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47 Imimaros

1 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時06分09秒
47 Imimaros
2 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時08分01秒
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ。」
確かに、そう言う声が聞こえた。
3 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時09分15秒
・ ・・・夜が来たら、わたしを攫いに来る?
声のした方向を本能的に見ると、半分ほど開いた扉の中から数人の男女が机の上に何やら見取り図のような物を広げて額を付き合わせていた。

あるイベントにモーニング娘。が参加していた時の出来事だ。
娘。の出演するパートが終わり、しばらくの空き時間が出来たので、わたしはトイレに行くついでに会場内を散歩していた。
会場は観客とスタッフの区域は厳密に分けられていたので、スタッフ区内ならば比較的自由に行動が許される。

だがスタッフ区内といっても広い。
出演者だけでなく、これくらい大きなイベントになると衣装、美術、舞台、音響などの人達が使用しているスペースも膨大な物になる。
そんな、わたし達、出演者が余り縁のない区画を散歩していた時に偶然とはいえ聞いてしまった。

「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ。」という声を。
4 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時10分42秒
部屋の中の人々に気付かれないように静かに後ずさりする。

(どうして?紺野を攫う?)
わたしの知らないところで、とてつもない陰謀が進行している予感がした。
途中からは、自分でも押さえきれない恐怖感に襲われて全速の駆け足で控え室に戻った。

誰かが後ろから追いかけてくる。
そんな筈は無いのだが、何度か後ろを振り向く。
もちろん誰もいない。

全力で控え室の扉を開けた。自分でもビックリするほど大きな音がした。
まこっちゃんと石川さんが目を丸くしてこっちを見ている。
「あさ美ちゃん。大丈夫?顔が真っ青だよ。」
まこちゃんが心配そうに訊く。
5 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時12分18秒
「・・・大丈夫。大丈夫。ちょっと気分が悪くなったけど、少し休めば回復すると思うから。」
自分でも声が震えているのが分かった。
一瞬、まこっちゃんに自分が聞いた謎の声について相談しようかという考えが浮かんだが、たまたま耳にした誰が言ったかも確かでない言葉を大袈裟にする事へのためらいもあった。
このイベントは観客だけでも1万人以上いるのだ。出演者もモーニング娘。だけではなくて、数十人に及ぶ。テレビのカメラも入って日本全国に人が見ている。これだけの状況でわたしを攫うことなど可能だろうか?

不可能だという声が心の中にする。
しかし一方で、もしかしたらという不安がよぎるのも事実だった。

一般人が入り込むことが極度に難しい、このイベントのスタッフの中枢内部にも、わたしを拉致しようとする人間が存在する。
それはさっき耳にした通りだ。

ひょっとすると、わたしを部外者から守ってくれるべき警備員やモーニング娘。のスタッフの中にも、いや、この娘。メンバーの中にすら悪の計画に賛同する人間がいないと誰が断言できるだろうか。

もう誰も信用できない。
自分の身は自分で守る。
6 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時13分51秒
わたしは自分のバックの底を掻き回した。
干し芋のパックやゴマ豆腐に混じって、目当ての物を探り当てる。特製のダイヤモンドナックルだ。
工業用の人工ダイヤとはいえ直径2センチのダイヤを五個も、超高硬度のタングステン合金の台座に埋め込んである。地上のいかなる物でも、この特製ダイヤモンドナックルをはめた、わたしの拳で打ち砕けない物は無いであろう。
黒光りするコイツの姿が今日は何故だか頼もしい。

拳でやられた事は、己の拳で返す。
ダイヤモンドナックルを装着した右手を握り拳のまま、そっとポケットの中に仕舞った。

降りかかった火の粉は、嫌だが振り払わねばならないだろう。
久しぶりにコイツに生き血を吸わせる事になりそうだなという思いを胸に、メイン会場への廊下を粛々と歩いた。
もちろん、いつ襲われてもいいように360度全周の警戒は怠らない。
7 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時15分16秒
イベントはフィナーレに向けて盛り上がっていた。
眩いばかりのライトが昼間のように辺りを照らしだしている。
最後は出演者全員による大合唱だ。
しかし、わたしはそれどころではなかった。

大舞台の中央では禿とズラの中年オヤジが二人ほど、何が嬉しいんだか、馬鹿面を全国に晒して歌っている。こいつらなのか?

それとも、さっき偽善じみた笑顔をして何やら発表していた巨人狂いの司会者か?こいつは去年、まこっちゃんを琴美呼ばわりしたから、いっぺん陰で絞めとかなくちゃだな。

それとも、女の子アイドルに片っぱしからツバをつけている、あの男性アイドル事務所のタレントどもか?

わたしの敵はどこから狙っているんだろうか。
ポケットの中のナックルが汗をかき始める。
8 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時16分22秒
そんな風景を、半ば厳しく半ば安堵の表情でモニター室から見つめている男がいた。
「24時間テレビ」の総合プロデューサーだ。
今年は24時間マラソンを担当していた山田花子が放送時間内に武道館に到着しないという、前代未聞のトラブルが発生した。異常事態の収拾のために、各セクションの責任者が一室に集められてのは、たった一時間前の話だ。

彼は回想モードに入っていった。

殺気だった雰囲気が部屋を支配する。
「24時間マラソンの山田花子さんが、時間内に完走できそうもない事が確定した。ラストの構成を大幅に見直しすことになった。」
正面のホワイトボードに、時刻と出演者が殴り書きされた進行表が提示される。
それがそのままコピーされて、各責任者の手元に回された。

「時間の都合上、説明は一度しか出来ないから、一度で覚えてよ。」
番組のプロデューサーが悲壮な声で宣言した。
矢継ぎ早に変更点が指示され、慌ただしく問題点の意見交換がなされていた。

「ここまでいいよね。20時53分になったら、2カメから3カメに切り替わって徳光さんがアップになります。いい?」
確認を求めるように周りを見回す。
「じゃあ寄りが来たら、今度は『サライ』に行くよ。音出しのタイミング、照明のタイミング、カメラ切り替え間違えないでね。ここクライマックスだから。」
9 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時17分23秒


「じゃあ寄りが来たら、今度は『サライ』に行くよ。」
・ ・・・・・
10 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時19分01秒


「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
・ ・・・・・・
11 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時19分45秒
24時間テレビの会場では
♪サクラ吹雪の
 サライの空は
 哀しい程 青く澄んで
 胸が震えた
という歌声に満ちていた。
12 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時20分36秒
13 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時21分03秒
ノ}
14 名前:47 Imimaros 投稿日:2003年09月22日(月)22時22分29秒
スミマセン

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