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37 地上の夜

1 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時05分49秒
37 地上の夜
2 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時06分26秒
「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」

「ひゅー!かっけー」

「オットコマエだね藤本ー」

周りのみんなに冷やかされながらも藤本さんは涼しい顔で、んじゃそういうコトでイイよね?と私に言った。
私はと言うと、藤本さんが冗談でそんな言い方をしたのはわかりきっているのに何故か何も言えずに、こくこくと首を縦に振るのが精一杯だった。
3 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時07分00秒
「じゃ、ウチらそろそろ行かなきゃだからさ。また後でね、紺野」

飯田さんのコトバをきっかけにみんながぞろぞろと歩き出す。

「ばいばいあさ美ちゃん。そっちもがんばってね」

私に手を振るまこっちゃんに石川さんが、そっちもいいけどこっちもがんばるよー?と言う。
がんばりますよぉ!なんてまこっちゃんはいつもの調子で言いながら私に振り向きもう一度、ばいばい、と小さく手を振った。

まこっちゃんに手を振り返しながら私は、こんなコトになっちゃったけど良かったんだろうか、と思いつつもやっぱり少し、わくわくしている。
4 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時08分20秒
………………
5 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
6 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時10分07秒
ファンクラブツアーの為にハワイに来ている私たち。
私はハワイに来たのは今回が初めてだ。
ここがこんなにも楽しくて美しくて良い所だなんて、今まで知らずに生きてきた自分が情けないとココロから思った。

毎日がもう本当に楽しくて楽しくて、ほとんどの時間はお仕事なのだけれどそれでも、朝から晩まで楽しくて楽しくて仕方がない。
なのに明日の午前中にはもう、日本に帰らなければいけないなんて。

ずっとこの島で暮らしたい……フと誰かがつぶやけば他の誰かが、台風が来て飛行機が飛ばなければいいのにね、なんて言う。
日本に帰る日が近づくにつれ私たちは、ずっとそんなカンジで過ごしていた。
7 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時10分41秒
ファンクラブのイベントがない時間の私たちはだいたい、二手に分かれて仕事をしていた。
つまり、おとめ組とさくら組に分けられて、だ。

半年前に分割が発表された時、私は正直不安と不満が入り混じって内心はかなり混乱していたのを思い出す。
モーニング娘。がそうなって、本当にそれでいいの?
分割するくらいならメンバー増員もしなくて良かったんじゃないの?なんて。
それがなければ自分もメンバーになんてなってないクセにそんなコトを考えたり。

秋なんてまだまだ先の話…なんて思っていたらあっと言う間に春が来て夏が来て、私たちは本当に分割されてしまった。
とは言っても、案ずるより生むがナントカ、じゃないけど実際にさくら組としての活動を始めて私は、これはこれで楽しいと思っている。

というより何だか、ユニットとかシャッフルみたいな感覚なんだよね、きっと。
8 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時11分14秒
でも私はやっぱり、5期の中でまこっちゃんだけが別の仕事をしている日々にまだあまり馴染めないでいる。
ユニットやシャッフルではそれぞれが1人や2人ずつになってたりはするけれど、1人と3人に分かれるのはちょっと寂しい。

あーあ、なんて思いながらもやっぱりハワイは楽しいから、考えないようにしていたけれど。
仕事の合間なんかにおとめ組が近くに来るコトがあれば私はすぐに、まこっちゃんの元に走ってしまう。

「んん?ごめんねーあさ美ちゃん、今はお菓子持ってないよー」

なんて、まこっちゃんはいつも笑って私の相手をしてくれる。
まこっちゃんは1人だけ別になって寂しくないのかな。
9 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時11分47秒
私がまこっちゃんに、さっき見た魚のハナシをしていると辻さんが寄って来て、紺ちゃんコレあげる、とタロイモチップスをくれた。
ありがとうございます、後で私が見つけた別のタロイモチップス持って来ます。
そう言った私に辻さんは、食べ物仲間は貴重だねえ、としみじみ言った。

その横で田中ちゃんと道重ちゃんが、昨日の夜2人で浜辺に遊びに行ったというハナシを藤本さんにしていて、へぇー何それ美貴も行きたい、と言うのを聞きつけた飯田さんが、何なに?どこ?と寄ってくる。
フンフンとハナシを聞いている飯田さんの目がだんだん輝いてくるのがわかる。

「決定!おとめ組は今夜、浜辺で星を見よう大会をやろう!」

右手のひとさし指を頭上に掲げて飯田さんが、高らかにそう宣言した。
10 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時12分28秒
いいですねえ、なんてみんなは結構乗り気で、そのきっかけになった話題を提供した6期の2人組も何だか嬉しそうだった。

えー、と少しだけ不満そうなのは石川さん。
さくら組にいる矢口さんや吉澤さんとゆっくりハナシが出来るのは夜、ホテルに戻った後くらいだからかもしれない。

「えーじゃないよ石川。最後の夜くらいぱーっとおとめ組の結束を固めるよ!言っとくけど強制参加だから!」

飯田さんは当たり前のように言い放ち、石川さんは泣きマネをしながら、うっうっもちろん石川も行きますよぉ、と言う。
ここで矢口さんの、キショ!というツッコミが入らないのがモノ足りないなーと思っていたら藤本さんがすかさず、キショ!とつぶやき、石川さんが藤本さんを指差しながら、私に向かって泣きマネをした。

何がぱーっとなんだかよくわからないけれど私は少し、うらやましいと思った。
私はさくら組の曲もメンバーも好きだし、仕事をしていてもちろん楽しい。

けれど今までのモーニング娘。にはあって、さくら組にはないモノが確実に今この場にあるコトを私は実感してしまった。
良いとか悪いとかじゃなくってただ、さくら組はさくら組で、おとめ組はおとめ組だというコト。
11 名前: 37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時13分00秒
「いいなぁ…」

ココロの中でつぶやいたつもりが何故か、口をついて出てしまったらしい。
気づくとおとめ組のみんなが私を見ている。

「あ、いやそういうんじゃなくてですね」

慌ててイミのない言い訳を始める私に、辻さんが当たり前のように言った。

「紺ちゃんも来ればいいじゃん。星を見よう大会」

「だーめだよーのんちゃん、おとめ組の結束を固めるんだからー紺野には悪いけどさ」

口をとがらせてそう言った飯田さんに向かって辻さんが一言。

「かおりんって精神年齢低いよねー」

ショックを受けて固まっている飯田さんに大ウケのメンバー。
ああっごめんなさい飯田さん、私のせいで。

「あの、ホントに皆さんに悪いから私はいいです、おとめ組の皆さんは皆さんで…」
12 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時13分31秒
「さくらは何かやんないのー?今日ホテル帰ってから」

アセってヘンな動きで飯田さんにフォローを入れようとしている私に、まこっちゃんがのんびりと言う。

「えーと何か吉澤さんが怪談やろうとかさっき言ってたんだけどね、私コワイ話とか苦手だからもう今から不安なんだよー」

それを言い出した時の吉澤さんの意地悪そうな微笑みがアタマの中をよぎる。
ああ…コワイ話とかしといて絶対、大声出して驚かせたりするんだろうなあ…。

「紺野ー遠い目になってるよ」

「もう決まり決まり、紺ちゃんも参加決定ねー」

みんなが口々に言い出して、渋っていた飯田さんも最後には笑って、じゃ特別参加ね紺野は!と、急に小声になって、さくらには内緒だかんね、とささやいた。
内緒、と思ってあわてて振り返るとさくら組のみんなは遠くの波打ち際で、水の掛け合いに夢中になっている。
13 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時14分05秒
「でもさ、どうやって抜け出す?1人だけ怪談聞かないなんて言えないよね」

石川さんのコトバにみんなが、うーん、と唸って考え込む。
その時藤本さんが、さらりとこう言ったのだ。

「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
14 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時14分44秒
………………
15 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時15分19秒
そう言ってくれた藤本さんのコトバも、私を誘ってくれるみんなのコトバも私は本当に嬉しかった。
けれど素直に喜べないようなヘンなキモチで、複雑だった。
それはきっと私がさくら組のメンバーで、どっちが好きとか本当はどっちのほうが良かったとかも関係ないくらい、みんなのコトが好きだからだろう。
16 名前: 37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時15分54秒
「あっほらあそこ!またきたよー流れ星」

「すーっごいキレイだねえ。久しぶりにこんな星空見たよ」

私は今、おとめ組のメンバーと一緒に浜辺に寝そべって、ハワイの夜空を眺めている。
夜風は日中溜め込んだ熱を冷ますにはちょうどよく、いつもは騒がしいメンバーの声のかわりに聞こえる波の音が心地よい。

私の視界に入るのは、微かに見える水平線の彼方まで星が埋め尽くしている空だけ。
文字どおりの満天の星空で、久しぶりに見たこんな光景に私は少し圧倒されてしまう。

北海道の少し湿った星空とは違う、南国の乾いた星空。
同じ空、同じ星なのにこんなに違う印象だなんて、私は今日初めて知った。
ただ1つ言えるのは、どちらも同じくらいすごくて、どちらも同じくらい好きというコトだ。

私はまこっちゃんと並んでただ寝転んで空を眺めてるだけなのだけれど、とても幸せな気分でいる。
けれども本当は少し、さくらのみんなに対して罪悪感のようなものがあるのを自分で認めないわけにはいかない。
あの星が一番光ってるとか今の流れ星すごかったねとか、それくらいしか会話はなく、口数が少ない私のコトをまこっちゃんはどう思っているのだろうと思った。
17 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時16分25秒
「おーーい。内緒でイイコトするなよなー!」

突然、遠くで叫ぶ声がかすかにが聞こえた。
私は慌ててアタマをあげて、声が聞こえたホテルのほうに視線を向ける。

浜辺は暗く、ホテルの灯りで逆光になっているいくつかの影がこちらに近づいてくるのが見えた。
1、2、3、4…ちらちらと動く7人の影。

「ははっ、終わっちゃったね」

まこっちゃんがおかしそうにそう言うから、私は思わず、ん?と聞き返す。
18 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時16分59秒
「ほら、モーニング娘。おとめ組に紺野あさ美(モーニング娘。さくら組)、だよ」

「小川さん、カミカミですよ」

すかさず田中ちゃんにツっこまれてるまこっちゃん。

「しゃあねーな、みんなで見るか、星」

そう言いながらも飯田さんの声は何だか嬉しそうだ。
私はもう一度両手をアタマの下に敷いて、空を仰ぎ見る。
19 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時17分34秒
音もなく横切った流れ星が、すっと宇宙の彼方に消えていく。

今、私の目の前で光る星たちが一斉に、この星のこの場所に降りそそげばいいのに。
そしてこのままこの島ごと、私たちを、どこかへ。

一瞬、無数の星の瞬きが増したような気がした。

私はゆっくりと、瞳を閉じた。
20 名前:( `.∀´)ダメよ 投稿日:( `.∀´)ダメよ
( `.∀´)ダメよ
21 名前:37 投稿日:2003年09月18日(木)16時19分16秒
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22 名前:37 地上の夜 投稿日:2003年09月18日(木)16時19分48秒
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