49 I chat to what I see

1 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:37
49 I chat to what I see
2 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:38
座卓の向こう側に亀井がいる。
頬杖をついたままぼんやり遠くを眺めては、か細い声でなにやらぶつぶつ言っているのが耳に入る。
畳敷きの、普通の控え室だ。部屋の中は静かに乾いていて、私はカサカサの右頬をゆっくりと撫で上げてみた。
頭上から降り注ぐ蛍光灯の白い光は彼女の黒髪を流れ、そのままそばに置かれたペットボトルの緩やかなカーブへと滑り落ちている。
表面を走る水滴は机の上に小さな水溜りを作り、亀井の目の前に広げられた紙切れにゆっくり吸い取られてゆく。
取材用のアンケートか何かだろう。書き進んでいる様子はなく、安っぽいボールペンは亀井の指の上でクルクル踊るだけだ。

すっかり気の抜けた様子の彼女をしばらくの間見つめていたが、ふいに硬質のひやりとした感触が肩に触れて、私は思わず身を捩った。
窓ガラスだった。どうやら私は窓辺に腰掛けているらしい。身体を捻って辺りを見回す。
アルミのブラインドは上部にきっちり畳み込まれていて、外はすでに薄暗い。
色を失いつつある風景の中で、高層ビルのてっぺんに立つ誘導灯がチカチカと光を放ち、その存在を必死に誇示している。
黒い鏡と化した大きな窓には、その赤い明滅と重なるようにおぼろげに浮かぶ私の姿が映し出されていて、頭に載ったキャップからこしのなさそうな髪がくねくねと肩へ降りているのが見える。後ろ向きにかぶった白い帽子はなぜか私の胃を重くさせた。

背後ではボールペンを回す音がパチン、パチンと繰り返されていて、周りが静かなせいかやたらと耳につく。
少しいらいらしながら振り返ると座卓に身を乗り出した亀井がこちらを窺っていて、私と目が合った途端、うへへっと妙な笑い声を立てながら顔をとろけさせた。
なぜ彼女と二人きりなんだろうといまさらながら考えてみたが、答えは出てこなかった。
3 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:38
「あー」

彼女はボールペンを回しながら部屋の隅へと視線を投げた。
声につられてそちらを見ると、ずらりと並んだ化粧台の前にいくつか鞄が無造作に置かれている。

「やっぱ高橋さんのカバン、かわいー」

亀井の目が私の鞄の上で止まる。――そうだ。あれは私の鞄だ。
少し前にふらりと入った店で一目惚れして買った鞄で、亀井はこの鞄を見るたびに「かわいい、かわいい」と繰り返す。
自分が気に入っているものを褒められるのは嬉しいものだ。ありがとう、と私は笑顔を返した。

「絵里のカバン、そろそろ買わないとやぁばいんですよねえ」

私の言葉を軽く聞き流し、亀井は同じく化粧台の前でぺたんこにひしゃげた鞄に視線を移した。
彼女の鞄なんだろう。随分使い込まれていて、縫い目の辺りが色褪せて小さな穴が開いているのが見える。
そのクタクタに力の抜けた鞄は、どことなく目の前の彼女に似ているような気がする。
鞄と彼女を見比べていると、亀井は首を傾げてえへへ、と笑い、その声はボールペンを弾く音に紛れて消えた。
4 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:39
「あの無駄に長いピアス。あれ、わたしにくれればいいのにー」

いきなり話が飛んだ。
あのピアスのことだろうか。以前もハロモニの収録中に絡まれた覚えがある。
にやけながら言ってくるもんだから、冗談なのか本気なのかよくわからない。
だーめ、と答えてからふと耳に手をやると、例のピアスが指に触れた。ウェーブのかかった髪に紛れて肩まですっと伸びている。
あの帽子には合わないだろうに、と窓ガラスを覗いてみる。そこには波打つ栗色の髪が映し出されているだけで、白いキャップはどこかへ消えてしまっている。

ふいに風に煽られたカーテンが二の腕に触れる。
鬱陶しげにカーテンを払いのけた私が正面に向き直ると、亀井はニヤニヤ微笑んでいて相変わらずボールペンを回す音がリズムを刻んでいる。
私は顔をきゅっと固くして、探るように彼女を見据えた。
5 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:39
「いつも何読んでんですかねえ?」

また話が飛ぶ。
いったい何を考えているのだろう。彼女の気の抜けた微笑みがなんだか不気味なものに思えてきた。
ゴクリと息を呑んで彼女の挙動を見つめていると、私の膝の上にいつのまにか開いていた本に気がついた。
おそるおそる捲ってみたがどのページも真っ白だ。
持ち上げて裏返してみると、その表紙には、私が本を持っている様子が描かれている表紙の本を持っている私の様子が描かれている表紙の本を持っている私の―――
空恐ろしくなった私が本を投げ捨てようと振りかぶると、そのまま手の中で消えてしまった。

何かおかしい。何かおかしい。

両肩に絡んでくるカーテンを振り払って、亀井に声をかけようとする。が、幾分スローになったボールペンの小さなリズムにかき消されてしまい、彼女の耳まで届かない。
どういうことだ。混乱する頭で私が必死に方法を考えていると、亀井の背後、私の真正面の扉が開きひとりの少女の姿が見えた。
6 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:40
私だ。確かに窓ガラスに映っていた私だ。
鏡? いや、違う。帽子もかぶっていないし、あのピアスもつけていない。

「なぁにひとりでぶつぶつ言ってるん」

座卓に身体を預けた亀井を見下ろしながら、目の前の私が口を開く。亀井は一瞬肩をすくめ、その鼻にかかった声に慌てて振り返った。

「あ、高橋さん」

カーテンが風を孕んで私の頭上にフワリと舞い上がる。
カーテン? そういえばカーテンなんかなかったはずだ。
亀井の指の上で踊っていたボールペンが回転をやめ、乾いた音を立てながら天板に転がり落ちた。


カシャン


途端に目の前が柔らかい空気に包まれ、二人の声も姿も遠くなる。
視界を遮る白い膜は返す波となり、私を身体ごと奪い去
7 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:40
      川 '-'||
8 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:41
       o
9 名前:49 I chat to what I see 投稿日:2004/10/02(土) 23:41
ノノ*´-`) ゜    ||'-' 川

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