39 シグナル5

1 名前:39 シグナル5 投稿日:2004/10/02(土) 06:34

39 シグナル5
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:37
 陽気なメロディが室内に響き、直ぐに止まった。鼻をかんでいた藤本がテーブルに置いてあ
った携帯を一瞥してから、ティッシュをゴミ箱に放り投げると、既にティッシュで溢れ返って
いた山が崩れた。

「ちょっとー、美貴一人でゴミ箱いっぱいにしといて、そのままにしとかないでよ」
 読んでいた小説を閉じて、飯田は顔をしかめる。
「気になるなら、飯田さん、片付けておいて」
「なんでよ」
「リーダーだし」
「意味判んないよ」
 不満そうな飯田を無視して、藤本は自分の携帯を手に取り、受信メール画面を開くと、
「……まただ」
 と眉根を寄せた。

 そこにあるのは、<送ってみたで>という文字だけだった。

 送信者の名前を見なくても判る。高橋だ。少し前まではチェーンメールが届いていたが、最
近はこの言葉ばかり送信されてくる。これもある意味、迷惑メールではあったが、道重なども
似たようなメールを貰っていると以前聞いたことがあったので、面と向かって怒るわけにもい
かず、藤本はその場で適当に返信していた。

 今日はコントの収録で楽屋には藤本と飯田しかいない。他のメンバーは収録中だった。飯田
と二人きりになっても喋ることがないので、漫画を読んでいたらメールが届いたのだ。恐らく、
コントの出番が終わって高橋は暇をしていたのだろう、と藤本は思った。

「なんか、怖い顔してるよ」
 飯田は不思議そうな表情で、藤本を見つめていた。
「愛ちゃんのメールって、飯田さんのところにも来る?」
「…………」
「飯田さん?」
「……もしかしてさ、あの変なメールが来た?」
「うん。送ってみたで、ってやつ」
 藤本が素直に頷くと、飯田の眉がピクリと動いた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:38
「ちなみに何回目?」
「えーと……、四、いや、五回目だったかな」
 いつも適当に返信をしているので、正確な数字が判らない。飯田は顔を強張らせつつも、無
理やりな笑顔を作った。

「ご愁傷様でした」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 風呂から出てバスタオルで乱暴に髪を拭いていた藤本は、ブブブッとテーブルの上で振動し
ている携帯を見つめて、顔をしかめた。

「……またかよ」
 送信者を見て、溜息をつく。

 飯田にメールの話をした後、藤本の携帯はひっきりなしに鳴るようになった。その殆どが高
橋だった。一方的に、お薦めの本の話題、大好きな宝塚の話、大好きな宝塚の出演者の話、大
好きな宝塚の曲についてなどなど、藤本にとって全く興味がない内容ばかりメールで送って来
る。チェーンメール以上に鬱陶しい。

 普段は、共通の話題がないという理由から、藤本の方から率先して話し掛けることもないが、
別に高橋と仲が悪いわけではない。だからといって、大量のメールを貰うほど仲が良いわけで
もない。

 もう一度メールが鳴り、藤本は自然と険しい表情になっていた。しかし、相手は高橋ではな
く、松浦だと判り、ホッと胸を撫で下ろす。ドラマ撮影中の彼女は忙しく、昔ほど一緒に遊べ
なくなった替わりに、メールの回数が増えていた。
 内容を見てみると、今日の撮影がまだ終わらない、という愚痴だった。時計を見ると、既に
日付が変わっている。松浦は今年、十八歳になって夜の仕事が増えた為、こういうメールは最
近多い。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:39
「まだ撮影中なのかぁ」
 呟きながら、何だか申し訳ないような気分になった。藤本は日付が変わる前に家に戻り、も
う寝ようとしていたところだった。メールの返信をするべきなのだろうが、撮影が再開されて
いたら意味がない、と悩んでいると、またメールが届いた。また高橋からだった。

 藤本は舌打ちをして、携帯の電源を切った。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「一体、どういうことなんですか?」
 翌日、藤本は楽屋にいた飯田を廊下に連れ出すと、噛みつかんばかりの剣幕で問い詰めた。
飯田は何を問われているのか判らない、といった様子で肩をすくめている。

「昨日、メールの話したら、ご愁傷様って言ってたでしょ」
「あぁ、あの、親友メールね」
「何それ」
 藤本は意味が判らず、片眉を上げた。飯田は苦笑いを浮かべている。

「あの意味不明メールを五回貰ったら、勝手に親友候補にされちゃうんだよ」

 飯田によると<送ってみたで>という意味不明なメールに対して、五回返信した人間は親友
候補のターゲットにされるという話だった。五回というのは、一方的に高橋が送った回数では
なく、きちんと相手が返信した回数らしい。

「はぁ? 親友候補?」
「親友探しをしてるらしいんだよ」
「いや、既にそっから意味が……」
「ただの友達じゃなくて、親友が欲しいんだって」
「っていうか、愛ちゃんって、親友どころか、友達いな……もがッ」
 藤本の口を強引に飯田は塞ぐ。そして、廊下に出ている人間がいないことを確認すると、溜
息をついて手を離した。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:42
「高橋に友達がいないとか表で言うのは、ダメだっていうルールでしょ」
 人の口を塞いでおきながら、堂々と言うなよ、と藤本は思いながら、
「そもそも、そんなルール作る前に、リーダーが何とかするべきじゃないの?」
「そんなこと言ったって、どうすることも出来ないことってあるじゃん」
「いや、ここで力説されたって困るし」

 藤本がソロの頃はまだ同期のメンバーと仲良くしていた高橋だが、いつの頃からか、一人で
行動することが多くなった。事務所の高橋推しが仇となってメンバーとの距離が出来てしまっ
たのか、それとも彼女の性格に難がある所為なのか――。どちらも有り得そうなので、藤本は
あえて誰かに尋ねたことはない。

 リーダーである飯田は、メンバーに高橋と仲良くするように、とは言わなかった。友達付き
合いくらい自分で何とかするべきであって、逆に強要すると余計にグループ内の空気が悪くな
る、と彼女は主張している。とりあえず、高橋に気を遣ってこの変なルールを作ったまではい
いが、彼女とメンバーの距離は全く変わらない。藤本は、飯田がこの問題から上手く逃げてい
るような気がしてならなかった。

「そういや、なんで、飯田さんはこのこと知ってるの?」
「だって、圭織にも前メール着てたもん」
 飯田はあっさり答える。

 どうやら、飯田以外にも同じようなメール攻撃を受けたメンバーがいるらしい。普段、構っ
てやらない罪滅ぼしとして、メールの返信は律儀にしてしまったのだという。
 高橋の親友作りは主にメールで行われる為に、楽屋などで親友候補と彼女が親密な会話をす
ることはない。そういった水面下のやり取りなど、藤本が気付けるはずがなかった。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:43
「っていうか、なんで、メールだけなの? 仲良くしたいんなら、一緒に遊びに行ったり、何
ていうか、普通は会話からじゃないの?」
「まぁ、そうなんだけどね。本人曰く、メールの方が本音で喋ることが出来るからって」
「何それ? 意味判んないし」
「上辺だけの付き合いなら、友達なんていらないって言うんだよ」
 そんなことを言える立場なのだろうか、という疑問を藤本は抱いた。

「でも、一方的なメール送って、親友を作ろうっていう考えは、おかしくない?」
「高橋の考えることなんて、他人に理解出来るわけないじゃん」
 藤本は素直に頷く。既に理解出来ていなかった。

「で、どうやったら、終わるの?」
「高橋が諦めたら」
「…………」

 飯田の場合は、本の好みが似ていたので、それなりにメールでの会話を重ねていたらしいが、
高橋が求めているものとは違っていたらしい。それに、いつまで経っても飯田が心を開かなか
った為に諦めたようだ。親友というからには一方通行はありえない。結果的に、飯田は高橋の
親友候補から外れされた。

「ただ、気をつけた方がいいよ。たまに、自分よりも仲がいい子に嫉妬して嫌がらせしてくる
らしいから」
「えぇッ!?」
「自分を一番大事にして欲しいとかって思うらしいのね。なにせ、親友候補だから」
「っていうか、なんで美貴なの? そんな接点ないのに」
「他はもうあたったってことじゃないの?」
「つまり、美貴は残りものってこと……?」
「かもね」
 飯田はさらりと答えた。どうやら、ランダムに人を選んでいるようで、飯田もどのメンバー
が被害に遭ったのかは知らないらしい。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:44
「先に、レスするなって言ってくれたらよかったのに!」
「だって、リーダーとして高橋のことを思ったら、そんなの言えないよ。それに、まさか美貴
がマメにレスしてるなんて、思ってなかったし」
「どんなメールでも、ツッコミ入れないとって思っちゃうから……」
 それが仇になったのか、と藤本は頭をかかえた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 その後も高橋のメールは止まらなかった。楽屋にいる時は会話をするどころか、近くにも寄
ってこないのに、メールは毎日しかも時間無視で届く。深夜でもおかまいなしだった。常識と
いう文字が彼女の辞書にはないらしい。ここまでくると、返信する気にもならなかった。

 最近では、寝る前に携帯の電源を切るのが日課になってしまった。それでも、朝起きて問い
合わせセンターにアクセスすると、大量のメールが届く。深夜から早朝にかけての送信時間を
見て、いつ寝ているのだろう、と呆れる時期はもう過ぎていた。堪忍袋の尾が切れかかった藤
本は一度、高橋に文句を言いに行った。

「あのさ、美貴そういうの興味ないんだよね」
「そういうのって?」
 その時も本を読んでいた高橋はきょとんとしていた。
「だから、メールの内容のこと」
「あぁ。それは知らないからだって」
「いやいや、知りたいとか思ってないから」
「大丈夫だよ。知ってて損はせんから。一緒に勉強しようよ」
 高橋はあどけない笑顔で答えた。本人には悪気がないのだから、尚更たちが悪い。経験上、
いつまでも文句を言うと逆ギレしてくるので、大人しく引き下がることにした。

 メールを送られる相手の気持ちなど、高橋は何も考えていないのだと、その時藤本は悟った。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:46
◇◇◇◇◇

 誰かに愚痴りたい気分になった藤本は、廊下を歩いている新垣を捕まえた。今日は雑誌の取
材があるので、事務所に全員集まっている。人通りの少ない踊り場へ移動して、藤本が真面目
な表情を作ると、新垣はきょとんとして細かく瞬きを繰り返した。

「どうしたの?」
「愛ちゃん、どうにかしてくんない? ガキさん、仲良かったでしょ? あのメール攻撃はマ
ジでシャレになんな……」
「ストップ」
 藤本は詳しい説明をしようとしたが、新垣は手のひらを差し出し、強引に話を止めさせると、
こんな話をする為に連れて来られたのか、と言わんばかりに自慢の眉毛で八の字を作った。

「美貴ちゃん、その話はタブー。他の人の前で言ったら怒られるよ」
「え?」
「今まであのメール貰った人は、二度とその話題をしたくないって思ってるから」
 それだけ精神的に辛かったということなのだろうか、と藤本は口を歪めた。

「それに、皆一人で耐えてきたことだもん。美貴ちゃんも頑張って耐えなきゃ」
「……耐えられないから、困ってるんだよ」
「でも、愛ちゃんに何を言っても無駄だってことくらい判るでしょ。人の話、全然聞かないん
だから。おかげで、こっちはストレス太りしちゃってさぁ……」
 新垣は憔悴したように弱々しい笑みを浮かべている。他にも何人か該当する人間を思い浮か
べて、藤本は顔を引きつらせた。自分もああなってしまうのだろうか、という恐怖心から嫌な
汗が頬を伝った。

「でもさ、マジで何とかなんないの? 何かいい案とかない?」
「何とかなんないから、皆困ってたんじゃない。マネージャーとか、上の人に言ったって、仲
良くしろって言うだけだもん」
「…………」
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:47
 新垣が言うには、その気がないなら下手に高橋を期待させてはいけないが、同じグループの
仲間としての付き合いがあるので、突き放し過ぎても駄目だということだった。今まで自分が
してきたことと、何ら変わりがないこのアドバイスを藤本は上の空で聞いていた。

 そもそも、誰も手を貸してくれないのなら、そんな助言など必要なかった。高橋とは親友ど
ころか、関わりたくないとまで思うようになっている。藤本にはあの思考回路が全く理解出来
ない。それに、自分にはもう親友がいる。

 これ以上、新垣から訊き出せることもなかったので、藤本は外の空気を吸いに行くことにし
た。立ち去り際に新垣が「頑張って」と言っていたが、何を頑張れというのだろう、と藤本は
心の中で八つ当たりをしていた。

「これだから、グループって面倒なんだよなぁ」
 乱暴に頭をガリガリと掻いて藤本は呟く。

 これからは無視を貫くことにした。嫌われた方がまだマシだ。早く諦めてくれるよう、藤本
は心から祈った。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「たん、なんか、元気ない声してるね」
 携帯から聞こえてくる松浦の声は心配そうだった。藤本は自分の顔を鏡で見て、苦笑いを浮
かべる。元気どころか、顔色すら悪い。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:49
「そんなことないよ」
「でも、声に張りがないっていうか」
「ハワイに行って、疲れが溜まっちゃってるのかも」
「何言ってんの。その前から、元気なかったくせに」
「あ、ゴメン。鼻かませて」
 松浦の鋭い指摘を、藤本は強引に誤魔化した。わざとらしく音を立てて鼻をかみ、ゴミ箱に
ティッシュを投げ込んだが、外れて床に落ちた。それ以外にも、同じように丸まったティッシ
ュがあちこちに転がっている。洗濯物もかなり溜まっていた。最近は部屋の掃除をする気力す
ら出ない。

 高橋のメールはまだ続いていた。藤本が無視を決め込んでいても、何の変化もない。相変わ
らず、藤本には興味がない話題ばかり一方的にメールで送ってくる。経験者の飯田や新垣も首
を捻っていたほどで、ここまで一人の人間に執着するのは珍しいことらしい。

 数ヶ月間、高橋のメール攻撃を受けている藤本は精神的に病んでいた。着メロが流れるだけ
でも、心拍数が上がる。自分の携帯だけではなく、他人の携帯の音にも敏感になっていた。

 携帯を変えることも考えた。メンバーに教えているのはプライベート用のもので、仕事用に
使っているものは別にあるし、連絡をするのは面倒だが、番号とメールアドレスを変更するこ
とは今すぐにでも可能だった。しかし、高橋一人にだけ番号を隠しとおすことなど出来るはず
がない。それは、着信拒否にすることも同じだ。
 結局、他にいい方法が思いつかないので、常に音が鳴らないようにバイブ設定だけにして、
仕事が終わると電源を落とすことにしていた。

「ちょっとー、聞いてんの?」
 ぼんやりして話を聞いていなかった藤本はハッと我に返った。電話の向こうで松浦が不機嫌
そうな声を出している。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:53
「……あ、ごめん。えーと、そういえば、ドラマの撮影はもう終わるの?」
「うん。もうちょっとでね。夏バテして大変だったけど」
「じゃ、終わったら、久しぶりに亜弥ちゃんちで一緒にDVD見よっか」
「いいねぇ」
 無邪気に笑う松浦の声を聞いていると安心する。藤本の顔にようやく笑みが浮かんだ頃、突
然、鞄の中で携帯が鳴った。途端に、顔を強張らせた。

「あれ? 何か鳴ってない?」
「……う、うん。もう一個の携帯」
「調子が悪かったんじゃないの?」
 不思議そうに尋ねる松浦に、藤本は何も答えられなかった。松浦にはプライベート用の調子
が悪いので、一時的だが仕事用の携帯を使用している、という言い訳をしていた。携帯の調子
が悪いというのはメンバーにも伝えてある。

 藤本は携帯を入れている鞄を怯えた目で見つめた。既に沈黙している。空耳であって欲しい
と思ったが、松浦にも聞こえるほどの音量だったのだから、空耳であるわけがない。

 恐る恐る鞄から携帯を取り出し、藤本は目を見張った。電源が入り、メールも届いている。
そんな馬鹿な、という言葉を藤本は必死で飲み込んだ。仕事が終わって着替える前に携帯の電
源は切ったはずだった。それに、着メロの設定はしていない。しかし、手にしている携帯から
は着メロが鳴り、メールも届いている。誰かがこの携帯を触ったとしか思えない。
 震える手で、メール画面を表示させて藤本は息を呑んだ。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:54

<あたしのこと、嫌い?>
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:56
 高橋からだった。最近、全く返信をしていなかったので、勘が鈍い彼女でも気付いたのかも
しれない。嫌いになってくれた方が楽になれる、という罪悪感と共に、恐怖を感じた。他人の
携帯を無断で触る神経が理解出来ない。それに、自分よりも仲が良い子に嫉妬して嫌がらせし
てくる、という話を思い出したからだ。

「どうしたの?」
「……え、あ、うん。何でもない」
 ずっと黙り込んでいた藤本に、松浦は能天気な声をかける。藤本は気付かれないように、大
袈裟なくらい明るい声を出す。しかし、高橋のメールが表示されている携帯を持つ手の震えが
止まらなかった。

 嫌いじゃないよ、と答えてたら、期待させてしまう。もしかすると、親友確定になってしま
うかもしれない。それだけは無理だ。メール攻撃が永遠に続くことになってしまう。
 逆に、嫌い、と答えた場合を考え、いくらなんでも、同じグループの一員として、そんな残
酷なことは言えない、と藤本は首を振った。相手が嫌ってくれるのは構わないが、こちらが言
うのは気が引ける。しかし、もうそんなことを考えている場合ではないのかもしれない。

 もう一度携帯が鳴った。

<今、亜弥ちゃんと電話してるの?>

「…………ッ」
 あまりの恐ろしさに身体中が震え上がった。それでも、携帯は止め処もなく鳴り続ける。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:57
<亜弥ちゃんとあたし、どっちが好き?>

<美貴ちゃんの親友は亜弥ちゃんじゃなくて、あたしだよね?>

<あたしのこと、好きだよね?>

<どうして、レスくれないの?>

<美貴ちゃんは親友だよね?>

<美貴ちゃんは親友だよね?>

<美貴ちゃんは親友だよね?>

<美貴ちゃんは親友だよね?>

<美貴ちゃんは親友だよね?>
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 06:59
 藤本は悲鳴をあげて、鳴り続ける携帯を放り投げた。

「……普通じゃない。……こ、こんなの、ありえないって」
 歯がガチガチと鳴って上手く喋ることが出来ない。身体中から油汗が噴き出している。苦手
なお化け屋敷やホラー映画よりも数倍怖い。フローリングの床でブルルッと振動しながら、未
だに着信を知らせているメールを凝視して、藤本はもう一つの携帯をギュッと握り締めた。

「ちょ、ちょっと、たん?! どうしたの? 何があったの?」
 ただならぬものを感じたのか、松浦は慌てた声を出した。事情を説明することが出来ない藤
本は何も答えられない。鳴り響く携帯から逃げる為に、尻をつけたまま、じりじりと後退して
壁に背を付けた。

「あ、ちょっと待って。こっちもメールが着た」
 松浦の仕事用携帯が鳴ったらしい。傍に置いてあったようで、軽快なメロディが藤本の耳に
も届いた。その時、床で踊っていた携帯がピタリと止まり、藤本はゆっくりと息を吐いた。

「あれ? 愛ちゃんだ」
「…………え?」
「どうして、この携帯知ってたんだろう。んーと、今からDVD借りに来るって。今日じゃな
いとダメなのかな。っていうか、場所知ってたっけ」

 松浦の仕事用の携帯のアドレスを知っている人間はあまりいないはずだった。ハロプロのメ
ンバーはプライベートの方しか知らないはずで、知っているのは藤本くらいだった。それなの
に、何故高橋が知っているのだろう。夜中だというのにDVDを借りに行くというのもおかし
い話だ。目的は本当にそれだけなのだろうか。それに、どうして今このタイミングでそんな連
絡をしたのだろう――。藤本の頭の中は次々と湧き出る疑問で埋め尽くされる。

 床に転がって沈黙している携帯を見つめて、藤本は立ち上がった。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:01
「……あ、亜弥ちゃん」
「何?」
「ヤバイって。に、逃げてッ!」
 藤本は大声を張り上げた。
「はぁ? あんた、何言ってんの?」
「いいから!」
「逃げるって、何から逃げろっつーの? 今何時だと思ってんの、一時過ぎてんだよ?」
「もう! こっちから行くよ! 美貴が行くまで、絶対ドア開けないでよ!」
 そう言って、返事も聞かずに藤本は携帯を切ると、部屋を飛び出した。

 明らかに高橋は普通ではない。何をしでかすか判らない。そうでなくても、一つのことしか
考えられない思い込みの激しい人間なのだ。このままでは、松浦が危ない。

 エレベーターも使わずに、階段を駆け下りる。どこからメールを送っていたのかは判らない
が、高橋よりも先に辿り着けるはずだという期待を抱いて藤本は路上へ飛び出した。

 そして、光に包まれた。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「とりあえず、マスコミには病気で二週間くらい藤本が休むっていう発表にするから」
 マネージャーの発表を聞いても、メンバーは黙り込んでいた。

 藤本が交通事故に遭ったという事情を先に聞かされて、やっぱり、という表情を浮かべてい
る者もいれば、心配している者、哀しそうに俯いている者もいた。部屋の隅で静かに様子を窺
っていた飯田は無表情だった。

 収録時間が迫っている為に、今後のことについて話していたマネージャーの話は打ち切られ
た。出番があるメンバーはゾロゾロと暗い面持ちで部屋を出て行く。飯田は外に出て行こうと
していた高橋の腕を無言で捕まえて、そのまま部屋の隅に移動した。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:06
「顔色が悪いですよ?」
 高橋は飯田の顔を見上げて笑みを浮かべた。嬉しそうにも見える。飯田は不愉快だと言わん
ばかりに顔を歪めた。

「あんた、美貴に何やったの?」
 周りの目を気にして、飯田が小声で尋ねると、
「何て、いつもと一緒でメール送っただけやでの」
 高橋は当然のように答えた。

「それがどうしてこうなるの? 下手したら……、死んでたんだよ?」
「そんなこと言われても、あたしはメール送っただけやでの」
 同じことを繰り返す高橋に、飯田は激しい怒りを覚えた。どこまで天然なんだ、そんな性格
だから友達が出来ないんだよ、と言う暴言を必死に飲み込む為に、ギリリと音が鳴るほど力い
っぱい歯を食いしばった。その顔を見て、高橋は目を細めた。

「こうなることを、飯田さんが望んでたんでしょ?」
 高橋はニヤリと笑って、部屋を出て行った。

 高橋がいなくなった後も飯田はその場に呆然と立ち尽くしていた。高橋が口にした言葉の意
味が判らず、傍にあった椅子に、崩れるように力なく腰掛けた。

 別に藤本に対して特別な感情は抱いていなかった。誰もが思ったように飯田も、ソロで活躍
していた彼女が仲間となることで、少し傾き始めていた人気が回復出来るかもしれない、とい
う望みを持っていただけだ。しかし、現実は厳しかった。

 それでも、飯田は藤本に対して特別な感情は抱いていなかった。だから、藤本がこうなった
のは、決して飯田が望んでいたことではない。高橋が言った言葉には語弊があった。

 高橋の親友メールが違うものに変化していたのだ。そのことに飯田は気付いていなかった。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:08
 飯田が親友候補になっていた頃、一度だけ高橋が普通のメールを送っていた。どうすれば、
あたし達はもっと良くなるでしょう、という真面目な質問に、飯田は他のメンバーをライバル
だと思えばいい、そして、勝てるように努力すればいい、というリーダーらしい言葉を返した。
過去を振り返って、センター争いをしていた頃が一番成長出来ていた、と思ったからだ。しか
し、高橋はその意味を取り違えていた。そして、自分の境遇を逆に利用した。

 呆然としていた飯田の耳に着メロのメロディが入ってきた。楽屋にはもう殆ど残っていない。
振り返ってみると、一人離れた場所で携帯を見つめる少女がいた。

「……何これ」
 田中が携帯を見つめて呟いていた。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:08

<送ってみたで>
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:08
<送ってみたで>
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:09

<送ってみたで>
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:09

<送ってみたで>
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/02(土) 07:09

<送ってみたで>

Converted by dat2html.pl v0.2