30 小さな魔法

1 名前:30 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:08
30 小さな魔法
2 名前:30 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:09
孤独は確かに怖い。それは間違いない。
だけどそれと同時に人間は慣れてしまう生き物だ。
慣れれば、孤独ほど居心地のいい場所は見当たらない。
いつからかあたしは孤独を望むようになっていた。
それは、裏切りや陰口を散々目にしてきたあたしの知恵だった。


3 名前:30 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:10
あたしはいつも席替えで、窓側の席を取ろうとした。
滑り止めで受けたこの学校の授業はどれも退屈で、
窓からの景色を眺めつつ小説のタネを見つけるくらいしかすることがなかったからだ。

中学の時一度、あたしが小説を書いていることを知っている友達が、
影でそれを馬鹿にしている場面にでくわしたことがある。
それ以来、小説を書いているなどと言うことは誰にも打ち明けてはいなかった。
なので無論クラスメイトは誰一人、あたしが授業中ノートに小説を書いてることなど知らない。

もちろん小説家になろうなんて思っているわけではなかった。
楽しいし、他にすることなんてない現実があった。
けれども別に寂しくはなかった。
誰も彼も「田中さん」としか呼ばないこともむしろ嬉しかった。

あたしは毎日の学校生活をそんな風に過ごしていた。

4 名前:30 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:13
「それじゃあ、何か文化祭でやりたい出し物ある人ー」
いつも馬鹿なことばかりやっている女子のリーダー格でもある学級委員が、意見を求めた。

「お化け屋敷とかでいんじゃね?」
「私は駄菓子屋とかやりたいなあ」

もう、好きにしてくれ。
そう思って端っこの席で突っ伏した。
どうせ寝ていたって影の薄いあたしを咎める奴などいないだろう。

やがて出し物は駄菓子屋ということに決まったようだった。
まぁ、無難なところか。
これで面倒くさい仕入れ等の仕事さえ受けなければまた気楽に過ごしていける。
5 名前:30 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:14
そんな風に思っていたのは、どうやら間違いだったようだ。
三日間ある準備の一日目、あたしは苦痛でしかたなかった。

教室の飾りつけの手始めに、何故か全員の手形を大きな模造紙につけ、
後ろの掲示物スペースの隅に貼られた。
あたしの手形の周りには気にしなければ分からないような、それでいて確かな余白が存在していた。
慣れた筈の孤独なのに、なぜかちくりと心が痛んだ。

それから、ダンボール製のあるキャラクターの等身大の置き物や、
壁に貼る絵の制作が行われた。
絵の具で色を塗ったり、ダンボールを切ったり、仕事は多く、
それに連れ他人との接触も増えた。
そこに自分との見えない壁があるのを見出すのは怖かった。
6 名前:30 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:16
二日目が来た。
あたしは、いっそ今だけ無愛想はやめようと決めた。
人間関係の潤滑剤としての笑顔くらい作れる。

「あ、道重さんそこのカッター取ってもらえる?」
「はい」
「ありがとう」
言いながら、にっこり笑う。
我ながら完璧。
道重さんは一瞬不思議そうな顔をしてから、お手本みたいな笑顔を浮べた。

「田中さんって笑顔素敵だね。私に負けてないかも」
「え……。そ、そう?」
「うん。すごい可愛い」
言われなれていない言葉にどうしていいのかわからなくなる。
「あはは、照れちゃった」
「変なこと言うからだよー」
「でも嘘じゃないもん」
言って彼女は絵筆を洗いに立ち上がった。
7 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:17
意外とすんなりと、あたしはクラスに受け入れられた。
それはおそらく文化祭という共同作業における仲間意識みたいなものの成せる業だろう。
あたしもまるでメイフラワー号の船員にでもなったような連帯感が生まれていた。
それは言わば、文化祭と言う小さな魔法だった。

三日目の昼、クラスTシャツが届いた。
背中に「イチビイ駄菓子屋。」と書かれ、
前には「一人は皆のために 皆は一人のために」と言う文字が見える。

一時作業は中断され、それぞれがTシャツを身につけた。
それから、マジックでメッセージの交換。

昨日、無愛想を止めようと思ってよかった。
でなければ今あたしは皆との距離を目の前に突きつけられていただろう。
結局あたしは、孤独に甘んじていただけだったことに気づかされていた。
孤独には慣れていても、それをまざまざと見せ付けられることはあまりに苦痛すぎた。
8 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:18
あたしもいろんなメッセージを書いてもらって、作業は再開された。
せっせと動き回り、やがて陽も暮れようとする頃、残る作業は一つを残すのみとなっていた。
「ようこそイチビイ駄菓子屋へ」と書かれ、教室の後ろの掲示スペースに貼られる予定のちぎり絵。

あたしは千切られた色紙に糊をつけて貼る作業にひたすら没頭していた。
しばらくするとクラスが全員集まってきて、それに加わる。

そして。
クラスの全員が見守る中、あたしは最後の一切れを台紙に貼り付けた。

「終わったぁー」
「お疲れ!」
歓声が入り乱れる中、それは掲示スペースに掛けられた。

そして、男子の学級委員が高らかに宣言した。
「よーし、片づけして今日は撤収!」


9 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:18
翌日から三日間、あたしはひたすら働いた。
もちろん自分の意思で。
それがどうにも心地よかったから。

三日目が終わり、部屋の飾り付けを取り去る時には涙さえ流した。
魔法のかかった場所が、見慣れた空間に戻っていくのが悲しかった。
涙を流すのなんか、何年ぶりだろう。


もうあたしは魔法なんかに頼らない。
楽しい学園生活は自分で作っていくんだ。


10 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:20
冬が来た。
その日は雪が降っていた。

友達と三人での帰宅途中、あたしは本屋に駆け込んで、一冊の文芸雑誌を買った。
文化祭での一致団結を通して孤独の殻から抜け出そうとする少女を描いた小説を、
あたしはこの雑誌に投稿していたのだ。
勿論今ではクラス中が知っている。
タイトルは――


「あった! 優秀賞! 『小さな魔法』!!」




11 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:20
ゴメンナサイ31でした orz
12 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:20
orz
13 名前:31 小さな魔法 投稿日:2005/02/08(火) 02:21
orz

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