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34 冷やし紺野、はじめました

1 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時56分04秒
34 冷やし紺野、はじめました
2 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時56分52秒




「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
3 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時57分24秒

 その張り紙は、壁の「冷やし中華始めました」と書かれた紙の隣に平然と貼ってあった。
 テーブルについてすぐに、その張り紙に目が行ってしまったのだけれど、しばらくはそれが何を意味しているのかまったくわからなかった。
 わたしたちがいつも「ハロモニ」を収録しているスタジオの近くにある、小さな中華料理屋さん。のんちゃんに「いい店知ってるから」と誘われてやって来たのだけど、謎の張り紙にわたしの時は数秒止まってしまった。
「どうしたのあさ美ちゃん」
 そう声をかけられて、やっと我に帰る。わたしは張り紙の存在を、指をさしてのんちゃんに知らせた。
4 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時57分56秒

「何だろね、これ…」
 のんちゃんも張り紙の内容の突飛さに、しばらく目を丸くしていた。
「誰かの、いたずらかなあ?」
 わたしはそう言ってみたけど、その説には無理があった。何故なら筆跡が他の御品書きと同一のものだったからだ。第一いたずらなら、とっくに店の人が剥がしているだろう。
「新メニューだったりして。ほら、文字の下に680円って書いてるし」
 のんちゃんの指摘通り、確かに「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」の文字の下には金額が記されてあった。じゃあこれは、新メニューの名前…?
「頼んでみよっか」
「え、でも…」
「おじさーん!」
 戸惑うわたしを他所に、突然大きな声を出すのんちゃん。思ったことをすぐ行動に移すのはのんちゃんのいいとこでもあるのだけど。
5 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時58分27秒

「はいよっ!」
「この、『じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ』ってやつを下さい」
 元気よく注文するのんちゃん。
 でも店のおじさんは渋い顔をして、
「このメニューはお嬢ちゃんには出せねえなあ」
と言うのだった。
「じゃあこの子には?」
 するとのんちゃんは、わたしのことを指差した。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「あ、えっと紺野…紺野あさ美ですっ」
 おじさんはじっとわたしのことを見つめはじめた。けれども、
「駄目だな。まだ夜じゃねえし」
とまたしても首を振るのだった。
「ぶー! おじさんのケチ!」
 そんなことを言いつつも、次の瞬間には別のメニューを注文するのんちゃん。でも、わたしの頭の中は謎の新メニューのことでいっぱいだった。
6 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時59分03秒

「ハロモニ」の収録中も、ずっと680円の新メニューのことしか考えられなかった。
 おかげでハロプロワイドの収録時には中澤さんに雷を落とされてしまった。
「自分なあ、ある意味『ハロプロワイド』はあんたらが主役なんやから、もうちょっと真面目にやらなあかんで」
「はい、ごめんなさい…」
 集中できなかった理由など言えるはずもなく、わたしはただ頭を下げるばかり。
「あさ美ちゃんさあ、悩み事でもあるの?」
 麻琴までがわたしに気を使って、声をかけてくる。
「ううん、何でもないの」
 こればかりは麻琴にも言えない。
 収録はきっと夜までかかるに違いない。
 ひとりであの中華屋さんに行ってみよう、わたしはそんな決意を固めていた。
7 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月17日(水)23時59分34秒

 紺野という名前のお客さんにしか出せなくて、
 しかも夜限定のメニュー。
 それはきっと特別なものに違いない。
 わたしの胃下垂気味の胃が、狂暴な唸り声を上げる。
 でも特別メニューにしては680円という値段はちょっと安過ぎなのではないだろうか。
 て言うか何で「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」なんて名前をつけたんだろう。
 もしかしてわたしのファン?
 それともドリヲタかゾネヲタで、本当にわたしのことを攫ったり…
 いや、法治国家ニッポンでそんな不法行為が許されるはずがない。きっとおいしいメニューがわたしを待ってるんだ。
 結局何だかんだ言って、プラス方向に考えが大きく傾いた。
8 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時00分12秒

 全ての収録が終わり、メンバーのそれぞれが帰途につき始める。
 のんちゃんなんか昼間の出来事などすっかり忘れたように、
「お疲れー、また明日!」
なんて言って手を振って帰って行った。
 でもまあ、わたしにとっては好都合。
 これからわたしが垣間見ようとする秘密は、一人占めしなくちゃいけない。
 大きな期待が、わたしにそう思わせていた。
 こっそり誰にも見つからないように、スタジオを出た。
9 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時01分20秒

 数分後、わたしは例の中華屋のテーブルについていた。
 夕飯時にも関わらず、お客さんは一人も入っていない。これもわたしにとっては好都合。「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」なんてメニュー名、恥かしくて人前じゃ口に出せない。
 問題はいつ店のおじさんに告げるか。
 そのことを思うと、わたしの心臓は早鐘をつき始めた。
 意味もなくラー油の瓶底を眺めてみたり、何回も水のお代わりをしてしまう。でももう限界だ。おなかが水でたぷんたぷんし始めてる。ごちそうをいただく前に食べれませんじゃあ、折角奮ったわたしの勇気も無駄になってしまう。
「おっおじさん!」
「へい、何にする!?」
「え、あの、その…」
 言い淀むな、言い切ったほうが楽。
 恥かしさや不安に、好奇心が勝った。
「この『じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ』、お願いします!」
「毎度ありっ!」
 勢いよく返事をするおじさん。
 すると何故か、店の引き戸ががらがらと音を立てて開かれた。
10 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時02分07秒

 工事用の黄色いヘルメットを被った、筋肉質の男の人。上半身は裸、下は海水パンツといういでたちだった。
 その人が、店の中へと走ってきた。
 続いて、二人目、三人目…みんな、同じ格好をしていた。
 五人目、六人目…店の中が、熱気と汗臭さに満たされる。
 そして二十人ほどの男の人が狭い店内にひしめきあった頃に、それは起こった。
「野郎ども、やっちまえ!」
「おーっ!」
 あっと言う間だった。
 わたしは男の人たちに担ぎ上げられ、まるで河原の金八先生みたいに胴上げされながら店を出て行った。
 何これ…何なのこれ…!
 頭の中がホワイトアウト状態のまま、男の人たちは外を練り歩き続ける。
「ワッショイワッショイワッショイ!!!!!」
 湧きあがる掛け声の中、突然訪れた恐怖にわたしは身が凍るような思いに駆られた。夢であって欲しい、ていうか夢でしょこれ。
 三十回くらい宙を舞っただろうか。気がついたら、元いた中華料理屋に戻っていた。
「おう、ご苦労さん!」
 店のおじさんが声をかけると、筋肉質の人たちは来た時と同じように走って店を出て行った。
11 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時02分49秒

 ぽかんとしているわたしに、誰かが声をかける。
「どうだった、あさ美ちゃん?」
 目の前にいたのは、のんちゃんだった。
「あれ、のんちゃんさっきお疲れって…」
「だってのんがいると注文しづらいだろうと思ってさ」
 無邪気に笑う、のんちゃん。
「お嬢ちゃんは頑張ったほうだと思うぜ。そっちのお嬢ちゃんの時なんか、担ぎ上げられた時にビービー泣いて大変だったんだからよ」
「なっ、のんは泣いてないもんっ!」
 要するに…二人とも、グルだった?
「とにかくおもしろかったよ。じゃあ今度こそ、お疲れー、また明日ね!」
 のんちゃんは嬉しそうにけらけら笑いながら、店を出て行った。
 そんな後姿をぼーっと眺めていると、ぽんぽんと肩を叩く手が。
「一応新メニューだから、お代は頂戴するぜ…680円」
 わたしは藤本さんの曲みたいに、ガックシと肩を落とすのだった。
12 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時03分23秒


「えーっ、そんなにおいしい中華屋さんが近くにあるんですかあ?」
「そうだよシゲさん、知らなかったでしょ?」
「紺野さんに連れてって貰えるなんて、さゆ嬉しいです!」
 何も知らないシゲさん。その屈託のない笑顔を見て、わたしの心の小悪魔はそっとほくそ笑むのだった。きっと今頃は壁にこんな張り紙が貼られていることだろう。
13 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時04分10秒




「じゃあ夜が来たら道重を攫いに行くよ」    670円
14 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時05分22秒
15 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時06分20秒
16 名前:34 冷やし紺野、はじめました 投稿日:2003年09月18日(木)00時07分13秒

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