じる。
カオリさん、カオリさん。
あたしはその名前を心の中だけでつぶやいたのか、実際に声に出してしまったのかもわからなかった。
けれどカオリさんは、何かを察したようだった。
『大丈夫?どうかした?ね、逢おうよ、逢わない?たぶん近くにいるから』
カオリさんはたぶん事務所に寄ったりして、今日のあたし達の居場所を知ってるのだろう。
すぐ行くから、待ってて、そう言ってカオリさんは電話を切った。
あたしは携帯を握り締めたまま、廊下の壁に寄りかかる。
誰かに「魔法」をかけたあとの緊張感というのはしばらく抜けないものなのだけれど、カオリさんの声を聴くだけでこんなに、気が抜けるなんて。
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:22
- ドアを開けて入ってきたカオリさんの姿を見てあたしは、泣き出しそうになってしまった。
実際に涙が出る訳ではない。
ただそういう気分になることって、たぶん誰にでもあるんだと思う。
あたしはそれを普段、出せる立場にない。
「よっすぃー?どうしたの?」
カオリさんがすぐにあたしを抱きしめた。
あたしは何も言えずに、首を横に振るしかなかった。
どうもしない、何もない、ただあたしはあたしの全てを使って、誰かに何かを伝えただけ。
「大丈夫かな?壊れそうでたまに、心配になるよ」
カオリさんがあたしの背中を撫でながら、耳元でつぶやく。
あたしの、魔法。
あたしにとっての、魔法。
今はもう同じグループにいない人だからこそ、それが出来るんじゃないかとも思う。
カオリさんの「魔法」であたしは一瞬で、心から安心して、今は何もしなくていいんだ、と思うことが出来た。
「ううん、大丈夫。大丈夫じゃないけど、大丈夫」
泣き笑いな気分でそう答えるとカオリさんは、はは、何だそれ、と笑って、ゴハン食べに行こっか、と言った。
あたしはうなずいて、一緒に歩き出す。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:23
- 外に出ると夜風が、あたし達の周りを通り抜けていった。
短くなっているカオリさんの髪は今はもう、あたしの頬を撫でない。
「もう春だね」
冬の切り裂くような冷たさはもう、数週間前から感じない。
「そうですね」
そう答えてあたしは、視線を上げて胸を張って歩いた。
隣にいる人と並んでも、おかしくないように。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:23
- 「魔法」なんて本当は「魔法」じゃない。
あたし達はこうやって生きてくだけの、魔法使いでも何でもない、ただの女のコだから。
でも信じるって悪くない。
「魔法」を信じるのってつまりは、相手と自分を信じるってこと。
あたしはたぶんそれを、この人達から学んだんだと思う。
そうしてそれを、あたし達も伝えてかなきゃいけないんだ。
鼻歌交じりであたしの肩を抱いて歩くカオリさんは、もう何も気にしてないように見えた。
そう、見せてくれてるのだろう。
「カオリさんって、ロマンチストですよね」
「ん?そうだよ?よっすぃーもでしょ」
「そうなんですけどね」
2人で笑いもせずに、歩き続けた。
「魔法」を信じる「ロマンチスト」が一番、現実的だと思う。
そういう世界に、生きてるあたし達。
「夢」や「魔法」はあたし達の仕事であり、道具だから。
明日のステージであたしはそれを、みんなに見せようと思った。
今までよりも、もっともっと、力を込めて。
はは、単純だね。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:23
- 「おなか空いちゃったね。どうする?何食べたい?どうしよっか、ねえ、よっすぃーよっすぃー答えてよー」
隣にいるあたしの魔法使いは何故か急にテンションが高くなっていた。
あたしも何となくそれに合わせて、くだらない冗談を言う。
「魔法使いは、何も食べなくて平気じゃないんですか?」
「何言ってんの?頭大丈夫?」
笑うカオリさんの手を引っ張って、走り出した。
魔法使いは魔法の食べ物を食べるのだ!
今なら、そう…あれだ、ラーメンとか。
「ちゃんとつかまっててくださいね!」
「よくわかんないけど、わかった!」
あたしは魔法のほうきのスピードを、あげた。
星の間を縫うみたくあたし達はしばらくの間、夜間飛行を楽しんだ。
- 10 名前:37 『Do You Believe In Magic?』 投稿日:2005/02/11(金) 01:24
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- 11 名前:37 『Do You Believe In Magic?』 投稿日:2005/02/11(金) 01:24
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- 12 名前:37 『Do You Believe In Magic?』 投稿日:2005/02/11(金) 01:24
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