2 うちら変身中
- 1 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:30
- 2 うちら変身中
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 00:33
-
303号室だよー。みんな集まってるから早く来てね!
*さき太郎*
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 00:33
- 歩道を思いっきり蹴って目的地まで一目散。
自動ドアが開くのももどかしい。
ガラス戸がガーと開くと私はカラオケ屋に駆け込んだ。
「すみません!303号室どこですかー?」
「はい、エレベーターで3階に上がりまして……」
「どうもーーー!」
エレベーターの前でボタンをがちゃがちゃがちゃと連打。
「おりゃーーー!」
早く早く早く早く……
歌いまくってやるんだから!
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 00:33
- 3階上がって言われたとおりに進むと
「あった!」
303号室。私はドバゴンッ!と体当たりをする勢いで扉を開いた。
「あっ、千奈美ちゃん来た来た!」
「おそーい!」
7人が揃っていた。私を入れて8人。
「揃ったね」
「やろうか?」
「やっときますか!」
みんなスタスタと立ち上がる。
佐紀ちゃんがおほんと咳払いをして掛け声をかけた。
「せーのっ!」
『Berryz工房で〜す!』
みんなで一斉に大声で叫んだ。
これが楽しい。うちらの挨拶代わりだ。
- 5 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:34
- ここんとこうちら8人、いい感じで集まることが多かった。
「友達とも兄弟とも違う」みたいな絆があって
8人揃うと調子がいい。
1人欠けると物足りない。そう感じることが多かった。
紅組キッズのみんなとも仲はいいんだけど(私の場合、特に村上愛ちゃん)、
活動予定で食い違うことがよくあった。その点この8人はずっと一緒に動いている。
だから休みの日も一緒。
みんなで遊ぼうってなったときは自然、8人で集まることが多かった。
今日もそうだ。久々のお休みだからみんなで集まろー、
てことになって案を出し合った結果カラオケになったのだ。
それぞれの提案は以下の通り。
佐紀ちゃん:買い物
桃ちゃん:カラオケ
私(千奈美):カラオケ
茉麻:散歩
みや:買い物
舞波:カラオケ
友理奈:部屋でゲーム
梨沙子:ゾンビごっこ
多数決によりカラオケに決定!てことで今日。
ばっちり寝坊した私だけ遅刻してみんなは時間通りに集合していたようだ。ごめんなさい。
- 6 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:34
- 「まだ歌ってない?」
「歌ってないよ」
「ちなこを待ってたんだよ!」
みやがそう言う……にやにやと言う。
この歯の浮いた顔……
「ウソだー」
みやはウソついてる。絶対に
「うん、ウソ」
おいっ、そんなあっさり認めるなってば。
わたしはうぎゃーうがーとみやに飛び掛った。
「きゃはははっくすぐったいって!」
みやに攻撃しながら
「ところでマジ、なんでみんな歌ってないの?」
とみんなに聞く。すると梨沙子が答えた。
「お茶が来るのを待ってるの」
- 7 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:34
-
お茶?
- 8 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:35
- 「ほれ。これ」
桃ちゃんが部屋にあった貼り紙を指差した。
新品の貼ったばかりみたいな紙にピンクのマジックで
<<当店特製・レインボーティー>>
と書いてある。
「何これ?」
「説明書きに惹かれて8人分頼んじった」
佐紀ちゃんがそう言ったので私は説明書きを読む。
<<なりたい人に変身!魔法の一時をあなたにお届け>>
うわっ……怪しい!しかも
「400円……」
誰だよ!こんなの頼もうって言いだしたの。
「なんかワクワクするよねー。誰に変身するかなぁ」
と梨沙子。え?本気で言ってる?
- 9 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:35
- 「お待たせしました。レインボーティーです」
店員さんがお盆に8つのティーカップをのせて入ってきた。
手際よくテーブルにカップを置いていく。
茉麻が
「ほあぁ……」
と間抜けな声をだしてカップを見つめている。
そういう私も見とれてしまった。
お茶の表面が光を反射してキラキラと虹色に輝いているのだ。きれいだった。
「すごい」
思わずそう声に出していた。
カップの中身は運ばれたときの振動で、まだゆらゆらと揺れている。
その揺れに合わせて、表面は色を変えて光る。
液体の底から小さな泡がぷくぷくと連なって浮かんでは消えた。
これが
なりたい人に変身できるお茶。
実物を見せられるとそれは、妙に説得力があった。納得してしまった。
なるほど、これなら本当に変身できるのかもしれない、と。
- 10 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:35
- 「じゃあ飲む?」
桃ちゃんがみんなを見回した。
「誰から?」
と聞いたのは舞波。佐紀ちゃんがそれに答える。
「みんなで飲もうよ、せーので一斉に」
「そうだね」
「そうしよう」
みんなもそれに賛成した。
「じゃーみんな憧れている人を想像して」
私は目を閉じて、考えた。
芸能人を目指すようになったきっかけ。
あの先輩を……
「せーの!」
ぐびびびびびびびっ
- 11 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:35
- 飲んでしばらくすると頭がボーっとしてきた。
とろーんて感じ。
ああお茶が回ってるなと感じられる心地よいとろーんだった。
それから
私の体が
しゅるるるるるるるるぅぅぅぅ
音を立てて縮んだ………………縮んだ!?
私はバッグをガサゴソやって鏡を取り出して見た。
「あー、松浦さんじゃなくてこっちになったか……」
デビューのときを考えていたからだろう。
もう1人、キッズオーディションを受ける前から好きだった人。
元気で明るくて面白くて、それでいてカッコいい。
鏡の中の私は矢口さんだった。
「うっわーおもしろい!」
あ……しゃべり方まで矢口さんっぽくなってるし。
- 12 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:35
- しゅるるるるるるるるぅぅぅぅ
目の前で音がしたので見ると
「にゃはははっ変身でけた!」
松浦さんが立っていた。えっと、あそこにいたのは……
「茉麻?」
「うん」
周りを見ると、みんな中々変身しない。
「みんなまだ?」
「人によって遅いんじゃない?」
効き方がそれぞれ違うのかも知れない。
しばらくすると
しゅるるしゅるるしゅるるるるるる!!!!!
みんなが音を立てて変身して言った。
- 13 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:36
- 「わーっ高橋さんや!」
…………。奇妙な光景だった。
高橋さんが鏡で自分を見て高橋さん高橋さんと騒いでいた。訛りまで……
「きゃー石川さんカワイイぞっ!」
これは……誰だかすぐわかった。
「んあー、私も変身してるー」
「吉澤さんになってるー!かっけー」
「てへてへっ」
ちょっと……ちょっと混乱してきたぞ。
「ね……ねぇみんな」
『なんですか矢口さん!?』
「いや、千奈美だから……」
と部屋中大騒ぎになっている中で1人
みやの姿があった。
「あれ?みや、まだ変身してないの?」
私はみやに聞く。
- 14 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:36
- 「私はこっち!」
え?と見ると高橋さんが手をぶんぶんやっている。
あ、みやは高橋さんになったのか……って
「え?そっちがみや?で、そこにいるのは?」
みやは高橋さんに変身した。でもみやはそこにいる。
ちょっと整理してみよう。
矢口さん:私
松浦さん:茉麻
高橋さん:みや
石川さん:桃ちゃん
「後藤さんは?熊ちゃん?」
「うん」
「で、辻さんは梨沙子だね?」
「そうれす」
「吉澤さんは?」
「舞波です」
後藤さん:友理奈
辻さん:梨沙子
吉澤さん:舞波
- 15 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:37
- ってことは……
「佐紀ちゃん!?」
みんなが一斉にみや(中身は佐紀ちゃん)の方を向いた。
みや(佐紀ちゃん)は恥ずかしそうに
「う……うん」
と言って頭を掻く。
「どうして?」
「なりたい自分を考えてたら、雅ちゃんになってた……」
「ええ!?」
と高橋さん(みや)が大声を上げた。顔がみるみる真っ赤になっていく。
「なんで私なんかに……」
「ん……」
みや(佐紀ちゃん)も顔を紅くしながらぽそっと
「ずっと……ライバルだと思って、意識してた……」
そう言った。グループのキャプテンとグループのエース。
佐紀ちゃんがみやをそうやってみていたなんて知らなかった。
佐紀ちゃんはずっとみやを目指して向上心を燃やしていたのか。
私、ちょっとキャプテンを尊敬した。
- 16 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:37
- で、せっかく憧れの人になったんだから、
歌ってみようってことになってそれぞれの持ち歌を歌っていった。
桃色片思い。恋をしちゃいました。
そうだ!We’re ALIVE。やる気It’s easy。
次から次へと歌っていく。
矢口さんになって歌うのは、いつもと全然違う感じがした。
「ねぇ、すごくない?」
「うんうん、なんか身体が軽い!」
いつもより、いい感じで踊れてる。上手い。
これが、先輩たちか。やっぱりすごいんだな。
みんなで踊れる曲にしようと誰かが言った。
じゃあ、と石川さん(桃ちゃん)が曲を入れる。
画面がパッと、曲名を映し出した。
「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL!」
- 17 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:37
- マイクは足りないから置いてみんなで声を出して歌う。
♪今すぐに 先を急ごう♪
みんなみんな刻むステップ軽やかに、
歌う声は高らかに、
「これ、マジすごい!!」
石川さん(桃ちゃん)が踊りながら
感激で紅潮した頬に両手を当てていた。
わかる。
だってこれまでにないくらいきれいに踊れる、歌える。
私たちの憧れの先輩。
私たちも
いつか
こんなふうに……
とそのとき
- 18 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:37
- しゅるるるる……
ありゃ?私の体の中からまた音がしてる。
ひょっとしてもしかして……と思っているうちに私の視線が一段高くなる。
私は大慌てで鏡を取り出してみた。
「……戻ってる」
私だけ……先に効き目が切れちゃった。そういえば変身するのも一番早かったな……。
みんなを見るとまだ楽しそうに踊っている。
……最悪だ。
私ががっくりうなだれているともう一人
しゅるるるる……
変身の早かった茉麻が元に戻っていた。
「うあぁ、もどってるぅ」
ありゃ、のっぺりしたしゃべり方も復活している。
そんな中、曲はクライマックスへ
- 19 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:38
- みんなみんな生き生きと踊っている中、2人だけ元の姿。
ぽつりって感じで立ったまま動けなかった。かなり切ない。
ジャーン
曲が
終わった。2人だけポーズが取れなかった。
それでもみんなの変身は解けない。
なんか、
シラけた。
雰囲気が寒くなった。
微妙だった。
するとみや(佐紀ちゃん)がリモコンを持って番号を打っていく。
「何歌うの?」
私はすねた感じで聞いた。
「みんなで歌える曲を」
みんないいよね、まだ先輩たちの格好で……
と言いかけて、ぎりぎりで止めた。佐紀ちゃんは、みやの姿だったから。
一瞬の間が空いて
イントロが流れ出す。
- 20 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:38
- ♪キーンコーンカーンコーン♪
「あっ!」
画面には曲のタイトル。
「がんばっちゃえ!」
そうだった。キッズに戻った私たちも、モーニング娘。さんたちの姿のみんなも、
これなら一緒に歌えるじゃないか。
ハロー!プロジェクト・キッズが立ち上がって最初の大仕事、
映画出演のときにみんなで歌った曲なのだから。
そして
私たちは
当時必死に覚えたダンスをやった。
イントロがはじまって、私たちはリズムを取って曲を聴く。そして歌う。
手をつないで「さむ〜い季節!」とか合いの手を入れて。
みんな笑顔で楽しそうに、私も楽しみながらAメロ・Bメロと歌っていく。
「……」
不思議なことが起きていた。踊りが軽いのだ。
もう私は徳永千奈美、いつもの身体に戻っているはずなのに
足を上げるところ、飛ぶところ、手をつなぐところが面白いくらいわかる。
あれ?こんなゆっくりだったっけ?
- 21 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:38
-
あのころ
入ったばかりで何もわからず
ただ教わった動きを覚えようと必死になっていたあの頃。
16ビートなんて知らず、ただ見よう見まねでやっていた頃。
私たちよりも絶対練習時間が足りないはずなのに、
先輩たちは軽やかに踊っていた。
足の上げ、下げを分けながらリズムをとって歌っていた。
かっこよかった。
それを見て強く思ったものだ。
いつかは
私たちも
あんなふうに……
それが今、自分の身体で踊ってみて、できている。
あのころ憧れるしかなかった動きが確かに自分の物になっている。
ユニット入って、怒鳴られながら泣きながらレッスンした。
何度も自信を失くしたりやめたくなったりした。
でも誰一人くじけなかった。
だから今、できる。
- 22 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:39
- 曲はずっと鳴り続けている。
しゅるるるる……
石川さんが桃ちゃんに戻っていった。しかし戻った桃ちゃんもきれいに踊れている。
しゅるるるる……
吉澤さんが縮んで舞波。舞波もかっこよく踊っている。
目頭が熱くなった。
うちら
憧れていた人たちになってきているんだ。
うちら
先輩たち目指して今も変り続けているんだ。
しゅるるしゅるるしゅるるるるる!!!
みんなの姿が戻っていく。しかし誰一人、歌も踊りもやめなかった。
胸の奥からこみ上げてくるものがある。
それらを全部、声に出して歌って
8人全員、感じた想いを歌って
大合唱になった。
- 23 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:39
-
♪がんばっちゃえ! 毎日 すごす時間は 早いもんだね♪
- 24 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:39
- 気がつくと
私の頬を
一筋の涙がすーっと流れていた。
その涙がキラキラと
カップの中に落ちていった。
変身できるお茶。
変身できていると教えてくれたお茶。
きっと私たちはこれからも変り続ける。
電話が来て、カラオケの時間が終わった。
みんながいい汗をかいていた。
汗がキラキラ輝いて、きれいだった。
七色のお茶とは違うけど、みんなの汗もきれいだった。
部屋を出る。
佐紀ちゃんが伝票を持ってスタスタとカウンターまで歩いていく。
その後ろ姿を見ながら
「ねぇねぇ……」
舞波が私をツンツンしてきた。
- 25 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:40
- 「なんで佐紀ちゃん、みやになったんだろうね?」
そう聞いてきた。でも、私にはなんとなくわかっていた。
「きっとさ、佐紀ちゃんは知ってたんだよ。私たちはもうそんなじゃないって」
「え?」
「ただ先輩たちに憧れてばかりの段階はもう卒業したんだって
佐紀ちゃんにはわかってたんじゃない?」
「そっかー」
佐紀ちゃんがお金を集めている。
うちらは部屋代にお茶の400円を足して払う。
「ね!またカラオケやろうよ!」
「うんうん、今度はお茶なしでやろう!」
その400円に感謝の意を込めて
これからもっと頑張ると誓いを込めて
私たちはキャプテンに手渡していった。
- 26 名前:2 うちら変身中 投稿日:2005/02/01(火) 00:40
- 佐紀ちゃんの声でみんなが集まった。
「じゃあ最後にやっときますか」
この日の感動を
あの日の思いを胸に
「うん」
これからも
私たちは
突っ走り続ける。
「せーの」
『Berryz工房でしたー!』
こうして
不思議なカラオケ体験は幕を閉じた。
−fin−
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