32 C.C.C.
- 1 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 21:59
- C.C.C.
- 2 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:00
- みんなが息をのんだその瞬間、よっすぃーがおいらの顔を見たのがわかった。
部屋の空気はぴんと張り詰めたまま。
それを静かに切り裂くように、一直線に刺さってくる視線。
おいらは気づかないフリをして、話し続けるつんくさんから目をそらして自分の指先を見つめた。
よっすぃーの目がおいらから離れないのを痛いほど感じる。
わかってる、わかってるけどさ。
「……というワケやな。みんなもそのつもりでよろしく」
つんくさんが話し終わったと同時によっすぃーが弾けるように立ち上がり、椅子を蹴ってドアの外に飛び出した。
ドアを開ける瞬間に少しだけ横を向いたよっすぃーと、目が合う。
おいらはその目を見つめただけで、一歩も動かなかった。
- 3 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:00
- 追いかけるスタッフもメンバーもいない。
呆然としているのか、どうでも良いと思っているのか、テレビ的にオイシイと思っているのか。
遅れて立ち上がった麻琴も結局そのまま、何も言わずに椅子の背をつかんで動かずにいる。
しょうがないな。
何がしょうがないんだかわからないんだけどホント、しょうがない。
今さら名前なんて呼ぶのもそらぞらしいから黙っておいらは、よっすぃーみたく椅子を蹴ってダッシュする。
微妙なタイミング過ぎてみんなが唖然としてるのがわかる。
ごめん、何となく遅かったよね、知ってる。
走りながら一応、心の中では「よっすぃ〜〜」なんて叫んでみた。
あの時に宣言しちゃったし、雰囲気出るじゃん何か、追っかけてるカンジの。
- 4 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:01
- ・・・・・・・・・・
- 5 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:01
- あの日よっすぃーは笑って言った。
「第8期メンバー募集が発表された時はあたし、その場でそこから飛び出してみせますよ」
「へえ?反対とか、反抗するってこと?」
おいらはもちろんただの冗談だと思ってたから、適当に答える。
「んー、微妙にちがくて」
よっすぃーはおいらが渡したジュースを飲みながら続ける。
「何だろうなー、もう飽き飽きじゃないですか、新メンバー追加とかって。驚きもしないしわくわくもしないし」
「まあねえ」
あらかじめ知らされてないメンバー追加の発表でもおいら達は特にもう、驚かない。
ぎょっとしてはっとするのはその時の一番新しいメンバー達くらいだ。
そう思って少し離れたテーブルにいる、こないだ入ったばかりのメンバーを見る。
最近ようやく慣れてきたみたい。
その隣にいるシゲさんを見る。
そういう笑顔、最初の頃は絶対出なかったよなー、いや、よく成長した、うん、お姉さん嬉しい。
スタジオの片隅で時間つぶしの雑談をしているそんなリーダーとサブリーダー、「やぐっつぁんと吉澤さん」に構うコはあまりいない。
気まぐれでおいら達にじゃれついてくることもあるけれど、大抵は同世代のコ達が自然にかたまってしまう。
それはそれで寂しいような落ち着くような、悪くもなく良くもなく、要するにまあ、どっちでもイイってことだ。
- 6 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:01
- 「だからあたし、どうせカメラも回ってるじゃないですかそういう時?話聞き終わった瞬間に出て行きます、バン、なんて机叩いて、
やってらんねーなんて顔して」
よっすぃーの話はまだ続いていた。
「もし発表がコンサ中だったらどうすんの?」
コンサートの途中でよっすぃーが勝手に出て行ったらそれはそれでものすごい大騒ぎだ。
新メン追加どころじゃない。
「やりますよ?別にイイんですよ、楽しけりゃ」
楽しけりゃイイのかよ〜、そりゃよっすぃーは楽しいだろけどさ。
もうコドモじゃないんだからウチら。
「後ですっっごい怒られるよ?プロ意識がないなんてきっと言われてさー、下のコの模範になるべきサブリーダーとして今更そゆの、どうなの?」
「覚悟の上です」
そんな覚悟をしてまで、「もう飽き飽き」で「わくわくもしない」メンバー追加を盛り上げたい(よっすぃーなりに、またはよっすぃーの中だけで)のかと思うと、
ホントくだらないと言うしかないのだけれど、まあこの人はこういう人だ。
「じゃあおいらその時、よっすぃーを追いかけるからさ」
「マジですか?ホントに?」
意外に真顔で食いついてくるよっすぃー。
- 7 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:02
- 「ホントホント。よーっすぃ〜〜!なんて叫んで、後に続くから」
「でも追いつけないですよ、きっと」
そらそうだ、おいらがちょこちょこ追っかけてってよっすぃーに追いつくワケがない。
ていうかこの人そんなに本気で逃げるの?
「ええ?追いかけることに意義があるんでしょ?飛び出すことに意義があるように」
「そうなんですけどね」
飲み干したジュースの紙コップを両手で丁寧に平たくつぶしてよっすぃーは言った。
「つんくさんが話し終えると同時にあたし、飛び出しますから」
発表するのがつんくさんじゃなかったらどうするのさ、というツっこみはやめといた。
あまりにもアホらしい話だったから。
よっすぃーは平たい紙コップを丸めて、壁際のゴミ箱に向けて慎重に投げる。
カコン。
ど真ん中に紙コップを吸い込んだゴミ箱をおいら達は、しばらく黙って見つめていた。
そしておいらとよっすぃーの名前が呼ばれて、2人してそのまま撮影に戻った。
- 8 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:02
- ・・・・・・・・・・
- 9 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:02
- そんなワケでおいらは必死に今、スタジオの駐車場を走り抜けている。
くそー、何でおいらがこんなこと、って自分で言ったからしょうがないのか、ったく。
よっすぃーの背中がどんどん小さくなっていく。
どこ行くんだよよっすぃー!
外に出るなんて聞いてないよー。
海の近くのスタジオの周りにはあまり人がいない。
「モー娘。」が走ってるからって気にするような通行人すらいない。
あーもうよっすぃー、ちょっとゆっくり走ってよおいらもー疲れてきちった。
目の前を横切った猫が振り返って、怯えた目でおいらを見てる。
厚底は走りにくいし足音もデカイんだよ悪かったな!
もうすぐ春とは言え厚着をしてるから暑い、暑すぎる、もうヤだ走りたくない。
そう思った時、よっすぃーの背中にどんどん近づいていくのに気づいた。
あ、立ち止まってるんだ。
振り向いたよっすぃーは黙っておいらを見つめている。
優しい目。
……はイイんだけどさ、走らせといて優しいも何もないよね。
- 10 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:03
- よっすぃーがにやり、と笑ったからおいらも軽く、にやりと笑って返す。
さっきドアを開けた瞬間のと、おんなじ目。
手を差し出してきたよっすぃーにワザとぶつかって、憎まれ口を叩く。
「何?ってかもーマジ疲れたんだけど」
「一緒に行きましょうよせっかくだから」
だー何、意味わかんないよ、と答えながらもおいらはよっすぃーの手を握る。
こんなの久しぶりだな。
照れくさい。
肩で息をしてるおいらを見てよっすぃーはまた、笑った。
あっち、とよっすぃーは指差して建物の角を曲がる。
目の前に広がるのは、東京湾と堤防とレインボーブリッジ。
「あんまり感動的じゃないね、東京湾って汚いなー」
そう言ったもののおいらは何となく、ぐっと来てた。
「大きい建造物」にはいつまでたっても感動してしまうから?
それとも?
「まあそう言わないでくださいよ」
よっすぃーに手を引かれてテトラポッドの上に踏み出す。
「ぎゃー虫いたー!ヘンなのいたよよっすぃー!」
「矢口さんの仲間じゃなくて?」
懐かしいネタを持ち出すよっすぃーに悪態をつきながら、おいらは水際を目指す。
いちお海だからさ。
そうしないことには落ち着かない。
- 11 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:03
- やっとのことで辿り着いた「海」は、予想通りゴミだらけの虫だらけだった。
でも何となく嬉しい。
「せいしゅんですよせいしゅん」
「だね、これから帰って死ぬほど怒られるのも含めてね」
実際問題おいら達、怒られる程度で済めば良いとは思うけどひょっとしたらひょっとして、ものすごく悪いオチが待っていてもおかしくはない。
プロ意識が聞いて呆れるね。
終わりと始まり、始まりと終わり。
- 12 名前:32 C.C.C. 投稿日:2004/09/30(木) 22:03
- おいら達を呼ぶ聞き慣れた声が遠くに聴こえたのは、気のせいかもしれない。
よっすぃーもおいらも振り返らずにそのまま、テトラポッドにぶつかる小さな波と、遠くに見える大きな橋を見つめていた。
見たことのない白い大きな鳥がすぐそばで、羽を休めている。
冬の終わりを告げる優しい風が一瞬、おいら達を包んで通り抜けていった。
- 13 名前:32 投稿日:2004/09/30(木) 22:04
- c.
- 14 名前:32 投稿日:2004/09/30(木) 22:05
- c.
- 15 名前:32 投稿日:2004/09/30(木) 22:05
- c.
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