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36 病
- 1 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時23分33秒
- 36 病
- 2 名前:名無しさん 投稿日:2003年09月18日(木)02時24分28秒
- *不快になられた方、申し訳ない。*
- 3 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時24分59秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 4 名前:36 投稿日:2003年09月18日(木)02時25分17秒
- 「なにそれよっすぃ意味わかんねーよ」
「じ・ら・いでそれは苦しいね」
「えー、完璧じゃないか、ねぇ紺野」
「はい、完璧ですね」
- 5 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時25分50秒
- ◇
「先輩、僕を男にしてください」
- 6 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時26分16秒
- テレビを見ていた私に向かって、
一つ年下の、私が可愛がっている後輩がそんなことを云って頭を下げてきた。
涼しい夜だった。
私の持っているマンションの一室からは軒を連ねた屋台の煙が見え、
その匂いだけが流れ込んできたかのように、部屋中饐えたような匂いがしていた。
私はビールを飲んでいた手を止め、後輩に向き直った。
膝立ちで少し前傾に身体を傾げているその姿は真剣で、
そう云う姿を見ると、どうしても茶化したくなる。
「私には、そっち方面の趣味は無いけどね」
「僕にも無いです」
思った以上に真面目な答えが返ってきて、思わず苦笑する。
傍から見ても可笑しいくらい、彼はガチガチになっていた。
下もガチガチかい?と云う冗談が浮かんだけれど、すぐに切り捨てる。
普段笑い上戸である彼とは云え、今の状況ではとても笑ってくれないだろう。
私は新垣が「自信満々爛々石川さん」と力強く応えたところでテレビを消した。
- 7 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時26分40秒
- 「…決心がついた、と受け取ればいいのかな?」
残っていたビールを空けて彼を見ると、瞳に強い色を湛えたまま頷いた。
比較的珍しい反応をするものだ、と、ビール缶を屑篭に放りながら思う。
年頃の男が童貞を喪失する際、最も多い反応はやはり不安を露わにしたものだ。
上手く出来るのか、相手を満足させられるのか、
経験がないくせに知識ばかりある奴は、
ちゃんと穴に入るのか、コンドームは被るのか、
挙句の果てには勃つのか剥けるのかに至るまで、
ありとあらゆる絵を浮かべては一人で嘆いている。
そんな反応がむしろ普通なのだし、見ている分にも腹立たしいことは無いのだけれど、
やはりたまには腹の据わった態度を見るのも気分がいい。
曲がりなりにも、世間様に顔向けしづらい世界に片足を突っ込んでいる男が、
自分の性器の一本や二本突っ込めないのでは洒落にもなっていない。
- 8 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時27分08秒
- 「…どういう顔がタイプだい?
甘いマスクも幼顔も取り揃えてあるから、要望には応えられるよ」
私は煙草を咥え火をつけながら訊いた。
彼は膝の上に載せていた手を顎に持っていき、何かを考えるような仕草をしながら、
「…肉付きのいい奴はいますか?」
と訊き返して来た。
「ほぉ、デブ専だったのか、意外だなぁ」
「いえ、豚のように丸々太ったのは勘弁してもらいたいですが、
程よく肉付いたような奴がいたら、と思いまして…」
彼は恥じるように視線を下げた。
この暗い部屋の中で唯一明るいと云える派手な金髪をしていながら、
その仕草はやけに堂に入っていた。
年上に好かれるタイプかもしれない。
- 9 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時27分30秒
- 「なに、恥ずかしがることなんか無いよ。
人の嗜好は人それぞれさ。
最も今更そんなことを云い合う間柄でもないけれどね」
私は彼の背後にある押入れに向けて煙を吹きつけた。
白い道しるべが引き戸に当たって拡散する。
「気付いていたと思うけれど、その中にいる。
中肉の奴なら丁度、ついさっき補充したばかりだ。
顔は並程度だったけれど、気に入ったら抱けばいい」
私は引き戸に視線をやりながら、横目で彼を盗み見ていた。
私の言葉に彼の喉仏が大きく蠢き、背中が弓なりに反った。
その行動に思わず微笑む。
彼は嘱望し、同時に恐怖している。
その様子が手に取るようにわかるのが、たまらなく心地がよかった。
- 10 名前:36 投稿日:2003年09月18日(木)02時27分50秒
- 彼は二三度私と押入れの間で視線を揺らした。
私が何か云うのを待っているようにも見えたが、諦めたのか、
静かに腰を挙げ押入れの前に立ち、
今度ははっきりと、音まで聞こえるほどに強く、大量の唾液を飲み込んだ。
引き戸に掛けた手が震えている。
段々と普通の反応を示し出して少し面白みに欠けて来てはいたが、
それでも引き戸を一気に引くくらいの度胸と性欲は持っていたらしい。
荒々しく音を立てて戸を引くと、滞っていた澱のような腐臭が湧いて出てきた。
ぐっ、と喉を鳴らす声が聞こえたが、それでも身体は半分ほどが押入れに隠れている。
物色しているのだろう。
べちゃべちゃと水っぽい音が部屋中に響く。
彼は小さく呻き声を上げながら、それでも一向に身体を引く気配は見せなかった。
「…いい度胸だ」
私の言葉はきっと彼には届かなかったであろう。
- 11 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時28分13秒
- 五分ほどで彼は身体を引いた。
手には足が握られているところを見ると、手頃なものを見つけたらしい。
腰を上げ、彼が選んだものに目をやると、我知らず感嘆の声が漏れた。
「こんな上玉がいたのか、全く知らなかったよ」
それは紛れも無い極上品だった。
身体は程よく肉がつき、しかし無駄肉と云う印象は受けさせない。
スポーツ体型と云う奴だ。
顔立ちも整い、薄い唇は禁断の園に咲く薔薇を乾燥させたようにカラカラに乾き色を失っている。
目の濁りも黒目が判別できる程度には澄んでいて、
強いて難点を挙げるとすれば肩肉が削げていることくらいだったが、
そんなことはそれほどの問題でもない。
初体験から肩に放ちたがる変わり者はそう多くないだろう。
座位が困難な意味はあるが、もともと激しい体位は難しい。
彼の審美眼には敬服した。
- 12 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時28分33秒
- 「私は別のフロアにでもいようか?
何、防音から何から完璧だから安心してくれていい」
相手を前に緊張が高まっているのか、小刻みに震えている彼に私はそう声を掛けた。
けれど私が云い終わらないうちに、彼は自転車に巻き込まれた小鳥のような金切り声をあげ、
ズボンのベルトに手を掛けていた。
- 13 名前:36 投稿日:2003年09月18日(木)02時29分09秒
- 短い間に彼は二度射精した。
一度目は発情期のゴリラのような声と共に中に吐き出したらしく、
声が途切れると同時に背中が反り上がり、前のめりに倒れた。
彼の重みがかかった部分が油分過多の粘土細工のような音を立てて崩れ、
赤銅色に近い肉片が彼の顔中に飛び散っていたが、彼は気にならないようだった。
五分と間をおかず、彼は二回戦に突入した。
激しく腰を振り、それにあわせて少しずつ、剥がれた部分から油が流れていく。
白い煮こごりのようなそれは床の上を濡らし、場所によっては失禁にも見えた。
二度目になると絶頂も遅く、それでも十分に満たない時間で彼は暴発した。
慌てて引き抜き、うろたえたように屹立したものを半壊の体の上で彷徨わせていたが、
やがて、うつ伏せでは顔射が出来ないことに思い至ったのか、
それともただ単に限界が訪れただけなのか、白濁の液体を皺の寄ったうなじに垂れ流していた。
- 14 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時29分35秒
- ◇
もう使い物にならなくなったそれをビニル袋に纏め、
部屋を掃除しているうちに彼は目を覚ました。
「おはよう」
私がそう声をかけると、彼は半分閉じたままの眼で会釈を寄越し、それから慌てて飛び起きた。
何かを云いたそうに口を動かしているけれど、声にならない。
死体なら始末したよ、と云うと、彼は驚きながらも首を振り、
やがてようやく自分のものになった声で、はにかんだように云った。
「…ありがとうございました」
その顔が、たかだか小一時間前の彼の表情とは全く別物に見え、
嬉しくなった私も優しい言葉を返していた。
「次こそ本番の紺野だからね。
生姦でも屍姦でも構わないけど、少しは自信がついたかい?」
「はい、あとは自分で出来ます」
言葉には自信が漲っていた。
- 15 名前:36 投稿日:2003年09月18日(木)02時29分53秒
- 屍姦で童貞喪失。
そう言葉で聞くと酷く生臭く聞こえるけれど、その儀式がもたらす効果は大きい。
本番さながらのデモンストレーションで、ある程度のコツは掴めるらしく、
皆晴れ晴れとした顔で帰っていった。
異常性癖冬の時代には、工夫をした人間だけが生き残っていく。
私より若い彼らが、ただ同性しか愛せないと云うだけで色眼鏡で見られるのが可哀想で、
いつしか私はこんなことを始めるようになっていた。
殺される人間と同性愛癖をひた隠しにして生きる人間、
どちらがより哀れかは、考えたことが無い。
- 16 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時30分19秒
- 「生姦?屍姦?」
「屍姦のつもりです。
信一郎は僕と違って同性愛者じゃないですから。
この前、知らない女の子と手を繋いで歩いてたし…」
「こう云うのもなんだけど、やっぱり同性愛者の方が少ないからね。
紺野君が同性愛者なら、そもそもこんなことしなくてもいいわけだし」
「でも、やっぱり僕はここに来たと思いますよ。
いざ信一郎とするってことになったら、きっと怖気づきそうだから…」
「苦労するね、女の子じゃ勃たないってのも」
「お互い様じゃないですか。
男のものは見るのも嫌なはずなのに、よく我慢できてますね」
「まぁね」
私と彼は肩を竦めて笑った。
同性愛者の苦労がわかるのは、同性愛者と、同性も異性も愛せない人間だけだろう。
- 17 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時30分50秒
- 「さて、日付も変わったし、寝ないと持たないよ」
「先輩こそ、モーニングの仕事でしょう?」
「だから一刻も早く寝たいのよ」
「…ちゃんと手伝ってくれるんですよね?」
「ああ、大丈夫だよ。
でも、夕方まで仕事が詰まってるよ?」
「僕も昼は学校ですから。
だけど、信一郎の両親は遅くまで仕事してますから、
ムチャクチャ遅くならなければ大丈夫なはずです」
「そっか、わかった」
私は蛍光灯の明かりを落としながら云った。
- 18 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時31分14秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 19 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時31分39秒
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- 20 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時31分48秒
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- 21 名前:36 病 投稿日:2003年09月18日(木)02時31分57秒
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