1 HYDLIDE

1 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:40
HYDLIDE
2 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:40
 夢かしら?と唇に指をあててみるけれど、どうもそうでは
 ないらしかった。瞬きを2度3度してみても見慣れた風景は
 どこかへと消えたまま。
 誰も居ない、見えない。地平線と枯れ木とお城が見えるだけ。
3 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:41
 何よこれ?何なの何よ。そして浮かぶもうひとつの疑問。
 服が違う。
 眠る時に着ていた衣装はどこかへ消えて、代わりに私が
 着ているのは、まるでファンタジックに溶け込むような、
 勇者みたいなビキニみたいな鎧みたいなの。ご丁寧に
 ひざまでのブーツと腕あてまで。
 起きている感覚ある。立ち上がりおしりをぱんぱん叩くと
 しかたなくお城へ向かった。何時なんだろうとか、仕事が
 お休みになっちゃうとか、それどころじゃないよ。
4 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:42
 突然。
 「ようこそ梨華ちゃん」
 耳元で声がした。振り向いてまた驚く。私の顔くらいの
 小さな体に、蝶のような羽をつけた妖精が浮いている。
 しかもその顔は。
 「安倍さん?」
 「んっ?」
 そっくりだった。
5 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:42
 フェアリーランド、とここは呼ばれるらしい。
 「妖精達が踊り草花達が歌う永遠の楽園だったんだ」
 「そうは思えない」
 しかし今、妖精は安倍さん似のこの子だけで、草や木は
 ぜんぶ枯れている。風もぬるく、陽も陰ってた。
 魔王の、仕業らしい。
 「そこで異世界からの勇者、梨華ちゃんの登場って訳」
6 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:43
 視線を感じておへそを隠す。この鎧も意外と重い。
 「でも私、アイドルだけど普通の子だよ?何もできない」
 「とりあえずこのままお城に行って欲しいんだなぁ」
 「誰か居るの」
 「居るよ。あと、魔王と戦える唯一の武器もある」
 足を止めた。
 「ちょっと待って。もしかしてそれで戦えってこと?」
 「そう考えていただいて差し支えないかも」
 「嫌だよ、怖いもん。他に居る人に頼んでよ」
 妖精さんはうつむいてしまった。そう言えば私、まだ
 この子の名前も知らない。
7 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:43
 こうしていても始まらないって、何となく解ってた。
 私はまた歩き出す。妖精さんもついて来る。
 「名前は?」
 「特にないよ」
 「そうなんだ。じゃあなんて呼べばいいかな?」
 「私たちは魔王って呼んでるけど?」
 「魔王のじゃないよ!キミの名前を聞いたんだよ」
 ひゅっと私の顔の前に踊り出た妖精さんは、見慣れた
 微笑みを浮かべながら「ナッチ」と言った。
8 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:44
 歩けど歩けど城は一向に近くならない。途中で安倍さん、
 じゃなくてナッチは私の肩に乗った。
 なんか呼ぶのに抵抗ある。
 「ねぇ聞かせてよ。フェアリーランドのこと」
 「いいですよ」
 ナッチはゆっくりと語りだした。つい最近までここは
 本当に素敵な、楽園であったということ。ある日魔王が
 現れて、フェアリーランドを支配してしまったこと。
 そして誰も居なくなり、こんな感じになっちゃったってこと。
9 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:44
 どれくらい歩いただろう?
 疲れたわけじゃないけど、ちょっと飽きてきた。
 「今何時かわかる?」
 そう聞いてもナッチはきょとんとしてる。もう一度
 聞いて、そして解った。どうもここに時がないらしい。
 だからお腹も減らないのかな?
 「ここじゃ不思議なんて当然なんだから」
 不思議だねって私の言葉にナッチはくすくすと笑った。
10 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:45
 「そう言えばアイドルって何?」
 「こうやって踊ったり、こう歌ったりするの」
 「ふぅん、なんか私たちと変わらないんだね」
 「あ!ナッチの歌、聞いてみたいかも」
 それはとても可愛らしい声で、私も声を重ねてしまう。
 しばらくふたりで歌いながら、歩いた。
11 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:45
 「そう言えば私の世界に、ナッチそっくりの子がいるよ」
 「あらま。どんな感じ?」
 「や、だからそっくりなんだって」
 「そっくりってどんな風にそっくりなのさ?」
 「大きさ以外は全部そっくりだよ」
 枯れ枝を、枯れ草を、砂を土を踏みしめ、歩き続けた。
12 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:46
 「着いたね」
 「うん」
 見上げるほど巨大な城。だけど人の気配がなくて、死の
 気配すら感じられる、城。
 開きっ放しの扉を抜けると台が1つ、床に居座ってた。
 「これが武器?」
 細く長い銀色の台に、文字が刻んである。読めない言葉。
 「フェアリーランドを護る魔法の言葉。でもここの
  誰1人も読めないし発音もできないの」
 「だから私が呼ばれたんだ。でも私も読めないよ」
 手を伸ばす。そっと触れると、頭の中に言葉が溢れ出した。
13 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:46
Eye Catch

        ノノノハヽ
       (●´ー`)    Please wait
       ( つハヽo∈     as it is
       / ( ^▽^)      for a whileノ
      ( / 、 l. i l
      lニ( , 〈U┳U
 γ ̄ヽ┻) ) ━┫
  | O | (ン ヽγ ̄ヽ、
  ヽ_ /’    | 0 ||.
           ヽ_ /’
14 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:47
 「魔王は」
 ナッチが真上を指さした。「この上の玉座に居るんだ」
 「ちょっと待ってよ。もしかして他の誰かって魔王?」
 「そう」
 ため息をついた。そんなのに居られても困るって言うか、
 私の代わりに魔王を倒してって言えないじゃない。
 こんなとき異世界からの勇者として取るべき行動は?
15 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:47
 玉座の間への長い階段を上る途中で、ナッチが言った。
 「梨華ちゃん、短い間だったけど楽しかったよ」
 そっか、と思った。魔王を倒したら私達の冒険はそこで
 終わりなんだ。倒されてももちろん終わっちゃうし。
 「また会えるよ」
 何の根拠もなく言ってしまう。そして玉座への扉を開く。
 誰も居なかった。
 「居るよ。良く見て」
16 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:48
 玉座の上に、黒く丸い玉があった。私の頭ほどの大きさで、
 鈍く光を放ってる。ぴくりとも動かない、これが魔王?
 「そうだよ」
 水晶じゃないの?
 近づいて覗き込むと中で1人の妖精がひざを抱えていた。
 ナッチだった。
17 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:48
 「フェアリーランドはそれはそれは素晴らしい場所でした。
  ある日、1人の妖精が魔王と出会ってしまいました。
  魔王は何でも望みを叶えようと言いました。
  おばかな妖精はフェアリーランドが欲しいと答えました。
  そしてフェアリーランドには、妖精しかいなくなりました。
  笑えるでしょ?」
 ナッチの言葉が、くすくすって笑いが、耳を通り抜けて行く。
 私、どうしたら良い?
 「魔王に触れて、あの呪文を唱えたら、消えるよ」
 「ナッチは」
 聞くのが怖かった。でも私は聞いた。「どうなっちゃうの?」
 「消えるよ。でももっと素晴らしいものが甦えるから」
18 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:48
 「命より素晴らしいものなんてないよ」
 「その命が甦るんだよ」
 「失われる命はどうでもいいの?」
 「でももっと素晴らしいものが甦えるから」
 堂々巡り。時がないなら、きっと永遠にこのまま。
 それも良いかも知れない。
 「言わないと元の世界に戻らない。梨華ちゃんも戻れない」
 「別に良いよ」
 本気で思った。
 「梨華ちゃん、お願いだから言って」
19 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:49
 私を呼んだのが誰か、気づくのが遅かった。ここは死の世界。
 ひとりしか存在しないなら、そのひとりが私を呼んだんだ。
 玉座の脇に膝つき、黒水晶に手をそえる。ナッチから目をそらす。
 そして私は、ナッチの望み通りに。
20 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:49
 ぴしっとひびが入ったかと思うと、水晶はぱん!と飛び
 散った。同時に窓の外が明るくなり始めた。雲が晴れて
 陽が射してる。荒れ野にざわざわと緑が生えて、どこからか
 歌声まで聞こえ、響き出した。
21 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:50
 「すごい」
 「この素敵さと不思議さこそが、本来の姿だよ」
 耳もとに囁くような声。振り向くけど、誰も居なかった。
 ぎゅっと胸をつかまれた感じ。息苦しい。
 楽し気なメロディに耳をふさぎ、そのまま目を閉じた。
22 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:50
 「梨華ちゃん。怖い夢、見ちゃった?」
 目を開けるとナッチが居た。夕焼けに照らされて顔を
 オレンジ色に染めて私を覗き込んでる。
 驚くことに、私と同じくらいの大きさだった。
23 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:51
 「もうすぐ出番だよ。ほら、涙を拭いて準備しなきゃ」
 自分を見れば、着慣れた衣装。見回せば、見慣れた景色と
 見慣れた微笑。見慣れた衣装で、腰をかがめて。
 「あの」
 「んっ?」
 私は指で涙をぬぐう。
 「私、どれくらい眠ってました?」
24 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:51
 「えっと。結構長いこと」
 夢だったんだ、なんて思わなかったし、思えなかった。
 あの世界で傷の1個も作ってれば、証拠になってたろうに。
 「もうひとつ、良いですか?」
 「なぁに?」
 手を伸ばし、ぎゅっと抱き寄せた。許されたいって気持ち
 よりも、また消えてしまいそうな気がして。
 「ごめんなさい」
25 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:51
 「大丈夫だよ。もう夢から醒めたんだから」
 でも離せない。しばらくそのままで居ると、やがて沈黙が降り、
 温かな手が私の背中をそっとさすり始めた。
 「ありがとうね」
 耳もとに囁くような声。
 「ナッチって呼んでくれたの、嬉しかった」
 時が止まる。
 「言ったでしょ?不思議が当然、フェアリーランドってね」
26 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:52
Ending Theme
 "GOOD BYE HELLO"
 from
 Natsumi Abe & Rika Ishikawa
 NHK Christmas teleplay "LAST PRESENT"
27 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:53
Referenced by
 HYDLIDE3 "The Space Memories"
 from
 Tokiharu Naitou
 (C)1987 T&E SOFT Inc.
28 名前:HYDLIDE 投稿日:2005/02/01(火) 07:53
FIN
29 名前:Max 投稿日:Over Max Thread
このスレッドは最大記事数を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。

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