13 The time of the eyes
- 1 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:34
- 13 The time of the eyes
- 2 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:35
-
ぴんぽーん。
手書きの地図を辿ってやって来た家のインターホンを押す。
出迎えてくれたのは、ちょっとふっくらしたいちーちゃんだった。
- 3 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:36
-
「The time of the eyes」
- 4 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:37
-
「いやー、まさか後藤が来てくれるなんて思わなかったよ」
いちーちゃんに案内されて、リビングへと進む。けっこう広めのリビングの
隅にあるテレビは点けっぱなしで、何を見てるのかと思ったら「LOVEセ
ンチュリー 」のDVDだった。
「何見てんのー」
「いや、後藤が来るまでの暇潰しにさ。あん時はあたしもまだ休業中の身だ
ったなあ、懐かしい」
そう言って遠い目をするいちーちゃん。ちょっとお母さんになった横顔は楽
しかった日々が過ぎ去りし日々になってしまっていることを、ごとーに実感
させた。
「ま、そこで楽にしてなよ。何か作ってやるからさ」
「えー、いちーちゃんの料理ぃ?」
「ばっかやろ、これでも現役の主婦なんだぞ。彩っぺに負けてたまるかっての」
と言いつつ、キッチンへと姿を消すいちーちゃん。
- 5 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:41
- 手持ち無沙汰なごとーは、仕方がないからDVDでも見ることにしたんだけど…
ってやっぱはずい。特になっちに食って掛かってる場面とか。まるで自分で自分
の書いたポートレートを見てるような気分に襲われる。大体自分の出てる番組な
んて、ほとんど見ないし。というわけでさりげなくテレビのスイッチを消し、テ
ーブルの上にあった三角形のプリズムをいじってぼーっとしてた。やっぱぼーっ
とするのって、好きなんだよねえ。
指で窓から降り注ぐ光を弄びながら、何となくさっきの自分の姿を思い浮かべた。
あの頃は、きっとただがむしゃらに走ってただけなんだ。その先に何があるかな
んて、考えもせず。そんな自分を馬鹿だなあ、と思う気持ちとうらやましく思う
気持ち。
- 6 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:42
-
不意に、キッチンの奥から有り得ない爆発音が。
「な、何の音いちーちゃん!」
奥から別に何でもないって、なんて声が聞こえてくるけど何でもないわけがない。
きっと何かの家電を変な使い方をしたに決まってる。昔から、地震雷火事家電っ
て言って、家電を粗末に扱うとこわーい罰が…って、何か違う? まあ、気にし
ない気にしない。
- 7 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:42
-
出て来た代物は案の定、お世辞にも美味しそうとは言えないような料理の
数々だった。
「まあ期待はしてなかったけどさ。て言うかこれ毎日ダンナに食わせてんの?」
いちーちゃんは苦笑いしながら、
「見てくれはアレだけどさ、味は一級品なんだって」
とか言ってたけど。
「では、お言葉に甘えていただきますか。ごとーといちーの食卓だね」
「正確には後藤と『吉澤』だけどな」
「そっか。じゃあとごとーといちーとよしざわと、だ」
「何だそりゃ」
「いっただきまーす」
- 8 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:44
- ぶさいくな格好の料理たちだったけれど、口に運んでみるとまあまあ
いけてた。主婦業は料理を上達させるらしい。
「…そうだ、ちょっと待ってな」
突然、思い出したようにいちーちゃんが言う。
「えっ、何?」
「何、ってなんだよ。うちに来たのはあれが目的だったんだろ?」
「んあ、ん、うん」
理解できないまま頷いていると、いちーちゃんは今度は寝室の方へと
消えていった。数分後、いちーちゃんが両手に抱えていたのは。
「うわ、あかちゃん! かわいい〜」
「だろー? うちの『愛しのモヒカン王子様』だからな」
いちーちゃんの赤ちゃんの髪の毛が真ん中の部分だけが盛りあがって
いた。まるでひと昔前のベッカムみたいだ。
大事そうに赤ちゃんを抱いているいちーちゃん。その姿は、幸せの風
景そのものだった。
そしてごとーは、いつの間にか目の前の光景に打ちひしがれているこ
とに気付いた。
- 9 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:44
-
モーニング娘。を卒業して2年。
仕事は今のところは順調だけれど、この先は一寸先の真っ暗闇だ。
一体どこまで走り続ければいいのか。どこまで走り続けられるのか。それが、
わからなかった。
だから、モーニングの、いや、芸能界の外の人間に話を聞いてみたかった。
要するに、いちーちゃんに未来への導きを期待していたわけだ。けれど、
いちーちゃんの今の姿を見て、そんなことはお門違いだと感じてしまった。
芸能界をやっと捨てることができたいちーちゃんにこそ、相談するべきで
はないんだ。
- 10 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:46
- 「…じゃあ、ごとー、いくね」
「え、何だよ。もういいの?」
それまで赤ちゃんをあやしていたいちーちゃんは、びっくりしたようにそう
言った。側にいる赤ちゃんと、良く似たその顔。二人は血が繋がっている、
つまり赤い絆で結ばれている。ごとーも、いちーちゃんとは見えない絆で繋
がってる。そう信じたい。だからこそ、その絆を自分で断ち切る真似だけは、
しちゃいけないんだ。
足早に玄関へと向かうごとーを、いちーちゃんは何も言わずに見守ってくれ
ていた。
「また、来るからさ」
多分、もうここには来ない。それがいちーちゃんのためだし、ごとー自身の
ためでもあるから。
ドアノブに手をかけようとしたその時だった。
- 11 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:46
- 「…芸能界から逃げ出したあたしの台詞じゃないけどさ」
赤ちゃんを抱っこしたまま、いちーちゃんが言った。
「芸能界って、夢の世界だと思うんだ。夢だから、いつでも醒めることが
出来る。現実に還ることができる。でも逆にさ、夢を見ている限りは、例
えそれが幻だったとしても終わりなんて無いんだよ」
目と目が、合った。凄く短いようで、果てしなく長い時間。
それは言葉以上の何かをごとーに訴えかけていたような気がした。
- 12 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:47
- 「…絶対、絶対また、遊びに行くからね」
今度は、強く、そう言った。心の周りをずっと覆っていたもやのようなものは、
少しだけ薄れていた。
やれるだけやってみよう。いちーちゃんの言う通り、夢が限りないものならば
地平線の向こうまで突っ走ってやろう。それが片想いの相手に「この想い、届
いて!」と無心に願う少女のような、儚い存在だとしても。
いちーちゃんが手を振るのを合図に、前へと歩き出す。再び振りかえりはしな
かったけれど、心の中で、ずっといちーちゃんに向かってごとーも手を振り続
けた。
いつまでも、いつまでも。
- 13 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:49
- ヽ^∀^ノ<take the dream!
- 14 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:50
- (0^〜^)<kakke−!
- 15 名前:13 The time of the eyes 投稿日:2004/09/26(日) 15:55
- ( ´ Д `)<to leave behind the moring...
Converted by dat2html.pl v0.2