13 picture fraction

1 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:55
13 picture fraction
2 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:55
ひとみは、自分の目の前に立っている人物の顔を何度も何度も見直した。
信じられないことだが、ひとみの前に立っているのは、ひとみ自身だった。
そして、もう一人のひとみは口を開いた。

「お前じゃ駄目だ。僕でないと。僕でないと、圭織さんを幸せにできないんだ」
3 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:56


ひとみが奇妙な人物に出会うようになったのは、数週間前だった。
最初はどこからか視線を感じるという程度のもの。
夜遅くに帰るとき、特に自分が一人で歩いている時、必ずといっていいほどそう感じた。
怖くなって、タクシーで家の近くまで帰るようにしたが、変わらない。
家にタクシーを乗りつけることはできないから、少し離れた通りで降ろしてもらうが、そこから家に帰るほ

んの数十メートルの間に視線を感じるのだった。

最初はストーカーとかそういった類のものかとひとみは思ったが、特にそれ以上のことがないのでほってお

いた。
変化が現れたのは、それから数日が経ってからだった。

いつもどおりタクシーから降りて、家に帰る。
その通り道に、街灯にもたれかかる黒い影が見えた。
街灯の下だというのに、それは真っ黒で、顔が見えなかった。
いや、顔だけではない。全身。
全身真っ黒の人間だった。

だが、その黒い影は自分に何かするでもなく、立っているだけ。
4 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:56
変化が訪れたのは、それから1週間後。
真っ白なシャツとジーンズというラフな格好で、そいつは立っていた。
他人という可能性は無かった。
なぜなら、顔はなかったから。
顔だけ真っ黒な人間だったからだ。

それでも、そいつは立っているだけ。
気味が悪いということはなかった。なぜか。
だから、ほっておいた。
誰に言うでもなくほっておいた。
ひとみはこの時、感じていたのかもしれない。
こいつが何であるか。
5 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:57
そして、今に至る。
そいつは言った。
「お前じゃ駄目だ。僕でないと。僕でないと、圭織さんを幸せにできないんだ」と。
はっきりと、そいつ――吉澤ひとみはそう言った。

「どういうことだよ!」
「どうもこうもない。僕はずっとお前を見てきた。なのにお前は何なんだよ。
もうお前には任せて置けない。僕が、僕が圭織さんをもらう」
「お前、何者なんだよ!」
「僕?僕は吉澤ひとみさ」

そいつの姿が消えた。
瞬間、ひとみは真っ暗闇の中に投げ出されていた。
動こうにも体の自由はきかなかった。
何かにぴったりと貼り付いているように。
6 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:57
光が灯る。
目の前を覆う白いもの越しに物音が聞こえる。
そして、目の前の白いものが外された。
ひとみの目に真っ先に入ってきたのは、飯田圭織の顔。
周りに散らかる画材道具と、見たことのある壁紙。
ここが彼女の部屋だと、ひとみは理解した。

「よっすぃー」

圭織はひとみに向かって呟いた。
だが、ひとみは返事することはできなかった。

「圭織さん」

代わりに扉越しに聞こえてくる自分の声。
あいつだ。
ひとみは理解した。

(行かないで…圭織さん…助けて)

ひとみの思いと裏腹に、非情にも再び白いものに視界を覆われる。
そして、部屋の電気が消され、真っ暗闇がひとみを包んだ。
7 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:58
暗闇の中、自分と圭織の会話が聞こえる。
どんなにあがこうとしても、叫ぼうとしても、自分の体は動かなかった。
指一本動かなかった。
ひとみは、自分が真っ白なキャンバスの中にはまっていることを、知る由もなかった。

「お前、本当にわかってるのか?」

姿は無いが、再び聞こえるあいつの声。

(だから、何なんだよ)

ひとみは反論しようにも、声がでなかった。

「どうして圭織さんが僕を描いたかわかる?
どうして、圭織さんが僕を選んだかわかる?」

(どういうことだよ)

「わかんないお前には、ずっとそうしておいて欲しいけど……
圭織さんが望んでるのは僕じゃなくてお前だから……今回は消えてやる。
でもね、もしお前がずっとこのままじゃ、次は僕がもらうからね」
8 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:58
視界が暗転する。
気づけば、ひとみはいつもの帰り道に立っていた。

「夢……」

ひとみは呟く。
その言葉に答えるものはいなかった。
9 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:58
数日後、ひとみは圭織の部屋を訪れた時、一枚の絵を見せてもらった。
圭織がずっと描いていた一枚の絵を。


真っ白なシャツにジーンズという格好の自分の絵を。
10 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:59
おしまい
11 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 22:59
(0^〜^)
12 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 23:00
(0^〜^) ノ
13 名前:13 picture fraction 投稿日:2004/04/28(水) 23:00

Converted by dat2html.pl 0.1