17 溶ける時間

1 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:00
17 溶ける時間
2 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:01
ざあっ。

高校卒業の日。
「――あのさ、私の彼女。」
春の合図のように、吹きすさぶ桜の中で。
「はじめまして――石川梨華です。」
私は、生涯一番の親友(だった)に生涯初の(これは確か)の失恋を、した。

切られることのなかった、スタート。
3 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:04
「…で一年後の現在、藤本美貴さんはその初恋の人との再会を果たした、と。そういうことですな。」

扇のように広げたトランプの向こうで、大家の村田さんは青春だねぇと呟いた。
眼鏡の奥の目が、明らかに楽しんでいるのがちょっと気に入らなかったけれど、居候同然の間借りをさせてもらっている身ではそうも言えまい。
それより言いたいのは―――

「二人でババ抜きして、楽しいですか?」
「それなりに。」
4 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:06
即答かよ。

あきらめてカードを引く。
…げ。
「藤本さん、ババ引いたね?」
「……。」

いひひ、と笑いながら村田さんは私のカードを引いた。
5 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:09
「どうだった?」
「へ?」

「相手よ、その…吉澤さんだっけ、その子。大学生なんだって?」
数字のそろったカードを放り出しながらの、言葉。
「あー、そのときの彼女と歩いてましたよ。きっと、私のこと気づいてなかったんじゃないですかねぇ。遠かったし。」
ゆっくりと、選んだ言葉を吐き出す。
「まぁ、幸せそうなので、よかったです。」

外はもう、真っ暗。
6 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:14
「奪っちゃいなよ。」

ばさっ。

「…何ですか。」
「…あぁ、庭の椿の花。花がまるごと落ちるから、夜だとけっこう大きな音になるの。」
「いやそうじゃなくて。何なんですか、その――」
「『奪っちゃいなよ』?」
「それ、それですよ。」
「だって、そう思ってるんでしょ。好きなんでしょ、今でも。」
トランプをもったまま、水割りを飲む―そのグラスをすかしてこちらを見る瞳。
その瞳で、この人は私の何を、見たのだろう。
「まさか。」

笑って、そろったカードを出した。
7 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:16
「…遅すぎますよ。」
そうだ。全部が全部、遅すぎる。
私はスタートを切ることなく、レースを投げたのだから。
「だから、そんな気持ちを抱えたまま――昔の友達のふりするの?」
「悪いですか。」
「悪かぁ、ないけどね。」

あがり。
そう言って村田さんが最後のカードを出した。

ゲーム終了。
8 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:19
「もうひと勝負、やんない?」
「や、明日のシフト朝なんで、寝ます。」
「そ、おやすみ。」

こんこんこん。
彼女を階段を上がる音。
私が見上げるのは箪笥の上。
置かれた写真立て。
微笑むあの人。

「けしかけるわけじゃあ、ないけどね。」
思わず知らずもれる、言葉。
9 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:22
「いい子なんだけど、ちょっと臆病なところがね――昔の私みたいで。」
しゃかしゃかしゃか。
カードを切る。
「…あの子には、私みたいな思いをしてほしくないの。」

箱になおして、背伸びをひとつ。
「…寝ようかな。」
机の上に置きっぱなし。三分の一ほど残った水割りを流し込む。

氷がだいぶ、溶けていた。
10 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:26
ぼーん。

響く、時計の音。
11 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:28

ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
ぼーん。
12 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:30


―――12時。

13 名前:17 溶ける時間 投稿日:2004/09/27(月) 15:31
 了。  
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 15:32
溶けるジカン。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 15:32
溶けだすジカン。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/09/27(月) 15:33
それは――

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