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40 FIGHT

1 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時18分44秒
40 FIGHT
2 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時20分00秒
神聖なる宝石を散らしたように、星が輝いていた。
月はかなり高い位置にあり、ほぼ満月に見える。
潮の香りがどこにいても感じられる、直径一キロにも満たないほぼ円形の島。
虫の声が絶えることなく沸きあがる。
優しい風が、時折木々を揺らしていた。



藤本美貴は、トカレフTT33を握っていた。
小川麻琴は、ナガン1895を握っていた。
3 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時21分18秒
美貴は島のほぼ中央にある小学校にいた。
この島は東西と南北に海岸から海岸までまっすぐ道が伸びていて、その付近に民家が並び、
それ以外はほとんどが森や畑や荒れた草地だった。
そしてその二つの道が交差する場所のすぐそばに、小学校と中学校が寄り添うように建てられている。

誰もいない小学校の教室の隅で美貴はレーダーに目をやった。
このレーダーはあらかじめ二人につけられた発信機の電波を拾い、大まかな位置がわかるようになっている。
麻琴をの現在地を示す赤いマークは、まだだいぶ北のほうにあった。

美貴は少しだけ体の緊張を解き、座り込んだ。
溜め息をついてから、銃を目の前にかざし、まじまじとそれを眺める。
トカレフと言う名前と、弾が八発入ると言うことしか美貴はその銃に関して情報を持っていなかった。
機構が非常に簡素で、安全装置まで省略されており、しかし仕組みが簡単な分
どんなに過酷な条件下でも確実に動作するとされた銃、などと言うことは美貴の知識にはなかった。
4 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時22分28秒
見かけはモデルガンなどと大して変わらないが、
その鉄の感触と重さは明らかに本物のそれだった。
――この感触が、人の命の感触なのか。この重さが、人の命の重さなのか。
くだらない考えが頭をよぎり、微かな残滓を残して消えていった。

月の光を浴びて妖しく光るそれをしっかりと握り、
いつでも撃てるように引き金に指をかけ、美貴はこれからのことを思案した。

5 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時23分06秒
麻琴は道路に寝そべっていた。
美貴が近くにいないことはレーダーでわかっている。

さっきから美貴の場所はまったく変わっていない。
おそらく彼女は島の中央の学校からしばらく動かないつもりなのだ、と麻琴は見当をつけていた。
それは妥当な判断だろうと思われる。
理由は一つ。安全だからだ。
教室に隠れていれば物音一つ立てずに近づくことは不可能だし、
校庭に注意を払っていれば窓ガラス越しに撃たれることもない。

しかし。麻琴は思った。
それを逆手にとることもできるはずだ。
美貴のいる場所さえわかってしまえば袋のネズミなのだ。

問題は美貴がどの教室にいるかだった。
小学校と中学校、レーダーで区別できればそれからのことはなんとなく考えてある。
できなければまた作戦を立て直さなければならないだろう。
6 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時23分43秒
麻琴は立ち上がった。
レーダーを一瞥してから歩き出す。
まだ時間はたっぷりとある。
付近の家に入り、役に立ちそうなものを物色しながら、麻琴は学校へ向かった。
7 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時24分25秒
黎明が近づいているようだった。
美貴はそばにおいてあったレーダーを引き寄せ、目をやった。
少しずつではあるが、確かに赤い点は近づいている。

大丈夫だ。ここにいればやられることはない。
右のポケットから予備の弾丸のケースを取り出し、眺めた。
が、すぐに戻した。
余計なことを考えている場合ではない。

辺りは不気味に静まり返っていて、
時折吹く風に木々が揺れる音しか聞こえなかった。

麻琴は今も一歩ずつこちらへ向かっている。
大丈夫。幾度もシュミレーションしたように動けばなにも心配はいらない。
美貴は、唇をなめながら、再び銃で目標を打ち抜く練習を始めた。
8 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時25分29秒
民家で得たいくつかのアイテムを支給されたザックに詰め、
ついに麻琴は学校の付近まで来ていた。
もうすでにあたりは明るくなり始めていた。

幸いなことに、レーダーから美貴が小学校にいることがわかった。
慎重に近づき、校舎とは校庭をはさんだ位置にあたるの路上で、
フェンスに張り付いて窓を民家で手に入れた双眼鏡で観察した。

もちろん、そんなことで美貴が見つかるとは思っていない。
相手も麻琴がすぐ近くにいることはわかっているのだ。
どこかの部屋の隅で身を硬くしているに違いない。
9 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時26分01秒
麻琴の襲撃に備えて教室の隅で身を硬くしていた美貴の耳に、
車のエンジン音のようなものが聞こえてきた。
驚いて、しかしゆっくりとした動作で窓に顔を出し、校庭を見た。

唖然としてその光景を見た。
ライトをつけたワンボックスカーが、校庭を横切って突っ走っていた。
幸い美貴のいる場所とはだいぶ離れた場所へ向かっている。
走るようなスピードで、車は校舎に向かって一直線に走っていた。

はっとして美貴は立ち尽くした。
気づけば窓のそばで棒立ちになっていた。
これでは外から丸見えだ。

次の瞬間、ガシャーンという嫌な音とともに、地面が揺れた。
車が校舎にぶつかったのだ。
心臓は100mを全力疾走した後のように高鳴り、
手が微かに震えているのを美貴は感じていた。
10 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時27分31秒
いた。
黒い視界の中に、呆然と立ちすくむ美貴が一瞬映った。
麻琴はすばやく校舎に入り込み、美貴がその教室から出れないようにドアに細工を施した。
それからトイレへ忍び込み、ホースを何本か持ち出し、
美貴の隣の教室の蛇口につないだ。
さらにそのホースの先端に、チョーク入れなど適当なものをくくりつける。

それらの作業を、麻琴は音を立てず、美貴が窓から逃げないように注意を払いつつ、
淡々とこなしていった。
11 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時28分37秒
車の衝突からいくらか経ち、すでに外はかなり明るくなっていた。
もう少ししたら今空気に混じっている墨もすっかり溶けてなくなるだろう。
美貴が腕時計を見ようとした、その時だった。

突如窓ガラスが割れ、何かが教室に入り込んだ。
思わず滅茶苦茶に銃を乱射する。
さらに立て続けに窓が割れ、そのたびに何かが飛び込んで来た。
顔に冷たいものが触れた。
水だった。
袖で拭って、あたりを見回した。

教室内では、窓から入り込んだホースが水を吐きながら踊っていた。
美貴は足元を見た。
ザックと、置いてあったレーダーが水浸しになっていた。
トカレフは無事だった。
落ち着け、と自分に言い聞かせ、三回深呼吸した。
12 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時29分43秒
美貴が銃を乱射したのは麻琴にとってはうれしい誤算だったが、
結局濡らして撃てなくさせようという目論見は失敗に終わったようだった。
まあいい。
麻琴は再び別の車で、美貴のいる教室へ向かっていた。
美貴はすぐに気づいたようだ。銃弾が車体を掠めた。
麻琴は体をかがめ、ライトをつけ、校庭を突っ切り、美貴の教室の眼前で止めた。
逆光で見えないのだろう。教壇の影から必死に銃を撃ってくる。
フロントガラスが銃弾を浴び、ヒビで真っ白になった。

麻琴は車を降り、先ほど使った教室を通り廊下に出、美貴の教室の前まで来た。
13 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時30分18秒
車があることはわかっていたけれど、眩しくて全く見えなかった。
美貴は教壇を盾にして、光源へと銃を撃ちまくった。
すぐに弾は尽きた。
補充の仕方はわかっている。

頭がパニックを起こしかけていた。
弾の補充も、先ほど何回か練習したというのに、二発目以降がなかなかうまくいかなかった。
焦りで思考が暴走し、それがさらに焦りを生んでいる。
もういい、と美貴はここでの弾の補充を諦め、すばやくドアに取り付いた。

――開かなかった。
いくら力を込めても、ガタガタと鳴るだけで一向に開かない。
何故だ。
歯噛みしながらドアを叩いた。喉の奥から声にならない声が出ていた。

が、次の瞬間、そのドアは勝手に開いた。
14 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時31分36秒
つっかえを外してドアを開けると、美貴が転がり出てきた。
「動くな!」
麻琴は言って、美貴のこめかみにナガンの銃口を当てた。
「少しでも動いたら撃つ」
「わ、わかった!わかったから……」
美貴はよろけた姿勢のまま固まっていた。
銃は右手に持っていたが、銃口はあさっての方向を向いていたし、
引き金に指は掛かっていなかった。

しばらくの沈黙があった。
こうしていても仕方がない。
しかし引き金にかけた指はなかなか動かなかった。

深呼吸した。
撃たなくてはいけないのだ。
さぁ!

……いくら力を入れても引き金が動かなかった。
ビクンと心臓が跳ね上がった。
そうだ。安全装置だ。すぐに麻琴は思い当たった。
15 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時32分31秒
美貴は見逃さなかった。
麻琴が引き金にかけた指に力が入るのを。
そしてそれでも引き金が動かなかったのを。

一瞬の出来事だった。
美貴はその場から飛びのき、トカレフを麻琴の頭めがけて、撃った。
その衝撃で美貴はしりもちをついた。
麻琴は鼻の横辺りから真っ赤な鮮血を飛び散らせながら、ゆっくりと倒れた。

美貴は肩で息をしていた。
頭の中がごちゃごちゃになっているのを、時間をかけて整理した。
16 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時33分15秒
それから、麻琴のもっていたザックから無線機を取り出して、
口元に持っていった。

「……紺野?」
「藤本さんですか。ゲームが終わったんですね?」
「終わったよ。アタシの勝ち」
「そうですか……」

一呼吸置いて、美貴は唇の片方を吊り上げながら言った。
17 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時33分43秒


「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」


18 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時34分55秒
19 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時35分24秒
20 名前:40 FIGHT 投稿日:2003年09月20日(土)23時35分39秒

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