45 イヤな女。
- 1 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:05
- 45 イヤな女。
- 2 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:06
- 「藤本」
ああ、イラつく。
なんであたしはこんなことしてるんだろう。
「藤本〜」
こんなクソど田舎でなにやってんだ、あたしは。
「ふ・じ・も・と。聞いてんの?」
「はいはい、なんですか安倍さん」
聞いてるってんだ、このイモ女。
あたしは無理に笑顔を作ってみせる。
「顔ひきつってるよ」
ぐっ。
そうでしょうとも。あたしあんた嫌いだもん。
一応、華やかな席ではあるのだけれど、ビミョーに場の空気が読めてない派手なドレス。
いかにもこの女らしいやと心の中の鼻で笑ってみる。
寸胴のお前にはお似合いの飾りが多いドレスだな。あたしのことはほっとけ。
「あんた、イヤイヤ来てるのもわかるけどね。
少しは楽しそうなフリしなさいよ。場の雰囲気悪くなるでしょ」
うるせー、空気も読めないギゼン者のお前に言われたくねー。
「そんなだから北海道に戻されるんだよ。わかってる?」
ぐわ。言いやがったよこの女。
人が気にしてることを、アッサリと。
- 3 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:07
- 札幌にある、一応高級ホテルの大ホールである。
シンデレラ城を逆さにしたみたいなド派手な照明が白天井に何個もぶら下がり、
点々と置かれた立食用の丸テーブルにはそれなりの料理と飲み物が並び、
黒服の背筋伸ばしたウェイターたちがきびきびと行き交い、
穏やかなクラシック音楽をバックに、
優雅なお姉さま方があちこちでゴカンダンあそばされている。
北海道を拠点にした「モーニング歌劇団。」の同窓会なんだそうだ。
それにお呼ばれした初期団員のこの女と、あたしはその奴隷。
なんで奴隷なのかというと説明するのも面倒臭いけど、
なんであたしがこんなクソど田舎にいるのかというと、東京で失敗したからだ。
モーニング歌劇団。の練習生から大抜擢され、東京で華々しくソロデビューしたあたしは、
憧れの大舞台で大失敗をしてしまった。
大事なところでセリフが飛んでしまったのだ。
そんでまあ、そんなこんなでおかしくなってしまったあたしの輝かしい人生は、
クソど田舎のモーニング歌劇団。に戻されて今に至る。
つまり出戻り。なんだ一言でいいじゃん。
劇団の主宰がその時、そのための言い訳を考えた。
「北海道に戻った藤本が見てみたくなったんや」
なんやこのオッサン、頭のネジゆるんどるで。ホンマ。
何度も辞めてやろうかと思った。
- 4 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:07
- で、そのネジゆるんだオッサンに先週、この女の同窓会に付き添うように言われた。
モーニング歌劇団。は北海道でも歴史ある名門だそうで、
今まで数多くのスターを生み出してきた伝統ある大劇団らしい。
まあ、あたしも一応入団テスト受けたくらいだから、その程度は知ってる。
でまあ、そういう大きい劇団にはありがちの、
わけ分からない礼儀とか、掛け声とか挨拶とかの風習が色々とあって、
その中に、先輩の身の回りのお世話に若い見習いの後輩が付くというのがある。
そんで、この女にあたし。
「本当にイヤなときはね藤本。怒っちゃ駄目なんだよ」
イヤなときに怒らないでどうするんすか。殴るんすか。
「笑うのさ」
はあ……。天使のようなお答えですね。
「わかった? じゃあちょっと、あっちに挨拶行くから」
はいはい、行ってらっしゃいませ。
「あんたも来るんだよ」
……。
この大先輩様は正確には、もう劇団員ではない。
元から劇団の看板娘だったこの女は、卒業して東京でソロデビューしたのである。
あたしの逆。ソロはあたしのほうが先輩なんだよ。
でまあ、札幌で同窓会が開かれるっていうんで、
超忙しいらしいスケジュールの合間を縫って、
わざわざ帰郷してくださったというわけだこの大スタア様は。ガイセンってやつ?
で、卒業してもうお付きの後輩もいない大スタア様の憧れの付き人様にあたしが指名された。
主宰に言われたのだ。
「勉強になると思うでえ〜」
そんなだからお前はいつまでたっても三流演出家なんだ。
- 5 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:07
- 綺麗なドレスを着たお姉さま方にご挨拶。
「なつみ、またきれいになったね〜」
「そんなことないよ〜圭織」
だよな。そんなことないよなカンチガイ女。
そんでしばらくこの女の付き人になってからというもの、
あたしは何かにつけて色んな事をチクチクと言われた。
「集中足りないよ藤本」
集中してますよ、あんたのムカつき具合に集中しまくり。
「もっと自信持ってやんなさい」
喧嘩なら自信あるよ。あんたなら秒殺できる自信ある。
そっこーマウントとってタコ殴り。
「そういう時はね、アイコンタクトするの」
ラモスかお前は。
なぜかこの女は、劇団の中でもあたしにだけやたらとイヤミったらしくつっかかってくる。
何やってても、トゲトゲしく口を出してくるのだ。
「藤本〜」
ほらまたあのイヤミな呼び方からしてもう。
「なんですか?」
「拾って」
足元に白いハンカチ。
ありえない。ありえない。
- 6 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:08
- 「なつみも昔は色々と苦労したからねえ」
とお姉さま方。
そうそう、この女はあろうことか、
自分が昔イジメられっ子だったことを一般大衆に向けて告白している。というかウリにしている。
世間の同情でも買おうってのか。
ありえないね。絶対嘘。
だって性格が女王サマなんだよこの女。
生まれた時から自分が誰よりも上の人間だとか思ってそうだ。
まあ、もしこんな女がクラスにいたら、あたしはイジメてるけどね、確実に。
「ちょっとあんた、今また物凄いアブない顔してたわよ」
「ええ〜、そんなことないですよぉ〜」
失敬だな。あんたの事考えてただけですよ。
「あらこちら藤本さんね」
そうです藤本ですよお姉さま方。
東京に華々しくソロデビューしたものの出戻ってきて付き人やってる藤本美貴です。
「ほら、ちゃんと挨拶なさい」
「こんばんわ」
「ごめんなさいこの子ったら、緊張してるみたいで」
「あら、かわいらしくていいじゃないの」
「そうなの、世話の焼ける妹みたいなのよ〜、おほほ」
シラジラしいにも程がある。
「そういえば顔もどことなく似てるわねえ」
「よく言われるんですよぉ〜。ねえ〜?」
あたしの笑顔がひきつりまくる。
似てるかよ! お前には本物がいるじゃねえか!
他の劇団からデビューしたテメエにソックリのアレな妹が!
- 7 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:08
- 「ちょっと。もっとうまく合わせなさいよ」
お姉さま方と離れてから女がささやく。
だってぇ〜。無理なもんは無理。
「そんなんだから駄目なんだよ」
また嫌味っすか。
「目を見るんだよ藤本」
またアイコンタクトっすか。
あたしは東京の大舞台で、重要なセリフを飛ばした。
客の大歓声に相手のセリフを聞き逃し、言い出すタイミングを逃してしまったのだ。
悪夢だった。
あたしの味方だったはずのヲタどもの大歓声が、
途端にあたしを罵倒する野次馬どもの無責任なヤジに聞こえた。
頭の中が真っ白になって、セリフが飛んだ。
台本も何もかも素っ飛んだ。ついでにあたしの意識も飛んだ。
「目を読むんだよ、相手の目を」
で、これが大スタア様のご助言。
目なんて読めるかチビデブヘチャムクレ。目のどこにセリフ書いてんねん。
「お互い本気の時は、伝わるもんなんだよ」
熱すぎるわ。あんたはどこぞのテニスコーチか。
「付き合いなさい。本気ってのを見せてあげるから」
そんで今に至る。
んで、いつ見せてくれるのよ、その熱い本気ってやつを。
- 8 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:09
- 「あ〜ら、これは安倍なつみさん」
うわ、なんか凄いのが近寄ってきた。
このカンチガイ女よりカンチガイしてるっぽい全身真っ青の小林幸子みたいなシュールなドレス。
太刀持ちみたいなのを横に二人引き連れて、後ろになんかいっぱいの付き人従えて。
でも、この女に対してイヤミったらしさ全開の口調にはちょっと好感が持てる。
「あらごきげんよう、中澤さん、石黒さん、福田さん」
こっちはお得意のさわやかスマイル。なんかムカつく。
「おかげんよろしそうね」
と、中澤の横にいた石黒って女。鼻ピーだよ! こえ〜こえ〜。
「東京ではちょっと人気みたいじゃない」
さらに福田って女。下膨れの顔が子供みたいだけど目が危ない。
む、こいつデキるな。
「そんなこと全然ないですわよ〜」
「あらご謙遜を」
「謙遜も度を越すと嫌味よね」
「まあまあ、彩さん、よろしいじゃないの。
昔からの大親友だった私たちとしても鼻が高いわ」
「そう〜ね〜。昔は色々と遊んであげたものね〜」
おや? そしたらこいつ、黙りやがった。
- 9 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:10
- 「藤本、ちょっと飲み物取ってきてくれる?」
「? はい」
あれ? ちょっと様子がおかしいかな、と思いながら、
あたしは言われたとおり飲み物を取りに行く。
「あ〜ら。言ってくれれば飲み物くらい、
ウチのたくさんいる子たちに取りに行かせるのに。ね〜え?」
「いいじゃない。昔は安倍さんも取りに行ってたんだから、
一人だけでも行かせる子がいるだけで大した出世だわ」
「そうねえ〜。昔は私たちの飲み物、あなたが取りに行ってくれてたんですものねえ〜」
取りに行ったテーブルから振り返ると、
三人の女たちが高らかに笑い上げていた。
おお、あいつをみんなで笑ってやってるのか、なんて愉快な。早く見に行こう。
なんて思って飲み物を持って近くまで戻ってみると、あいつの様子がやっぱりおかしい。
中澤って女の連れてきた付き人どもの隙間から、話題の中心をのぞき見てみる。
「この娘ったらねえ、今じゃこんなスタアぶってるけど、
昔はイジメられてたのよ〜。あんたたちもテレビで見て知ってるでしょ?」
中澤って女が、演説するみたいに後ろの子達に喋ってる。
「私たち三人がよく庇ってあげてねえ〜」
……へえ。イジメられてたって、マジだったのかな。
- 10 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:10
- 「そうそう、私たちも大変だったわ〜、あの頃は」
しかしただの昔話だってのに、あいつはうつむいて喋らなくなりやがる。
これはちょっと楽しいかもしれない。
「ちょうどあの頃、モーニングも厳しい時でねえ。主宰も色々と混乱しておいでで、
新作はこの子一人を真ん中に立てて売るとか言い出しちゃって」
ありゃりゃ?
……震えてる?
よく見ると、あの生意気なあいつの、下で握っている手が震えてる?
「そうねえ。覚えてる? この子が途中でフリ間違えちゃってさあ」
「あはは覚えてる〜」
「その後の楽屋は凄かったねえ。
この子、替えの下着無くしちゃってさあ、あはははは」
中澤って女が後ろをチラと見ると、付き人の連中が一緒になって大声で笑い出す。
声高の大歓声は、一瞬そこをホールの中心にした。
- 11 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:10
- ホールの中心で、一瞬だけあの女が笑い者にされた。
もしかして、あの女がイジメられてたのって、本当に本当?
あの女の目が、心なしか怯えているように見えた。あ〜こりゃ愉快かも。
「無くなった靴を必死で探してたこともあったね〜」
やっぱり、あの女の手が震えてる。
「そうそう。見つかったけどね」
「トイレでね」
「あった、あった」
「いや〜懐かしいわね〜。覚えてる〜? なつみ〜」
大声で続けられる話に耳を澄まして聞いてたら、
もしかしてあの女イジメてたのって、こいつらなのかなって思った。
そう思って聞いてたら、周りの連中の笑い声になんかイラっときた。
あれ? あたしムカついてる?
いや違う違う、連中のイヤミな言い方があの女に似ててちょっとムカついただけ。
「懐かしいわよね〜」
「もしかして、まだ恨みとか持ってる〜? 大スタアになって見返しに来たつもりとか〜」
「まさか〜」
また連中がイヤらしく笑う。
なんかちょっとムカついたんで、ちょっとだけムカついたんで、
とりあえず飲み物持ってあそこに戻ろうと思ったんだけど、
大勢の取り巻きが邪魔でこれが中々前に進めない。
- 12 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:11
- 隙間から見える中澤たちが、あいつを前に話を続けている。
会話の内容はよく分からないけど、まだ笑ってるみたいだ。
あいつはどうしてるかなって思って、人ゴミの中から見てみると……。
震える手の中でなんか光ってた。
やばい、とあたしは思った。
やばいよ! フォーク持ってる!
震える手で、ギリギリとフォーク握りしめてる。
うわ! どうする! どうする! 目がマジだよ!
まだ誰も気がついてない。
連中ニヤケながら自分たちに夢中でゴカンダンしてる。
なんかあいつらマジムカついてきた。
オイ、どうするオレのキンニク、じゃなくて藤本美貴。
刺す気だよ! あいつ!
- 13 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:12
- ちょっとマジでヤバイと思って焦るあたし。
いくら恨みつらみがあるにしたってあんた刺してどうすんのよ。
あんた大スタアの道が台無しじゃないの。
あんたそんな事するために北海道帰って来たの?
ガイセンじゃなくて再戦?
走ってって止めるか? いや間に合わない。
大声出す? いやこのうるさいの中で聞こえるか?
それに、半端に連中が隙なんか見せたら、
逆にあの女は後ろから刺す。刺すよあの目は。
じゃあどうする。
って思ってるあたしの視界にそれが入る。
……。
ええい。もう迷ってる暇なんかない。
あの女が変なことする前に、いや、半端なタイミングじゃ駄目だ。
あいつのやる気を萎えさせるくらいのインパクトで、出鼻を挫く感じで、豪快に。
あの女の目を見てタイミングを計る。
目に殺気が走る瞬間があるはず。
……ドクン。
……ドクン。
……今だ!
- 14 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:12
- あたしは目の前にあった丸テーブルを、
スカートの裾を両手で持ち上げて、思いっきり連中のほうに向けて蹴りとばした。
自分でもビックリするくらいすんごい音がした。
テーブルは上に乗っていたグラスやらビンやら皿やらスプーンやらを豪快に床にぶっちゃけ、
ビックリして避ける付き人どもの隙間を縫って、
前になんかのテレビで見たドラム缶転がしの名人みたいに見事なカーブを床の上に描きながら、
目を真ん丸くした連中の目の前に、ガランガランと音をたてて転がった。
モーゼのジュッカイみたいに真っ二つに分かれた人の波の、
こっちにあたし、あっちに連中。
「てめえら! ウチの大将にイヤらしくイヤミタラタラやってんじゃねえよ!」
大将はないだろ、と思ったのは後の話。だってちょうどいい言葉が浮かばなかったんだもん。
とにかくその時はあいつを止めようと夢中で、大声で叫んでた。
あたしは大きく目を剥いたまんま、あいつを見る。
刺すなよ、と目で威嚇する。
そしたらあの女、
ボウ然としている連中のところにユウ然と歩いていって、前で立ち止まると、
ふんと胸を張った。
「違うよ。裕ちゃん」
シーンとするホール。
そんで、いつの間にかフォークを放してた手を中澤の肩の上にそっと置いて、
「あたしが今日、ここに来たのはね。見返すためなんかじゃないよ」
にっこり微笑んでみせた。
「あたしは、あなた達を許してあげに来たの」
- 15 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:13
- まあ、その後は。
ちょっとビミョーな空気だったけど。
この上ないタイミングでこの上ない形で場の空気を支配したあたしとあの女は、
ボウ然とする中澤とその取り巻きを残して、ユウユウと別のテーブルに移っていった。
連中は服が汚れたとか何とか言って、顔を引きつらせながらさっさと帰り、
慌てて出てきたウェイターたちがあたしのぶっちゃけたテーブルとかを片付けて、
周りの関係ない人たちは少しずつ、またゴカンダンに戻っていった。
しばらくすると。あいつが急にあたしに近づいて、腕をぎゅっと掴んできた。
え? なに?
あいつはうつむいたまま、顔を上げない。
「……わかった? 本当にイヤなときは、怒っちゃ駄目」
言葉はあたしを諭すようだったけど、
なんかまるであたしの腕を揺するみたいに、
あいつの手がガタガタと震えていた。
倒れてしまいそうな体を支えるように、がっちり、ガタガタとあたしの手を掴んでた。
あたしは、黙ってそのまま、しばらくそこに突っ立ってた。
ああ、なんかシラけたな。
- 16 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:14
- それから数日後。
あたしはレッスンの最中に劇団の応接室に呼び出された。
扉を開けたら、主宰がいた。
頭のネジゆるんだあのオッサンだ。
あいかわらずの金髪にサングラスで、入ってきたあたしを見てニヤニヤ笑ってる。
なにこの空気。
「元気か〜藤本」
ニヤニヤ。
「レッスンようがんばっとるそうやん」
ニヤニヤ。
「なんすか?」
なんか言いたそうにしてるのが丸わかりだったんで、めんどくさいので単刀直入に聞く。
するとオッサン、一瞬子供みたいにつまらなそうに口を尖らせたかと思うと、
またニヤニヤしはじめた。三流演出家があたしの前でニヤニヤ笑っとる。
「今日、安倍が東京帰るそうや」
あ、そうなんだ?
あれから、あいつにはもちろん会ってない。
まあなんかアレだけど、あれじゃお互い気まずいし、まあいいんじゃないって思ってた。
まあなんか、イジメとかアレだし。
「11時の電車で空港に行くそうや。もうすぐやな」
なんすか。見送りに行けとでも?
イヤに決まってるじゃないすか。
だいたい何様っすか。東京に「帰る」って。
- 17 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:14
- そしたらオッサンのニヤニヤが増す。だからなんすか。
「目ぇ。読めたそうやな」
は?
「最高のタイミングやったって、言うとったで」
なにが?
「目を見れっちゅうことはな。相手の気持ちになれってことや。
共演者の役の気持ちに自分の心が入りこんでれば、
目を見るだけで、ここやいうタイミングは勝手に分かる。
そこで相手に言うべきことだって自然と分かるから、セリフも飛ばない」
え……?
「互いに本気のときって言うのは、自然と気持ちが伝わるもんや。
最高の舞台、用意してもらったみたいやな」
それって、もしかして……。
「でも言うとったで。まさか、テーブル蹴っ飛ばすとは思わんかったて」
オッサンがニヤニヤ。
「笑いこらえるの大変やったて」
その瞬間、あたしは応接室のドアをブチ破って外に駆け出してた。
「青春やなあ〜」
後ろからオッサンの間抜けな声が聞こえたけど、
急いでたから戻ってブン殴るのはやめといた。後で殴る。
- 18 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:16
- 「全部演技だったのかよ!」
あたしは自転車こぎながら叫んだ。
駅まで続く何にも無い一本道を、全速力で。
あれも演技だったの!? マジで?
うつむいて、あたしの腕を掴んで震えてたあの手。泣いてたんじゃなくて……。
「笑いこらえてたのかよ!」
あたしは一体何に気利かせてたんだよ!
全部、あたしに分からせるために、あいつが仕組んだ演技だったの?
本気を見せてやるって……。本気の演技のことだったのかよ!
まさか……あの中澤って連中も演技? ……いやまさか。いや……。
同窓会は本当だったんだろうけど。……え?
アッタマきた。
あたしは全速力で、視界に入った今にもホームから走り出そうとする電車を追いかける。
自転車のスピードでオデコが全開。でも今はそんなことかまってらんない。
青春ドラマかよ。
でもなんか、あいつのムカつくツラに向かってどうしてもなんか言ってやりたかった。
必死こいてペダル踏んでるのに、背筋に寒気が走る。
そうなんだ。
あの時ちょっと、あいつのことカッコいいと思っちまったんだよ。ちょっとだけ。
あの時の、決めセリフを連中に言い放ったあの笑顔。
……あたしのおかげだったんだけど。よく考えたら。
言うなればあたしは露払いに使われたんだ。
あの瞬間のあの女は、まさにホールの中心。衆目を一身に受ける確かにスタアだった。
- 19 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:17
- とにかく走り出す電車を必死で追いかけてたら、
窓が開いて、あの女が顔を出した。
いやがった、あの女。
「青春だなー。藤本ー」
なんだその満面の笑み。
嬉しそうに言うな。お前を見送りに来たわけじゃねえ。
「楽しかったよザマーミロ」ってお前の目が語ってるんだよムカツク。
うおー自転車コケた。
あたしはうまいこと自転車放り出して大ゴトにならないで済んだけど、
電車は一気に遠のいていく。
あの女の目がムカつくくらい楽しそうに語ってやがったもんだから、
あたしはその場でニオウ立ちになって言い返してやった。
「ざけんなてめえ! ブッコロス!!」
もちろん口で。大声で。
そしたらあのヤロー。窓から顔出したまますげえ大きい口開けて、
こっち指差して大笑いしてやがった。
アッタマきた。
ぜってーブッコロス。
いつかあたしがもう一度東京に帰ったら、今度こそ秒殺する。
そっこーマウントとってタコ殴りにするから待っとけ。
クソ。
- 20 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:18
-
(●´ー`)
- 21 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:18
- _, ,_
川V-V)
- 22 名前:45 イヤな女。 投稿日:2004/10/02(土) 21:18
- _, ,_
川V-V)< ヒザすりむいた
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