48 君と夏と不思議なチャイム

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 22:32


48 君と夏と不思議なチャイム
2 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:34
少し音階が外れたチャイムが学校全体に響き渡る。
すると校内は急にざわつき始め賑やかな声が聞こえくる、でもそういう
喧噪が私は結構好きで心地良く思っていた。
それから私は軽く溜め息をつくと一息ついて作業を一時中断した。

そのときチャイムというのは不思議だなぁと思った。
それは時に授業の始まりを告げる憂鬱な合図でもある、けれど時には
全く反対に終わりを告げる胸踊る合図でもある。
でも私の場合は他の人ではあんまりない別の意味合いを持っている。
特にこの4時間目の終わりを告げるチャイムの音は。

なんてことを考えていると派手な足音が少し遠くから聞こえてくる、
すると私の頬はいつも自然に緩んでしまう。
学校であまり使われていなかった資料室を改造して作ったこの部屋は、
残念ながら訪問者は多いとは言えない。
だから騒がしい足音を立てて走ってくるとすればあの子以外いない。
私の大切で可愛い恋人しか考えられなかった。


3 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:36
「飯田先生!」
ドアが勢い良く開けられたかと思うと元気な声が飛んできた。
少し伸びた耳より長い黒髪を走ってきた勢いで軽くなびかせ、いつもの
ように口を開けながら今は大きく息を切らし、少し垂れた目を細めて
満面な笑みをこちらに向ける。

「いらっしゃい、麻琴。今日は何にする?」
私は優しく微笑むと椅子から立ち上がって彼女を出迎えると早速問いかける。

「何でもいいですよぉ、先生の作るものならハズレないですから。」
麻琴はソファーに腰を下ろすと見上げながら嬉しそうに弾んだ声で
言った。

「それじゃクリームソーダにしない?前に飲みたいって言ってたから
ちゃんと良いバニラアイス仕入れたんだよねぇ。」
私は一方的に提案すると答えも聞かずに鼻歌混じりで冷蔵庫に向かう。

「飲めるのは嬉しいんですけど・・・・・・飯田先生、何だか徐々に
喫茶店に近づいてると思うのは気のせいですか?」
麻琴は少し呆れた顔をしながら溜め息混じりの口調で言った。

この部屋は非常勤勤務の講師なので特定の場所のない私に校長先生が
くれたもので、自由にしていいと言われたから本当に私的な部屋に
して勝手に楽しんでいる。
冷蔵庫は勿論のこと趣味で紅茶やコーヒーを数十種類持ち込み、
おまけにコップの縁を押し当てるとジュースが出る機械もある。


4 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:41
「まぁ、喫茶店やるのは夢だからねぇ。20代から50代まで公務員で
無難に働いて、貯金と年金を使って都会の落ち着いた場所でのんびりと
喫茶店を開くっていう計画になってるし。」
私はクリームソーダをゆっくり作りながら長々と人生設計について
半分くらい本気で語った。

「それはともかくとして、ここまでするのは麻琴が特別だからだよ。」
そして作り終えたものを手に持って振り返ると、軽く笑みを漏らし
ながら優しい声で言った。

「えっ、あ、あの、その・・・・・。」
すると麻琴の顔は一気に真っ赤になって意味なく手を振りながら
口籠ってしまう。

私はそのあまりの動揺ぶりが面白くて少し吹き出してしまった。
今思うとこんなにヘタレで子どもそのものだけど、思い出してみれば
強引に迫られて落ちたのは私の方だった。



5 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:43
麻琴に出会ったのは夏休みになってからまだ1週間も経ってない、日が燦々と
照れつける蒸し暑い昼のときだった。
私は3日後に行われる特別講議に使うプリントの作成していた。
初めは自宅でのんびりと作るつもり予定が思ったよりも進まず、
気分を一新するという意味合いで学校へ自ら赴いてこうして作業を
している。

ちなみに私の自室には教師の特権であるクーラーは存在しない。
だから壁につける年代物の扇風機がゆっくりと左右に首を振って、
生暖かい風を送ってくれる。
そんな状態なので只でさえ暑さに弱い私は普通にやられていた。

地元が北海道だからなのか昔から夏に強い方ではない。
それでも少しでも暑さを紛らわしたくて団扇で人工的な風を作ったり、
足下に氷水を張って冷やしてみたり、外の風を入れる為に窓を全開に
している。
そんな色々と作を講じて何とか仕事ができる状態になった。

そしてようやく作業が一段落ついて飲み物でも飲もうかと思った時、
どこからか波を掻き分けて泳ぐ音が聞こえてきた。
私は冷蔵庫から部屋に来る前に校内の自販機で買った炭酸飲料を
足り出すと、何気なく窓辺に近づいて音のする方を覗いてみた。


校舎の横に隣接されたプールで1人の女の子が泳いでいた。



6 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:47
初めはクロールで25mある向こう側まで行くと立ち止まらず、
器用に水中でターンすると今度はバタフライで戻ってくる。
私は水泳に関しては素人だけど普通の子より相当早いように思えた。
でも彼女は早さを競う為に泳いでるわけではなく、まるで水と遊んで
いるかのように楽しそうに泳いでいた。

それが麻琴との初めて出会いだった。
と盛り上げて話したいところだけど別に初めての出会いでも何でも
なくて、1年にも各週ではあるけど講議しているから顔と名前だけは
とりあえず知っていた。
ただあまり話したことがないのでその人物像は殆ど知らなかった。

こんな風に泳ぎが得意だってことも当然知らなかったし、水と戯れて
楽しそうに笑うところだって初めて見る。
凛としたクールな優等生という印象だったからとても意外だった。

25mを軽々と2回往復すると小川はふと立ち止まってプールサイド
に上がる。
そして大きく息を吐き出してからその場に座り込みと、左右の頭を
軽く叩いて耳に入った水を出していた。
それが一通り終わると水泳キャップを少し乱暴に脱ぎ取る。
すると肩につくくらいの長さの髪が水に濡れたせいで小川の顔に
張り付いた。

でもその光景を見て私は思わず「あっ!」と声を上げた。
小川の髪が太陽の光が反射して明るいオレンジ色に見えたから。

うちの学校は私立だけど多分辺りの高校より規則は緩いと思う、
でもそれは明らかに校則違反確定な色をしていた。
私の声が大きかったのかそれとも嫌な予感がしたのか、小川は急に
慌てた様子で辺りを伺い始める。
そしてふと後ろに振り返った拍子に私と目が合った。

きっと焦るか動揺するかと思っていたのに、小川は人差し指を口に
当てると気まずさと照れ臭さが混ざったような表情をして笑う。
それは悪戯を仕掛けようとして途中でばれてしまった子どものような
顔だった。


予想外の行動と不意の無邪気な笑みに私の胸が小さく高鳴った。


7 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:52
それから小川は両手を口に当てると突然大声でこちらに向かって叫ぶ。
「今からそっちに行ってもいいですかぁ〜!」
少し間延びした低めの声が3階にいる私の耳元まで飛んでくる。


その予想外の言葉に私は返答に少し考え込んでしまった。
だって普通あんな姿を見られてわざわざ会いに来るのはおかしい。
自ら進んで自爆しに行くようなものだと思う。
でも別に私は生活指導の先生のように口うるさく注意する気はない。
だって季節柄多少浮かれ気味になるのは仕方のないと思うから。
と色々考えた末に断る程の理由は特にないし、というか小川に何だか
興味が湧いてきたので私は大きく頷くことで答えた。

いきなり部屋に来てもいいかと聞いた突発的な行動の理由もだけど、
何よりあの見ているだけで楽しさが伝わるような笑顔をもっと見たいと
思った。
クールで冷たい感じじゃない本当の小川を私は知りたくなった。


「それじゃすぐに行きますから!」
と小川は軽く髪を掻き上げてから嬉しそうに笑って弾んだ声でまた叫び返す。
その笑みに思わず釣られるように私も軽く微笑み浮かべた。


そして小川は言った通り一目散にプールサイドを駆け抜けて校舎に
向かって行き姿を消した。
まるで飼い主にボールか何かを投げられて、それを捕らえる為に
猪突猛進で走って行く犬そのものに見えた。
それがキッカケで私は麻琴と会うようになり親しくなっていった。


8 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:55
それから例年に比べて増していた暑さも大分和らぎ、今日で夏休みが
終わるという8月31日に私はなぜか学校にいた。
明日になれば嫌でも行かなければならないのになぜいるかというと、
小川とこの部屋で待ち合わせをしているから。

小川とは講習や日直があったのであれから3回くらい会う機会が
あって色々話したりした。
そのうちにクールで優等生だった印象は速効で崩れ、結構アホで
子どもぽっい面白い子だということが分かった。

小川は雨が降らない日以外毎日学校に来て泳いでいるらしい。
でもうちの学校の水泳部は夏だけ活動するという同好会レベルで、
夏休みも泳ぎに来る子なんて全く見ない。
だから小川が泳ぐのもタイムを上げる為の自習練ではなくて、ただの
個人的な趣味らしい。

そしてプールで姿を見かけると私が声を掛けて部屋に呼んで話をしていた。
それからどういう話の経由だったかは覚えていないけど、今度一緒に
プールに入ろうということになり小川が31日を希望してきた。
夏休み最後の思い出でいいかなと私は軽く考えでそれを了承した。

そして窓の方に首を向けると外は眩しくて目を痛いくらいの太陽が
輝いている。
プールに入るには絶好の日になって良かったと思いながらも、既に
私はこの暑さにやられていた。



9 名前:君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 22:59
「約束より早く来るなんて偉いね。」
私は小さい子どもを誉めるような口調で言うと、椅子から立ち上がって
小川を出迎える。

「自分が日にちを決めたんだから早く来るくらい常識ですって。」
小川は指で頬を掻きながら少し照れくさそうに笑って答える。
そしてバスタオルを外して肩にかけるといつもの目を引く明るい茶髪
ではなく、現れたのは真っ黒になった短い髪だった。

「えっ?どうしたのその髪?」
急に真面目な風貌になったことに驚いて私はすぐに問いかけた。

「だって明日から学校ですよ、さすがにあんな姿じゃ無理ですって。
まぁ・・・・・それにちょっと気合い入れって感じもあるですけど。」
小川は吹き出すように笑いながら当然のことを言った後、すぐに顔を
逸らすと小さな声で呟くように言葉を付け加えた。

「気合いを入れる?明日の開会式に何かするの?」
「あっ、いや、明日っていうか、その・・・・・ま、まぁ、多分、
いずれ分かることだと思うんで。」
私は言葉の意味が分からず怪訝そうな顔をすると、小川が誤魔化す
ようにしどろもどろになりながら答えた。

「ふ〜ん、そういうことならいいよ。」
聞かれたら困ることだと思ったからそれ以上の検索はしなかった。

「はぁ・・・・・ともかく早速プール行きましょう!今日はその為に
来たんですから、チャチャっと行かないと時間が勿体無いですよ!」
小川は安堵のため息を吐き出すと唖然とするくらいの早さで気分を
一新して、甲高い声で元気に叫ぶと突然私の手を取って引っ張る。

「はいはい、分かりました。」
苦笑いしながら言うと抵抗せずにただ引っ張られる方へと歩き出す。

楽しそうに笑いながら小川は私の手を引いて少し早足でプールに向かう。
まるで散歩に出た嬉しさで急いで走ろうとする犬と、リードを引っ張られ
ながら歩く飼い主みたいだなと思って後ろで1人笑った。


10 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:03
プールに着くとあの独特の塩素の匂いが鼻を掠める。
小川はまるで男の子のように何のためらいもなくTシャツとズボン
を脱いだ。
そしてそれを乱暴に丸めて休憩用のベンチの上に放り投げる。
それから勢い良くプールに飛び込むかと思いきや、プールサイドに
座って足だけを水の中に入れた。

「すぐに入らないの?」
私は小首を傾げながら予想外の出来事を不思議に思って問いかけた。

「そんなことしたら心臓マシになっちゃいますよ、ただでさえ準備運動
してないんですから。」
それを聞いた小川は軽く笑ってから少し呆れたような口調で嗜める。

「あっ、そっか。そうだよね、何言ってんだろ。」
私は当たり前のことを指摘されたのが恥ずかしく少し早口で言い返す。
耳が熱く火照っている感じがするからきっと真っ赤なんだと思う。

「案外ヌケてますよねぇ、飯田先生って。」
小川はこちらを見上げながら柔らかい笑みを浮かべて言った。
それから何事もなかったかのように両手でプールの水を掬うと、
それを頭や胸などに水をかけて水慣らしをする。


そのときの顔はいつもとは違って何だかとても大人に見えて、
密かにちょっと動揺した。


11 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:05
「そんなこと言うと成績を減点するからね。」
横に腰掛けると私も水をかけながらわざと不機嫌そうな口調で言った。
こういうとき自分は少し精神年齢が低いかもしれないと思う。

「えぇっ!本当こと言っただけなのに。」
小川は大げさに驚くと急に真面目になって顔つきで言う、それから
すぐに滑るようにプールの中に入ると少し歩いて水と戯れる。
それは悪戯を仕掛けた子どものようで見ていて微笑ましい気持ちに
なった。

「そういうこと言われると乙女心が傷つくなぁ。」
私は胸に手を当てながら言葉とは裏腹に呑気な声で言った。

小川は初めてどこか付き合うように笑みを浮かべると、突然体を水の中
深く沈めてその姿を消してしまう。
私はそんな行動に困惑しながらもとりあえず状況を見守ることにした。

それから少しして水しぶきを上げて小川は水面から顔を出した。
「でも・・・・・そういう先生も好きです。」
そして濡れた髪を掻き上げてから珍しく黙り込んでしまうと、不意に
真剣な目をしてこちらを見つめると少し低い声ではっきり言った。


12 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:08


まるで射抜くようなまっすぐな瞳と言葉に胸が熱くなった。


でも私はどんな答えを返していいのか迷っていた。
どれが正解なのか自分の事なのに全然分からなくて言葉に詰まった。
すると小川は突然何を思ったのかいきなり両手で水を掻き集めると、
それを私に向かって思いきりかけてくる。
大量の水に思わず目を瞑ってしまった為に視界が一瞬真っ暗になった。

そして目を開けた次の瞬間、私は手を強く引っ張られて気がついたら
水中の青い世界にいた。
まるでこの世ではない全く別の世界に来ているような感覚に陥る。
私達はまるで宇宙飛行士が月に降り立ったようにプールの底に足を
つけた。
それから小川が底を蹴って軽く浮かび上がると顔が近づいてきて、
2人の唇がとても自然に重なった。
気のせいかもしれないけど水の中なのに唇に少しだけ熱を感じた。


「・・・・・・・・。」
そしてゆっくりと顔が離れると小川は満面の笑みを浮かべて、大きく
口を開いて何かをこちらに向かって伝えようとする。
でも水の中では音の進む速度が遅いせいか上手く聞き取ることが
できなかった。
だけど何を言ったのか予想できたし私の心にはちゃんと伝わった。


それから私達というか、酸素を思い切り吐き出した小川の息が
続かなかったので水面に顔を出した。


13 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:13
「ハァ・・・・ハァ・・・・せいが・・・・ずっ・・と・・・初めて、
会った、ときから・・・・ずっと先生が好きでした。」
小川は息が絶え絶えで言葉を途切れていたけど一生懸命伝えてくれた。

私も息苦しかったので空気を思い切り吸い込んで呼吸を整えてから、
「正解をくれてありがとう。」
と自分でも聞いたのが初めてなくらい優しい声で微笑みながら言った。

「へ、えっ?」
小川は言われた言葉の真意が分からないといった感じで顔を顰める。

初めて見た無邪気な笑顔に鼓動が高鳴って、会えるときいつも嬉しいと
感じて、それにキスされたことも嫌じゃなかった、多分ここから
導きだされる答えは一つしかないと思う。
こんな簡単なことどうして今まで分からなかったんだろう、私は
多分ずっと好きなんだ。
目の前で少し戸惑った顔をしている小川麻琴が。



「カオリも小川が好きみたい。もうこの答えしかないの、間違ったって
正解はこれだけだと思うから・・・・・だから付き合ってくれる?」
私はかなり恥ずかしかったけどちゃんと目を見て、自分の気持ちを
包み隠さずに全て伝えた。

「えっと、あぁ、よく分からないけど全然OKの大歓迎です!!」
小川はあまり意味を理解してなさそうだったけど、頬を紅潮させて
親指を立てて叫んだ。
少し照れて笑ってるその顔を見てやっぱり自分は正解だと思った。

私は少し後ろに下がると壁を思いきり蹴って水を掻き分ける、そして
勢いのついたまま小川の首に手を巻き付けて思いきり抱きしめた。
でも突然だったので支えきれずに体勢を崩してしまい、2人して
少しだけ溺れそうになった。



14 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:16
「・・せい・・・飯田先生?どうしたんですかボーっとして。まぁ、
見慣れてるからいいですけど。」
麻琴はクリームソーダ−を一口飲むと平然と結構ひどいことを言う。
どうやら立ったままずっといつものやつをやっていたらしい。

「ごめん、ちょっと交信してた。っていうか麻琴が告白してくれた
時のことを回想してたらちょっと飛んじゃって。」
私はあのときの少し恥ずかしい余韻に勝手に浸りながら口元を緩めて言った。

「ブッ!ガハッ・・ゴホ・・・先生、あのときのことは心の中に封印
しといて下さい!自分で思い出してもかなり恥ずかしいんですから!」
麻琴は咽せながら顔を赤く染めるとこちらに詰め寄って強く抗議する。

「えー、大切な青春の思い出なのに。それより麻琴!さっきから
先生って呼んでるけど2人きりの時は違うでしょ?」
私は不満そうな顔をして適当な理由を作って反論する、それから話を
上手く違い話題に切り替えて誤魔化した。

「あっ、すいません。何か先生って呼ぶのがクセになっちゃってて、
飯田さんってまだ呼び慣れないんですよぉ。」
麻琴は話が逸らされたことに全く気づかず、急に困った顔して頭を
掻きながらすまなそうな口調で言った。


こういうところは良く言えば純真だし、悪く言えば単純なんだけど
彼女のこういうところを結構気に入っている。


15 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:18
「別に飯田さんじゃなくてカオリンでもいいんだよ?」
私はソファーに腰を下ろすと体を密着させて冗談で耳に囁いてみた。

「そ、そ、そんあの絶対呼べれませんよぉ!」
麻琴は顔を真っ赤にして混乱しているせいでいつもより舌っ足らずな
口調で叫ぶ。


「本当にかわいいね、麻琴は。」
私は噛み締めるように笑いながら黒い髪を優しく撫でて言った。

「きゃわいろかゆうもんらいじゃらいれすから。」
麻琴は不貞腐れた顔をしてクリームソーダを飲みながら何やら言った。
訳すと「かわいいとかいう問題じゃないですから」だと思われる。

「そんな不機嫌な顔しないでよ。今度の給料が出たらソフトクリームが
作れる機械買うからさぁ、そうしたらソフトクリームソーダ−作って
あげるよ。」
私は古典的だけど機嫌を取るため肩を揉みながら弾んだ声で言った。

「それはすっごく嬉しいですけど、そこまでしていいんですかぁ?」
麻琴は嬉しいような呆れてるような複雑な顔をして言った。
そして私が言葉を言おうと口を開いたとき、遮るように5時間目の
予鈴を告げるチャイムの音が校内に鳴り響いた。


16 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:22
「あぁ〜あ、鳴っちゃったか。」
音程が少し外れたその音を聞きながら心底残念そうに呟いた。

「・・・・・じゃ、行きますね。」
麻琴はクリームソーダ−を全て飲み干してから立ち上がると、
少し寂しげな顔をして言った。

「あっ、ちょっと待って。口の所にクリームがついてる。」
「えっ?そうですか?」
麻琴はそう言ってすぐに自分の腕で口元を拭おうとする、でも私は
その手を掴んで止めると顔を近づけて触れるだけのキスをした。
そしてついでに口の端についている白いクリームを舌で軽く舐め取る。

「キスがクリームソーダの味だなんて青春って感じだねぇ。」
私は口端だけを上げて笑いながらまるで人事のような口調で言って
からかってみた。

「こ、こういうこと昼間の学校でしていいんですか?」
麻琴は今にもちょっと泣きそうな顔をしながら弱気な声で呟く。

「まぁ、バレなきゃ大丈夫でしょ。それにこの辺はあまり人も来ない
から心配いらないよ。っていうか今日このままサボちゃわない?」
私は揚げ足を取りながら落ち着いた口調で言うと、その後に平然と
教師らしくない言葉を甘えた声で付け加える。

「教師がサボりを勧めてどうするんですか?」
麻琴は深い溜め息を吐き出すと呆れた顔して諭すように言った。


17 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:26
「えー、だってカオリは非常勤の講師だしぃ。」
私は左の手のひらに右の人差し指で穴をあけるように回しながら
拗ねた口調で言った。

「そんな松田聖子さんみたいな声出してもダメです、それに講師だから
って良いとか理由じゃないですから。」
麻琴はちょっと狼狽えてから顔を横に向けると上擦った声で正論を
言い返す。

「本当にダメ?」
私は膝を曲げて体勢を低くすると見上げながら可愛くおねだりして、
一応最後の駄目押しを試みてみる。
これじゃどっちが子どもか分からないなと思って内心苦笑した。

「ダ、ダメですよ。中間テストも近いからサボれません!」
と今日の麻琴には通じなかったらしく少し真面目な顔をして断られた。
それから私に目線を合わせずドアの方へぎこちなく歩いて行く。
そのとき今度は予鈴ではなくて本当に5時間目を告げるチャイムが
校内に鳴り響いた。

「また・・・・・放課後来ますから。」
ドアを開けて廊下に出ると不意に麻琴は体ごと後ろに振り返る、
そして頬を掻きながら苦笑いを浮かべて一言だけ言った。
それからすぐに自分の教室に向かってまた走って行ってしまう。


18 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:35
遠ざかる足音を聞きながらやっぱり残念だなと思って、浅い溜め息を
吐き出してからしばらく誰もいないドアの外を見つめていた。
それから自分の椅子に座ると両手を頭の上で組むと大きく伸びをする。

「さてと、それじゃ気長に待つとしますか。」
私は背もたれに思い切り寄り掛かりながら天井を見上げて1人呟いた。


チャイムは彼女に会える胸弾む合図でもあるけれど、全く反対に2人を
引き離す無情の合図でもある。
でも私の場合はそれがどっちに聞こえたって関係ない。
だって例え合図がなくたってこっちから会いに行けばいいんだから。


「でもそんなことしたら絶対怒られるだろうなぁ・・・・麻琴。」
そのときの状況を頭で想像して1人で勝手に落ち込みながら、手を
休めていた先程の仕事の続きに取りかかった。


そうしてまた彼女に会える合図をしばらく待つことにした。

   


END
19 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:36



20 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:36



21 名前:48 君と夏と不思議なチャイム 投稿日:2004/10/02(土) 23:37
マイナーCPですが引かないでください。

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