12 ケイ姐さん
- 1 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:55
- 12 ケイ姐さん
- 2 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:55
- 彼女は三毛猫のケイ姐さん。
この前まで、近所の里田さんちで飼われてた。
れいなは木村家の、あさみ姉ちゃんがご主人さま。
「ケイ姉ちゃーん! 」
れいなが声を出すと、首につけた鈴が鳴る。
この鈴の音を合図に、ケイ姐さんがやってきた。
駐車場の端っこで、れいなはケイ姐さんと鼻をくっつける。
これがネコのあいさつ。大好きっていう合図。
「みうなは白くていいね」
ケイ姐さんは、そう言ってれいなの背中をなめる。
こうしてなめられると、なんだか眠くなっちゃう。
そういえば、木村家にきたばかりで子猫だったれいなを、
ケイ姐さんがかわいがってくれたんだっけ。
れいなはまだ子猫だけど、幼いころに戻っちゃうよう。
「ゴロゴロゴロ―――」
れいなはノドを鳴らしながら、おっぱいをさがしたの。
ママのおっぱいはどこかなー。あったー!
おっぱいに吸いついて、両手で交互に押すの。
そうすると、おいしいおっぱいが出てくるんだよ。
- 3 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:56
- 「いたっ! 」
あれー? ママの声じゃないよ。この声はケイ姐さん。
どうしてケイ姐さんの声が? それにしても、おっぱい出ないよ。
もっと、きつく吸わないといけないのかなー。
「いたたたた―――歯をたてちゃ痛いよ」
「ふえ? 」
ひゃー! ケイ姐さんのおっぱいだったのかー!
ケイ姐さんは避妊手術してあるから、おっぱいが出ないんだ。
―――恥ずかしいな。れいな、ケイ姐さんのおっぱいを吸っちゃった。
「ご、ごめんなさい」
「うふふふ―――かわいいんだから」
そう言って、ケイ姐さんは、れいなの顔をなめるの。
れいなもケイ姐さんをなめてみようっと。
でも、れいなの小さな舌じゃ、いくらなめてもきれいにならないよ。
ケイ姐さんは大きいなー。
- 4 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:56
- 「れいな。人間っていうのは、薄情な生き物なのよ」
ケイ姐さんは、里田さんに捨てられちゃったんだ。
引越しのとき、「連れてってよ! 」って言ったんだけど、
里田さんはケイ姐さんを連れていってくれなかった。
それからケイ姐さんは、人を信じなくなっちゃったの。
「でも、あさみ姉ちゃんは、れいなをかわいがってくれるもん」
「それは、れいなが子猫だからよ」
あさみ姉ちゃんは、れいながトイレでおしっこできたら、抱きしめてキスしてくれたよ。
柱じゃなくて、マタタビの匂いがする爪砥ぎを使うようになったら、喜んでくれたよ。
いっしょにお風呂もはいったし、いっしょのベッドで寝てくれるもん。
「ネコも大人になっちゃうと、かわいくないのよね。じっさい」
「そんなことないよー。ケイ姉ちゃんはきれいだし、かわいいよー」
「―――れいなったら」
ケイ姐さんは、れいなを転がして、おなかまでなめてくれた。
ちょっとくすぐったいけど、きもちいいのよねー。
れいなはケイ姐さんのシッポをつかまえて、軽くカジカジしたの。
こんなこと、あさみ姉ちゃんの指でやったらたいへんだけど、
ネコの皮はとってもじょうぶだから、敏感なシッポでもへいきー。
- 5 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:57
- 「そうだ。ケイ姉ちゃん。おなかすいてない? 」
里田さんが引越して、もう3日になるから、
ケイ姉さん、おなかすいてるんじゃないかな。
れいなのごはん、半分食べてもいいんだよ。
だって、れいな、ケイ姐さんが大好きだもん。
「おなかいっぱいよ。裏の犬のごはん、食べてやったから」
そっか。あの犬なら、ごはん食べてもへいきだね。
ぼーっとして、何を考えてんだか分んない犬。
大きいけど、怒ったとこなんて見たことないなー。
たしか、カオリなんて呼ばれてたっけ。
「ケイ姉ちゃんは、誰かに飼われないの? 」
ご主人さまをみつければ、食べるものを探さなくていいのに。
あったかいとこで寝られるし、かわいがってくれるのにな。
ケイ姐さんくらい美人だったら、いくらでもご主人さまがみつかるよ。
「もう人間に飼われるなんて、コリゴリなのよ」
そうだよね。ケイ姐さんは、里田さんに捨てられちゃったんだから。
ケイ姐さん、ずっと泣いてた。もし、れいなだったら死んじゃうよ。
悪いこときいちゃったかなー。ケイ姐さん、すごく淋しそう。
- 6 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:58
- 「にゃーん」
ケイ姐さんの顔に抱きついて、ほっぺをカジカジ。
ネコのほっぺは皮だから、カジカジしても痛くないの。
「はっ! 」
「ふえ? 」
あれれー? いつのまにか、あさみ姉ちゃんがいるよー。
いっしょにいるのは誰かなー。大きいお姉ちゃんだなー。
ケイ姐さん、あさみ姉ちゃんだよ。そんなに警戒しなくてもいいのに。
「にゃーん」
れいなが足にスリスリすると、あさみ姉ちゃんはだっこしてくれたの。
そうしたら、大きなお姉ちゃんが、れいなの頭をさわってくれた。
さわってもらえば、すぐに分るよ。このお姉ちゃんはやさしい人。
- 7 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:58
- 『れいなちゃん、かわいいね』
『みうな、こっちの子なの』
あさみ姉ちゃんと話してるのは、みうな姉ちゃんっていうらしいな。
あさみ姉ちゃんより、ずっと大きいや。
どうやら、ケイ姐さんの話をしてるみたいだなー。
『へえ、ケイちゃんっていうの? かわいい子だね』
みうな姉ちゃんは、しゃがんでケイ姐さんに手をだしたの。
ケイ姐さんも、少し前まで飼いネコだったから、
みうな姉ちゃんの手のにおいを嗅いだりしてる。
ケイ姐さん、そんなに警戒しなくていいよー。
みうな姉ちゃんは、いい人なんだよ。
「れ、れいな! 怖いよ。怖い」
「怖くないよ。ケイ姉ちゃん」
ケイ姐さんは、いったい何が怖いんだろうな。
あんなケイ姐さんの顔、みうなは見たことない。
- 8 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:59
- 「さわるな! さわるなー! ―――あっ! 」
ケイ姐さんは、みうな姉ちゃんにナデナデされちゃった。
ネコって敏感だから、さわられただけで、人の心がわかっちゃうの。
あららら―――ケイ姐さん、目をつぶっちゃったよ。
「ゴロゴロゴロ―――」
あちゃー、もう見てらんないよー。ケイ姐さんもネコなんだなー。
おなかまで見せちゃって、もう桃源郷をさまよってる。
さっきまで『人間に飼われるなんてコリゴリ』って言ってなかったっけ?
やっぱり、それっておかしいよ。だって、ネコは人間に飼われるんだもん。
ほら、みうな姉ちゃんの顔、とってもうれしそうだよ。
『さあ、おいで』
みうな姉ちゃんは、ケイ姐さんを抱き上げちゃった。
ネコが好きな人なんだなー。なんかホッとする。
あれれ? ケイ姐さん、みうな姉ちゃんのお鼻にチョコンと。
これってネコが「だーいすき」っていう合図なんだよ。
あははは―――ケイ姐さん、みうな姉ちゃんのほっぺ、ペロペロはじめたー。
- 9 名前:12 ケイ姐さん 投稿日:2004/09/26(日) 10:59
- 「れいな。あたし―――あたしね。もう一度だけ、人間を信じてみる」
ケイ姐さん、そんな顔しないでよー。
そうだよ。ネコは人に飼われるのが幸せなの。
よかったー。ケイ姐さんにご主人さまができて。
「みうな姉ちゃーん! ケイ姉ちゃんをよろしくねー! 」
気がついたら、あさみ姉ちゃんがれいなをナデナデしてる。
ゴロゴロゴロ―――ちょっと淋しくなるけど、ケイ姉ちゃんのためだもん。
れいな、がまんするよ。さようなら。ケイ姐さん。
終
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