19 夜明けを駆けて
- 1 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:13
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夜明けを駆けて
- 2 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:13
- 空はいくつか太陽に追いやられてなお輝く星。
風は涼しくて気持ちいい。
後藤さん笑ってる。
後藤さんの瞳に映りこんだ私も笑ってる。
「さあ、行きますよ」
「オッケー。いつでもどうぞ」
手話での会話。
二人並んで、構えた。
「用意、ドン!」
言って私は後藤さんの腰をトンと叩いた。
紺野あさ美と後藤真希は、ただ一直線に、
憧れを目指して走り出した―――
- 3 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:15
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目と目が合って
微笑んだ
- 4 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:16
- 小学生の頃から私はずっと後藤さんに憧れていた。
生徒会の会長だった彼女はよく朝礼台に立っていた。
そんな彼女、もちろん男子からは大人気だった。
男子が告白してふられたという話はよく耳にする。
私はそんな彼女とたったの三、四ヶ月を一緒に過ごすためだけに、
中学で陸上部に入った。
後藤さんが彼氏を作らなかったのは、陸上のためだと聞いたことがある。
そんな彼女の気持ちを少しでも理解したかった。
そして、一緒にいたかった。
- 5 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:16
- 私は、後藤さんと家が近かったこともあり、ボディーガード役として一緒に帰る権利を得、
一緒に帰るようになった。
彼女の練習量は半端ではない。
いつも暗くなるまで練習していた。
そして私は先にあがって、時々タイムを計ったりしながら待っていた。
八月半ばだった。
大会に備えていつもよりもハードな練習をし、疲れきっていた後藤さんは、
帰り道、私と別れた後交通事故に遭い、聴力を失った。
- 6 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:18
- それでも後藤さんは、ベッドに寝かされてなお陸上を諦めなかった。
そもそも陸上で、耳が聞こえなくて不利なのは、スタートの合図が聞こえないくらいだ。
そこで私たちは、いつかの復帰を考えて目で見てわかる合図を決めた。
後藤さん一人のときは手を振り降ろす。
二人で走るときは腰の辺りをトンと叩く。
そして私は手話を勉強し、他にも色々な話をして後藤さんを励ました。
が、事故の後遺症は重かった。
退院して走ったら、
後藤さんは百メートルの半分ほどのところで蹲ってしまった。
- 7 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:18
- 人前で涙を見せたことのない後藤さんが、その日泣いた。
やがて陽がくれて辺りが真っ暗になっても、後藤さんは蹲ったまま動こうとしない。
後藤さんを支えていたものが今、音を立てて崩れたのだ。
私はといえば、何も出来ずにそばに突っ立っているだけだった。
やがて私たちは学校から追い出された。
しかしそれでも、後藤さんは校門の前で泣き続ける。
- 8 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:19
- そういている間に、先生たちの車が次々と学校から出て行き、時計の針はどんどん回った。
いつの間にか、夜が明け始めた。
後藤さんは突然走り出した。
学校の中へと入っていく。
そして走りながら手話で、
「あたしのこと愛してる?」
「もちろんです」
そんなこと今まで一度も言わなかったのに、自然に手が動いた。
「あたしも紺野のこと愛してるよ
だからずっといつまでも一緒にいよう」
窓を割って学校に侵入した。私は後藤さんについて走った。
たどりついたのは屋上だった。
- 9 名前:19夜明けを駆けて 投稿日:2004/09/28(火) 00:20
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終
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