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56メタリックブルー

1 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時08分40秒
56メタリックブルー
2 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時09分15秒
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」

3 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時21分22秒
 男は、じゃあコンサートが終わったらラーメンでも食いにいくか、と同じぐらい
当たり前の調子で言ったから、僕も思わず、うん、と頷いてしまった。
 男は唇だけでニヤッっと笑って、散髪したばかりの僕の頭をぐるぐると撫でた。
袈裟の袖がばふばふと僕の頬にあたる。妙ちきりんな男だった。コスプレのつもり
なのかいつも袈裟を着てモーニング娘。のコンサート会場に現れる。シャクジョウ
という金色の杖を持ち、はた迷惑なでかい笠をかぶっている。古着なのかどれも、
かなりの年代ものだった。
 僕は彼を坊主さんと呼んでいた。何故なら、本名を知らないからだ。モーニング
娘。のコンサートで出会うだけの存在に本名は必要なかった。少なくとも僕にとっ
ては。坊主さん、バイク君、ゴキブリ、メガネ、グラサン……本名を使っている人
なんか誰もいない。もちろん僕も、坊ちゃんと呼ばれている。ちょっと前まで髪を
坊ちゃん刈りにしていたからだ。スポーツ刈りした今も、坊ちゃんと呼ばれている。
4 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時28分55秒
 坊主さんはかなりおかしい人だった。
「坊ちゃんは、モーニング娘。は好きか?」
 と聞かれたことがある。
「好きに決まってるじゃん」
 と僕は答えた。
「そうか。どこが好きだ」
 と彼は重ねて聞いた。
「だってやっぱ可愛いし、見てたら楽しい気分になるしさ」
 ちょっと考えて僕は答えた。
「それは本当のモーニング娘。なのか」
 と彼は尋ねた。
「本当も何も今目の前にいるし」
 と僕は答えた。
「あれは本当のモーニング娘。じゃない」
 と彼は言った。僕は溜息を吐いた。ここから先の彼の言葉は想像がついた。彼も
オリメン至上主義だったりゴマキ至上主義だったりするのだろう。彼らはいつも言
う。今の娘。は本当のモーニング娘。じゃないと。うんざりだった。
 僕は今のモーニング娘。が好きだ。いなくなった人間のことなんか知らない。

 だけど坊主さんはもっとオカシイことを言った。
5 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時39分54秒
「あれは人形だ」
 坊主さんはいきなり断言した。
「僕には人に見えますが」
 僕は困惑して答えた。
「意識の盲点だ。見えるものが見えなくなり、見えないものが見える……ょっιぃ……」
 坊主さんは僕のほうを見ずに言った。
「よっしぃとは誰のことですか」
 僕は尋ねた。
「あそこで躍っているのはぬっぺらぼうだ」
 坊主さんは僕を無視した。
「よっしぃというのは……」
 僕は重ねて尋ねた。
「様々な種類のぬっぺらぼうに、君の意識が投影されてモーニング娘。として認識されるのだ」
 坊主さんは再び僕を無視した。
「はぁ…」
 僕は上の空で返事をした。
「つまり、モーニング娘。とは君の頭のなかにしか存在しない架空の存在なのだ」
 坊主さんは力強く言った。
「ところでよっしぃというのは…」
6 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時45分47秒
 僕の記憶する限りモーニング娘。によっしぃという人間はいない。
「坊ちゃんの好きな娘。は誰だ?」
 坊主さんの視線は舞台に釘漬けだった。
「僕が好きなのは、やっぱ昔から一番可愛い…」
 名前が出て来なかった。
「誰だ」
 坊主さんは僕のほうをチラリとも見ない。
「いややっぱり一番最近に入ったコで…」
 名前が出て来ない。
「誰だ」
 坊主さんはドルフィン・ターンをキメていた。
「最近急激に太った…」
 名前が出てこない。
「誰だ」
 とうとう坊主さんはサィリゥムを振り始めた。
「……僕はほら、DDだから」
 誰の名前が出てこなかった。
7 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時54分22秒
「そうです、紺野」
 僕はようやく名前を思い出した。
「紺野とは誰だ」
 坊主さんはジャンプして両手の人差し指をてっぺんから下へスライドさせた。
「坊主さんが言ったじゃないですか」
 僕はもうコンサートどころではなかった。
「言ったかな」
 坊主さんはノリノリだった。
「言いました。夜に攫われる人ですよ」
 今流れている歌はいつも娘。のコンサートの最後に流れる曲だった。
「どの娘。だったかな」
 坊主さんはしんみりとPPPHを送っていた。
「えっと……」
 僕はようやく舞台へ視線を向けた。曲はサライだ。
「どれだ?」
 坊主さんは、よっしぃーと声援を送りながら聞いた。
「……よっしぃというのは、あのなかでは誰なんですか?」
 サライはもう終盤だ。
「あのなかにはいない」
8 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)00時58分12秒
 現実がぐにゃりと歪んだ。
 僕はどこにいるのだろう。
 あれは一体誰なのだろう。
 坊主さんは、何者なのか。
 ここは、いったいどこだ。

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9 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)01時01分59秒
 15分後、僕はモーニング娘。キッズ+のコンサート会場をあとにした。



「さすがに、あんだけ沢山いると見分け全然つきませんね」
「ょっιぃ…」
「ていうかいつのメンバーの話をしてるのか全然わかんねーし」

 2022年、モーニング娘。の歴代メンバーは2000人を数えていた。
10 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)01時02分20秒
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11 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)01時02分37秒
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12 名前:56メタリックブルー 投稿日:2003年09月23日(火)01時02分52秒
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