14 現世の花
- 1 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/28(水) 23:56
- 14 現世の花
- 2 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:02
- 最初は本当に興味本位だった。
季節は春。ちょうど桜が咲き始めたという頃。後藤真希は階段を余計に上らないといけなくなった中二の教室から元気よく顔を出した。新学期が始まってまだ一月くらいだが、もう新しいクラスにもほとんど溶け込めてきた。後藤は帰宅部の友人に「ばいば〜い」と手を振りながらロッカーへ向かう。そこで体操服を取り出し、鞄に入れ、体育館へ向かった。
- 3 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:03
- 新入生勧誘は、基本的に中三の先輩達の役目である。だが好奇心旺盛の後藤は、自分もその勧誘係りに加わっていいか聞いてみた。先輩達の答えはOKだった。だから後藤は、ついこの前まで通っていた、校舎で一番下にある教室の廊下を歩いていた。
昼休みだった。手当たり次第、生徒を探し、他の部活に負けないよう、バスケ部をアピールしていく。
一番端にある、一年D組についた。ついこの前まで後藤はこのクラスにいた。何となくわくわくしながら、中を覗く。机を動かしくっつけ、一緒に食べてる生徒や、違うクラスにでもいってるのか、誰もいない机などがあった。
その中で、後藤は真ん中にある机に目を向けた。一学期の間はみんな名前順で座っているはずだ。去年の今頃、後藤はあそこに座っていたのだ。
そこには、一人でお弁当をひろげ、黙々と食べている生徒の姿があった。まだ日が浅いからなのだろうか。友達を見つけられてないのだろうか。その生徒は、一人でご飯を食べていた。
「ごっち〜ん、そろそろ行くよー。」
「あ、は〜い。」
後藤がその子を見ていると、先輩達から声がかかった。「まぁいっか。おとなしそうな子だし、バスケ部には入らないよね」自分に言い聞かし、後藤は一年の教室を後にした。
- 4 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:04
- それから、校内で度々彼女とすれ違うようになった。彼女はいつも一人だった。「他のクラスに友達がいるのかな」後藤は何となく、彼女を校内で見る度に、周りに友達らしき人物がいないか、チェックするようになっていた。
そんなある日。同じバスケ部で、帰り道も同じの松浦亜弥と藤本美貴と帰ってる時の事だった。
「あ、見てー。あの子また一人で花壇の前にいるー。」
松浦が指差しながら言った。
「本当だー。いっつもあそこにいるよね、あの子。」
「あ、あの子…。」
「何?真希、知ってんの?」
「ぇ、ん〜、んなはずないじゃん。後藤が花壇なんかに行くと思う〜?」
「そりゃそうだよね。真希に花壇なんて似合わないしー。」
藤本が笑った。
後藤は二人に見つからないよう、そっと彼女の方を見た。また、一人だ。
「ねぇ、あの子あそこで何してんの〜?」
「えー、美貴知らなーい。」
「あー、なんか聞いたんだけど、一人でずっと花に向かって喋ってるらしいよー。誰かがあの子の回りに近づいたら、ぶつぶつ言ってるの聞こえてきたんだってぇ!」
「…ふ〜ん。」
「何?真希、あの子に興味もったの?」
「え…?んなはずないじゃん、何で後藤があんな暗そうな子〜。あははー。」
後藤はいつも通り笑ったが、何故か彼女の後姿が心から消えなかった。
- 5 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:04
- いつも一人。友達はいない。
「一体何の為に生きてるんだろう。」次第に、後藤は彼女に疑問を抱き始めていた。
季節はもう、冬になりかけていた。
後藤の中に芽生えた疑念は次第に「彼女への興味」と変わっていった。いつしか後藤は、校内で彼女を探すようになっていた。
月日はそのまま流れ、後藤は中三になり、彼女は中二になった。バスケ部の部長にもなり、友達も一段と増え、学校が楽しくてたまらなかった。そんな後藤と、まるで正反対の生活を送っているかのように、中二になっても、彼女はいつ見ても一人だった。
- 6 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:05
- 後藤は、彼女に話したいと思い始めていた。話しのきっかけを探すようになっていた。だからだろう、あの大雨が降った台風の日。学校も警報で休みだったあの日。何となく彼女に会えるんじゃないかと思って、学校に出向いていた。向かう先は勿論、彼女の大切にしている花壇だった。
花は、荒れ狂う風に今にも吹き飛ばされそうで。何か持ってくるんだったな、と暫くそこで考えた後、もう一度家に帰った。滅多に使わない、スコップや釘を探した。目を白黒させる親に大きなビニール袋を貰い、再び雨の中、学校へ向かった。
彼女がくる保証なんてどこにもなかった。後藤は無我夢中で、慣れない花壇の周りを行ったり来たりして、花をカバーするようビニールを打ちつけた。何かきっかけがほしかったのかもしれない。こうする事によって、明日学校へ行った時に、彼女に何か話が出来るかもしれない。そんなきっかけがきっと、ほしかったんだと思う。後藤は、雨の中夢中で花壇を囲んだ。
やっと終わったという時、後ろで人の気配がした。確信に似た感情をもって、振り返った。そこには、彼女がいた。
- 7 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:05
- 「あ、これ、あなたの花壇?」
高鳴る鼓動を抑えて、いつも通り砕けた笑顔を作った。頷く彼女を見て、
「へぇ〜。よく手入れされてるね。でもあと一足遅かったら、せっかくきれいにされてた花たちが、めちゃくちゃになってたよ。」
そう言いながら、照れ隠しのため花壇の方に顔を向けた。落ち着け、落ち着くんだ。たかが後輩相手に、喋るなんて、自分の一番得意分野じゃないか。
その時、彼女が「あ」と声をあげた。後藤が振り返ると同時に、「ありがとうございます。」と頭を下げる。初めて聞く、彼女の声。少し掠れていて、弱弱しかった。
「んあ?何言ってんの。礼なんていらないって。困った時はお互い様。というより、この花たちがあまりにもかわいそうだったから来ちゃっただけなんだけどね」
もし彼女に会った時の理由として考えていた嘘を、笑いながら口走る。
「あ、あの…あなたは…。」
「え?名前?後藤はね、後藤真希って言うんだよ。この学校の、三年D組。あなたは?」
「こ、紺野あさ美…二年B組です…。」
紺野あさ美。彼女との出会いは、それからだった。
- 8 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:17
- 紺野とはそれから急速に仲がよくなった。紺野は思ってた通り無口で、後藤が園芸の手伝いをする事さえ、承諾してくれなかった。だが後藤の強引さに負けたのか、次第に彼女の口数も増えていった。後藤は嬉しかった。いつも一人だった彼女が、今はこうして自分に笑顔を見せてくれている。心を開いてくれている。それだけで、後藤は他のクラスメイトとバカ騒ぎするより、彼女と過ごす時を、幸せに感じるようになっていた。
「二人だけの秘密の花壇をつくってみたい。」
そんな夢ももつようになり、それを紺野にも打ち明けた。彼女は笑って頷いてくれた。
これがいつまでも続いてほしい。そう思っていた矢先だった。
放課後、松浦、藤本と紺野の悪口を言ってる時の事だ。中二の教室にいるはずの彼女が目の前に現れたのだ。
「あ…。」
後藤が止める間もなく、彼女はその場を立ち去った。聞かれた。全部聞かれてしまった。松浦と藤本に、紺野との事は言ってなかった。だからいつも話をあわせていた。「彼女に近づいてるのはからかうためだ」と。勿論、それは後藤の本意ではなかった。
- 9 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:17
- だからその日、後藤はいつもの花壇で待っていた。夜になっても待っていた。巡回してくる警備員や教員には見つからないよう、また、あの日のように紺野がきてくれるような気がして、そこで待っていたのだ。
案の定、彼女は来てくれた。足音だけで分かった。
「初めは、確かに興味本位だったんだ」
後藤は、謝罪の気持ちいっぱいで、本音を告げた。何となく、彼女の顔を見れなかった。見るのが辛かった。
「本当の事、秘密にしてて、ごめんね」
思った事を全て言った。最後に、立ち上がって振り向いた。
- 10 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:17
-
その瞬間だった。
- 11 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:19
- 胸に、痛みを感じた。紺野の頭が見えた。近かった。
「…嘘…つき…信じてたのに…あなただけは…信じてたのに…。」
彼女の掠り声が聞こえた。
後藤は、胃からこみ上げてきたものを吐き出した。紺野の髪に、赤いものがついた。
「な、ん、で…。」
かろうじて、それだけを言った。彼女の両腕は後藤の左胸の目の前にあり、何かを必死で握り締めていた。
そのまま、後藤は倒れた。薄れゆく意識の中で、彼女の泣き顔が見えた。空が妙に、近く感じた。
「…死神が…見えた…の…。」
死神…何のことだろう。あぁ、後藤は、あさ美にとって死神だったって事かな。
目を閉じる時、後藤が一番気に入ってた花がこちらを見て、笑っていた。
- 12 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:19
- ◆◆◆
紺野は、倒れた後藤を見て、そして自分の血だらけの手を見て、その場にしゃがみこんだ。後藤についていた死神は消えていた。
――許せなかった…でもそれ以上に、好きだった――
紺野は、明日もし学校に行けたら、誰にも言えなかった秘密を、大声で叫ぼうと思った。
- 13 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:20
- お
- 14 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:20
- わ
- 15 名前:14 現世の花 投稿日:2004/04/29(木) 00:20
- た
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