20.No-Sign
- 1 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 00:28
- 20.No-Sign
- 2 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 00:39
- オレンジ色の炎が、空中に散った。
……ねぇ、たん。 こう思ったことない?
……本当は世界なんか1999年にきちんと滅んでて。なんとかダムスの預言の通り、本当はもう無くなっちゃってて。
……あたしたちはまだ、生きてる夢を見てるだけなんだって。
……この時間はただの、オマケの時間だって。
……あたし時々そういうこと考えちゃうんだ……
あの小屋の中にいるはずの、東京に来てからのあたしの一番親しかった年下の友達の、その言葉が耳朶をなぶる。あたしは今、考えちゃいけないことを考えている。彼女が死んでしまったなんてことを考えている。これはただのテレビ番組で、正月の特番で、元旦から生放送とかいって窮屈な着物着せられてずっと椅子とか座らされて適当なものをみて適当なことで笑ったりすればいいだけの、そういう安全なはずの箱庭にいたはずで。
それじゃあ今テレビモニターが映してるのは何なんだろ?
燃えてて、なんか勝俣さんが叫んでて、すごい手際悪くて、それはなんだかいかにもありそうなことで。いつだってそう、なんだかんだってちっちゃ事故はいつもあって、そういえば紺ちゃんだってTV番組の収録中に足を怪我したんだっけ? だってでも、ありえないしこんなの。やぐっさんが何か叫んでるのが聞こえるけど意味わかんないし。分かるのはただ、中継の画面に映ってる炎。
……あたしたちはただ夢を見ているだけなんだって。
そうだ夢だ。これは夢だ。ただの夢なんだ……
- 3 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 00:51
- 「あっつー…」
この夢を見ると決まってひどく汗をかいた。2004年1月1日。今年の始めはもう最悪だった。
死という概念は、あたし、藤本美貴にとっては、ひどく遠いものだった。
無理やり思い出してみても、名前も顔も知らない同級生が小学校1年生のときに市営プールで溺れて亡くなったのと、友達の友達が走り屋さんにはまっていたときにくっついてった峠で、ドリフトした車がゲートに突っ込んで上にいたギャラリーに何かあったとき、すぐにギャラリーが集まって大騒ぎになって救急車呼んだり散ったりしたから詳しいことはよくわかんないんだけど、ぶちあたったときの勢いがすごくて、多分だめだったんじゃないかなって見に行った友達と話したときと、せいぜいそのぐらいだったんだ。
だから、亜弥ちゃんが危険な脱出イベントに参加して、爆発に巻き込まれたって思ったとき、あたしはもう頭ん中が真っ白になっちゃって、どうしていいかわからなくなった。助けにいきたくても、どこか遠い中継の向こうの出来事で。でも確実に今の、リアルタイムの出来事で。騒然となって皆が騒いでるなかで、あたしだけ何も出来ずただ、画面を見ることしかできなかった。画面の中の、あの炎の中にいる亜弥ちゃんの姿しか見えなかった。
ばっかみたい。
あんなのやらせだって、落ち着いていたらすぐ分かったはずなのに、あたしときたら綺麗さっぱり騙されちゃって。あとで矢口さんに、最初から中に入ってないなんてトリックとかビートたけしさんやSMAPもやったことがあるとか、詳しいことを聞かされたときも、なんか、もう、声も出なかった。喋りすぎてうるさいって言われがちなあたしにしてみたら珍しいことだ。
- 4 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:02
- あのあとで会った亜弥ちゃんは、信じられないことに、やたら嬉しそうだった。
あたしがころっと騙されて、涙まで流したことがコトのほか気に入ったらしい。
『たんって結構スレてるように見えて純粋だよねえ?』
信じられないって思った。自分の命を玩具にするとか、死んだように見せかけるとか、そういうのすごい悪趣味。ありえない。
でも、そんなことは言わなかった。
『っていうかスレてるって何? あたしってばびっくりするほど純粋なのっ』
なんでもなかったかのように、へらって笑って冗談にしてごまかした。ここでムキになって怒ったって、騙されてカッコ悪いうえに二重にカッコワルイ。カッコワルサの二乗。それも有り得ない。ていうかそれって愛ちゃん。亜弥ちゃんが一番苦手とするジャンルの行動だし。ああ、関西人で面白いことが好きすぎて、ノリの違いにたまに酔ったみたいに気持ち悪くなることがある。同じ日本人でもなんかやっぱり違うんだなって。理解できないことがヤなわけじゃ、ないんだけど。
そう考えたらぐーっとお腹が鳴った。時計は6時半。レストランがそろそろ始まる時間。シャワーでも浴びよう。
- 5 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:12
- ざーっと、水を出して足にかけながら温度を調節する。浴室に張られた鏡を見る。髪がへんなふうに寝癖がついて面白くなっていた。サリーちゃんのパパみたいな感じになっちゃってる。髪にウェイブを掛けてから、寝癖が本当に手に負えなくなってきていた。ていうか梳かしても梳かしてもへんなふうにもつれて「ちゃんと髪ぐらい梳いて来いよー」とかみんなに言われちゃうし。とかしてるっちゅうの。
髪型を変えたのも、そういえば亜弥ちゃんのせいだった。
去年、ことミックをやっていたとき、亜弥ちゃんのほうが髪型を変えたのだ。あたしに合わせて。よく似てるとか、そろって可愛いとか言われて亜弥ちゃんはなんだかご満悦なかんじだったし、あたしもにこにこしてたけど、本音言うとすごいヤだった。何でまねするんだろこの人って思ったっけ。おそろの時計、おそろのシャツ、おそろのアクセサリ……もううんざり。雑誌で、「誰かとなにかをお揃いにするのってあんまり好きじゃない」なんて言ってたの見てびっくりしたのを覚えていた。てっきり他人とお揃いのものを持つのが趣味なんだと思ってたっけ。別にこだわるようなことでもないから、おそろいを外すようなことはしなかったけど。
亜弥ちゃんは、多分、アクセサリーのようにあたしを所有していた。鏡に向けてシャワーを浴びせる。曇りが取れて水滴で歪んだ表面に自分が映る。その姿がもう亜弥ちゃんに似てないことに少しほっとした。
- 6 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:18
- モーニング娘。に入るって聞いたとき、真っ先に怒りの電話を寄越したのも亜弥ちゃんだった。
『それってひどくない? なんかさあ、せっかくソロでやってて、結構売れてきてるのに、傾いてる娘。なんかに入れられちゃうのって、なんかすごいたんのことバカにしてない? 6期だって正直ちょっと……でしょう? 5期のコたちだっていつまで経っても素人みたいでシッカリしてなくってさ。たんもたんだよ。ヤならちゃんと断らなきゃダメじゃん。だいたいつんくさんってさあ…』
最初はあまりの剣幕にびっくりしたけど、そのあとの悪口雑言のオンパレードで聞いてるこっちが耳をふさぎたくなった。突っ込む隙間もないぐらいの一気の早口だった。
『や、あたし別にヤじゃないしさ…』
ってようやくポツンと言えたら、そのまま黙り込んじゃって、それってホント?なんて聞くもんだから、うん…、って答えた。本当のことを言うと、本当に本当のことを言っちゃうけど、本当は、あたしだってちょっとぐらいは亜弥ちゃんみたいなことは、思ってた。だけど、そこまでは思ってなかった。それは違う。断じて違う。
- 7 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:22
- ホテルに備え付けのドライヤーで髪を乾かす。
ワット数が大きいのか髪の毛が一気に乾いちゃうので慌てて整髪剤をスプレーする。矢口さんが昔使っていたというヘア・アイロンをくれたけれども、有り得ないほど面倒なので、でも、持ち歩いてないとなんだか悪くって重いのにずっと鞄のなかに入っていて、旅行にいくときはいつでも一緒だった。
「使ってみようかなー…」
毎回思うんだけど、結局は、やめる。
「うん、明日。明日使おう」
- 8 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:30
- 「おはよー」
貸切になった食事室に行くと、もう何人かの娘。が来てて思い思いに皿に朝食をとっていた。
「あ、よっちゃんさーん」
友人の姿を見つけて、駆け寄って隣に座る。
「うーす」
豪快な寝ぼけ眼とイッテツみたいな髪の毛のよっちゃんさんは、椅子にだらしなく腰掛けていた。
「あれ? お皿カラ?」
「まぁね…、隙あり!」
プレートの上の果物類を軒並み奪うと、よっちゃんさんはがばっと身を起こした。
「あ”ーっ! おれのフルーツ!!! 自分でとってこいよぉっ」
「だってもうないんだもーん♪」
「なぬーっ?!」
「よっちゃんさん美貴のためにありがとう。いただきまーす」
「うわっ。ちょっ待てやー」
「よっちゃんさんも食べたいの?」
「食べたいに決まってるだろーが!」
「仕方ないなー。はい、あーん」
「あーん、って食えるかーっ」
ゲラゲラ笑いながら、よっちゃんさんの腕をつかむと、びくっとしたようによっちゃんさんは身を引いた。
それでまた、あたしは安心して笑った。
- 9 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:30
- sage失敗
- 10 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:30
- まじごめん
- 11 名前:20.No-Sign 投稿日:2004/09/28(火) 01:31
- おわり
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