13 魔法の世界にさようなら

1 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:39
13 魔法の世界にさようなら
2 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:40
目の前に鏡があるとしか思えない。
「やっぱり私、紺ちゃんになっちゃったんやよね・・・。」
「うん・・・。」
たまに見かける、体が入れ代わるという話は本当らしい。
なぜなら、私と紺ちゃんは今、まさに身をもって体験しているからだ。
いつからだったかもよく分からない。
「気がついたら」と言う表現がピッタシである。

「何がいけなかったんだろう・・・。」
「わからん。」
「魔法・・・かな。」
「誰の?」
「・・・神様・・・かな。」
「神様?なんで?」
「分かんないけど・・・それくらいしか思いつかない。」

人の体を入れ替えるなんて、厄介な神様もいるもんだ。
どんな奴なんだろ。
魔法なら魔法で、もっと役に立つ体の入れ換えとかすればいいのに。
3 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:41
「ねえ、愛ちゃん。これが誰かにばれたらヤバイよね。」
正面にいる「高橋愛」、こと紺ちゃんが正論を言う。
たしかに、人と人がある何かをきっかけに入れ代わってしまうと世間の人が知ったら、
「たしかに大混乱やよね・・・。」
「つまり・・・。」
「ばれないようにせんと。」
「じゃあ私は愛ちゃんになりきらなきゃいけないんだよね。」
「ほやね。」
「・・・愛ちゃん、なりきるんだったら、訛りは消さないと・・・。」
なるほど。
体が元に戻るまでは、私はできるだけ紺野あさ美にならなくてはいけない。

4 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:41
他人の体は本当に面倒だ。
声の出し方も微妙に違えば、体の動きも違う。
そもそも「高橋愛」の耳で聞いていた「紺ちゃんの声」は
「紺ちゃん本人の耳」から聞く「紺ちゃんの声」は明らかに違う。
この辺が面倒だ。
いや、身近な人間と入れ代わったのだから、まだ面倒じゃない方かも。
私には、土俵の上で、黒海の体当たりを受ける勇気はない。

例えメンバーでも、この事件ばかりは相談できない。
たぶん、メンバーを越えて日本中がパニックどころの騒ぎじゃなくなる。
とはいうものの、娘。の活動、とりわけレッスンは後回しにできない。
飯田さんの卒業は、できるだけいい形で終わらせたい。

というわけで、私と紺ちゃんの二人の意見が一致した。
それこそ血のにじむような努力を続けた。
5 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:42
飯田さんは卒業した。

ライブは大成功だった。
追い詰められてからの大逆転。
ほとんど覚えていた振り付けもガラッと変わったけど、
むしろそのおかげで注意はいつもの何倍だか、完璧にできた。

「よし、あとは普段の癖だね。」
「そやね。目立つとこだけ気を付けてけばあとはなじんでくるやろしね。」
二人の間では軽く楽勝ムードが漂っている。
ライブで追い詰められていたことが、克服したことで完全にいい方に影響していたからだ。

それから何日間かは、24時間常に相手の行動の通り生活した。
そして思ったより簡単だった。
なぜなら、私の体は紺ちゃんである。
例えば寝る時間、起きる時間は体の方にインプットされている。
お腹の空き具合もまるで違う。
「何でこんなに食べ足りないんだろう・・・。」
もう、ここまでくると、私は紺野あさ美だなあ。
そう思いながら、愛ちゃんの残したお弁当をパクパク食べる。
6 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:42
一週間、二週間・・・。
「ふぁ〜あ・・・。」
朝起きて、歯を磨く。
目の前の鏡には、いつものように私がいる。
今日も、紺ちゃんの、紺ちゃんによる、紺ちゃんのためのメイクをする。
「私の紺ちゃんも結構似てきたなあ。」

そして、「高橋愛」の方も上手くいっている。
まあ、私からすると、まだアクセントに微妙な違いがあるけれど、
素人なら上出来だ。

そして私は、この、神様の謎の魔法にとても感謝している。

・・なぜかって?
7 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:43
「おはよっ!紺野!」
「ヒャアッ!」

今日も・・・今日も吉澤さんは朝から変なところを触ってきた。

たしかに吉澤さんは、今までしょっちゅう紺ちゃんに絡んでいた。
(しょうがない人だなあ。)と、わりと冷ややかな目でいつも見ていたけど・・・

8 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:44
実際やられてみると・・・まんざらでもない。
紺ちゃんになって、背が少し伸びたおかげで目線も変わって・・・。

吉澤さんの魅力がなんとなく分かった気がする。
・・・もしかして、身長が伸びて顔が近くなったからかなぁ。
じっくり見るとやっぱりきれいだ。
こんなに近くで見たこと、今までないからなあ。

魔法も結構いいもんだ。
9 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:44
来る日も来る日も絡まれて、そのたびに無防備になってゆく私・・・。
どうやら幸せな日々はまだまだ続きそうだ。
それもこれも、どこかの神様のおかげだ。
「ありがとうございます!」
窓の方を向いて、手をポンポンと叩いてお辞儀をする。
「紺ちゃん、何やってんの?」
今じゃ、あれだけ紺ちゃんと仲のよかった麻琴も違和感を感じていないみたい。
そう、あなたの網膜に映る人間は、紺野あさ美。
完璧な姿の紺野あさ美。

そこに高橋愛が近づいてきた。
「本当に紺ちゃんって変わっとうやよね。」
うん、なかなか。
そして、わざわざここで紺ちゃんに話しかけてくる。
(憎いね〜。役者だね。)
思わずクスクス笑ってしまう。
10 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:45
(・・・もしかして、私って役者の才能があるんじゃないかな。)
胸を張って、私は自分を紺野あさ美と言える。
(世間でいう勝ち組になれるかな。)
そして、チラリと・・・あの人を見る。
(女優として社会的知名度。さらに素敵なダーリン吉澤さん!
 得られるのは時間の問題だあ!
 いいぞ!紺野あさ美!なってよかったあ!
 こうなったら私、神様信じちゃお!
 ・・・。
 ・・・あれ?)

そういえば、さっきから吉澤さんは、「私」と話をしてる。
微笑ましい光景だなあ〜。

・・・いや、違うなあ。
・・・私は紺ちゃんになってて紺ちゃんは私になってて私は私じゃなくて紺ちゃんは高橋じゃないけど高橋で私で私じゃないから・・・。
目の前にいる私は私だけど紺ちゃんだけど紺ちゃんは私だから1繰り上がって・・・

ええっと・・・よくよく考えたら、あれは中身は紺ちゃんだ!
(喜ぶべきなのかなあ・・・それとも・・・。)
「ねえ紺ちゃん、最近吉澤さん、紺ちゃんに絡まなくなったよね。」
里沙ちゃんが話しかけてきた。
「・・・うん。」

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11 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:47
私が高橋愛だった時のことを思い出す。
「本当は紺ちゃんにならなきゃいけないから、昔の記憶は忘れなきゃいけなかったんだけど・・・。」

私が心も体も高橋愛だったころ・・・

吉澤さんが紺ちゃんに絡むのを冷ややかな目で見つつ。
(でも、うらやましいなあ・・・。)
もしかしたらそう思っていたのかもしれない。

それが偶然にも紺ちゃんになったことで、突然夢が叶った。
「・・・そこまではええんやよね・・・。」
吉澤さんは確かに「紺野あさ美」に絡んできた。
でも・・・。
目の前にあるのは、「高橋愛」と楽しそうに喋る吉澤さんだ。
「ほんとに・・・ええんかのお・・・。」

吉澤さんからメールが来たのはその日の夜だった。

12 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:47
「本当におごってくれるんですか?」
「うん。」
吉澤さんに連れられて、あるファミレスに入った。
(ふふっ、何だかんだ言って、吉澤さんは紺ちゃんのことが好きなんだよね。
 つ・ま・り・今目の前にいるこの私!)
「・・・あのさあ・・・。」
「はいっ!」
(こくはく?こくはく!?)

「高橋って・・・誰が好きなんだろう・・・。」

ぃよおぉしゃ!来たあぁっ!
「わたしは吉澤さんが好きです!!!」

・・・。
(あれ?私変なこと言った?)
13 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:48
「私・・・紺野のこと誤解させちゃったみたいだね。」
(あれ?この紺野って・・・どっちの?)
「ちょっと前までは・・・私さ紺野のこと好きだったんだ。・・・実はね。」
「はい・・・。」
「でもさ・・・最近・・・高橋が可愛くってしょうがないんだ。」

分かった、理解できた・・・残酷なことに・・・。
「最近・・・ですか?」
「うん・・・。」
最近、つまり吉澤さんが可愛いと言っているのは・・・紺野あさ美演じる「高橋愛」。

14 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:48
次の日、吉澤さんは「高橋愛」に干し芋を渡した。
私のアイデアだった。
体は私でも、一応脳が紺ちゃんだから喜びはするだろう・・・。
案の定、紺ちゃんは喜んで受け取った。
「食べてもええのですかぁ?」
はは・・・喜び方も私そっくりだ・・・。
・・・。
・・・。
・・・。
・・・ああっ!
15 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:48
「完璧です!」
そんなセリフもあったかな。
でも、この世に完璧なんてない。特に人間には。

干し芋を食べようとする高橋愛。
その一口目を食べて口を動かしている間、手にした食べかけの干し芋をソワソワと見る。
その姿はまさに・・・かつての紺ちゃんだ。

「そうなんだ・・・。」
吉澤さんは・・・どこまで行っても紺ちゃんがお気に入りなんだ。
紺ちゃんの仕草とかが好きだったんだ。

でも、何かすっきりした。
私は高橋愛で、吉澤さんは紺ちゃんが好きで、それは誰がどうなっても変わらない事実なんだ。
あと、私があこがれていた吉澤さんが、面食いどころかちゃんと中身を見て人を判断できる人だと知った。
たとえふられても、この人に憧れていたんだと何だか胸を張って思える。
16 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:49
「もう一度、神様の魔法で体を元に戻してもらおう。」
私はやっぱり高橋愛がお似合いだ。
うん。
そして元に戻って吉澤さんに本当のことを言おう。
本当に結ばれるべきなのは、吉澤さんと、他の何者でもない紺ちゃんだ。
紺ちゃんに相談しよう。
賢い紺ちゃんなら、きっといい案を出してくれる。
あの日あったことをもう一度思い出して。

高橋愛の姿の紺ちゃんに話し掛ける。
「紺ちゃん、ねえ、紺ちゃん。」
「・・・どうしたん?」
「誰もいないから大丈夫だよ。ねえ、紺ちゃんってばあ!」
「キャハハハ、どうしたん!?紺ちゃん、自分わからんようになってもぉたんかの?」
「ねえ、いい加減にしてよ。」
「なんが?」
「だからあ!私は私じゃないんだってば!」

ビックリ顔で、私を見る。
「なんのこというてんか、ぜんぜんわっかんねぇ!」

17 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:49
紺ちゃんは、人が真剣になってる時にふざけるような娘じゃない。
・・・まさか・・・ね。
「私は高橋愛なの!」
「・・・。」

「あなたはね、紺ちゃんなの!」
「・・・。」

「覚えてるでしょ!飯田さんが卒業する少し前に、紺ちゃんと私が入れ代わっちゃったの!」
「・・・。」

「紺ちゃん言ってたじゃん!神様の魔法だって!」

「・・・。紺ちゃん・・・。」
「思い出した!?」

「その話面白っしぇなあ!コントかぁ!?いつやるん!?」


「紺ちゃん・・・。本当に・・・。」

18 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:51
紺ちゃんは私よりもはるかに真面目なのだ。
それゆえに、私が紺ちゃんのふりをする、その何倍も彼女は私になりきろうとした。
その結果、紺ちゃんは「高橋愛」になってしまった。
今の紺ちゃんには、かつて紺野あさ美だったという記憶はもうないらしい。

こんなことを考えた。

もしかしたら、人はある日どこかで入れ代わっているのかもしれない。
そして、その事実を隠すために、演じ続けた結果、入れ代わった人物になりきってしまうのかもしれない。
もしくは、その事実を人に話し、狂人扱いされて、歴史から抹殺されてしまうか。

私には、入れ代わった記憶を忘れることのできないくらい、感情の揺れ動きがあったのだろう。
ひそかな恋愛感情に気付いたり。
愛されたり。
ふられたり。

・・・たったこれだけの期間で。
19 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:51
「訳がわかんないやよ・・・。」
気がついたら、長年かけて培ってきた言葉が出てきた。
「私は・・・本当は高橋愛なんやよね・・・。
 いつか、元の体に戻るんやよね・・・。」

気がつけば、私は色んなものを失っていた。
体を失ったのは、紺ちゃんも同じだけど。
ちょっと仲良くなれただけに、そのあとあっさり吉澤さんも失ってしまった。
それと同時に希望も・・・。

なまじ言葉を取り戻してしまったために、失ったものがまざまざと浮き出てくる。
「これ以上生きてたら・・・もっと色んなものを失っちゃうんじゃないだろうか・・・。」
もしかしたら、これが初めてではないかもしれない。
でも、もう私は、誰とも代わりたくなかった。


「ワタシは私・・・。」
20 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:53
数週間たっても、この部屋は変わってない。
紺ちゃんは見事に私を演じてくれたみたいだ。
やっぱりそのまま「高橋愛」になってしまった。

今いる場所は、「高橋愛」の部屋。
死ぬんだったら、私は「高橋愛」として死にたい。

姿はたしかに「紺野あさ美」だ。

でも・・・私は「高橋愛」だ。

もしかしたら・・・「高橋愛」ですら、ワタシではないかもしれないけれども・・・。

洗面所の向かいの鏡には、紺野あさ美の姿をした高橋がいる・・・。
「もう、体が入れ代わるなんてこりごりやよ・・・。」

震える手で、カミソリを手首に近づけてゆく・・・。
そして・・・。

21 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:54


赤い・・・。

22 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:55


激しく・・・。
23 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:55
・・・何が起きたのかはよく分からない。

・・・どうやら私は紺ちゃんになっているらしい。

・・・体が入れ代わった記憶がなければ。

・・・手首を切った記憶もない。

・・・なんかの魔法かな・・・?
24 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:56


・・・?


・・・気がついたら、私は藤本美貴になっていた・・・。


死ぬのが一歩遅かったかあ!



・・・もう少し・・・生きてみようかな・・・。
25 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:56
 
26 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:56
 
27 名前:13 魔法の世界にさようなら 投稿日:2005/02/02(水) 17:57
 

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