09 魔法のおまじない大作戦

1 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:18
09 魔法のおまじない大作戦
2 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:19
「おはようございまーす」
リニューアルされたハロモニの収録日。
楽屋の大部屋に入って挨拶する亀井絵里に応えて、「おはよう」「おはようございます」
というメンバーやスタッフの声がバラバラに返ってくる。

「やー、遅刻するかと思ってすっごいあせりましたよー」
頭の中では「ちょーあせっちゃった、てへっ☆」とか「あせりまくりすてぃですよー」などの
ナイスワードを思い浮かべた亀井だが、さすがにそれを口に出して言うことはなかった。
いや、やはり言うべきだったか。ここでひとつぶちかましておくべきだったか。
挑戦なくして栄光なし。絵里にもう少しだけ勇気があれば。
ああ神様、なぜあなたは絵里をこんなに恥じらいのある乙女としてこの世に生を授けたのですか。
――そんなことを思ったり思わなかったりしながら、亀井は空いている椅子をみつけて
引っ張り出し、なにやら一心に文庫本を読みふけっている道重さゆみの隣に腰を下ろした。
ふたりから少し離れた場所で、田中れいなが台本を下敷きにして机に突っ伏し、寝ている。
3 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:19
「おはよう、さゆ」
「おはよう」
顔を上げて、道重はにっこりと微笑む。
「なに読んでんの?」
「え、これ? おまじないの本」
そう言って道重が亀井に見せる本の表紙には、祈るように両手を組んで笑顔を見せる、
古いタイプの少女漫画のような絵柄の金髪少女。そして、タイトルは、

『魔法のおまじない大辞典』 著:黒山羊徹子

あやしすぎる。
大辞典のくせに厚みもない。
「へー」
絶句しそうなところ、亀井はなんとかそれだけ答えて笑顔を取り繕ってみせた。
4 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:21
「これね、すっごいおもしろいの」
道重は表紙の少女に負けないくらいキラキラと目を輝かせながら、
「えーとね」
パラパラとページをめくる。
たしかにある意味おもしろいかもしれないが、はたして道重はどちらの意味で言っているの
だろうか。たぶん本気のほうなんだろうな、と亀井は朝も早くから心労。

「ほら、これとか」
本を開いてふたりのあいだに置いたかと思うと、おもむろに道重は声に出して読みはじめる。
「気になる人の背中に向かって携帯電話のアンテナを伸ばして一分間『振り向け』と念じれば
振り向いてもらえるよ、だって」
なんじゃそりゃ。
「ああ、それアレだね。ユリオカ超特Qのやつみたいな」
「カリオカ?」
「それはラモス」
5 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:21
「ねえ、これやってみよっか」
「え、マジで?」
やっぱり本気のほうだったようだ。信じるなよ、こんなもの。
「ほら、ちょうど今、紺野さんこっちに背中向けてるし」
道重は亀井の反応も見ずに、机の上に置いてあった自分の携帯電話に手を伸ばす。
『やめてくれ!』と亀井は心の中で悲痛な叫び声をあげる。
しかし、イブが禁断の果実を口にすることによって生まれた恥じらいによって、
亀井は声にして訴えることができなかった。

「よしっ」
気合満点、道重はアンテナをいっぱいに伸ばした携帯電話を両手で持ち、
辻加護五期メンバーと一緒に談笑する紺野あさ美の背中に念を送りはじめた。
亀井はあわあわとただ見守るのみ。早く一分が過ぎてくれますように。
頭がくらくらするような緊張の数十秒が過ぎたのち、亀井と道重の正面側を向いている
小川麻琴が、ふたりのほうに視線を向けた。
道重が何をしているのか小川は知るよしもないだろうが、亀井は顔を真っ赤にして
恥じ入る思いの嵐に襲われる。

小川は斜向かいに座る紺野の膝をぽんぽんと叩き、「重さん何かおもしろいことしてるよ」
亀井と道重のほうを指さした。そして、紺野は振り返る。
「さゆ、何してんの?」
その紺野の声で、楽屋中の視線がいっせいに亀井道重の席に注がれた。
「あ、いいえ、なんでもないです」
言いながら、道重はアンテナを引っ込めた携帯電話を元の場所に置く。
しばらくして、楽屋は通常モードへ。
6 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:22
「ほら、見た? できちゃった」
道重は興奮気味に、大事な秘密をうちあけでもするように小声で、亀井に笑顔を向けた。
いやいやいや。
見た? とか言うけど、あんたのほうこそちゃんと見てたのかと、亀井は道重に問い質したくなる。
あんたがやったことは、こちらに背中を向けている人に対して石を投げつけて振り返らせるのを、
超能力だとか主張するのと同じことだぞ、と。
それを言うべきか言わざるべきか。友情のために。そして道重さゆみの明日のために。

「えー、今のはどうかな」
やんわりと、疑問を呈するにとどめてみた。
「なんで? できたじゃん」
「微妙な感じ」
「なんでぇ? 今の絶対おまじないパワーだよ」
せめて、認めるわけにはいかない。なぜはっきりと否定してやることができないのか。
ああ、このような中途半端なやさしさを与えた神を、絵里はうらみます。
7 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:22
結局、道重の強い確信と亀井の微妙な否定は平行線をたどり、そのまま、
「収録入りまーす」というADの声で、仕事の時間とあいなった。
ミニコーナーに出演するため道重はスタジオへ。亀井は待機。

と――
道重は楽屋を出る間際、バッグから赤い毛糸を取り出して、携帯電話を蝶々結びで
軽く縛りつけていった。
「何してんの?」と亀井は素朴な疑問。
「ナイショ」と道重はにっこり笑顔。
まさか携帯電話を開いて中を見られないようにするためではあるまい。
そんなことをするくらいなら、机の上に放置せずにバッグにしまえばいいのだ。
というか、そうしろよ。

「それっておまじないのやつとか?」
「だからナイショ」
亀井は不敵な笑みを浮かべながら、
「これか?」
と親指を立ててみせた。
「違うから」
笑いながら、道重は亀井の肩を叩く。――つーか、わかるのか、親指の意味。
8 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:23
ミニコーナーに出演するのは数人で、道重たちがいなくなったあとの楽屋の人数も雰囲気も
さきほどまでとあまり変わりない。
亀井は「はふぅー」と息をついて、机の上に腕を伸ばす。暇になった。
ちらりと脇を見ると、道重が置いていった携帯電話とおまじないの本越し、少し離れたところで、
あいかわらずれいなが机に伏せて寝ている。
自分も同じような体勢だと思い、亀井はとっさに起き上がった。
机に肘をのせ、頬杖をつく。
道重のおまじないの本に手を延ばし、中身をほとんど見ずにぱらぱらとページをめくる。
しおりが挟まれていることに気づいた。
亀井は姿勢を戻して座り直し、しおりが挟まれていたページを読む。

携帯電話を使ったおまじない.6 仲直りの魔法
仲直りさせたい友だちの電話番号を登録した携帯電話を、
赤い糸で結んでふたりのあいだに置いておけば、仲直りさせることができるよ。
9 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:23

・おわり・
 
10 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:24

11 名前:09 魔法のおまじない大作戦 投稿日:2005/02/01(火) 21:24


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