19 WOMAN FROM TOKYO

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/04(金) 01:02
19 WOMAN FROM TOKYO
2 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:04

「で、奴についての情報は? 何か分かったのか?」
「・・・どうやらあのモサドの女スパイと繋がりがあるらしいです。」
「エリザベスとか言ったか? 彼女が我々の監視下に置かれてるという報告は受けているが・・・」
「はい。あの女に握らせたディスクの中身は、ペンタゴンの重要機密であると匂わせています。
 本物かどうか確かめたいと必ず思う筈なんですが、残念ながら彼女にそこまでのスキルはありません。」
「・・・それで?」
「エリザベスはまだ我々の罠だとは気付いてません。
 本当に繋がりがあるなら、データ解析を依頼するためリッチーに接触する筈です。
 チャンスはその一度きり。それを逃せば、当分リッチーのツラを拝む事は出来ないでしょう。」
「とにかく何でもいい。奴を死体袋に入れて持って帰ってきてくれ。」

ヴァージニア州ラングレーにあるアメリカ中央情報局。
その最上階の一室で、CIA長官と作戦担当副長官が額を付き合わせるようにして密談をしていた。

この数年間、CIAが威信を賭けて追っている男がいる。
中東やロシア、東南アジア、そしてアメリカでも破壊活動などをして好き放題に暴れ、
武器の密輸やデータの売買で莫大な利益を上げている一匹狼で、
コードネームがリッチーという事以外、顔も素性も分かっていない。
半年前にCIAは、世界最高峰の諜報機関であるイスラエルのモサドに協力を仰ぎ、後一歩の所まで追いつめたが
作戦をよく理解してなかった女工作員エリザベスのミスで取り逃がしてしまっていた。
3 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:04

***
4 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:05

雪がチラチラと舞う、ジョン・F・ケネディ国際空港。
モーニング娘。一行は、特別番組のロケで、ここニューヨークにやって来た。
ハロプロの最終公演で無事飯田を送り出し、これが新生モーニング娘。としての初めての仕事だった。
当初テレビ局からのオファーは、現地一泊という超強行軍プランだったが、
折角アメリカまで行くのなら、と考えた事務所が、娘。達の滞在予定を一日追加した。
この機会に乗じて、PVに入れるイメージカットの撮影をするためである。

「うわーっ、すごーい!! ねぇねぇ、さゆ!!」
「・・・さむっ。」
「ねぇ、さゆってば! 見て、ニューヨークに来たって感じじゃない?」
「そうだけど・・・あたし、寒いの苦手なの。」
「何よ、折角のニューヨークだってのに。あたしなんか、すっごい、ワクワクする!」
「えり、ハワイの時もそうだったもんね。外人を見てテンションが上がるそのクセ、どうにかならないの?」
完全に浮かれきってピョンピョン跳びはねる絵里を、さゆみは呆れた表情で眺めていた。

空港を出た娘。達は、現地コーディネーターの案内で用意されていたバスに乗り込む。
マンハッタンにあるホテルまでの車中では、たっぷり一時間チーフマネージャーからの注意が続いていた。
ここがどんなに危険な街であるか、という説明をくどい位に繰り返すが、
窓の外に流れる美しい景色に夢中だった絵里の耳には、ほどんど届いていなかった。
5 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:06

翌日、11人の娘。達は疲れや時差ボケをものともせず、朝早くから元気に収録をこなしていく。
午前中はフェリーでリバティアイランドに渡り、昼からはバッテリーパークに場所を移してのロケを敢行する。
とにかくマンハッタンなので、どこにいても、どっちを向いても絵になる。
同行している制作プロデューサーも上機嫌で、娘。達のランチ休憩の時間までカメラを回し続け、
ラストは全員でタイムズスクエア前のブロードウェイを歩くシーンで締められた。

「ちょっと、えり。」
「んー?」
「優勝パレードしてるんじゃないんだから、すれ違う人にいちいち手を振らないでよ。」
「なんでー?」
「一緒にいて恥ずかしいじゃない!」
「そんな事言われたって・・・あっ、ホラホラさゆ、あの金髪のおばさん、ニッコリ笑ってくれたよ!」
「・・・そりゃ、笑ってるんじゃなくて、笑われてんだよ・・・」

まだ充分に日が高い午後三時。
殆どのシーンがNGを出さない一発テイクでここまで来たため、早い時間に外での撮影は終了した。
後はホテルからの夜景シーンを残すのみで、当初の予定にはなかった自由時間が娘。達に与えられる。
夕食までの短い時間とはいえ予想してなかった展開に皆のテンションは一気に上がり、
早速買い物メインの矢口班と観光メインの吉澤班に分かれ、それぞれが街に繰り出していった。
6 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:07

ウィークディの半端な時間だというのに人通りはかなり多い。
吉澤班はロックフェラーセンターのビル群を右手に見ながら五番街を満喫していた。
東京ではこうはいかないだろう。自分達だと気付かれずに笑い声を上げながら街を闊歩する。
しかし、その久しく忘れていた快感も長くは続かなかった。

「よ、吉澤さん・・・」
「どした、シゲさん?」
「あの、今気付いたんですけど・・・えりが見当たりません・・・」
「何ィ!?」
「マジで!?」
そこにいた全員が一斉に辺りを見渡す。確かにさっきまでは列の後方にいた絵里の姿が消えていた。

「あのバカ・・・エラい事になったぞ・・・とにかく二手に分かれて探そう。
 ミキティはコンコンと、マコトとシゲさんはあたしと一緒だ。ミキティ、レンタル携帯持ってたよな?」
「うん。」
「じゃそれで連絡を取り合おう。マネージャーさんにはあたしが電話しとく。」
「分かった。」
「地図出して。えーっと、ウチらはここからこっち、ミキティ達はこっちからこの辺。」
「OK。」
以前に保田と矢口がロシアで行方不明、っていうギャグがあった事を吉澤は思い出す。
顔面蒼白になりながらも『モーニング娘。約一名、ニューヨークで行方不明!』 
という見出しが吉澤の頭にボンヤリと浮かんだ。
7 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:07

***
8 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:08

『チームA、現在の状況を知らせてくれ。』
「チームAからチームゼロへ。現在エリザベスはタッパンジーブリッジを時速100マイルで東へ走行中。
 このまま進めば287号線には入らず、87号線を南下するものと思われます。」
『了解。チームBがフォローに回るので、そのまま慎重に尾行を続けてくれ。』

長らく沈黙を守り続けてきたエリザベスが遂に動き出した。
チームAのリーダーであるペイスは緊張のあまり、ステアリングを握る手に力が入る。
エリザベスのシボレーは本部に連絡した通り87号線に入った。と言う事はマンハッタンに向かうのだろう。
ペイスが、追いついてきたチームBのアストロをルームミラーで確認する。

事件はその時起こった。
緩いカーブで突然尻を振ったシボレーのブレーキランプが灯ったかと思うと、激しく横滑りを始める。
完全にコントロールを失い車体が一回転スピンすると、モロに中央分離帯のコンクリート部分に頭から衝突した。
青ざめたペイスは車を止めシボレーに駆け寄る。アストロのドライバーが発煙筒を後方に投げる。
悲しい程に全てがスローモーションのようだった。

「やっぱり、CIAだったのね・・・気付いた瞬間にハンドル操作ミスしちゃったよ・・・」
ペイスが大破したシボレーから血まみれのエリザベスを助け出した時はもう虫の息だった。
「教えてくれ! リッチーとはどういう話になってたんだ!」
「・・・四時にセントラルパーク・・・でも無理よ・・・リッチーは私の容姿を知らない・・・私から彼に声をかけないと・・・」
「かけないと、何だ!? セントラルパークのどこだ!?」
「・・・無理よ・・・リッチーは・・・永遠に・・・闇に消える・・・」
叫ぶようなペイスの問いかけに、エリザベスはゴボゴボと血の泡を吹き、最後に少し微笑んだ。
9 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:09

***
10 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:09

「さゆ! この景色見た事ない? なんかの映画でここ出てたよね!!」
絵里が袖を引っ張ると、黒人の女の子がゆっくり振り返る。
「What?(何よ?)」
「アレ、さゆじゃない。ごめんなさ・・・あ、あいむ そぉりぃ。」
「・・・Are you OK?(アンタ大丈夫か?)」
女の子は怪訝そうな表情を浮かべて、足早に去っていく。
今までさゆみだと思ってたのは、同じようなコートを着た赤の他人だった。

「どうりで反応ない筈よね・・・エヘヘ・・・ってゆうか・・・アレ? あたし、はぐれちゃった?」
独り言を呟きながらキョロキョロと辺りを見渡す。目の届く範囲に知ってる顔は一つもなかった。

「・・・まぁいっか。ホテルの場所は分かるし、今日に限っては、一人の方がなんか楽しいもんね!」
吉澤班メンバーの心配をよそに、いや、現在はすでに連絡を受けた矢口班やマネージャー三人も血眼になって
絵里を探しているのだが、本人はまさかそんな大事になっているとは小指の先程も思っていない。

「ラララー。さっきの女の子にもあたしの英語通じたしー。あいむそぉりぃ、って言ったらぁ
 ちゃんと、おっけーって許してくれたもんねー。ラララーララララー。ねーっ!」
即興で作った歌を歌いながら、すれ違う人に突然同意を求める。
絵里に声をかけられた人はビックリして一瞬立ち止まり、何事もなかったかのようにまた歩き始める。
テンションがマックスの目盛りを振り切っている今の絵里は完全に無敵状態だった。
11 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:10

暫くトコトコ歩きながら絵里は公園に入っていった。
やたらと広い所で一面芝生になっている。奥の方は木が生い茂り、森のような雰囲気だった。
周遊コースを鼻歌を歌いながら歩いていると、途中のベンチに全身黒ずくめの男が座っている。
そのただならぬムードを醸し出す男に興味が湧いた絵里は、隣のベンチに腰を下ろした。

「・・・へろー。」
無視されれば黙って行くつもりだったが、男は反応した。
「Hi.(やぁ)」
「へ、へろー。へろー。えーっと・・・は、はぅ あー ゆう。」
嬉しくなった絵里は立ち上がり、男と同じベンチに座り直す。

「Pretty good.(元気だよ)」
「きゃーっ、嘘? プリティ? あたしが可愛いって事? さすがおじさん、見る目あるじゃん!」

(何を言ってるのか全く分からんが・・・こいつがクーリエなのか? こんな子供が?
 しかし・・・白いコートを着て、四時ピッタリに俺に声をかけてきた・・・こんな偶然は無いはずだ)

(アレ? ってゆうか、褒められてつい騒いじゃったけど、はぅ あー ゆう、には
 あいむ ふぁいん てんきゅう、で返すもんよね・・・ひょっとしたらこのおじさん英語分かんないのかぁ?)

ベンチに深く腰掛けると完全に足が浮いてしまい、つま先をプラプラさせながら絵里は首を傾げた。
12 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:11

「Elizabeth?(君がエリザベスなの?)」
「・・・は!? い、いぇーす、いぇーす! まい ねーむ いず えりざべす!!」

(やっぱりそうだったのか・・・さすがはモサドだ・・・怪しまれないように色んな人材を揃えてるんだな)

(何でこのおじさんはあたしの事、知ってるんだろう? 
 はっ、もしかして・・・ハロモニってニューヨークにも放送されてるんだぁ!
 すごーい、あたしって国際的女優じゃん!)

「でも来週からはエリックになってるよ。ウヘヘヘヘ。」
「・・・What?(・・・は?)」
「や、いいんだけどね。来週を楽しみにしててよ。これって英語で何て言うんだろう?
 まいいか。おじさんの英語だって怪しいもんね。エヘヘ。」

(相変わらず何を言ってるのか分からない・・・単なるカムフラージュか? それとも何か意味があるのか・・・)

今度は男の方が腕を組んで首を傾げてしまった。
暫く黙り込んでしまった男にとって、さらに意味不明な言葉を絵里はマシンガンの如く喋り続けた。
13 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:12

「Well・・・I don't have much time. Disk please.(あまり時間がない。ディスクをくれ)」
「は?」
「Disk please.(ディスクを渡せ)」
「でぃすく?」
「Yeah!(そうだ)」
「でぃすくって何? あっ、あたし達のCDの事?」
「CD? Yes please.(それだ)」
「このー。幸せ者め! すっごい偶然だけど、あたし一枚だけもってるんだよねー。
 よし、ニューヨークで会ったのも何かの縁! おじさんにこれを進呈しよう!」

絵里はカバンから『THE マンパワー!!!』のCDを取り出すと、男に渡した。

「Thank you.(ありがとう)」

(凄いカムフラージュだな・・・パッと見は完全に音楽ソフトに仕立ててる・・・
 これでモサドからはたっぷり解析料を頂いて、もしデータが本物ならば中身は俺の物だ・・・)

「や、こちらこそ。・・・あっ、もうこんな時間! 名残惜しいけど、皆が心配してるかもしれないから
 そろそろ行くね。えーっと、あい ごー ほーむ!」
「OK.(分かった)」
「ばいばーい!」
「Have fun!  Enjoy yourself.(楽しめよ)」
14 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:13

鼻歌を歌いながら公園を出た所で、絵里は息を切らしたさゆみとばったり出会う。

「あっ、さゆ、どうしたの? マラソン大会でもやってんの?」
「・・・こ、こ、このー! 吉澤さーん、絵里いましたー!!」
「何ーっ!」
さゆみの叫び声に、曲がり角から突然吉澤が顔を出した。

「わっ、びっくりしたぁ。どうしたんですか、吉澤さんまで?」
体力のないさゆみは分かるが、あれだけフットサルで鍛えている吉澤までがボロボロになっている。

「て、てめぇー!! どれだけ・・・」
「あっ、違うんですよ、聞いて下さい! 大変な事が分かったんです!」
「・・・何、大変な事って?」
話を遮られた吉澤はとりあえず自分の言い分を保留して、絵里の言葉を待った。
さゆみは地べたにへたり込んでいる。

「あのですねぇ、ハロモニってニューヨークでも放送されてたんですよ!」
「・・・」
「知ってました?」
「・・・シゲさん、なんかコメントは?」
「・・・殺してやってください・・・出来るだけジワジワと・・・」
「そうだな・・・全く同感だ・・・」
吉澤とさゆみの殺気を感じて、さっきまでのハイテンションはどこへやら、絵里の背中に冷たいものが流れた。
15 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:14

***
16 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:14

「グローヴァー、一体どんな魔法を使ったんだ!?」
作戦担当副長官のヒューズは、現場担当の責任者に向かって驚嘆の声を上げた。
『・・・とにかく、キーワードは四時にセントラルパーク、それだけでした。
 NY市警やFBIまで協力を依頼しましたが、なにせあの広さですから確率は万に一つもなかったでしょう。
 偶然市警のロード巡査から奇妙な二人がいるとの報告を受けて我々が駆けつけた所、
 丁度女の子がヤツにディスクを渡した場面だったのです。』
対照的に電話の向こうのグローヴァー捜査官は消え入りそうな声で答える。

「・・・先程入った報告によると、君達が身柄を確保した男の指紋がリッチーのものと見事に一致した。」
『そうですか・・・いや、そうであって欲しいと思ってました。』
「三時過ぎのエリザベス事故死の報告がきた時には、私はクビを覚悟したんだが。」
『はい・・・私などは、クビでは済まない所でした。』
17 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:15

「そのオリエンタルガールについて、何か新しい情報は?」
『本名はエリカメイ、ジャパニーズです。』
「何故、エリがエリザベスになったんだ? 何故あのリッチーが別人だと気付かなかったんだ?」
『肝心のリッチーが口を閉ざしているため分かりません。
 我々の方にも日本語を話せるスタッフがいなかったので、エリからも話は聞けていません。
 何を聞いてもマイネームイズエリザベス、とアイケイムフロムトーキョーしか理解出来ませんでした。』
「その後現れたエリの二人の仲間は?」
『ヒトミヨシザワとサユミミチシゲです。この二人はエリに輪を掛けて話が分かりませんでした。』
「そうか・・・」

『私からも質問があります。あのCDは結局何だったのでしょうか?』
「まだ100%解析は終わってないが・・・普通の音楽ソフトらしい。」
『そうですか・・・』
「とにかく、ご苦労だった。リッチーは逮捕した訳だし、今日はゆっくり休んでくれ。」

電話を切ったヒューズは報告書を作成するため、パソコンに向かう。
トーキョーから来た魔法使いか、と呟き、顔をクシャクシャにして笑い始めた。
18 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:16
おわり
19 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:17
20 名前:19 WOMAN FROM TOKYO 投稿日:2005/02/04(金) 01:17

Converted by dat2html.pl v0.2