インデックス / 過去ログ倉庫
33 共犯者
- 1 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時08分56秒
- 33 共犯者
- 2 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時09分34秒
- 「じゃあ夜が来たら紺野を攫いに行くよ」
- 3 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時10分24秒
- ハロプロワイドの収録が終わった後、廊下で声を掛けられて少しお話をして、別れ際にさよならの代わりにそう言われた。
中澤さんは時々ちょっと変わった事を言ったりするからってその時はそんなに気に止めていなくて、他のお仕事をするうちに
そのセリフを忘れてしまってた。
けど、今日最後のお仕事だった雑誌の取材を終えていつものように乗り込んだマイクロバスの中、何かがいつもと違う気がした。
安倍さん?飯田さん?矢口さん?石川さん?吉澤さん?加護さん?辻さん?
誰って特定出来るわけじゃないけど、とにかく何かがさっきまでとは違っていた。
そしたらふと、中澤さんのあのセリフを思い出してしまった。
そういえば中澤さんもちょっとおかしかったなあって。
- 4 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時11分05秒
- 「あさ美ちゃん、着いたよ。
降りないの?」
ずいぶん考え込んでいたらしくて、まこっちゃんに声を掛けられた時はすでにバスは事務所に到着してて、
バスの中にはあたしとまこっちゃんのふたりしかいなくなってしまっていた。
「あ、ううん。降りるよ」
慌てて立ち上がると、「そんなに慌てなくても」って苦笑しながら小さい手が差し出さた。
「…ありがと」
その手を取ってバスの外に出ると、空はもう夜の色をしていた。
「ふたりとも遅い。
これで皆揃ったね?」
飯田さんは一瞬怒った顔をしたけどすぐにその表情を引っ込めて話を始めた。
「怒られちゃったね」
「うん」
小さな声でまこっちゃんが顔をしかめてそう言ったから、あたしも肩をすくめて苦笑した。
- 5 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時11分48秒
- 「じゃあ解散ー」
「おつかれー」
「あつかれさまでした」
「じゃあね」
「また明日」
飯田さん達に頭を下げてその後ろ姿を見送っていたら、また変な感じがした。
そういえば飯田さん、いつも最後に、「明日は朝早いから遅れちゃ駄目だよ」って言うはずなのに今日はその言葉がなかった。
「じゃあまたね、あさ美ちゃん」
「あ、うん。
バイバイまこっちゃん。愛ちゃんも」
小さく手を振って歩いて行くふたりは、こんなにもいつもと同じなのに。
- 6 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時12分43秒
- ‖‖‖‖‖
家に着いてから数時間が経って、窓の外ではどっぷりと日が暮れていて、そろそろ寝ようかなあと思ってパジャマに着替えていたら、
ケータイが机の上で震え出した。
メールかな?とも思いながら開いて見るとまこっちゃんからの電話だった。
「もしもし?」
「あさ美ちゃん、まだ起きてた?」
「うん、起きてたよ」
「ちょっとだけ話ししてくれないかな…?」
「寝れないんだ?」
「うん…」
あたしはあと一個になっていたパジャマのボタンを留めてベッドに座った。
ケータイの向こうからは聞き慣れたまこっちゃんの声がしていて、抱え込んでいた枕がぽかぽかしてきて
少しうとうととしていたら、いつの間にかまこっちゃんの声がしなくなっていた。
「…。
まこっちゃん…?」
閉じかけていたまぶたを開けて、電話の向こうに声を掛けてみたけど返事はなくて。
「…寝た…の?
ねぇ、まこ」
- 7 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時13分31秒
- …名前を言い終わる前に、ケータイは切れてしまった。
機械の音だけが聞こえていて、なんだか分からないけどすごく不安になった。
もう一度あたしの方から電話をしてみたけど、電波が届かない所に…とメッセージを告げるテープに切り替わっていた。
延々繰り返されるそれを聞いていても仕方がないから諦めて切ると、それを待っていたみたいにケータイが震えた。
「も、もしもし?!」
まこっちゃん?
「紺野?」
え…その声…。
「な、中澤さん…?」
「せや。
な、なあ、今どこおる?」
「え?家にいます、けど…」
なんだろう。
すごく焦っているみたい。
- 8 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時14分21秒
- 「良かった。
あんな、唐突なんやけど今から迎えに行くから出れるようにしとって。
近くにおるからすぐ着くから、急いで」
「え、あの、中澤さん?」
「話は後や。ほんまに急いで」
中澤さんはそう言うと一方的に電話を切った。
「…」
ほんの少し躊躇ったけど何故かあたしはその中澤さんの言葉に従おうと思った。
留めたばかりのボタンを外してパジャマを脱ぎ捨てて近くにあったシャツを着る。
まこっちゃんとバイバイした時にはいていたジーパンに足を突っ込む。
ケータイと鍵だけを手に持って、玄関に駆け出した。
耳の奥にいる中澤さんの幻がとにかく急げって急かしてくるから。
- 9 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時15分11秒
- 玄関のドアを開けて外に出ると、間もなくして車が一台停車した。
夜と同化しそうな色の車から顔を出したのは中澤さんだった。
「紺野、乗って」
「は、はい」
助手席のドアを開けてもらってそこに座ると、中澤さんは左手をあたしの頬に添えて目を覗き込んで来た。
「紺野…」
…この人は、こんな切なそうにあたしの名前を呼ぶ人だったっけ?
そう思いながらその目を見つめていると、頭をくしゃっと撫でられて、目が逸らされた。
それ以来、中澤さんの口から言葉が発せられる事はなくてただ車があたしの知らない場所へと突き進んで行くだけになった。
カーステレオもラジオも会話もなくて、仕方なくあたしは窓の外のほんのちょっとの光と、中澤さんの横顔を見ていた。
- 10 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時15分57秒
- どれくらい経ったんだろう。
あたしは眠っていたのかもしれない。
いつの間にか外はほのかに明るくなっていた。
「…起きた?」
「あ…はい…」
やっぱり眠ってしまってたんだ。
恥ずかしいなあ…。
「…ほんまは家に送らなあかんとこなんやけど。
悪いけど私の家に行くから」
「あ、でも。
あたし今日8時から…」
「…。
うん、知っとるよ。
けどそれ、たぶん…ないから」
「…どういう、意味、ですか…?」
中澤さんの言葉の意味が全く分からなかった。
だって、ひとりやふたりいないくらいで収録はなくならない。
特にその仕事はさくら・おとめって分かれてない一緒のお仕事だからなおさら。
- 11 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時16分36秒
- 「…昨日も、変な事言ってましたよね?
あたしの事、攫いに来るって。
何か、中澤さん最近…」
「…せや、な。
どうかしてるよな…」
「…いえ…」
こんな時、何て言えばいいんだろう。
矢口さんだったらきっと上手く答えられるんだろうけど。
けどあたしは矢口さんじゃなかった。
言葉が見付からなくて、中澤さんを見てるだけになっているあたしの耳に聞き慣れた、けど日常的なものではない音が聞こえてきた。
その音は段々と近くなって、あたしと中澤さんの乗るこの車を追い越して行った。
パトカーだ。
夜中とか明け方って何故か知らないけどよく走ってるのを耳にする気がする。
そんな事をのんきに考えていたあたしとは対照的に、中澤さんの顔は青ざめていた。
- 12 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時17分23秒
- 「…あ…。
中澤さん…?」
驚いて手を伸ばそうとしたけど、相手は中澤さんだと思い出して躊躇っていたら逆に、
伸びてきた中澤さんの腕の中に抱き込まれてしまった。
「…ごめんな…ごめんな…紺野…」
涙声でそんな言葉が呟かれた。
「…何が、ですか?」
「私の事、嫌いになってええから…やから…」
「…ちゃんと言ってくれないと、分からないですよ…」
中澤さんの顔が沈められたあたしの肩は、涙と漏れる息とで湿り出していた。
「中澤さん…。
何があったんですか?
何か、あったんですよね?」
何度問い掛けても返事はなかった。
その代わりに背中に回されている腕の力が強くなって行く。
- 13 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時18分01秒
- 仕方なく中澤さんに回答を求めるのを諦めて、自分で考えようと思ったけど、
「パトカー」と「ごめん」から出る答は、百歩譲っても誰かに褒められるような答えにはならなかった。
――。
あたしは羽交い絞めにされている自分の腕をどうにか引っ張り出して、カーラジオの電源に手を伸ばした。
- 14 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時19分06秒
- 「…からは7人の焼死体が発見されています。
現在身元確認が行われている所ですが、焼け跡から発見された所持品から推測されるに7人は人気アイドルグループの
モーニング娘。のメンバーではないかと思われます。
まだ断定はされていませんが、モーニング娘。のメンバーである藤本美貴さん、高橋愛さん、小川麻琴さん、新垣里沙さん、
田中れいなさん、亀井絵里さん、道重さゆみさんの行方が昨夜から不明となっているため関連が強いと見て慎重に調査しています。
警察では他のメンバーへの事情聴取を任意で始めるとともに、同じく昨夜から行方不明となっている紺野あさ美さんがこの
事件に何らかの関与があると見て行方を捜しています。
繰り返します。
昨夜未明、東京都××区にある雑居ビルの一室が爆発、炎上するという事件がありました。
焼け跡からは7人の焼死体が発見されています。
現在身元確認が行われている所ですが――」
- 15 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時19分55秒
- アナウンサーさんの言葉をよく理解出来ていないからかあたしは驚く程冷静だった。
あたしはうわ言のように謝り続ける中澤さんの腕の中で悟った。
きっともう二度とまこっちゃん達には会えないんだって。
- 16 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時20分33秒
- 「…。
中澤さん」
「…ごめんな…紺野…ごめんな…」
「あたしは、中澤さんに攫われて、幸運だったんでしょうか?
あたしも本当は、あの中に…」
- 17 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時21分20秒
- 18 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時21分51秒
- 19 名前:共犯者 投稿日:2003年09月17日(水)17時22分37秒
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