04 Battle Of Ever More

1 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:34
Battle Of Ever More
2 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:37
 ここは、私が育った環境とは、まるで雲泥の差がある。
人々は豊かで、有り余る物が、そこらじゅうで売られていた。
みんな陽気で、若い女の子の笑顔が眩しい。
初春の爽やかな風が、バスの窓から入って来る。
私の黒髪が、その風に煽られて、心地よいくらいの気候。

「そうじゃないよ。為替レートの問題だ」

私の横に座っている初老の紳士は、携帯電話で仕事の話をしている。
大きなスーツケースを抱えた私は、窓の外に眼をやった。
私を乗せたバスは、広い道路を左折して、目的地に近付いて行く。

「ふう、そろそろね」

目的地に近付くにつれ、交通量が多くなった気がする。
これまで、順調な運行をしていたバスが、たまに停車するようになった。
これほど多くの自動車が存在するのだ。この国は豊かなんだな。
3 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:38
「アメリカの方でしょうか?」

私の横にいた紳士が電話を終え、笑顔で話し掛けて来た。
色白でサングラスをかけた私は、アメリカ人に見えるのか?
仲間の中では一番、長身だったから、そう思われたのかもしれない。
そういえば、アメリカは多民族国家だった。
白人や黒人、アジア人が多く住んでいる。

「ええ」

私が小さく頷くと、紳士は目尻に皺を寄せて、嬉しそうに微笑んだ。
そうだった。この国は、アメリカに庇護された卑しい国。
アメリカ人に媚を売るような民族に、私は吐き気すら覚えた。
4 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:39
 私が『卒業』を告げられたのは、約一ヶ月前だった。
その事をメンバーに話すと、すすり泣く声が聞えて来る。
私のために、泣いてくれる子がいると思うと、何だか嬉しくなった。

「私の後、頼んだからね」
「そんな。オイラ、リーダーなんて自信ないよ」

グループで一番小柄な彼女は、それでも最年長になる。
それにしても、これまで、本当に多くのメンバーが『卒業』して行った。
いつの間にか、結成当時から残っていたのは、私だけになっていた。
それはそれで、いいのかもしれないな。
私は『卒業』して、自由になれるんだから。
5 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:40
 そんな事を思い出しながら、私は目的地が近付くのを待つ。
旅をするのは慣れてるけど、こんなに大きな荷物は初めて持った。
身体を折り曲げれば、中に入ってしまいそうなスーツケース。
車窓からバスの中に眼を移すと、三十人くらいの男女がいた。
子供を二人連れた、太った女の人や、一目で学生と判る若い女の子。
マスクをして杖を抱えた老人、作業着を着た中年の男。

「私も大使館に用があるんですよ」

隣の紳士は、大袈裟なゼスチャーで、私を見詰めて微笑む。
ここの人は、誰もが人懐っこく、私には善人ばかりに見えた。
そうなのかもしれない。私は『洗脳』という魔法にかかっていたのかも。
私達は、大きな機械の中の、歯車でしかない存在だ。
歯車に自我など必要なかった。

「そうでしたか」

私が微笑み返すと、紳士は満面の笑みを浮かべる。
きっと彼は、私がバスから降りる時に、スーツケースを持ってくれる気なんだ。
見たところ、このバスに乗っているのは、みんな善人のようだった。
6 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:41
 もう、私が在籍していたエリートグループは、
『卒業』するための者を輩出する機関になっていた。
楽しい事なんかより、辛い事の方が多かったな。
だからこそ、私は『卒業』が嬉しかった。
これまで『卒業』していった子達は、きっとそう思っただろう。

「何も考えるな! 『卒業』こそが目標だ!」

そう言われ続けた私達は、それが『洗脳』という魔法だったかどうかなど、
もはや、この時点ではどうでもいい話だった。
僅か十六歳で、私はこの世界に飛び込んだのだから、
大人達が試行錯誤しながら育ててくれた。
これで何かが変わるのかというと、私には無意味に思えて来る。
それは、私が完全には、『魔法』にかかってないからだろう。
『魔法』にかかるには、私はもう大人になり過ぎた。
7 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:42
 バスは大使館前のロータリーへと入って行く。
多くの人が行列を作り、このバスの到着を待っていた。
まだ、バスが停車する前だというのに、気の早い客は席を立つ。
バスが停留所に滑り込む直前、私は持っていたスーツケースを開ける。
隣にいた紳士は、財布でも取り出すのかと、私の動きに注目していた。

「私は、私はこの日のために生きて来たわ!」

私の声に、停車寸前のバス内全員が注目した。
スーツケースの一番上には、細い綿の紐がある。
これさえ引けば、私は自由になって、天国の両親と逢えるはずだ。
そう。イスラエル軍に虐殺された、私の両親に。
私は紐を握り締め、南東に向かって大声を出した。

「アッラー!」

全員の顔が硬直する中、私は紐を強く引いた。
閃光と凄まじい爆発音の中、私は自分が消滅する感触を感じている。
そして、バスを含むユダヤ人数十人と一緒に、私は無になった。
8 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:42
9 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:42
10 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:43
11 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:43
12 名前:04 Battle Of Ever More 投稿日:2005/02/01(火) 00:43

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