8 偶然

1 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:32
8 偶然
2 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:33

ある日、つんく♂さんがとち狂った。
「犬四匹でユニットを作ることになったから。」
3 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:33
「ねえ、殺っちゃおうよ」
と耳元でカオリがささやくのを、聞こえないフリであたしは答えた。
「ほんとですか。見てみたいなぁ」
「せやろ。矢口は犬好きやからな」
「見たいみたーい」と小声で言いながらヨッスィが壁にツバを吐いた。幸いつんく♂さんは見ていなかった。
4 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:33
というわけで連れて来られたのは3匹のパグと1匹のブルドッグだった。
「わあカワイイ」とあたしは言った。
みんなも何かを押し殺した顔で頭とか撫ではじめた。犬たちはただならぬ
雰囲気を感じ取ったせいか、撫でられても抱き上げられても尻尾も振らずに
スキをついては逃げよう、逃げようとジタバタしていた。
つんく♂さんだけが「ええなあ、ええ画やで」とニコニコ笑っていた。
5 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:34

いぬモニ。と名づけられたそのユニットは、しかし案外人気が出た。
「フォトブック結構売れてるらしいよ」
「ふーん」
あたし達は首をひねった。変な世の中だ。
「いぬモニ。新番組!」
という見出しのテレビ雑誌を見ながらリカちゃんが呟く。
「なんだかね」
その先はいわない。言わなくてもわかる。
6 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:34
さて収録の日にはもちろんモーニング娘。も呼ばれた。
「主役は犬やからな」とつんく♂さんはヘラヘラ笑いながら言った。
その頃には犬たちも慣れてて、あたし達を見ると吠えながら走ってきた
くらい。尻尾ふってすがりついてくる、そういう姿はいかにも普通の犬で、
かわいいながらも「おいおい大丈夫かよ」という気分は拭えなかった。
7 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:34
しかしいざ収録が始まると、犬たちはさすがプロって感じだった。
普段はぐてーっとしてるのに、なんかトレーナーの人が影で
合図を出した途端にしゃきっとして、その合図どおり走ったり
曲がったり止まったり並んだり立ち上がったり寝転がったり色々した。
「これツジカゴより頭いいんじゃないの?」
とあたしは台本どおり呟いた。
8 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:35
休憩中、トレーナーの人と仲良くなった。
「結構合図仕込むのも大変じゃないんですか」
「いやそんなことないですよ、愛情があれば」
とトレーナーの人が笑う。
「そんなもんですか」
あたし達は犬を撫でながら頷く。犬たちはくんくん鼻を擦りつけてくる。
「例えばうち等が襲われた時に、指差せば飛び掛る、みたいなのも」
「あー、出来ますよ、練習しますか?」
みんなは顔を見合わせて、やたら高い声で言った。「えー、やってみたい」
9 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:35

やがて収録も終わり放送も終わった。視聴率はまずまずだった、らしい。
あたし達は嬉しい半面ちょっとした不安も抱いていた。
そんなある日事務所に集められた。犬も一緒に。
「実はな、いぬモニ。に新展開があってな」
と言いながらつんく♂さんは嬉しそうにブルドッグを撫でた。
10 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:36
ブルドッグは低くうなった。ちなみに四匹ともつんく♂さんには
全然懐いてなかった。
「何かあったんですかあ?」とあたしは言った。
「いいよ聞かなくて」とミキティがそっぽ向いて吐きすてた。幸い聞こえて
なかったらしく、つんく♂さんは相変わらず嬉しそうな顔で言う。
「あのな、CDを出そうかと思ってな」
11 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:36
十秒間の沈黙のあと、カオリが疲れきった声で聞いた。
「それっていぬモニ。のですよねえ」
「そうや。」とつんく♂は胸を張って答えた。
ヨッスィが床にガムを吐いてから言った。
「でも犬ですよねえ」
「そうや。」とつんく♂は得意げに笑った。
「つんくさんネクタイ曲がってない?」と誰かが呟いた。
「そうか?」とつんく♂は言った。
「曲がってないよ」とあたしは答えた。
12 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:36
「いぬモニ。デビューシングル発売!」
という広告が各紙の一面をぶち抜いた。あたし達はため息をついた。
「一体幾らかかったんですかね、広告」
あたし達は曲名もしらなかった。
「売れるといいなあ」
とリカちゃんが呟いてそれはみんなも同感だった。
「売れるはずないじゃん」
とミキティが突っ込んで、それも同感だった。
13 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:36

もちろんCDはまったく売れなかった。たぶん1000枚くらい。
そしてあたし達はまた事務所に集められた。例によって犬も一緒だ。
「実はな、七期メンバーの話なんやけど」
と言ってつんく♂がニコニコしながらパグを抱き上げる。
14 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:37
パグは必死に暴れてなんとかつんく♂の腕から逃げ出し、ぱたぱたと部屋の隅へ
逃げ去って行く。その様子をあたし達は冷めた目で見ている。
「まさかとは思うんですけど」とカオリが枯れた声を出した。
つんく♂はその言葉を待ち構えたかのようにニヤリと笑い、いかにも重大発表しますよーって
顔で言う。
「お前ら、どれがええ?四匹おるけど。」
15 名前:8 偶然 投稿日:2004/09/25(土) 16:37
感触を確かめるようにつんく♂はみんなを見回す。
あたし達は無言だ。犬たちも無言だ。みんな黙ってつんく♂を見ている。
「まあ、そうそう選べないわな、どれもカワイイからなあ」
嬉しそうに言い放つつんく♂。やがてあたしは沈黙を破る。
「あれ、つんくさんネクタイ曲がってるよね」
今気づいたような声で言う。みんなも今気づいたような顔になる。
「そうか?」とつんく♂は言う。
「曲がってる曲がってる。ほら。」とみんなで指差した。

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