28 ミスラ
- 1 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:55
- 28 ミスラ
- 2 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:56
- 飛び降りてやろうかしら。と思った。もうなんか悩みとか怒りを通り越して
私は真っ青になっていた。しかしなんに悩んでいるのか思い出せない。
思い出せない。あー。
「どうしたのリカちゃん」と言ってドアからごっちんが入ってくる。ごっちん
は確かに居て声も聞こえて、触れば感じるんだろうけどどこか現実離れ
した風だ。
- 3 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:56
- そしてごっちんは「なるほど。満たされないんだね。」と、まだ私何にも
答えてないのに言った。なんか正解っぽい気がしたので私もうなずい
た。ごっちんは汚い本を取り出した。表紙がまっくろで魔方陣とか書いて
ある系の本だった。「もううすうす予想つくだろうけど」とごっちんは笑っ
た。「あたし魔法使えるんだよね」
- 4 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:57
- 「ほんとのことがウソになる魔法なんだよ。」とごっちんは言った。ほんと
にそんなことあるんですか。と思ったがいえなかった。なんとなくいえな
いような雰囲気だった。
「じゃあもしあたしが、今日雨降ってる!って言ったら晴れんの?」と言っ
て私は窓の外を指差した。雨がざーざー降ってる。これが晴れるんなら
信じてもいいし信じなきゃいけないような気がした。
「もちろん晴れるよ」とごっちんは答えた。そして「じゃあ」と言いかける私
をさえぎって続けた。「でもリカちゃんってそんな下らないことで悩むんだ
ね。」
- 5 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:57
- むっときた私は必死で考えた。私が満たされないのは何故。何故。私が
ウソにしたいことって何。そして私は手を挙げた。
「オッケーです。魔法かけてください。」
「はい。」
ごっちんは魔法使いっぽく手をかざした。ぶつぶつと呟いた。「いくよ。ピ
ロリンピロリン・・・もういいよ。」
「もういいの。」
「うん。」
「じゃあ。」私は息を吸った。それから吐いた。そして言った。「モーニング
娘。は落ち目だ。」
- 6 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:57
- 翌朝目覚めてテレビをつけるとマンパワーがデイリーチャートで一位だっ
た。今回のモーニング娘。のシングルはすでにミリオンセラーをはるかに
突破して現在でもバックオーダーが云々と喋りつづけるテレビを消した。
それから伸びをした。ぼんやりもしていられない。すでに迎えの車は来
ているし、今日のスケジュールもすし詰め。
- 7 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:57
- 悪い道でもちっとも揺れない黒塗りのリムジンに乗って、控え室につくと
すでにみんな揃っていた。「なんかまたミリオン突破らしいよ」「また忙し
くなりそうだねー」とかウンザリした顔で言い合っていた。ウンザリしなが
らもどこかその目はキラキラ輝いていた。みんなこんな顔してたんだ、と
私は思った。それだけでちょっといい気分になった。
- 8 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:57
- そこへ番組のプロデューサーが土下座しながら入ってきた。マネー
ジャーがその頭を踏みながらコノヤロウ待ち時間作るとはいい度胸じゃ
ねえかと言うようなことを言ってプロデューサーはコンクリートの床を陥没
させるくらい土下座した。やがてはじまった収録は全部カンペ棒読みで
20分くらいで終わってNGなんかいっこもなかった。そして終わると百万
円もらった。みんなもらった。
- 9 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:58
- 「ああ、これがトップアイドルってやつなのね。」と移動中の車の中でお
にぎりを頬張りながら私は思った。おにぎりはお寿司屋さんのひとが
握った最高級おにぎりだった。マネージャーは忙しそうに手帳をめくり、
ちらっとのぞくとスケジュールは秒単位で管理されていた。トイレのタイミ
ングとかも。もしかしたら呼吸も。私はぞくぞくした。一秒すら貴重だか
らって縛られることの快感。トップアイドルって素晴らしい。
- 10 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:58
- 夜になってやっと全ての仕事が終わった。夜になってもよく晴れた空だ。
まるで誰かの心みたいに。車の中、私は携帯を取り出し、ごっちんに電
話をかける。
「ねえ、ごっちん。今仕事終わったんだけどさ。お礼がしたいの。」
「おつかれ。わざわざ。いいのに。」
「せっかくだから御飯でも食べよう。あたし迎えに行くよ。あたしのお家で
さ。」
- 11 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:58
- 私はとても浮かれていた。自分だけ浮かれちゃってるみたいで、すこし
不安だったけど、迎えに行くとごっちんもすごく喜んでいた。
「なんかごめん。あたしだけ自分勝手で。ハロプロは。ってすればよかっ
たね。そしたら。」
「何言ってんの水くさい。はは。」
私たちは楽しく食事をした。ひとつだけ残念だったのは、ほんとは私が
腕を奮おうとしたんだけど、ごっちんが出前がいいって言うから、そうし
た。
- 12 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:58
- 「じゃあもうそろそろ。明日も早いんでしょう。」気がつくとまるで魔法のよ
うに時は流れていた。ごっちんはすでに立ち上がっていた。
「ん、送るよ・・・」
「あ、寝ちゃっていいよ、べつに送んなくっていいよ・・・どうせオートロック
じゃん。もうタクシーも呼んだしさ。」
そう言うわけにはいかないけど、私はソファに寝転がったまま、なんだか
けだるくって動けないのだ。久々に忙しくって、疲れちゃったのかもしれ
ない。
- 13 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:58
- 「ごめん、なんかあたし眠くってさー・・・」
「しょうがないよね。」
「でもさごっちんありがとう。あたしの悩みすっかり解決したみたい。」
ごっちんは首だけ振り返って、ほんとうに嬉しそうに笑って、「まあウソな
んだけどね。」と呟いた。そして、ごっちんが出て行ったドアがばたんと
閉まった。瞬間、背筋のあたりからハッキリするような感覚に包まれ、私
は飛び起きた。
見るまでもなく窓の外は大降りの雨。飛び降りてやろうかしら。
- 14 名前:28 ミスラ 投稿日:2005/02/07(月) 01:59
- 終
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