22 転寝

1 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:15
22 転寝
2 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:17

私の十九の誕生日が静かに過ぎた。
いつもその日を境にして秋が来る、そのはずだ。
だから今はもう秋なのだろう。
時間にすると夕刻だろうか。
私はいつもと変わらない楽屋に独り、いる。
今日も昼間は熱かったらしい。
私はずっと室内で仕事をしていてよく知らないけれども。

少し肌寒い。
開け放たれた窓から、何時か降りだした雨の音が静かに響いてくる。
私は眠っている。
仕事の合間の少ない時間を休息に使うのは間違いじゃない。
それも私たちの大事な仕事。
私たちの?いや、私の。
3 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:18

窓の外を通る車が、辺りの空気を食い尽くす怪物のように唸りを上げて
近づき、それから離れていく。
雨音が静かなだけ、この部屋が静かなだけその音は轟く。
遠く遠く轟く。

楽屋の長椅子に横になっている私の上に薄い毛布が一枚、乗せられているらしい。
いつ掛けられたのだか、覚えは無いが、マネージャーが気遣ってくれたのだろう。
それにしても、肌寒い。
部屋の中の空気は外の空気と時差をつけて緩やかに混ざり合って
冷えていく。
そしてまた間を置いて私を冷やしてゆくようだ。
空を覆っている分厚い雲は、夏よりも高く、夏よりも白々しく
夏よりも果敢ない。
4 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:19

先ほどまで見ていた夢の中で私はいろいろなことを思い出していたらしい。
その内容は殆ど覚えてはいないけど。
一体何を夢見ていたのだろう。

楽しかった頃の、思い出。

じゃあ今は、楽しくない?―――いや……

気怠い。
秋の雨降りの夕刻。
この季節特有の浮遊感と沈潜。
私はこの時間が好きだった。いつかまでは。
どうしてだろう。

時間の歩みが遅い。
ほとんど、動いてもいないのではないかと思うくらい。
いつまでもこうしていられるのだろうか。
いつまでも惰眠を貪って。


5 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:20



「ごっちん、朝だよ!起きて起きて!」
「いや、朝じゃないでしょ」

「とにかく真希、おきなさーい」



梨華ちゃん? よっすぃー? 圭織?

6 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:21


「うぅ…眠い…あと5分…」

「だーめ。そろそろ準備しないと間に合わないっしょ!」

なっち!

「んー、寒ーい。なっちぃ…」

「わー、もうごっちん、抱きつくなってば!」

「あったかーい…」


「のんもー!」
「かごもー!」
7 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:22

「うわ、うわっちょっと…あいぼん、のの、どきなさーい!」

「もぅ…甘えただなぁ、ごっちんは…幾つになったのさね?」


いくつに…? 十…

「もう後藤も16なんだから、もっとシャンとしなきゃ駄目ね。
 もう直ぐ新しい子たちだって入ってくるって言うのに…」


圭ちゃん…なんだ、そっか…
8 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:23

「ごとーは子供だもーん」

「でもさぁ、ごっつぁん。うちらがいなくなったらどーすんの?
 いつまででも寝てるでしょ」

やぐっつぁん…

「でもカオもわかるよ。秋の雨降りの夕方ってさ、
 一度寝たらなかなか起きれないよね」

圭織…そうだね。
よく、わかるよ。

あったかいからね。
皆で笑って。気持ちよくて、ついつい、何時までも寝ちゃう。


9 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:24



寒い。


10 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:25

目が覚めると部屋は真っ暗になっていた。
雨は今止んでいるらしい。
壁掛け時計に目をやる。暗くて見えない。
でも、もうそろそろ時間だってわかる。
身体が覚えているらしい。
あと10分としないうちにマネージャーが起こしに来るのだろう。
身体を起こし、一番に先ず冷たい風を浴びせかける窓を閉めた。
それから反対側に移動して部屋の蛍光灯を灯す。
時間は、やっぱり予想通り。

マネージャーが来ない先に寝乱れた髪を手グシで直す。
鏡を覗き込むと、瞼の下が少し濡れていた。
寝過ぎたかな……
11 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:26

いろんなことを思い出した。

この季節がノスタルジアを引き起こすのは変わらないんだ。
私だけじゃなくて、みんな。
それを皆で持ち寄って、共有して、きつく繋がれる気がしたから
私はこの季節が好きだったんだ。

ねぇ、やぐっつぁん。
私、一人で起きられたよ?
皆にどやされなくても、身体が勝手に私を起こした。
身に染み付いた目覚めの合図。
今日だけじゃなくて、あの頃皆に頼ってたことの裡の随分が
私一人で出来るようになったよ。
それは、私がオトナになったってことなのかな?

寂しいと泣きじゃくるのがコドモ?
寂しくても独りで我慢するのがオトナ?
12 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:28

17の誕生日に卒業してから2年。
私は随分聞き分けがよかった方だろう。
無我夢中の2年が過ぎて今、私は本当に
オトナになろうとしているのかも知れない。
アタマの程度は高が知れてるけどね。

寂しいね。


マネージャーに呼ばれる前にこの部屋を出よう。
大勢いた部屋が私一人の部屋に。
一人の部屋がゼロ人の部屋になったら、部屋もやっぱり寂しいのかな?


電気を消して、部屋の戸を閉める。
復た、戻ってくるから。
13 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:29

廊下に出ると、またツンと寒さが襲った。

もうすぐ、冬が来るらしい。


14 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:30
終わり
15 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:31
.
16 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:32
.
17 名前:22 転寝 投稿日:2004/09/28(火) 01:32
.

Converted by dat2html.pl v0.2