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49 やっつけ仕事
- 1 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時37分31秒
- 49 やっつけ仕事
- 2 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時38分09秒
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 3 名前:46 泥棒ごっこ 投稿日:2003年09月22日(月)22時38分33秒
とある夏の日の昼過ぎに、私、小川麻琴はその言葉を聞いた。
その時私は電車の中で、ボーっと口を開けたまま週刊誌の公告なんかを見て
いたのだが、突然背後から聞こえてきた声に驚いて振り返った。
時間的に人もまばらな車内だったが、それらしい声の主は見つけられなかった。
そもそも、さっき聞いた声が、男性なのか女性なのか、それすらあやふやだった。
それくらい印象に残らない、例えるなら機械に喋らせたような、そんな無個性で、
それゆえに薄気味悪い印象を残す言葉だった。
- 4 名前:46 泥棒ごっこ 投稿日:2003年09月22日(月)22時38分59秒
- 楽屋へ入ると、なんとなく皆の様子がおかしいような気がした。妙にそわそわ
してたり、なにかを言いたそうにうずうずして周囲を窺ったりしていた。
そして多分私も似たような仕草をして、他のメンバーにそんな風に見られてた
んだろう。あさ美ちゃんのほうをチラチラと見ながら、昼間に聞いたことを
言うべきか黙っておくべきか、迷っていた。
- 5 名前:46 泥棒ごっこ 投稿日:2003年09月22日(月)22時39分15秒
- と、甲高い声とともに、ドアが開いて石川さんが入ってきた。
「ねえみんな聞いて聞いて! わたしさっきテレビ見てたらいきなり紺野が」
「わーわーわー!」
突然矢口さんが大声で喚くと、石川さんに体当たりをして廊下へ突き飛ばした。
勝手に閉まったドア越しに、折り重なって倒れる鈍い音と悲鳴が聞こえて
くる。それを合図にしたように、飯田さんがすっくと立ち上がって、巨大な
目で周囲を睥睨した。
- 6 名前:46 泥棒ごっこ 投稿日:2003年09月22日(月)22時39分33秒
- 「えー、これから大事な話し合いをします。みなさん会議室に集まってください」
それから、立ち上がりかけたあさ美ちゃんを目で制した。
「紺野さん、あなたは万が一のことがあるといけないので、ここで留守番を
お願いします」
「万が一のことって……?」
納得いかないような表情で呟いたあさ美ちゃんを無視して、飯田さんは私たちを
追い立てるようにして会議室へと移動した。
- 7 名前:46 泥棒ごっこ 投稿日:2003年09月22日(月)22時40分05秒
× × ×
「じゃあ、みんなも聞いたんだ?」
矢口さんが言うのに、会議室に集められたあさ美ちゃん以外のメンバーは
無言で頷いた。
「わたしはテレビ見てたらいきなり変な声が割り込んできて」
石川さんが言うのに、みなも口々にその時のシチュエーションを語り始めた。
「おいらはタクシーの無線から聞こえた」
「圭織はヘッドフォンでCD聴いてたら急に……でも巻き戻しても聞こえなかった」
「わたしはマンガ読んでたら登場人物のセリフで」
「わたしはポストの中にピンクチラシに混じって……」
要するに、大体同じくらいの時間に、突発的にそのメッセージが伝えられた
ということは共通してるようだ。しかし、誰もその証拠品のようなものは
手元に残っていない。
- 8 名前:46 泥棒ごっこ 投稿日:2003年09月22日(月)22時40分39秒
- 「けど、こんだけの人間が見たり聞いたりしてるってことは、誰かが攫いに
くるってのは確かなんだよ」
飯田さんが言う。確かにそうだ。
「どうする? 通報する?」
安倍さんが言うが、すかさず矢口さんが突っ込んだ。
「無理だよ。だって証拠もなにもないんだし」
「信じてくれないよね」
石川さんが相槌を打つ。と、今まで黙っていた吉澤さんが急に立ち上がって、
決然とした口調で言った。
- 9 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時41分46秒
- 「これは、うちらに対する挑戦だ!」
「そうだそうだー」
意味もなく石川さんが囃す。私がぽかーんと見つめているうちに、いつの間にか
他のメンバーも全員吉澤さんと一緒に拳を振り上げていた。
「ひと攫いなんてうちらで返り討ちにしてやれ!」
吉澤さんが勢い込んで言うのに、飯田さんも立ち上がって、
「よし、こっちは13人もいるんだ。きちっと役割分担すれば絶対勝てる!」
その言葉に、何人か(多分安倍さんは確実)不服そうな声をあげたけど、でかいの
二人に睨み付けられてしぶしぶ同意した。
- 10 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時42分27秒
- 「圭織はリーダーだから、みんなに指示出す役ね」
一方的にそんなことを言ってから、メンバーを次々に指さして、てきぱきと
役割を振り分けていった。
「よっすぃーは力あるから、犯人を羽交い締めして」
「おっけー! まかせろ」
「なっちは、犯人が逃げ出さないようにドアを確保して」
「ええー……でも楽そうだからいいや」
「犯人をよっすぃーが押さえたところを、藤本が得意の目つぶし」
「得意じゃないんですけど……分かりました」
「そのスキに、矢口と辻と加護は、適当に犯人を痛めつけて」
「はーい」
なぜかちょっと楽しそうに、辻さんと加護さんは二人揃って手を挙げた。矢口さんは
黙って肩を竦めてから、口を歪めて笑った。
「あのう」
気の抜けた声で手を挙げたのは田中ちゃんだった。飯田さんはキッと視線を
向けると、指を向けてから発言を促した。
「えっと、犯人がナイフとかスタンガン持ってた場合はどうするんですか?」
「さすが田中! 経験者!」
やたら感心した様子で飯田さんが手を叩く。
「いや別に経験者ってわけじゃ……」
「じゃそこは田中に任せた」
- 11 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時43分06秒
- 田中ちゃんの言葉など聞くことなく即決すると、今度は並んで座っていた
石川さんと道重ちゃんを見て、
「そこの二人は、犯人の左右から大声で歌を歌ってあげて」
「えっ?」
「なんでですか?」
自覚がない様子の二人だけが不思議そうに声をあげるが、残りのメンバーは
みな納得がいったように頷いていた。私も含めて。
「それから、紺野をガードする役割、これは」
私は期待を込めて飯田さんを見上げた。しかし、飯田さんはこっちを振り向きすら
せずに、私の反対側にいた愛ちゃんと里沙ちゃんを示して、
「同期の二人、よろしくね」
「分かりました!」
「まかせてください」
口々にしっかりと返事をする二人を、私は口を開けたままぼんやりと見つめた。
- 12 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時43分29秒
- 「それから、残ってるのは……亀井か。亀井は様子を見てから警察に通報して。
しっかりしてそうだから、大丈夫だよね」
「はい!」
にこにこと嬉しそうな顔で、亀井ちゃんもしっかりと返した。
「あ、あのー……」
私はまさかとは思ったが、念のために飯田さんに確認をしようとした。しかし、
その時にはすでにみなで円陣を組んで、鬨の声をあげている最中だった。
- 13 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時43分53秒
× × ×
夜になった。
私たちは仕事が終わった後も、空いている楽屋に全員で入って、来るべき
誘拐犯を待ちかまえていた。子供グループも、あれこれと適当な言い訳を
作って一緒に居残っていた。なんといっても、モーニング娘。は15人で
一心同体なのだ。
あさ美ちゃんには、心配させないようにと誰も誘拐のことは喋らないでいた。
なにがなんだかよく分からない、といった表情で、ピリピリとしたメンバー
たちの様子を訝しげに見回している。その左右には、ちゃんと役割通り
愛ちゃんと里沙ちゃんがしっかりとガードを固めている。
- 14 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時44分14秒
- 時計の針が真上を向いて重なり、カチッという無機質な音を立てた。
まだ誰も現れる様子はない。子供メンバーは眠そうな目を擦りながら、それでも
しっかりとあさ美ちゃんを守ろうと、頑張って待機を続けている。
吉澤さんは腕組みをしたまま、苛立たしげに床を蹴っている。矢口さんは
なぜか鏡に向かってシャドーボクシングをしている。辻さんと加護さんは
体力を温存しているのか椅子に深く座り込んでいて、石川さんと道重ちゃんは
のど飴を舐めていた。
- 15 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時44分38秒
- 3時を過ぎた。もうあと数時間もすれば、白々と夜も明けてくるだろう。
「おい、マジで紺野攫いにくるのかよ」
ついに耐えかねたのか、矢口さんが口に出していった。
「知らないよ。ただみんなだってそう聞いたんでしょ」
同じく、苛立ちが頂点に達しかけている飯田さんが仏頂面で返す。
「あ、あのー、私が攫われるって……」
「あさ美ちゃんは黙ってて」
愛ちゃんもかなり頭に血が上っている様子だった。里沙ちゃんも未見に
皺を寄せて頷く。
「とにかくさ、このままなにもなしで解散、なんてあり得ないよね」
低くドスの利いた声で言ったのは藤本さんだった。
「そうだよ」
テレビでは絶対見せないような表情で田中ちゃんも言う。亀井ちゃんは
パタパタと携帯電話を開いたり閉じたりしている。
- 16 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時45分01秒
- あともう少しで4時を回る。そろそろテレビ局も動き始める時間だ。
「よし、こうしよう」
目を真っ赤に腫らして、メンバーのみんなは爆発寸前だった。見かねたように、
普段の倍くらいのクマを浮かべた飯田さんが立ち上がって言った。
「紺野を攫う役、誰かやって」
「ああ、なるほどー」
ドアにもたれ掛かって眠りかけていた安倍さんが、寝言のような口調で頷く。
「その手があったか! 圭織さすが」
シャドーボクシングのしすぎで汗だくになった矢口さんが、ぶんぶんと拳を
振り回しながら言った。辻さんと加護さんも、ようやく発散が出来るといった
様子で立ち上がる。
「ああもうそれでいいから、とっとと始めようぜ」
そう言ったのは藤本さんだ。目つきが、いつもにも増して鋭くなっている。
「あーあーあー」
石川さんと道重ちゃんは、そろって不揃いな声出しを始める。
あさ美ちゃんは戸惑い気味の表情で、左右を愛ちゃんと里沙ちゃんに押さえ
られたまま視線を泳がせている。
- 17 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時45分18秒
- 「えっと、この中でまだなんの役もない人っていたっけ」
飯田さんが私たちを見回しながら言った。
私はハッとして顔を上げる。全員の視線が、私に集中してきていた。
あんぐりと口を開けたまま、泣きそうな目であさ美ちゃんのほうを見た。
あさ美ちゃんは困ったように微笑んだ。私も、微笑み返すしかなかった。
無機質な音を立てて、時計が4時を告げた。
- 18 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時45分52秒
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- 19 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時46分09秒
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- 20 名前:49 やっつけ仕事 投稿日:2003年09月22日(月)22時46分20秒
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